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郵便不正事件で無罪となった厚生労働省元局長・村木厚子さん(現・厚生労働事務次官)〔PHOTO〕gettyimages
連続ドラマW「トクソウ」の原作者・郷原信郎が明かす「『最強の捜査機関』の権威を失った特捜検察はどう変わるのか」
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/39102
2014年04月25日(金) 郷原信郎 現代ビジネス
【第1回】はこちらをご覧ください。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/39005
WOWOW×現代ビジネス特別連載第2回
文:郷原信郎(弁護士、元東京地検特捜部検事)
■マイナスからの再スタートを余儀なくされた特捜検察
「最強の捜査機関」と言われた特捜検察の捜査とは、一皮めくればかなりきわどいものでした。
事件の端緒をつかんである程度の証拠をそろえたら、それを元に主任検事が事件のストーリーを組み立てる。そのストーリーで捜査のゴーサインが出ると、記者クラブ制度の中でサポーター的存在に仕立て上げたマスコミを使って、その筋書きに沿ったトーンで世論を煽る。被疑者や参考人の取り調べでは、恫喝はもとより時には暴力に訴えてでも自らが作り上げたストーリーに沿った供述を強引に得て事件を仕上げていく---というものです。
被疑者や参考人がいくら否認しようとしても、特捜部とマスコミが一体となって襲い掛かってくる中で、否応なく押しつぶされていきます。それが特捜検察の捜査の実態だったのです。
しかしこうした強引な捜査手法には必ず限界が訪れます。それが「不祥事」という形で露呈したのが、検事が証拠品のフロッピーディスクを改ざんしていた郵便不正事件(いわゆる村木さん事件)や、小沢一郎・元民主党代表の資金管理団体を巡る事件で、聴取した小沢氏の元秘書・石川知裕議員の供述内容を歪めて捜査報告書に記載していることが明らかになった陸山会事件でした。
捜査の途中で、「幹部が描いたストーリーはどうも事実とは違うな」と現場の検事が感じることは結構あるでしょう。ところが、いったんスジを決めて捜査が突っ走ってしまうと、一部の検事の力だけでは捜査を後戻りさせることは極めて困難です。村木さん事件も陸山会事件も、特捜部のスジ読みと辻褄が合うよう証拠品や供述内容に検事自らが手を加えてしまったことで起こった不祥事でした。
村木さん事件では、捜査に当たった大阪地検の検事と特捜部の部長、副部長が逮捕・起訴されましたし、陸山会事件では担当検事が懲戒処分を受け辞職しました。当然、世論は特捜検察に対して猛烈な不信感を募らせ、「最強の捜査機関」としての権威も失墜しました。2つの事件を機に、特捜検察はマイナスからの再スタートを余儀なくされました。
■もう昔の捜査手法に後戻りすることはできない
ではそれ以降、特捜検察はどう変わったのでしょうか。
おそらくいまは、まだ過渡的な段階だと思います。
村木さんの事件を受けて、法務大臣の私的諮問機関として「検察の在り方検討会議」という懇談会が設置され、私も委員の一人として参加し議論しました。私としてはもっと抜本的な検察改革が打ち出されたほうがよかったと思いますが、ともかく結論として、取り調べの一部可視化などが提言されました。これにより、恫喝や暴力行為はもちろん、相手が言っていないことを調書にまとめたりする行為は事実上不可能になりました。
さらに検察の強引な取り調べについては、私個人も実体験に基づいたフィクション小説『司法記者』で世の中に暴露しましたし、今度はそれを原作にした連続ドラマW『トクソウ』(2014年5月11日より毎週日曜夜10時放送。全5回、第1話は無料放送)がWOWOWで放送されます。そうした作品を通じて取り調べの内幕がバラされている中で、検事が昔ながら手法でやったら、被疑者や参考人に笑われます。「検事さん、あなたドラマの世界と同じですね」と。
つまり検察はもう昔の捜査手法に後戻りすることはできなくなったのです。
そういう状況ですから、従来の手法の中で揉まれてきた特捜部の検事たちは、手かせ足かせをはめられて捜査に当たっているような感覚なのだと思います。
最近、特捜部がかかわる事件でサプライズ的なものがないのも、おそらくそのせいです。かつてなら「こんな事件が弾けたか!」と世の中が驚くようなネタが、数年に一件はあったのですが、ここ数年そうしたものがありません。かつてはそうした事件を仕上げるために、無茶な調べがなされていたからです。
■ボート型からサッカー型のフォーメーションへ
それではこれから、検察が独自の捜査で社会の要請に応えていくためにはどうしたらいいのでしょうか。
私は捜査態勢の作り方に一つのヒントがあるとにらんでいます。
検察の捜査は、一人ひとりの検事は捜査の全体像を知らされないまま、主任検事など指揮官から指示されるまま目の前の仕事に取りかかるという態勢で進められます。言ってみれば、コックスの指示だけを頼りに、他のチームメンバーは進行方向に背を向けひたすらオールを漕ぐボート競技のようなものです。
このボート型フォーメーションでは、漕ぎ手一人ひとりのアイデアや考えは無駄なものとして排除され、コックスの指示を疑うことさえ許されません。コックスの指示が間違っていても、そのまま突き進むしかないのです。
その態勢に代わるフォーメーションとして、私はサッカー型フォーメーションを提唱しています。
サッカーでは、選手一人ひとりが自分で戦況を判断して動きます。それでいて全体的に一つのフォーメーションが出来上がっています。戦況はその場その場で常に動いているので、こちらのほうが現実に合わせて柔軟に態勢を整えることができます。そしてこのフォーメーションは人を育てていくこともできます。
2002年から03年にかけて私は長崎地検の次席検事として、自民党長崎県連の公職選挙法違反事件の指揮を執りました。経験の浅い若手検事や検察事務官を中心としたチームは、検察の常識に照らせば弱小チームだったかもしれませんが、サッカー型のフォーメーションで捜査に当たった結果、予想以上の成果を上げていきました。
捜査で解明しようといたのは、公共工事を巡る腐敗構造ですが、捜査のポイントごとに主任検事を決め、彼らに責任と権限を与えました。そうして解明されていった個々の事実は私の下に集約されます。私はそれらを元に当初想定していた全体像を何度も修正し、腐敗の事実解明を進めていったのでした。
この事件は、自民党県連の前幹事長や前事務局長を公選法違反と政治資金規正法違反で起訴するなど大きな成果を上げました。しかし従来の検察捜査とは大きく異なる捜査手法だったため、当時の検察庁幹部から評価されることはありませんでした。
ボート型フォーメーションからサッカー型フォーメーションによる捜査へと移行していくことができれば、特捜検察にも新たな可能性が見えてくると私は思います。
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