http://www.asyura2.com/14/senkyo164/msg/637.html
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順序としては、日米首脳会談全体の評価から始めるべきなのだろう。
しかし、安倍政権の提灯持ちに励むマスコミさえ“大絶賛”しなかったことでわかるように、尖閣諸島への日米安保条約適用再確認を含めても、取り立てて成果と言えるものはなく、逆に日米関係の“黄昏”をいやおうなく意識させられるものであったという思いから、その詳細を「日米首脳会談 その2」に先送りし、今回は、奇妙なかたちで“決着”を見せたTPP交渉を扱いたい。
TPP交渉の中心軸とも言える日米間の関税を中心とした市場アクセス交渉は、オバマ大統領が離日する25日未明まで続いたが、大枠でも合意に至らなかったとされている。
そして、オバマ大統領の離日後かもしれないという異例のタイミングで発表された日米共同声明で、「TPPに関する二国間の重要な課題について前進する道筋を特定した。これは、TPP交渉におけるキー・マイルストンを画し、より幅広い交渉への新たなモメンタムをもたらたすことになる」と言及されるにとどまった。
このような経緯を受け、TPP推進派は、安全保障や対中牽制までをダシとして使いながら、TPPの日米合意を急ぐべきだと主張している。
また、TPPが合意に至らなかったことをもって、安倍首相がアメリカに安易に妥協せず突っぱねた成果だと評価するメディアやひともいる。
しかし、「TPPで日米合意ならず」と報じているメディアの幹部やそのような見解に立って解説している国際政治関係者は、当然のようにわかっているはずだが、TPP市場アクセスに関する日米の交渉は基本合意に至っている。
そうでなければ、日米共同声明が出されることもなかった。
日米同声明で言及されているような抽象的な内容が実際の“了解事項”であったなら、そんなものにどれほどに意味があるのかと指弾され、共同声明が出されることはなかったであろう。
オバマ大統領は、首脳会談で、担当閣僚がTPPの交渉をすぐにでも再開するよう求めたり、「私が日本を出発するのは25日だ」と、共同声明の発表はTPPで合意をみることが条件という姿勢を見せていた。
TPPで基本合意があったのかなかったのかということは、それほど難しい判断ではなく、少し考えればわかる。
仮に、TPPの日米交渉が具体的な合意に至らず、日米共同声明に表現されたレベルの相互了解で終わったことが事実なら、わざわざ訪日したオバマ大統領は、“子どもの使い”のまま日本を離れたことになる。
もっとわかりやすく言えば、オバマ大統領は、日米安保条約の解釈を自身の言葉で表明するために日本にやってきただけの“間抜け”で“役立たず”の存在ということになってしまう。
漏れ伝わっているように寿司屋での会食時から話題はTPP問題一辺倒で、首脳会談後の共同記者会見でも、ウクライナ問題など日米関係以外のテーマを別にすれば、TPPについてのみ饒舌に語っていたオバマ大統領が、甘利担当大臣が昨夜説明していた大枠合意も実質合意もなく収斂に向かって前進することを確認し合ったというレベルで納得し、日米共同声明公表にゴーサインを出すということはないのである。
(日本人の保守主義者であるはずの安倍首相が、オバマ大統領との親密な関係を強調したいのか不調法にも、バラク、バラクとファーストネームで呼ぶ一方、オバマ大統領は安倍首相ないし首相と儀礼的な呼称を使い続けた。唯一、シンゾーとファーストネームで呼んだのは、TPP交渉について、「シンゾーに、TPPは、日本がアジア地域で重要なリーダーシップを果たすチャンスなんだと言った」と語ったときである。このことからも、オバマ大統領が、日本にTPPでの“妥協”を促すために訪日したことがわかる。首相と呼んだ他の部分は、魂がこもっていない形式的な言明とみることもできるだろう)
日米がTPPで基本合意をみたとできる傍証が他にもある。
首脳会談当日(24日)の夜のニュースで、TPP担当閣僚の交渉が終わり、事務方の協議に移ったという報道を聞いて、TPPで合意に達したと理解した。
これも当たり前の話だが、交渉権限を有する閣僚同士が合意に至ってない段階で事務方がいくら協議しても、意味がないし、どんなことも前に進まない。明け方近くまで協議したとしても時間の無駄でしかない。
閣僚交渉で基本合意に達したからこそ、詳細の詰めを行うため事務方が協議に入ったのである。
契約観念がしっかりしている米国政府関係者(オバマ氏も弁護士出身)だから、口頭の合意だけで済ますことはなく、署名入りのペーパーをしっかり交わしているはずである。
それでも、日本政府は、TPPで日米が基本合意に至ったことはないと説明している。
日本政府は、国内事業者の理解を得られるような施策が整うまでは合意内容を明らかにしたくないという思いから、米国側に頼み込み、共同声明に書かれているような決着で済ましてもらったのだろう。
日本政府のそのような態度も、それほど不思議ではないし驚きもしない。
なぜなら、11年11月ホノルルで開催されたAPECで当時の野田首相がTPP交渉への参加を表明したが、そのときも、TPPに参加すると表明したわけではなく、TPPに参加するかどうかを決めるため交渉に参加するのだというような説明をしている。
既存のTPP交渉参加国が、TPPに参加するかどうか決めかねてTPPがどんなものか知るために交渉に参加したいという国を受け入れることがないことは自明である。 TPPは、街中のカルチャー教室ではない。
その後も、12年3月には日米事前交渉を通じて米国が日本に要求している内容が明らかになったが、野田政権が、それにどう対応するのかなどをまともに議論することはなかった。
昨年(13年)2月の安倍首相訪米でTPPに関する日米共同声明が出されたが、基本的には12年3月にリークされた内容と同じであり、1年近く経ってそれを日本が受け入れたことを示唆している。
共同声明が契機となり、安倍首相が、なぜか再びTPP交渉に参加すると表明したことにより、米国も日本のTPP交渉参加を承認し、他の既存参加国もとんとん拍子に受け入れていった。
国会は段階的であっても重要5品目の関税撤廃を認めないという決議をしたが、関税撤廃を原則とするTPPに参加することに反する奇妙な決議といわざるをえない。関税撤廃を認めることができない品目があるのなら、TPPに参加するという決定そのものを認めてはならない。
野田政権も安倍政権も、TPPの交渉がどのような内容で進んでいるかをできるだけ見せないように努めてきたが、TPPで米国が日本に求めている内容は、金融サービスと自動車のより大きなアクセスと農産品の関税引き下げなど、2年前からほとんど変わっていない。
日本側は、米国側の要求を少しでも削る交渉を続けてきたと思われるが、その交渉も、24日で基本的に幕を閉じたわけである。
日本政府が米国の要望をどこまで受け入れたのかはわからないが、金融サービスはかんぽが商品開発を自主規制し米系保険会社と提携することで決着をみているので、残された主要なテーマは牛肉・豚肉・自動車ということになる。
合意された内容については、どのみち、今後ちらほら漏れ伝わってくることになるだろうが、どういう合意なのか少し推測してみたい。
● 米国産自動車の対日市場アクセス
自動車輸入に伴う関税は、日本はゼロ%であるが、米国は2.5%(トラックは25%)である。だからといって、日本のほうが関税が低く開放しているとは言えない。
なぜなら、日本には関税としても機能する消費税(付加価値税)制度がある一方、賢明なことだが米国には付加価値税制度がないからである。
消費税(付加価値税)制度を考慮すると、日本の自動車輸入関税は、消費税税率とほぼ同じ8%ということになる。さらに、競争条件という観点でみればそれだけでは済まず、日本国内で製造し輸出する自動車メーカーは、消費税の「輸出免税」制度で膨大な“補助金”を得ている。
米国側は、日本独特の安全規制や軽自動車優遇税制を問題にしてきたが、消費税(付加価値税)の“イカサマ”も承知している。
※ 参照投稿
「米国支配層が輸出企業向け“リベート”税制と知りながら付加価値税(消費税)を放置するワケ」
http://www.asyura2.com/14/hasan86/msg/682.html
自動車の日本市場アクセスについては、日本が大幅に譲歩し、従来型商業ベースの輸入台数とは別枠で“米国産自動車のミニマムアクセス”を認めた可能もある。それが、数千台のレベルでとどまるのか、数万台のレベルにまでなるのかはわからない。
また、そうやって輸入した車をどのようにさばくのかが重要なテーマになるが、自動車メーカー系列ディーラーに割り当てたり、官公庁用に使うことくらいしか思いつかない。
● コメについて
このところ、日米間の懸案事項としてコメの問題が聞こえてくることはなくなった。
コメの関税は、日米二国間の交渉でどうこうする対象ではなく、TPP制度そのもの関税撤廃の動きに任せるものになったと思われる。
なぜなら、米国は、日本が高関税維持の見返りに実施しているコメのミニマムアクセスで大きな優遇を受けているからである。
日本は、ミニマムアクセスの実施に伴い国家管理でコメを77万トン(国内需要が約800万トンだからその9.6%に相当)ほど輸入している。そして、そのうちおよそ半分の36万トンは米国からの輸入である。
米国からの輸入は量的には中粒種が多いため、日本での需要は弱い。米国産短粒種も、SBS(民間業者が政府に“手数料”(その額の大きさで輸入枠が優先)を払って輸入し特定の業者に売る制度)で輸入されているが、食味や価格で中国東北部産の短粒種に劣るとされている。
オーストラリアは、長年続く旱魃でコメの対日輸出余力がない。
コメはこういう状況であり、米国側は、売れないため在庫になってしまう割合が高いのに“安定”的に輸入してくれるミニマムアクセス制度を存続させるほうが得策と考えている可能性が高い。
● 牛肉について
読売新聞が牛肉の関税を9%まで引き下げると報じて政府からお叱りを受けたそうだが、それに近いラインで決着したのではないだろうか。
米国に低い関税率を適用すると、TPP発効に伴い、オーストラリアやNZにも同じ税率を適用しなければならなくなる。
どのようなものか想像できないが、米国産牛肉を特別に優遇する仕掛けを導入した可能性もある。
● 豚肉について
豚肉の問題が日米合意で最大の障害になった可能性がある。
豚肉は、消費税増税(来年10月に10%)により、4.3%の関税をゼロにしたとしても、消費税税率が5%だった先月までの競争条件よりも日本の事業者が有利になる。
しかし、豚肉には差額関税制度があり、それによって国内養豚事業者が保護されているというのが現実である。
差額関税制度は、Kg価格が「分岐点価格」を下回ると、「基準輸入価格」−輸入価格を関税として支払わなければならないとするものである。
(「基準輸入価格」は、「分岐点価格」+「分岐点価格」×関税4.3%の値)
差額関税制度があることで、豚肉を安く輸入すると、関税率換算で50%や100%になることも珍しくない。そのためなぜか(当然なのだが)、豚肉の輸入価格は、ハムやソーセージなどへの加工用でも4.3%の関税が適用される「分岐点価格」近傍であり、ほとんどの豚肉が4.3%の関税で済ませ差額関税が徴収されることはほとんどないそうである。
違う見方をすると、その絶妙なバランスにより国内養豚事業者が存続できていることになる。
豚肉に関する日米合意の焦点は、そのような差額関税制度を維持できたどうかであろう。
関税をゼロにせずとも、差額関税制度をなくしてしまえば、関税率4.3%+消費税10%でも国内の事業者は一気に価格競争力をなくしてしまう。
消費税は配合飼料の原材料輸入にもかかるので、消費税10%がそれほど価格競争力アップに貢献するものではない。
最後に、極めて残念だが、国会の勢力図などを考えると、ここまで進んでしまったTPP交渉をひっくり返すことは困難である。
そうであれば、主要農産品の価格維持が困難になることは目に見えているから、価格支持政策を見限り、所得補償で保護する政策にできるだけ早く転換しなければならない。
困ったことに、政府は、TPPの発効で、農家とりわけ兼業農家が離農することを期待しているフシもある。そのような流れを利用して、農地の集約化や株式会社による農業参入を推し進めたいという思惑があるようだ。
農協(全中)も、農業協同組合という制約から脱却して営利企業として農業により深く関わりたいという意欲を持っているようにみえる。
自営農民が社会の基礎になるべきと考えているものとしては、農業の産業化(営利企業化)を抑制する政策を期待したい。
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