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捕獲数を減らし自滅、調査捕鯨訴訟で完敗 国際司法裁判所が「科学目的ではない」と指摘
http://toyokeizai.net/articles/-/35247
2014年04月14日
調査捕鯨は日本沿岸でも行われている(写真:ロイター/アフロ)
判決は日本にとって予想外に厳しいものだった。国際司法裁判所(ICJ)は3月31日、日本が南極海で行っている第2期調査捕鯨について、中止命令を下した。
日本は1987年に第1期の調査捕鯨を開始。今回の裁判は2005年度からの第2期調査が実質的な商業捕鯨であるとして、10年に反捕鯨国のオーストラリアが提訴。日本は国際捕鯨取締条約第8条で認められた調査捕鯨だと反論したが、ICJは同条が規定した科学的研究のため、とは認められないと判断した。
ICJは一審制で上訴できない。菅義偉官房長官は「国際法秩序および法の支配を重視する国家として、判決には従う」との談話を発表。水産庁は今年の年末に予定していた次の南極海での調査も取りやめる方針を示している。
主な敗因は、クジラの捕獲数を意図的に削減したことにある。日本は第2期調査で、南極海でのミンククジラの捕獲数を、それまでの440頭から850頭プラスマイナス10%(765〜935頭)へ拡大し、ザトウクジラやナガスクジラも新たに捕獲対象に加えた。筆者は国際捕鯨委員会代表代理のときに、この計画策定の陣頭指揮を執った。
捕獲枠拡大の目的は3つ。@自然死亡率や妊娠率など生物学的な特性値の把握、A餌をめぐる鯨種間の競合関係の解明、B捕鯨の再開に必要なクジラの系統群情報の把握、だ。そのために必要な頭数を科学的に算出し、捕獲枠を決めた。
ところが実際の捕獲数は、06年度以降、捕獲枠に届いていない。ミンククジラは05年度こそ853頭と目標どおりだったが、06年度は505頭、12年度はわずか103頭にとどまっている。ザトウクジラはオーストラリアの反対に屈して一度も捕獲しておらず、ナガスクジラも捕獲枠50頭に対し、捕獲しているのは年1〜2頭だ。環境保護団体による妨害の影響も一部あるとはいえ、この捕獲数では鯨種間競合の調査をすることはできず、生物学的な特性値を把握することも難しい。
実は、日本が捕獲数を減らしているワケは、科学を無視した“需給調整”のためだ。国内の鯨肉需要は低迷しており、在庫も00年末の約1900トンから06年末は約3900トンと積み上がっていた。科学的に算出した捕獲数を毎年捕っていれば、データを分析することができ、科学的な調査であると胸を張って言える。それを果たしていないのだから、実質的な商業捕鯨と批判されても仕方がない。
今回の裁判は、あくまでも南極海での調査捕鯨が対象だ。日本は北西太平洋でも調査捕鯨を行っており、日本から鯨肉がなくなるわけではない。ただ北西太平洋でも科学的根拠をないがしろにして、捕獲数を減らしている。南極海調査捕鯨の批判はそのまま北西太平洋での調査捕鯨にも当てはまり、ここにも影響が出る可能性がある。
■商業捕鯨モラトリアムが焦点に
では、日本は今後どうすればいいのか。ICJの判決は、調査の目的と実施が適切であれば、調査捕鯨は合法という内容だ。それに合わせて、調査捕鯨のやり方を早急に組み替える必要がある。
一方で、ICJの判決にも疑問がある。南極海での第2期調査捕鯨を事実上の商業捕鯨と認定し、国際捕鯨取締条約の付表10条e項に定めた「商業捕鯨モラトリアム」などに違反するとした点だ。
商業捕鯨モラトリアムとは、国際捕鯨委員会が1982年に定めたもの。大型鯨類13種を対象とした商業捕鯨を事実上、禁止している。制定された当初は、1990年までに包括的な評価をしてモラトリアムを見直すという条件があったが、国際捕鯨委員会は反捕鯨国が多数を占め、科学的根拠を無視しており、現在も見直されていない。
そもそも、国際捕鯨取締条約の前文は「鯨族の適当な保存を図って捕鯨産業の秩序のある発展を可能にする」とうたっている。同5条では科学的根拠に基づく資源の持続的利用を定めており、モラトリアムはこれに反している。
国際捕鯨委員会によれば、南極海にいるミンククジラは約52万頭。大型鯨類の年間増殖率は4%といわれており、これに当てはめると年間約2万頭増える計算になる。濫獲しないかぎり、持続的に利用することは可能だ。モラトリアム撤廃のために、日本が反捕鯨国を相手に訴訟を起こす手段もある。
将来的な商業捕鯨の再開に向けては、低迷する鯨肉需要を喚起することも重要だ。長い間、鯨肉は供給が少なかったため、在庫がある現在も珍味として高価格で販売されている。購入するのは、小さい頃に鯨肉を食べていた中高年層が中心で、世代が若くなるほど、なじみは薄い。まずは鯨肉の供給を安定的に増加させ、価格も引き下げて、消費者との接点を多くすることが必要になる。
今回のICJの判決では、日本の対応のまずさが浮き彫りになった。今後汚名を返上するのか。このまま、なし崩し的に後退するのか。商業捕鯨再開への本気度について政府の姿勢が問われる。
(週刊東洋経済2014年4月19日号〈4月14日発売〉 核心リポート01に一部加筆)
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