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宇都宮健児弁護士
恐怖の秘密保護法、情報を聞くだけで処罰、国民を重要情報から遮断〜日弁連元会長が警鐘
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20140408-00010000-bjournal-soci
Business Journal 4月8日(火)2時44分配信
昨年7月の参議院選挙の結果、衆参両院で与党が多数を占めることとなり、安倍政権は強気の姿勢で12月に特定秘密の保護に関する法律(特定秘密保護法)を成立させた。
今回は、日本弁護士連合会前会長の宇都宮健児弁護士に、同法の問題点について聞いた。
●従来から不十分だった情報開示
特定秘密保護法が成立してしまいましたが、そんな法律がなくても、今までにも日本は数多くの情報を隠してきました。そして、政府はそれらをいまだに明らかにしていません。
例えば最近では、東京電力福島第一原子力発電所の事故で、メルトダウン(炉心溶融)していた事実や、SPEEDI(スピーディ/緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)が予測した情報が隠されていたことが発覚しました。
また、沖縄返還交渉における沖縄密約の存在を報道した記者が秘密漏洩の罪に問われ、逮捕され有罪とされた事件がありました。沖縄返還に当たって、米軍基地の移転費400万ドルを米軍が負担する表向きの取り決めだったのですが、実はその費用を日本側が負担するという密約があったことを毎日新聞の西山太吉記者が暴いたのです。
さらに、「核抜き本土並み」【編註:1972年の沖縄返還に当たって、核を持ち込まないとする方針】と言われていましたが、非常時においては核を持ち込める密約もありました。アメリカが外交文書を発表し、密約を公式に認めているにもかかわらず、日本政府はいまだに明らかにしていません。
●最高裁判事がアメリカに裁判情報を漏洩
ほかにも砂川事件があります。1957年に、米軍立川基地の拡張反対運動をしている7人が日米安保条約に基づく刑事特別法で逮捕されて、東京地方裁判所に起訴されました。1959年に無罪判決が下されますが、この裁判を担当した伊達秋雄裁判長にちなみ、伊達判決と呼ばれています。
サンフランシスコ講和条約が発効し、1952年4月28日に日本は独立国家になっていたはずです。伊達氏は、米軍の存在を認める日米安全保障条約自体が憲法9条に違反するとし、日米安保に基づく刑事特別法は憲法違反との判断を下しました。
通常、地裁の判決が不服であれば、国側・検察は高等裁判所に控訴するはずですが、実際には高裁を飛ばして最高裁に跳躍上告したのです。極めて異例な措置であり、最高裁判所に係属することになりました。裁判長は田中耕太郎・最高裁長官が務めたのですが、裁判係属中にダグラス・マッカーサー二世駐日米大使(当時)の右腕とされたウィリアム・レンハート駐日米大使館首席公使(当時)と会い、裁判官全員一致で原判決を破棄する旨を伝えていたのです。
それは、マッカーサー二世駐日米大使が米国務長官に電報を打っていたことを、布川玲子・元山梨学院大学教授が米国立公文書館へ情報公開請求をしたことで明らかになりました。最高裁長官と米公使との密会については、以前から報道されていたのですが、米国の公文書が手に入ったことで、それが証明されたのです。
しかし、司法の独立という視点に立ち、その問題点を報道したメディアはほとんどありません。最高裁の長官が米大使館に出向き、係属中の事件について大使館関係者に方針を示すなどあってはならないことで、司法権の独立を放棄しているといえます。
今も同じようなことをしている可能性は否定できませんし、最高裁長官はきちんと話し、釈明すべきでしょう。
ここまで見てきたように、日本政府が隠蔽してきたことが、アメリカの公文書でわかったのです。
●恣意的な運用が可能となる特定秘密保護法
重要なのは軍事立法の側面もあることです。情報漏洩については、国家公務員法で1年以下の懲役、自衛隊法では5年以下の懲役という処罰規定を伴って禁止されています。これらの法体系下でも、不祥事はこれまでに数件しか起きていないにもかかわらず、特定秘密保護法を制定し、最高で懲役10年という厳しい罰則を取り入れています。
1925年に治安維持法ができた時の最高刑は懲役10年でしたが、3年後に改正されて最高刑が死刑になっています。それに照らして考えると、特定秘密保護法も最高刑が、そのうち死刑になる可能性はあります。
特定秘密保護法は、秘密を漏らす側だけではなく、秘密を得ようとするジャーナリストや市民団体も処罰できます。情報を入手しようと居酒屋などで秘密情報を聞くだけで、共謀罪により処罰される可能性もあるのです。その他、教唆、あるいは扇動も処罰されるようになっています。
『ある北大生の受難』(上田誠吉/花伝社)という本があります。旅行好きの北海道大学の学生がいて、北大で英語を教えていたアメリカ人のレーン夫妻と親しくしていました。その学生が1941年12月8日の日米開戦の直前に、アメリカ人に機密情報を漏らしていたとして逮捕され、逆さ吊りの拷問を受けるのです。そして、軍機保護法違反で懲役15年との判決を受けました。戦後釈放されましたが、取り調べで受けた拷問や酷寒の刑務所暮らしで身体を壊し、27歳で亡くなるのです。後から調べたら、まったくの冤罪だったというものです。
何が軍機密に当たるかは、憲兵隊や警察など取り調べる側が主導権をもち、簡単に有罪に持ち込んでいます。治安維持法も同様です。特定秘密保護法も国民の耳、目、口を塞いでしまう法律です。
●秘密保護法反対運動は、政権にダメージを与えていた?
しかし、もし特定秘密保護法を基に、共謀罪その他でジャーナリストなどが逮捕されたら、憲法21条(集会・結社の自由、表現の自由)違反ではないかという立論があり得ます。
昨年、非嫡出子(婚外子)を差別する民法の規定や、成年被後見人の選挙権を剥奪する規定が違憲である、と判断されました。同じように、特定秘密保護法は違憲であると主張して争えます。特定秘密保護法で1人逮捕されれば、国民的な反対運動が起きる可能性があります。成立したからといって、あきらめてはいません。法律はつくり替えることができます。
あと3年近くも国政選挙がないかもしれない状況で、どうしたら安倍政権の暴走を止められるでしょうか? まず憲法改悪を許さないこと、それから特定秘密保護法を廃止に持ち込むことが求められます。そのためには、政治的イデオロギー的立場を超えて、どれだけ運動を広げられるかが大きなカギです。
特定秘密保護法に反対する集会は、十分な準備期間がない中で企画されたにもかかわらず、日比谷野外音楽堂に13年11月21日は約1万人、12月6日の成立直前には約1万5000人集まりました。しかし、もっと増えてもおかしくありません。100万人とか200万人規模の集会ができれば、政権に影響を与えられると思います。反対運動が拡がっていく中でも特定秘密保護法案の強行採決をしたのは、先送りになれば反対運動がもっと激しくなると予想したからです。
そして共同通信の世論調査で、特定秘密保護法の採決後に安倍政権の支持率は5割を切りました。同法の廃止・修正が必要と考える人は、合わせて8割ほどいます。このまま施行してもよいと考える人は1割もいません。不安に感じると答えた人は7割くらいいました。反対運動が、安倍政権に相当ダメージを与えたのは間違いないと思います。さらに運動を広げ、継続させることが重要です。
「同質の集団の集まりは和(足し算)にしかならないが、異質の集団の集まりは積(掛け算)になる」という格言があります。今まで接点のなかった人が一緒に運動に取り組めれば、掛け算になって運動が広がっていきます。とはいえ、異質の集団をまとめるのは難しい場合があります。下手をすれば分裂に分裂を重ねる恐れもあります。しかし、それを乗り越えられるかどうかが重要だと思うのです。
●小さな力をたくさん集めて大きな運動に
2月の都知事選が終わったあと、立候補者のひとりであった私は、各メディアからインタビューを受けましたが、その際「アンケートでは8割くらいが原発反対でしたが、なぜ原発推進の自民党が勝ったと思いますか」という質問がありました。
私は、アンケートで原発反対と答えた8割の人たちには、温度差がかなりあると見ています。官邸前行動やさまざまな脱原発集会に参加している人、福島の人たちを支援している人、都内で放射線量を計っている人、安全な給食の実現に取り組んでいる人などは、関心が高く、原発に反対している政党を支持しようとしていますが、そうではない人も多くいます。「原発がなくなると電気代が高くなる」と言われて動揺するような人も、「できれば原発はないほうがいい」と回答しているのです。
「あなたは何を重視して投票しますか」との問いには、30〜40%は雇用と景気と答えています。20%くらいが福祉・医療。それに比べると、原発問題も憲法問題も非常に優先度は低いのです。
そういう人たちに届く運動を提起する必要があります。毎日の生活や仕事に追われている人たちにどう伝えるのか、というのが今後の課題です。
集団的自衛権をめぐる憲法問題でも、年配の人に「平和憲法を守ろう」と言うと、すんなりと納得しますが、若い人はそうではありません。若い人を運動に参加させる工夫が必要です。
いざ戦争が始まれば、戦地に送られるのは若い人たちであり、当事者になるのです。この点を強調して伝えたほうがいいと考えています。
安倍政権は憲法改悪政策を推進していますが、問題点がだんだん明らかになってきたので、逆に戦いやすい政権であると思います。のらりくらりとした政権だと見極めが難しいですが、明らかに問題のある反労働者的、反市民的な政策を打ち出してきているので、反対運動はやりやすい。
私の好きな言葉で、「一人一人は微力ではあっても、決して無力じゃない」というのがあります。無力はどれだけ集まってもゼロですが、微力はたくさん集まれば大きな力になるのです。
そういうことを自覚してつながりをつくれば、圧倒的多数になるのは間違いない。このような展望をもって運動を進め、2014年が反転攻勢の大きな転換点になればと思います。
林克明/ノンフィクションライター
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