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冤罪事件と原発事故
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2014.03.30 きっこのブログ
1966年に起きた4人の殺害事件で死刑を言い渡され、死刑囚として長期間拘置されていた袴田巌さん(78)が、3月27日、48年ぶりに釈放された。だけど、これは、無実が証明されたワケじゃなくて、再審が認められた、つまり、袴田さんを有罪とした判決が100%正しいとは言えないので裁判をやり直す‥‥ってことが、ようやく認められたということだ。だから、袴田さんがホントの意味で自由になれるのは、今後の再審で無罪判決を勝ち取り、自分を有罪とした判決が誤りだったと証明できた時ということになる。
で、袴田さんの事件に関しては、あたしは以前から「冤罪だ」と言い続けて来たし、事件の概要から現在の状況まで、いろんな媒体で報じられてるので、今回はすべて割愛する。過去に書いたことや他でも書かれてることを繰り返しても、意味がないからだ。それよりも、あたしは、袴田さんの無実が確定されたあとのことを考えてみようと思った今日この頃、皆さん、いかがお過ごしですか?
‥‥そんなワケで、袴田さんは、1966年の事件発生の直後、30歳の時に逮捕されて、78歳の今まで48年間も自由を奪われてた。こんなこと書くと「不謹慎だ!」って言われちゃうかもしれないけど、これは、死刑囚が拘置され続けた期間としては「世界最長記録」だそうだ。終身刑や無期懲役なら、もっと長い記録があるけど、死刑囚の場合は、これほど長期間、刑が執行されないケースは珍しい。
で、話はクルリンパと戻るけど、袴田さんの無罪が確定されれば、袴田さんには、この48年間という時間に対する補償金が支払われる。日本では、冤罪で身柄を拘束してしまった場合の補償金として、1日あたり1000円〜12500円という金額が刑事補償法で定められてる。
1991年に逮捕されて2009年に釈放されて再審で無罪が確定した「足利事件」の菅家利和さんは、この場合、「満額」という言葉が適当かどうか分からないけど、法で定められた最高額、1日あたり12500円×17年半=約8000万円が支払われた。だから、袴田さんの場合も、再審で無罪が確定すれば、法で定められた最高額が支払われると思われる。48年間だから、約2億2000万円だ。
あなたは、これらの金額をどう思う?もしもあなたが、まったく身に覚えのない罪で逮捕されて、ずっと無実だと叫び続けてるのに17年半も自由を奪われて、あとから無実だったと分かったからって、8000万円もらって納得できる?48年間も自由を奪われて、2億2000万円もらって納得できる?
さらに言えば、菅家さんは17年半だから8000万円、袴田さんは48年だから2億2000万円‥‥と言っても、この2人には大きな違いがある。菅家さんの場合は「無期懲役」の判決を受けて刑務所に服役していたのだから、他の受刑者たちと一緒の雑居房で生活をしていた。昼間は決められた作業をして、夜はわずかでも他の受刑者と会話をしたり将棋を楽しんだりする自由時間があった。一方、袴田さんの場合は「死刑囚」なので、48年間、ずっと誰とも会話のできない独房に閉じ込められていたのだ。そして、何よりの違いは、来る日も来る日も「今日、死刑になるのか?」という恐怖と向かい合わせで生活していたということだ。
日本では、死刑の執行は「平日の午前10時ごろ」に行なわれるけど、本人には当日まで知らされない。当日の朝9時ごろに知らされ、その1時間後に執行される。だから、日本のすべての死刑囚は、毎週月曜日から金曜日まで、毎朝8時半を過ぎると耳を澄ませて、コツコツという足音が近づいてくると恐怖を感じ、その足音が自分の独房の前を通り過ぎるとホッとして、「ああ、今日1日、生き延びられた」と思うそうだ。
死刑囚が、唯一、少しだけリラックスできるのが、金曜日の午前9時過ぎからの3日間だと言う。金曜日の朝に執行されなければ、土曜日と日曜日は執行がないから確実に生きられる。だから、この3日間だけは、少し心に余裕ができるそうだ。だけど、この3日間が終われば、また、恐怖と向かい合う5日間が始まる。こんな状態で、何年も何十年も独房に閉じ込められていたら、どんなに精神力の強い人でも、頭がどうにかなってしまうだろう。本当に何人もの命を奪った凶悪犯であれば、これは自業自得だから仕方ない。だけど、どこかの誰かが犯した凶悪犯罪の濡れ衣を着せられ、無実の罪で「死刑囚」にさせられた人にとって、これほどの地獄があるだろうか?
刑務所に服役した場合、「懲役何年」という有期刑であれば、あと何年で仮釈放が付く、あと何日で出られる、という希望を持って日々を送ることができるし、「無期懲役」であっても仮釈放が付いて出られるケースもある。だけど、「死刑囚」の場合は、真っ暗な部屋に差し込んで来る、糸よりも細い「再審」という光しか希望がない。それも、来る日も来る日も死と隣り合わせの日々を送りながら、その光が差し込む日を待ち続けているのだ。
つまり、同じ「冤罪」でも、「懲役刑」を受けて刑務所に服役したケースと、「死刑」を受けて拘置所に長期拘置されたケースでは、精神的な重圧が大きく違うということだ。それなのに、どちらのケースも最高で1日あたり12500円という一律の補償金は、あたしは絶対におかしいと思う。つーか、1日12500円なら、ちょっと時給のいいバイトで稼げる金額だし、年収にすれば456万円だ。これは、現在の公務員の平均年収、663万円よりも遥かに低い。間違った捜査や取り調べをした警察や検察、間違った判決を下した裁判所、これらの加害者たちの収入よりも、被害者への補償金のほうが低いのだ。これほどふざけた話はない。
‥‥そんなワケで、アメリカのニューヨーク州の南東部にあるロングアイランドに住んでいたマーティン・タンクレフさん(42)は、17歳だった1988年、自宅に押し入った何者かによって両親が殺害されてしまった。17歳の少年にとって、これほどショックな出来事はないだろう。それなのに警察は、このマーティンさんを犯人として逮捕し、裁判所が実刑判決を下したため、マーティンさんは長い刑務所生活を送らされることになった。
逮捕時から無実を訴え続けていたマーティンさんの声は届かず、辛く苦しい刑務所生活が続いていたけど、逮捕から19年目、服役してから17年目の2007年、新たな証拠が見つかったことで再審が認められて無罪が確定、マーティンさんはようやく触れ衣を晴らすことができたのだ。この時、マーティンさんは36歳になっていた。
そして、無罪が確定して自由の身になってから7年後の今年1月、マーティンさんと弁護団が州政府に対して起こしていた「冤罪による服役に対する補償」の訴訟が和解して、州からマーティンさんに337万5000ドル(約3億5000万円)が支払われた。
「足利事件」の菅家さんは17年半で8000万円、マーティンさんは17年で3億5000万円、いくら国が違うとは言え、この金額の違いを見れば、日本の刑事補償法で定められてる金額が、いかに低いか、いかに時代に即していないか、よく分かると思う。でも、金額だけで言えば、日本でも特殊なケースがある。たとえば、「郵政不正冤罪事件」の村木厚子さんのケースだ。元厚生労働省局長だった村木厚子さんは無実の罪で逮捕、勾留されたけど、164日の勾留に対する賠償金として、国は村木さんに3770万円を支払ったのだ。
1日12500円なんだから、ホントなら164日で205万円しか支払われないハズなのに、それより3500万円も多く支払われてる。菅家さんは17年半で8000万円だけど、村木さんは約5ヶ月間で3770万円、この違いは、いったい何だろう?これは、刑事補償法による「補償金」ではなく、村木さんが国に対して起こした損害賠償請求の訴訟に対する「賠償金」なので、正確に言えば性質の違うものだからだ。
だけど、それなら、5ヶ月間勾留された村木さんの42倍の17年半も服役した菅家さんが、国に対して損害賠償請求の訴訟を起こしたら、国は3770万円の42倍の15億8340万円を菅家さんに支払うのだろうか?村木さんの115倍の48年も拘置された袴田さんが、国に対して損害賠償請求の訴訟を起こしたら、国は3770万円の115倍の43億3550万円を袴田さんに支払うのだろうか?もちろん、絶対に支払わないだろう。
‥‥そんなワケで、村木厚子さんのような特殊なケースを除けば、冤罪被害者への補償や賠償は、とても十分とは言えないと思う。村木さんは、3770万円の賠償金だけでなく、職場に復帰して元通りの幸せな生活に戻ることができたけど、菅家さんや袴田さんのように服役や拘置が長期間に及んだ場合は、元の生活に戻ることはできない。長期間、自由を奪われた冤罪被害者にとっては、何よりも「奪われた時間を返してほしい!」というのが本音だと思う。だけど、それは現実的に無理なので、代わりにお金で補償するワケなのだから、それなら、もっと手厚く補償すべきだと思う。
さっきあたしは、日本の公務員の平均年収は663万円だって書いたけど、これはあくまでも全国の様々な公務員の平均年収であって、間違った判決で無実の人間に濡れ衣を着せた「加害者」である裁判官たちは、みんな数千万円もの年俸をもらってる。一般的な判事でも年収は1000万円以上、東京高裁なら3000万円、最高裁なら5000万円以上もの年俸をもらってる。総理大臣や東京都知事よりも、最高裁の判事のほうが高額の年俸をもらってるのだ。
そして、この5000万円以上という最高裁の判事の年俸も、冤罪被害者に支払われる1年に456万円という補償金も、どちらも原資はあたしたちの納めてる税金だ。あたしは、この金額を逆にすべきだと思うし、冤罪が分かった場合には、国民の税金ではなく、その判決を下した裁判官や、間違った捜査や取り調べをした警察や検察の担当者が自腹で賠償するのが筋だと思う。
‥‥そんなワケで、冤罪事件の場合、加害者は警察と検察と裁判所なのに、これらの加害者には被害者への賠償責任はない。賠償どころか、被害者への補償金でさえも国民の税金で賄われ、加害者たちは何のオトガメもなしだ。あたしは、これって、今の原発事故と同じだと思う。福島第一事故の責任は、原発を推進してきた政府と東京電力なのに、政府も東電も誰1人として責任を取っていない。そして、莫大な除染費用や汚染水対策費用の大半は、国民の税金で賄われてる。被害者である国民が、加害者である東電の尻拭いをさせられてるのだ。こんなバカな話ってある?警察と検察と裁判所が寄ってたかって無実の人を有罪にしても、安全対策が不十分の原発を強引に稼動させて大事故が起こっても、すべて国が税金を使って後始末をしてくれるなんて、まるで「加害者救済システム」だ。あたしは、冤罪事件にしても原発事故にしても、まずは責任の所在を明らかにして、加害者にちゃんと責任を取らせるのが、どちらも「再発防止」への最善策だと思う今日この頃なのだ。
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