http://www.asyura2.com/14/senkyo163/msg/523.html
Tweet |
[核心]「自民党2.0」の危うさ
新たな統治の技見えず
論説委員長 芹川洋一
自民党がすっかり変わってしまった。派閥がこわれ、権力の重心が首相官邸にうつり、保守の色合いがどんどん強まってきた――。
政権党にもどって1年3カ月。1955年の保守合同から来年で還暦。一党支配の55年体制下での自民党をバージョン1とすれば、現在はバージョン2=2.0。時代も、制度も、組織も、なにもかもが違っているのだから当たりまえだ。自民党は昔の自民党ではない。
そこで問題なのが統治の技法だ。1.0のころ、つちかったものは、すでに通用しない。だとすれば、新たなやり方を探っていかなければならないはずだが、どうにもはっきりしない。
政治を変えるのは、制度なのか、人なのか、しばしば議論のあるところだが、この20年の日本政治をふりかえると、制度の変更がまちがいなく効いている。
ふたつある。ひとつは、小選挙区の導入・政治資金の規制・政党交付金の創設を3点セットとした94年の政治改革だ。もうひとつは、省庁再編で首相のリーダーシップの強化をめざした、橋本龍太郎首相による「橋本行革」である。こちらは2001年からだから10年以上になる。
政治を突き動かすのに人の要素もやはり否定できない。「自民党をぶっ壊す」といって本当にその通りにした小泉純一郎首相の存在を抜きにして自民党の考現学は語れない。自民党1.0から2.0への分岐点は、01年から06年まで5年5カ月つづいた小泉政権にあったとみてよさそうだ。
その変化は何なのか。列挙してみよう。
その1=派閥連合体から議員集合体へ
派閥単位で動く集団だった自民党。政治改革で資金が集まらなくなったところで、最後に残っていた調整機能だった人事権を完全に取りあげることにより、派閥にとどめをさしたのが小泉首相だった。
しかも公認候補や政党交付金の配分など党の執行部のさじ加減で決まる。派閥の領袖の経験者は「とくに国からの資金の配給が問題だ。配給制度になると決まって権限と利権をうむ」と、派閥がはるか後方に押しやられ執行部の影響力が強まっている現状を嘆く。
まして選挙は時の風で右へ左へと大きくゆらぎ、新人議員が量産される。12年の衆院選では119人の当選1回生が誕生、党幹部は写真入りの議員カードをつくり確認していたほどだ。
もはや派閥単位でまとめていくことはできない。単なる議員の集合体と化した自民党をどうたばねていくのか、まだその答えをつかめないでいる。
派閥が担ってきたリーダーの養成機能がどこにも見当たらないのも確実にこれから効いてくる。人がいなければ組織は回らない。
その2=ボトムアップの政策決定機関から「官高党低」の政策追認機関へ
自民党といえば各省庁に対応した政調部会があって、そこが政官業の鉄の三角形のまん中で族議員活躍の舞台だった。部会から政調審議会、そして党の最高意思決定機関である総務会と下からの積み上げで物事が決まる仕組みだった。
変化のきっかけとなったのが「橋本行革」である。小泉内閣、民主党政権をへて、首相官邸主導が定着、「何でも官邸団」と、やゆされるほどだ。
政策調整でしばしば用いられる決めゼリフがある。「官邸の意向です」。まるで水戸黄門の印籠だ。ある有力閣僚は「それじゃあ直接、総理に確かめさせてもらう」といって押し返したことがある、と語る。
党の力が落ちている背景には、過去6回の小選挙区選挙をへて、自民党1.0時代の専門性の高い議員が減ったことがある。仕切り役のボス的存在は姿を消した。チェックしながらまとめていく機能の低下は、党の政策決定力に直結する。
その3=現世利益追求型から保守の理念追求型へ
米ソ冷戦構造と右肩上がりの経済を背景に、利益の分配で成り立っていたのが自民党1.0。今や負担の分担を余儀なくされる中、党をまとめていくものは何か。現世利益を求めることができなければ、イデオロギーしかない。
15年デフレによる国力の低下、中国の膨張、ナショナリズムの高まりを踏まえ、党内では愛国保守の気分が強まる。経済重視の吉田茂の路線を引きつぐ田中・竹下派や宏池会の勢力が細り、保守の理念を重視する岸信介の流れをくむ町村派が第1派閥となっているのは時代の反映だろう。
自民党はキャッチ・オール・パーティー(包括政党)といわれる。総花的な政策をかかげ、さまざまな階層を取り込む国民政党だが、利益という結節点がなくなれば保守の理念で、くくるしかない。保守の色合いが濃くなっていくのは当然だとして、そこに危うさはひそんでいないだろうか。
東京の下町を選挙区とする、ある自民党の中堅議員は次のように語る。
「朝、駅前で演説していると、ごくろうさん、と声をかけられる。18年間、国会議員をやっているけど、こんなの初めてだよ」
たしかに安倍内閣の支持率も高いし、自民党政権は安泰に見える。しかし、自民党はまだ新しい統治の型を見いだせていない。民主党の治める力のなさを笑った自民党。「今日は人の上、明日は我が身の上」の戒めを忘れてはなるまい。
[日経新聞3月24日朝刊P.4]
▲上へ ★阿修羅♪ > 政治・選挙・NHK163掲示板 次へ 前へ
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。