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自民党総裁特別補佐 萩生田光一氏
[創論]ナショナリズム、どう向き合う
歴史を振り返ると、愛国心の高揚が国同士の摩擦を生んだ例は少なくない。生まれ故郷を愛するのは人として自然な感情だが、その気持ちがときに排外主義を生む。ナショナリズムにどう向き合えばよいのか。安倍晋三首相の側近の一人である萩生田光一自民党総裁特別補佐と、政治外交史が専門の井上寿一学習院大教授に論じてもらった。
多様な価値観認める 自民党総裁特別補佐 萩生田光一氏
――安倍首相の目指す美しい日本とはどんな国ですか。
「首相は棚田の風景によく言及するが、自然環境を守るという思いと同時に、水を分け合い、刈り入れを手伝い、互いに支え合う日本人の姿を大切にしたいという気持ちがある。戦後日本は個人が前に出る社会になりすぎた。連帯感のある社会をつくりたい」
――首相は国を愛する心をよく強調します。
「愛国心は誰かが強制して身に付くものではない。甲子園で出身県の高校が負けると残った中で一番近所の学校を応援したくなる。そんなものではないか。戦前のような国になることは望んでいない」
――ナショナリズムにどう向き合えばよいですか。
「ナショナリズムは中韓の方が激しい。日本でも同じ土俵で張り合う人がネットとかに多いが、いかがなものか。(在日韓国人が多く住む)大久保近辺でのヘイトスピーチ。美しい国の美しい日本人はそんなことはしない」
――若年層に排外的な考えの人が増えています。
「民主党政権では国を守れないと危機感を抱き、ならば自民党だ、ならば安倍さんだと思ったのだとしたら、若者が政治に興味を持つきっかけとして大事にしたい。しかし、自分たちの価値観に合わなければ全て敵だという偏狭な愛国心は困る。保守かどうかで線引きをしたがるが、多様な価値観の時代にはグレーゾーンがあってよい」
――都知事選で保守派の田母神俊雄氏が善戦しました。
「どうして自民党は応援しないんだという声は随分いただいた。田母神さんが『安倍さんも同じ思いだ』といったとか聞いたが、それは選挙戦術。首相は明確に舛添要一さんを応援していた」
――首相の靖国参拝は議論を呼びました。
「日本を守る、家族を守るという思いで亡くなった方の安らかなることを願い、国の指導者が手を合わせるのは特別なことではない。首相が参拝時に述べた『不戦の誓い』に嘘偽りはない。もう一度戦争しよう、今度こそ負けるわけがない、と思って靖国に参拝する人はいない」
――戦争指導者を同列にまつるのは違和感があります。
「国会が戦犯の恩赦などを何度も決議した。ノーサイドにしましょうという当時の知恵を継承したい」
――自民党は尖閣諸島の公務員常駐や「竹島の日」の政府式典開催を公約しました。
「今までそうでなかったのが不思議だ。ただ、言葉に出したことが一定の前進という面もある。日本は竹島の領有権を強くいってこなかった。韓国は小学校から自国領と教える。両国民の認識に差がある。まずは日本の子どもに竹島のことを理解してもらう。その先に政府行事がある」
――教育改革ではその辺りが重点になるのですか。
「どこの国にも負の歴史はある。都合の悪いこともちゃんと教えなくてはいけない。しかし嘘や事実でないことをことさら大きく学ばせる教育は間違っていた」
「南京に30万の死体が転がっていたら、日本以外の国のメディアもいたので、世界を揺るがすニュースとして発信されていなければおかしい。国民党軍ゲリラを制圧する過程で一般人の生命を奪ったという事実はある。そのことが膨れあがった。それなのに日本の教科書に30万人と載る。教科書会社に根拠を聞くと『南京の記念館にそう書いてある』という。検証できていない数字を教える必要はない」
――歴史を書き換えようとしているとの見方は米国にもあるようです。
「安全保障で米国の傘下にいるのは間違いないが、経済などでも全部追従するのか。我々にはアジアのリーダーとしての自負もある。米国批判が多少出るのは健全な国家の姿ではないか」
はぎうだ・こういち 明治大卒。衆院当選3回。2012年より現職。保守系議員の集まり「創生日本」事務局長。50歳。
[日経新聞3月23日朝刊P.9]
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若者の閉塞感打破を 学習院大教授 井上寿一氏
――ナショナリズムの根底にあるのは民族意識ですか。
「民族が国境を意識したときに国民になり、その国民の集まりが国家となった。米政治学者ベネディクト・アンダーソンは著書『想像の共同体』で、本当は実体がないのに皆がそこに国家があるとイメージするようになる、と分析した」
「いろいろな共同体があるが、国家は特別な共同体の枠組みだ。世田谷区のために死ぬ人はいないだろうが、国のためならば死ねるという人はいる」
――日本人はいつごろからナショナリズムを意識するようになったのでしょうか。
「江戸時代まで日本国民という意識はなかった。ペリーが来航して初めて武士だけでなく、町人や農民も含めてひとつにまとまらなくてはいけないと思い始めた」
「大和魂という言葉がよく使われるようになったのは日露戦争からだ。夏目漱石が大和魂は空虚だと批判した文章が残っている」
――外敵の有無がきっかけになるということですか。
「対外的な危機が起きると国と自分を同一視しがちだ。平和で経済が安定していればことさらに日本人であると意識しなくても生活できる。高度経済成長期にも日本を誇る気持ちはあったが、対外的には無害な感情だった」
――安倍政権になって日本は右傾化しつつあると感じますか。
「首相の靖国参拝や特定秘密保護法制定があり、さらに集団的自衛権の行使解禁や憲法改正などがセットで押し寄せてきている感じがある」
「ただ、日本人は中庸を尊ぶ国民なので揺り戻しは必ず起きる。中国や韓国の姿勢に反発する日本人は多いが、だったら断交しろという人はさほど多くない。日本全体が右傾化したのではなく、リベラルな政治勢力が衰えたということではないか」
――国民は先の衆院選や参院選で憲法改正を掲げた自民党に多数を与えました。
「国民は1票しか持っていないので、政策ごとに判断できない。満州事変後の1932年の衆院選で親軍だった政友会が圧勝したが、国民は事変の拡大よりも、高橋是清蔵相の積極財政に期待していた。一昨年の衆院選も各党の景気対策を見比べてアベノミクスが一番よさそうだと思って投票先を決めたのであり、自民党の公約の全てを承認したのではない」
――若年層の保守志向をどうみますか。
「やはり閉塞感があるのだろう。経済の停滞しか経験しておらず、上の世代に比べて自分たちは割を食っているという気持ちがある」
――だとすれば対峙すべきは上の世代では?。
「就職氷河期にも一流企業に入社した人はいたので、世代で連帯するのは難しい。中韓の方がわかりやすい敵だ」
「経済を拡大しつつ、富を再分配する道筋を示せば、若年層を引き付けることができる。ところがリベラルは貧しくても分かち合っていこうとかいう。これでは多数の支持は得られない」
――ナショナリズムは排外主義に陥りがちです。
「民主主義は常に平和を求めるとは限らない。それでも日本人は民主主義の作法を徐々に身に付けてきた。(日露戦争終結に反対した群衆が騒いだ)日比谷焼き打ち事件のようなことがこれから起きるとは思わない」
――戦後の保守は長らく親米だったのに、最近は反米的な発言が目立ちます。
「岸信介らの親米は、米国の圧倒的な軍事力に敗れたという現実を踏まえた戦術的な判断だった。いつかは日米安保体制から自立しなくてはならないと思いつつ、挫折した」
「いまの保守は敗戦のつらさの記憶がないので、対米対等性の部分だけが表に出てきて反米にみえる面がある」
いのうえ・としかず 一橋大卒。1993年より現職。法学博士。著書に『危機のなかの協調外交』(吉田茂賞)など。57歳。
[日経新聞3月23日朝刊P.9]
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