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2014.03.21 中間報告 大阪出直し市長選
〜関西から(134)〜
大阪出直し市長選がいっこうに盛り上がらない。“盛り上がらなさ”は期日前投票の推移にもあらわれている。告示日翌日の3月10日から期日前投票が始まったが、初日に投票した人の数は947人と前回ダブル選4256人の4分の1にも満たず、市長選単独だった前々回1504人に比べても大幅に下回った。大阪市選挙管理委員会は3月17日、期日前投票を始めた10日から16日までの1週間分の期日前投票の中間発表をしたが、投票者数は3万1980人で前回ダブル選の7万2623人の4割強だった。
各紙の世論調査でもこの傾向ははっきりと出ている。読売新聞の大阪市内有権者を対象にした世論調査(3月13〜15日実施、回答率58%)によれば、投票に「必ず行く」と答えた人は41%しかなく、前回市長選告示後の同時期発表80%から半減した。また、投票に「たぶん行かない」「行かない」はそれぞれ11%、15%だが、その理由(複数回答)は「今回の選挙に意義を感じないから」79%が最も多く、「投票したい候補者がいないから」72%と続いた。
朝日新聞の世論調査(3月15、16日実施、回答率60%)ではもっと厳しい結果が出ている。市長選に「大いに関心がある」と答えた人はたった15%で、2011年前回選挙の57%からなんと4分の1近くまで下がった。また「少しは関心がある」52%、「関心はない」32%となり、この種の世論調査としては「関心がない」の割合が異常といえるほど高い。これらの数字は、いずれもが出直し市長選の“大義のなさ”の反映だろう。
市選挙管理委員会は、このままでいくと市長選として過去最低の投票率だった1995年の28.5%を下回るかもしれないとの危機感を強めている。過去最低投票率を上回るためには、214万人(2014年3月現在の市内有権者数)×0.285=61万人が投票所に足を運ばなければならない。また今回の市長選は泡沫候補(群)が相手だから、橋下候補が9割以上の得票数を獲得してもおかしくない。9割であれば55万票、8割でも49万票を橋下維新が得票しなければ「話にならない」というべきだろう。
しかしよく考えてみると、そもそも今回の出直し市長選は、前回市長選で75万票(得票率59%)の大量得票で当選した橋下市長が議会が自分の言うことを聞かないからとして勝手に打って出た選挙だ。橋下市長は、議会を翻意(屈服)させるためには出直し市長選で改めて市民の支持を受けるほかはない、これが「究極の民主主義=民意」だとして出直し市長選に臨んだのである。だとすれば、橋下候補は前回市長選の75万票を(はるかに)上回る得票をしなければ「究極の民主主義」を実現できないことになる。
75万票は有権者214万人の35%に当たる。相手が泡沫候補(群)だとはいえ一定数は得票するだろうから、橋下候補の得票率を90%とすると、75万票を上回るためには少なくとも39%以上の投票率を確保しなければならない。2005年出直し市長選の投票率は33.9%、2007年市長選は43.6%だから、40%前後の投票率をかなり高いハードルになる。
ところが産経新聞(3月16日)によると、維新市議団幹部は驚くべきことに「民意のハードル」を下げに下げて、2005年出直し市長選で再選を果たした関市長の得票数27.9万票が今回選挙の「信任目標ライン」だと言い始めたらしい。ちなみに2005年出直し市長選の投票率は33.9%、有効投票数は68.1万票、市民派弁護士と共産党市議団長という2人の有力対立候補が出たので関市長の得票率は41%だった。
同じ出直し市長選でも有力対立候補がいる選挙と泡沫候補相手だけの選挙では比較にならないが、それでも27.9万票が「信任目標ライン」だというのなら、橋下候補は大阪市214万人有権者の僅か13%の得票で「信任」され、大阪都構想に対する「民意」を得たことになる。だが橋下氏の言う「究極の民主主義=民意」が有権者の1割強の支持で実現できるというのなら、それは9割の民意を否定する「究極の民主主義破壊」に転化せざるを得ないのではないか。
海遊館(港区)近くの沿道端で開かれた選挙活動の現場を見た。快晴のぽかぽか陽気だったにもかかわらず、集まった聴衆は僅か百数十人程度だった。これまでの選挙のように、どこに行っても維新派議員や運動員が「大阪都構想」のビラやチラシをまき、政策を訴えて大阪市内が熱気に満ちた空気に包まれる――、こんな雰囲気がまったくない静かで寂しいおよそ維新らしくない選挙風景だった。
橋下候補が出直し市長選の第一声で「演説はしない」「(大阪都構想の)説明に徹する」と言ったように、今回の維新の選挙重点は「タウンミーティング」と呼ばれる大阪都構想の説明会に置かれている。しかし説明会は1日平均4〜5か所程度の開催が限度だから、2週間しかない選挙期間中に市内24区で説明会をやろうとすれば各区で平均2回余りしか開けない。1会場当たりの参加者を300人程度だとすると、有権者214万人の1%、せいぜい2万人程度しか接触できないことになり、これでは大都市選挙の体をなさないだろう。
おそらく今回採用された「タウンミーティング」という方法は、維新がもはや大都市選挙をやり切るだけの態勢が作れないことの裏返しの現象ではないか。堺市長選のときのように全国から地方議員を動員しようとしても、上から命令するだけの「兵隊型選挙」にはもう議員の誰一人も付いてこない。また街頭で大量のビラ・チラシを撒くにはそれだけの数の運動員が必要となるが、そんな大勢の運動員を組織する体力はどこを探しても残っていない。つまり橋下維新には、大量動員型の大都市選挙をやるだけの組織動員がもはや不可能になったのだ。
選挙終盤になって、橋下氏一流の「サプライズ」が登場するともしないとも言われている。しかし私が見るところでは、彼にはもうそんな余力が残っていない。このまま過去最低投票率との苦闘が続き、そして当選したとしても橋下維新は”自滅”の道をたどるだろう。
広原盛明(都市計画・まちづくり研究者)
http://lib21.blog96.fc2.com/blog-entry-2726.html大阪出直し市長選がいっこうに盛り上がらない。“盛り上がらなさ”は期日前投票の推移にもあらわれている。告示日翌日の3月10日から期日前投票が始まったが、初日に投票した人の数は947人と前回ダブル選4256人の4分の1にも満たず、市長選単独だった前々回1504人に比べても大幅に下回った。大阪市選挙管理委員会は3月17日、期日前投票を始めた10日から16日までの1週間分の期日前投票の中間発表をしたが、投票者数は3万1980人で前回ダブル選の7万2623人の4割強だった。
各紙の世論調査でもこの傾向ははっきりと出ている。読売新聞の大阪市内有権者を対象にした世論調査(3月13〜15日実施、回答率58%)によれば、投票に「必ず行く」と答えた人は41%しかなく、前回市長選告示後の同時期発表80%から半減した。また、投票に「たぶん行かない」「行かない」はそれぞれ11%、15%だが、その理由(複数回答)は「今回の選挙に意義を感じないから」79%が最も多く、「投票したい候補者がいないから」72%と続いた。
朝日新聞の世論調査(3月15、16日実施、回答率60%)ではもっと厳しい結果が出ている。市長選に「大いに関心がある」と答えた人はたった15%で、2011年前回選挙の57%からなんと4分の1近くまで下がった。また「少しは関心がある」52%、「関心はない」32%となり、この種の世論調査としては「関心がない」の割合が異常といえるほど高い。これらの数字は、いずれもが出直し市長選の“大義のなさ”の反映だろう。
市選挙管理委員会は、このままでいくと市長選として過去最低の投票率だった1995年の28.5%を下回るかもしれないとの危機感を強めている。過去最低投票率を上回るためには、214万人(2014年3月現在の市内有権者数)×0.285=61万人が投票所に足を運ばなければならない。また今回の市長選は泡沫候補(群)が相手だから、橋下候補が9割以上の得票数を獲得してもおかしくない。9割であれば55万票、8割でも49万票を橋下維新が得票しなければ「話にならない」というべきだろう。
しかしよく考えてみると、そもそも今回の出直し市長選は、前回市長選で75万票(得票率59%)の大量得票で当選した橋下市長が議会が自分の言うことを聞かないからとして勝手に打って出た選挙だ。橋下市長は、議会を翻意(屈服)させるためには出直し市長選で改めて市民の支持を受けるほかはない、これが「究極の民主主義=民意」だとして出直し市長選に臨んだのである。だとすれば、橋下候補は前回市長選の75万票を(はるかに)上回る得票をしなければ「究極の民主主義」を実現できないことになる。
75万票は有権者214万人の35%に当たる。相手が泡沫候補(群)だとはいえ一定数は得票するだろうから、橋下候補の得票率を90%とすると、75万票を上回るためには少なくとも39%以上の投票率を確保しなければならない。2005年出直し市長選の投票率は33.9%、2007年市長選は43.6%だから、40%前後の投票率をかなり高いハードルになる。
ところが産経新聞(3月16日)によると、維新市議団幹部は驚くべきことに「民意のハードル」を下げに下げて、2005年出直し市長選で再選を果たした関市長の得票数27.9万票が今回選挙の「信任目標ライン」だと言い始めたらしい。ちなみに2005年出直し市長選の投票率は33.9%、有効投票数は68.1万票、市民派弁護士と共産党市議団長という2人の有力対立候補が出たので関市長の得票率は41%だった。
同じ出直し市長選でも有力対立候補がいる選挙と泡沫候補相手だけの選挙では比較にならないが、それでも27.9万票が「信任目標ライン」だというのなら、橋下候補は大阪市214万人有権者の僅か13%の得票で「信任」され、大阪都構想に対する「民意」を得たことになる。だが橋下氏の言う「究極の民主主義=民意」が有権者の1割強の支持で実現できるというのなら、それは9割の民意を否定する「究極の民主主義破壊」に転化せざるを得ないのではないか。
海遊館(港区)近くの沿道端で開かれた選挙活動の現場を見た。快晴のぽかぽか陽気だったにもかかわらず、集まった聴衆は僅か百数十人程度だった。これまでの選挙のように、どこに行っても維新派議員や運動員が「大阪都構想」のビラやチラシをまき、政策を訴えて大阪市内が熱気に満ちた空気に包まれる――、こんな雰囲気がまったくない静かで寂しいおよそ維新らしくない選挙風景だった。
橋下候補が出直し市長選の第一声で「演説はしない」「(大阪都構想の)説明に徹する」と言ったように、今回の維新の選挙重点は「タウンミーティング」と呼ばれる大阪都構想の説明会に置かれている。しかし説明会は1日平均4〜5か所程度の開催が限度だから、2週間しかない選挙期間中に市内24区で説明会をやろうとすれば各区で平均2回余りしか開けない。1会場当たりの参加者を300人程度だとすると、有権者214万人の1%、せいぜい2万人程度しか接触できないことになり、これでは大都市選挙の体をなさないだろう。
おそらく今回採用された「タウンミーティング」という方法は、維新がもはや大都市選挙をやり切るだけの態勢が作れないことの裏返しの現象ではないか。堺市長選のときのように全国から地方議員を動員しようとしても、上から命令するだけの「兵隊型選挙」にはもう議員の誰一人も付いてこない。また街頭で大量のビラ・チラシを撒くにはそれだけの数の運動員が必要となるが、そんな大勢の運動員を組織する体力はどこを探しても残っていない。つまり橋下維新には、大量動員型の大都市選挙をやるだけの組織動員がもはや不可能になったのだ。
選挙終盤になって、橋下氏一流の「サプライズ」が登場するともしないとも言われている。しかし私が見るところでは、彼にはもうそんな余力が残っていない。このまま過去最低投票率との苦闘が続き、そして当選したとしても橋下維新は”自滅”の道をたどるだろう。
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