02. 2014年3月20日 01:37:31
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米国の衰退・内向き化と撤退が想定以上に速い場合、集団的自衛権の問題は、通り越して、自主防衛を議論すべき段階になるかもしれないな http://diamond.jp/articles/print/50442 田岡俊次の戦略目からウロコ 【第24回】 2014年3月20日 田岡俊次 [軍事ジャーナリスト] 白熱化する集団的自衛権 安保法制懇の「4類型」「5事例」を徹底検証
集団的自衛権行使に関して憲法解釈の変更を目指す安倍政権は、安保法制懇の報告書がまとまれば、自民党内や公明党との協議の上、閣議決定で憲法解釈を変更する構えだ。だが、安保法制懇が挙げる集団的自衛権に関わる「4類型」「5事例」を検証すると、あまりにも問題点、弊害、危険の検討がおろそかになっている。首相の私的諮問機関の報告が閣議決定され解釈変更が行われるのであれば、それは「法治国家」ではなく「人治国家」とのそしりを免れないだろう。 日本は「人治国家」になりかねない ?集団的自衛権行使に関して憲法解釈の変更を目指す安倍政権は、4月に安倍氏の私的諮問機関である「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇)の報告書がまとまれば、自民党内や公明党との協議の上、閣議決定で憲法解釈を変更する構えだ。2月20日の安倍首相の答弁によれば、国会での論議は閣議決定の後になる。 ?だがこれまで同懇談会が公表した資料や、座長代理の北岡伸一氏(国際大学学長)の講演やインタビューで示された具体的行動の「4類型」「5事例」等には日米安保条約で全く想定されていない事項が多く、国際法に反する疑いがある項目まである。 ?現行の日米安保条約は1960年1月19日に調印され、同年6月19日に国会の承認を得て、同月21日に批准された。日米の安全保障関係に根本的変更をもたらす「海外での武力行使」を容認するなら、単なる憲法9条の解釈の変更ではすまず、安全保障条約を改定し、改めて国会で批准の承認を得るのが筋ではないか、と考えられる。 ?このように国の安危に関わる重大な事項が、法律上何の根拠もなく、首相が気に入った人物だけを集めた私的懇談会で討議され、首相が選んだ閣僚たちの閣議で決定されれば、日本は「人治国家」になりかねない。「人治国家」と揶揄される国々でも、権力者は一応裁判や法的に認められた権限の行使の外形を取りつつ、恣意的な行動を取るのが普通だ。一方「法治国家」でも政府首脳が政策の原案を考えるにあたっては、個人の判断や側近の意見が反映されるのは不可避で、要は濃淡の問題だろう。今回の集団的自衛権問題に関しては「人治主義」の濃度が高いと思わざるをえない。 ?日米安全保障条約は共同防衛を定めた第5条で「各締約国(日、米)は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続きに従って共通の危険に対処するよう行動することを宣言する」としている。日米両国の議会は、日本に対する攻撃が起きた場合のみに共同で対処する条約の批准を承認したのであり、「憲法上の規定及び手続きに従って」とあるのは、当時の憲法解釈で日本が自国防衛以外に武力行使はできないことを米国政府も議会も承知の上で論議し、批准したことを示している。 日米安保体制は「片務的」ではない ?だがその後、米国はベトナム戦争で経済、財政が苦境に陥り、債務国に転落した一方、日本が急速な経済成長を続けたため、「日本はアメリカに安全保障を任せて発展した」との「安保タダ乗り論」が生じ「アメリカは日本の防衛を担うのに、日本がアメリカの防衛の責任を負わないのは不公平」との「片務性」を指摘する声が広がった。この説は、日本が1973年(沖縄返還の翌年)時点で、165ヵ所、446平方kmの基地を無償で提供し、6万5000人の米軍人を駐屯させ、主として沖縄では民有地の地代を支出するなど、基地提供での逆の「片務性」負担をしていたことを無視した無知蒙昧の論だった。米国人には対外経済関係でも、自国が他国に恩恵を与えている、と感じ、他国から得ている利得を忘れがちな癖がある。「米軍が日本を守っている」と言っても、実は日本にある米軍基地を防衛するためには自衛隊に協力する必要があるためで、Give and Takeの関係が成立したからこそ日米安保条約が結ばれたのだ。 ?当時私はワシントンのジョージタウン大学の付属機関(現在は独立)だった戦略国際問題研究所(CSIS)のシニア・フェローだったが、「片務性」を言う米国人に、日米にそれぞれ「片務性」があることを理解させるため「では、日本も合衆国の施政権下の領域に対する攻撃の際には共同防衛に当たる事にする代わりに、パールハーバーとサンディエゴを海上自衛隊基地とし、東京郊外の横田基地と引き換えにワシントン郊外のアンドリュース空軍基地を航空自衛隊基地にすれば君達は満足するのか」と言うと相手は狼狽し、話題を転じることが多かった。 ?米軍への基地提供は単なる土地問題ではなく、万一米ソ戦が起きれば、巻き込まれる危険も日本は負担していた。当時の欧州正面ではNATO軍がワルシャワ条約軍に対し数的には劣勢だったため、極東では米軍が攻勢に出て「第2戦線」を開き、ソ連軍の戦力を東に割かせる「水平エスカレーション戦略」が唱えられていた。日本はソ連戦力を吸収して西欧を救う損な役回りだった。またソ連の弾道ミサイル原潜がオホーツク海に隠れ、そこから米本土を狙う態勢だったため、米海軍は開戦劈頭オホーツク海に突入してソ連の弾道ミサイル原潜を処理してソ連の核報復能力を奪う計画を持ち、海上自衛隊に国後水道などの掃海(機雷除去)や北太平洋での対潜哨戒、空母群の護衛などを行わせることも考えていた。そうすれば日本が核攻撃を受ける公算は高かったから「片務性」どころではなかった。 ?米軍と自衛隊の共同作戦計画は1976年から研究が行われ78年に決定したが、当時の制服自衛官のトップの1人は「我々は従来はソ連軍が日本を攻撃し、米軍が来援して助けてくれる、という面ばかり考えていたが、共同作戦を研究して、米軍は欧州や中東で戦争になれば、それを極東に波及させるつもりだと分かった」と内話した。私が「それは社会党が言ってきた巻き込まれ論と同じですね。それなら自衛隊だけで日本を守る方がまだましでしょう」と言うと、相手は「私もそう思わないでもないが、我々が対外政策に口を出す訳にも行きません」と辛そうに話した。 米国は独裁政権でも親米なら支援してきた ?幸いソ連は1979年末からアフガニスタンに介入してゲリラに敗れ、88年から撤退を始め、東欧支配、国内統治のカギであった軍事的威信を失った。このため、東欧諸国は次々と離反し、ドミノ現象はついにロシア本国に達してソ連邦の崩壊に至った。巨大な戦力を有したソ連の崩壊は西側同盟を揺るがすこととなった。 ?歴史的に見れば同盟の基礎は「共通の脅威」の存在であり、当今流行語となった「共通の価値観」ではない。例えば第1次世界大戦時のドイツ皇帝ウィルヘルムU世は英国のヴィクトリア女王(開戦前の1901年に逝去)の孫で、当時の欧州の王室は複雑な姻戚関係で結ばれていたが敵味方に分かれて戦ったし、第2次世界大戦では極端な人種主義者のヒトラーと、彼がかつて罵倒した「黄色人種」の国、日本が同盟関係となり、それに対して共産主義の暗黒面を具現したようなスターリンを資本主義の米、英が支援した。 ?冷戦時代の米国はどんな独裁政権でも反ソ連、親米でありさえすれば支持し、インドのような民主主義国も「非同盟」だから排撃し、インドと対立し軍人政権の時期が多かったパキスタンと同盟関係にあった。米国人は民主主義の擁護者を自認するが、第2次大戦後だけでも米国がひいきにした独裁者はイラン・イラク戦争時のサダム・フセインやリビアのカダフィ(後期)など20人を優に超える。日本の軍事力復活を警戒し非武装の憲法を作らせた米国が、朝鮮戦争が始まった途端、警察予備隊の創設を命じ、同盟を結んで再軍備を進めたのも「敵の敵は味方」の原理による。 ?日本では中国をソ連の後任に擬し、日米共通の脅威として同盟を維持しようとする動きもあるが、今日の米国は「財政再建、輸出倍増」を急務の目標とし、中国のContainment(封じ込め)は考えずEngagement(抱き込み)をはかる、と公言しているのだから、中国包囲網は妄想にすぎない。この情勢はロシア帝国の満州居座りに対抗して1902年に結ばれた日英同盟が、日露戦争での日本の勝利によって当初の目的を失った後も、日本は「日本外交の骨髄」と称した日英同盟を維持しようとし、1905年に改定してインドを適用範囲に入れ、1911年にも改定してアメリカに対して適用しないようにした状況に似ている。 ?第1次世界大戦(1914〜18年)では、英国は日本の参戦が反日に傾いていた米国の警戒を招くことを案じ、一時は参戦要請を取り消す事態も生じた。今日の米国が、日本の「集団的自衛権行使」論が中国の警戒を招き、米中関係に不利と見て、少なくとも昨年は冷淡な態度を示したのと同様だ。現在、安保法制懇が「集団的自衛権」の名の下に、日米安保条約の条項と大きく異なる内容の海外での武力行使を企図しているのは、1905年の日英同盟改定で英国のインド支配の支持を表明したことを想起させる。 安保法制懇が挙げる「4類型」「5事例」の検証 ?2007年5月第1次安倍内閣当時に設けられた私的研究会「安保法制懇」は安倍首相が諮問した「4類型」すなわち @日米の艦艇が公海で共同行動中、攻撃を受けた米軍艦の防護 A米国に向かう弾道ミサイルの迎撃 B国際平和活動の際の武器使用 C国際平和活動における他国への後方支援 ?について憲法との関係を研究したが、同年9月安倍首相が突如辞任したため、2008年6月、福田首相に報告書を出したが棚上げとなった。 ?2013年12月に再開された安保法制懇は日本が取るべき具体的行動として「5事例」をあげ @日本近隣有事の際の(a)船舶検査(b)米国等への攻撃排除(c)国連の決定があった場合の国連活動への参加 A日本船舶の航行に重大な影響を及ぼす海域での機雷の掃海 B米国が武力攻撃を受けた場合の船舶検査などの対米支援 Cイラクのクウェート侵攻のような国際秩序の維持に重大な影響を及ぼす武力攻撃が発生した際の国連の決定に基づく活動への参加 D日本領海で潜没航行する外国潜水艦が退去要求に応じない場合の対応 ?を議論し、安倍内閣は3月14日「集団的自衛権を行使できるようにすべきではないという意見は表明されていない」との答弁書を閣議決定した。安保法制懇のメンバーについては「空想的な議論をされている方は排除している」と安倍首相が答弁したこともあり、反対論が出ないのは当然だ。法的には何の根拠も権限もない私的勉強会が何を言おうが勝手だが、事実上はそれが公式の委員会や審議会と同然、あるいはそれ以上の権能を持つことになるのでは「法治主義」は疑わしい。 ?憲法だけでなく、軍事的合理性や、日米安保条約、国際法にも照らして「4類型」「5事例」を検証すれば「4類型」の@「公海上での米軍艦の防護」については、安保条約が「日本国の施政の下におけるいずれか一方に対する武力攻撃」への共同対処を定め、それを日米の議会が承認して批准した以上、公海上での攻撃に共同対処するには安保条約の改定が必要ではないかと考えられる。ただし、もし日本海などで北朝鮮の弾道ミサイル発射を監視中の米軍艦や哨戒機などが攻撃を受けた場合には、米軍艦、米軍機の監視活動は日本の防衛に直結するから、その防護は個別的自衛権の発動、と言えるのではないか。 ?Aの「米国に向かう弾道ミサイルの迎撃」については、北朝鮮北部の山岳地帯から米本土西岸へ向かうミサイルはロシア沿海州、カムチャッカ方面の上空を通る。米国東岸へは北極圏上空を経由するから日本が迎撃するのはほぼ不可能。ハワイ、グアムに向う場合は日本上空を通るから、上昇中に日本海上のイージス艦が迎撃する機会がありそうに思えるが、この場合は日本を狙っている、あるいは途中で日本に落下する危険があるから、それを破壊することも個別的自衛の範囲ではないか。現に日本は発射実験に対しても「破壊命令」を出している。 ?BPKO等の際の武器使用については、他国の部隊が襲われた際の「駆けつけ警護」の可否が問題とされるが、これは他国が自衛戦争をしているのを助ける集団的自衛とは本来異なる話だ。刑法の正当防衛は「急迫不正の侵害に対し、自己または他人の権利を防衛するためやむを得ずにした行為は罰しない」としており、国の自衛権も正当防衛と同じ論理に立脚するから、他国部隊が急迫、不正の攻撃を受けているのを助けることは「集団的自衛権行使」などと言わずとも、正当防衛の一種として是認されるだろう。ただ、それには攻撃が不正であることが必要だ。国連が派遣を決めたPKO部隊への攻撃は不正だとしても、イラク戦争のように、武力行使を認める安保理決議もないまま他国に侵攻した部隊を、地元の部隊、民衆が襲撃しても不正とは言い難い、そういう戦争には加担しなければよいのだ。 ?Cの「後方支援」は国連が決めた純粋のPKOなら行うべきとしても一部の国の「有志連合」による戦争も「国際的」な活動として支援するなら、国際紛争解決のための武力行使となり、これは自民党が一昨年出した「憲法改正草案」でも禁じられている。後方支援として輸送などに当たる場合、特にゲリラは前方の戦闘部隊よりは補給部隊を狙おうとするから、前線で戦闘する以上に危険が大きい場合も考えなければならない。 ?5事例のうちA日本船舶の航行に重大な影響を及ぼす海峡等(ホルムズ海峡など)の掃海、は自衛隊法82条の「海上警備行動」(海上における人命、財政の保護、または治安維持)で実施可能だ。これには地域の制約は無く、ソマリア沖での海賊対処も当初はこれを適用して行った。 ?Dの領海内での外国潜水艦に対する措置も海上警備行動で行えるはずで、集団的自衛権とは無関係だ。また潜水艦が平時に海岸からわずか22kmの領海に意図的に侵入して探知され、退去を求められても応じないことは稀だ。潜水艦が他国領海にまで入るのは航法ミスや計器の故障で迷い込んでいることが多いから慎重な対応が必要だ。2004年11月に中国原潜が石垣島東方の日本領海を通過した事件は、北上中の同艦が夜間に宮古島の東を回って青島に帰ろうとして、誤って一つ手前の石垣島の東を回ったものらしく、中国は「技術的原因による」と謝罪した。 ?@とBの船舶検査は重大な問題だ。公海上で他国の主権下にある船舶を停船させて臨検し、貨物を没収したり、船を拿捕することは「航海の自由」を侵害し、船が籍を置く「旗国」の主権の侵害にも当たるから、交戦国にだけ許される権利で「国の交戦権はこれを認めない」とする憲法に明白に触れる。もし憲法を変えてもはっきりと宣戦布告しないと行えない行為だ。現在アメリカが主動するPSI(大量破壊兵器の拡散に対する安全保障構想)では、入港した船や船籍を置く国(パナマ等)が了承した場合に検査を行っている。アラビア海などで米海軍がイランの機帆船を停めて乗り込み、検査をしていたのは、イランと米国に外交関係はないからイランの了承があったはずがなく違法行為で、それを給油で支援したのは共犯だろう。 安保法制懇の「暴論」 ?安保法制懇の北岡伸一座長代理は2月25日の朝日新聞のインタビューで、憲法が「国際紛争を解決する手段としての武力による威嚇と武力行使」を放棄していることについて、この国際紛争とは「日本が当事者である国際紛争」と解するべきで、それを報告書に盛り込む考えを表明した。他国間の国際紛争の解決のためなら、日本が武力行使をしてよいとの主張だ。 ?だが国連憲章第2条第3項は「すべての加盟国はその国際紛争を平和的手段によって、解決しなければならない」とし、第4項は「武力による威嚇または武力行使を、いかなる国の領土保全と政治的独立に対するものも、また国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも、慎まなければならない」と定めている。この2つの項を合せれば、国連憲章はどの加盟国にも国際紛争解決のための武力行使を行わないように求めている、と読むのが素直だろう。日本以外の国は国際紛争を武力で解決することが許されており、日本がそれを手伝うのは構わない、というのは暴論と考えざるをえない。 ?首相の意向に賛同しそうな人ばかり集めた私的諮問会議では、問題点、弊害、危険の検討がおろそかになりがちなのは不可避、弁護人なしの裁判をすれば冤罪が生じ、野党不在の議会が専制につながるのと同様だ。今後与党内や国会での多方面からの再検討が必要だ。 |