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YAHOO ファイナンス記事
http://news.finance.yahoo.co.jp/detail/20140311-00012101-president-column
■安倍氏を批判した「SWセンター」とは
ここ2カ月余りで国際社会での日本の風当たりは急速に悪化している。昨年末の首相の靖国参拝に始まり、ダボスでの世界経済フォーラムの懇談の際に第一次世界大戦に触れたという事実。残念ながらその際の問題は誤訳などではない。先の2つの世界大戦への慚愧の念に堪えない欧州の真ん中で100周年として例に出すその発想に海外メディアも投資家も首を傾げざるをえなかったのだ。ここにきて東京で発生したアンネの日記の破損問題が各国の主要紙で取り上げられ、単なる器物破損の域をすでに越えている。一連の流れは国際世論がいかに形成されるのかを考察するうえでも、今後の対応を考えるうえでも有効な材料となろう。
参拝直後からの海外メディアの積極的な報道は周知の通りであるが、当初は参拝の事実と周辺各国からの反発を伝えるに留まり、加えて米国の「失望」が意外性を持って指摘される……といった内容だった。安倍政権内には普天間基地問題の解決で靖国参拝が帳消しになるとの目論みがあったのだろうが、それが外れたという解釈だ。海外はクリスマス、日本は年末年始の時期とあって、もちろん隣国は騒ぐものと予想されるが、国際世論を巻き込んで事態が大きくなることはない、そんな打算も働いていたことだろう。
ところが年明けから潮目がにわかに変わり、見通しの甘さが露呈した。事態は収束に向かうどころか、各国の主要メディアが一歩も二歩も踏み込んだ内容を日替わりで流す顛末となっている。経済誌である英エコノミスト誌までもが年明けに「横面を張る〜安倍晋三の危険な賭け」と題してdiplomatic disaster(外交上の大失策)、普段はこうした問題への発言を控えるシンガポールでさえregret(遺憾)と表明したことを伝えている。
いくら日本の隣国が騒ぎ立てようと、それだけで潮流が変わるほど、国際社会は軟(やわ)でもなければ物わかりがいいわけでもない。国際世論の急速な変化、そのきっかけは何か、そうした冷静な分析がここは必要となろう。
国際的なユダヤ人人権組織のうち、その規模も政財界への影響力も大きいとされるサイモン・ウィーゼンタール・センター(Simon Wiesenthal Center、以下SWセンター)は昨年12月31日付で「Japan's Shinzo Abe honors war criminals, enrages friends(日本の安倍晋三は戦争犯罪者を称え、友人たちを激怒させた)」を寄稿。米主要メディアが配信した直後から踏み込んだ批判が噴出しているだけに、その内容は無視できまい。
過激化する北朝鮮、冒険主義・国家主義へ回帰する中国の存在が「日本を戦争や征服へと導いているのではないか? 」と一定の理解を示すものの最小限に留まっており、全般的には安倍首相に対するトーンは非常に厳しい。「参拝後の発言において、安倍はアーリントン墓地への参拝を引き合いに出し米国の懸念を鎮めようとしたが、苛立ちは(これで)憤りとなった。そんな比較なんてありえない! 」。通常こうした寄稿に感嘆符は見受けない。国際社会で安倍政権を右傾化とする見方は定着しつつある。どんなに国内から否定しようとも、それだけでは事態は打開できないステージに突入している。数カ月前と情勢は明らかに違う。
ここ半年でSWセンターから日本への懸念は昨年の麻生太郎副総理の「ナチスを見習え」発言、「アンネ・フランクの日記の破損」と合わせてこれで3回。これだけの頻度の抗議は、東日本大震災直前の時期にもあった(コスプレ用のナチスの衣装を販売した日用雑貨品店、ナチスの親衛隊SSの衣装の宝塚歌劇団員が広告に登場した大手化粧品会社、ナチスの衣装で演奏活動したタレントの所属レコード会社などへの抗議)。
ただ、震災直後には日本に向けて人道的見地に立脚した大変心温まる日本語の声明をいち早く発表したのもSWセンターである。同センターはあらゆる差別はホロコーストに通じるということで、ヘイトスピーチを含む他民族・人種差別に対しても非常に厳しい姿勢で臨んでいる。
アンネの日記の破損事件では日本人の仕業ではないとして特定の国を示唆する、信じ難い発言が与党内から飛び出した。国際社会の常識としてまったく受け入れ難いし、なぜ自縄自縛に陥る発言を政権中枢部が窘(たしな)めないのか。海外へと伝われば、ただでさえ右傾化が懸念される政権への世界の目は一層厳しくなる。いずれの立場であれ、国際社会での孤立が日本のリスクであるのは共通認識だ。事件はまったく理解に苦しむことであり、迅速な解決を望むこと、そしてそこに差別や偏見の要素は微塵もないという毅然たる態度を示す必要がある。
大阪経済大学経営学部客員教授 岩本沙弓
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