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焦点:すれ違う日米同盟、防衛指針改定で中国めぐり温度差
2014年 03月 10日 10:00 JST
[東京/ワシントン 10日 ロイター] -自衛隊と米軍の役割分担を定めた防衛協力の指針(ガイドライン)の改定をめぐり、日米に温度差が生じている。
平時とも有事とも判断がつかない「グレーゾーン」事態への対応が見直しの重要議題という点で両国の意見は一致しているものの、中国に対する抑止、特に尖閣諸島(中国名:釣魚島)を念頭に議論を進めたい日本に対し、米国はもっと幅広いテーマを協議したいと考えている。日本政府の関係者や専門家の間では、中国に誤ったメッセージを送りかねないとの懸念が広がっている。
<中国船が大挙して押し寄せたら>
2月中旬、日米は外務・防衛当局の審議官級協議を米国で開き、安全保障問題について幅広く話し合った。議題の1つは、昨年10月に改定作業に入ることで合意した日米ガイドライン。1997年に見直された現在のガイドラインは、武力衝突など有事が発生した場合の日米の役割分担を明確にした。
今回の見直しの最大の目的は、有事には至っていないが、平時とも言えないグレーゾーンの対応を確立することにある。両国は年内にガイドライン見直し作業の完了を目指しており、10日にハワイで開く実務者級の会合でも重要議題のひとつとして話し合う見通しだ。
「97年のガイドラインは平時か有事か、ゼロか1だった」と、ワシントンの国防総省の関係者は話す。「あまりに柔軟性がなく、日米の動きを硬直化させていた」。
しかし複数の関係者によると、今回の見直しは、ある部分で日本と米国に意見の隔たりがあるという。日本と中国が領有権を主張している尖閣諸島をめぐる対応だ。97年は朝鮮半島の有事が懸念事項だったが、現在は東シナ海の離島をめぐって日中の緊張が高まっている。
中国の漁船や監視船が大挙して尖閣諸島に押し寄せたときに日米はどのような協力ができるのか、漁師に扮(ふん)した人民解放軍の兵士が尖閣諸島を占拠したら両国はどう動くのか──。日本側は、武力衝突にまでは発展していないこうした具体的なシナリオをいくつも設定し、机上演習を行って問題点を洗い出し、米国との間で対応策を練りたいと考えている。
一方、米国は尖閣諸島を念頭に議論することに後ろ向きだと、日本側は感じている。「中国、とりわけ尖閣を想定したシナリオを議論したがらない」と、日本の政府関係者の1人は言う。「もっと幅広いことを話し合いたいと言っており、日米間で温度差がある」。
実際にワシントンの関係者からは、宇宙やサイバー空間といった新たな安全保障の分野も含めた包括的な議論をすべきとの声が聞かれる。「朝鮮半島情勢や、世界的な不測の事態にも備えておかなければならない。中国についてだけ話していればいいというわけではない」と、国防総省の関係者は言う。「(日本側は)尖閣ばかりに注目するきらいがある」。
日本側が尖閣にこだわるのは、岩でできたこの無人島に対する米国の態度がはっきりしないためだ。米国は尖閣諸島が日本の施政下にあり、日米安全保障条約が適用されるとしている。だが、日中どちらが領有権を持つのかについては立場を明確にせず、領土問題から距離を置いている。中国に対する抑止力を高めたい日本は米国の関与を模索するが、米側は「尖閣をめぐる日中の争いに巻き込まれることを懸念している」と日本政府の関係者は話す。
オバマ政権は、アジア太平洋地域を重視する姿勢を強調している。このほど発表した国防計画でも、米軍全体が規模を縮小する中、アジアに軍事力を重点的に配分する方針は維持した。しかしイラク、アフガニスタンでの戦いを経て、米国の国民は戦争に嫌気が差している。
「ベトナム戦争直後よりも、米国内では外国の問題に関与することを避けるという雰囲気が強い。議会には影響するだろう」と、元外務事務次官で、現在は日本国際問題研究所理事長の野上義二氏は言う。「同盟関係が安定して抑止力が効いていれば、巻き込まれないで済むということが(米国内で)理解されにくい」。
<日米同盟の信頼低下へ>
米国の姿勢を懸念する声は、日本の制服組の間にも広がっている。自衛隊のある幹部はロイターに対し、ガイドライン協議で温度差が生じていることについて「(外部に)漏れ伝わっているのか」と認めた上で、「合同演習でも米軍は特定の訓練をやりたがらない」と打ち明ける。尖閣諸島の奪還を想起させるようなシナリオは嫌がるのだという。
防衛研究所の元研究員で、政策研究大学院大学の道下徳成准教授は「中国との衝突に引きずり込まれることを恐れて米国があいまいな態度をとるのは当然だ」と語る。その上で「米国がこの問題に関与しないと決めれば日米同盟の信頼性を低下させ、中国がさらに大胆な行動に出る可能性がある」と語る。
同時に日本はグレーゾーンに対応するための法制度を整えたり、自衛隊と米軍の連携強化に向けて集団的自衛権の行使容認を決めなくてはならない。米側からは、集団的自衛権に関する日本国内の議論が決着していないのに、ガイドラインを協議する意味があるのかとの声も出ているという。
米国の政治が専門の青山学院大学の中山俊宏教授は「(米国にとって)中国は不確定要因なので備えておかねばならないが、敵ではない」と指摘する。「ガイドラインの改定は、日本と完全に目的を共有してトントンと進んでいく雰囲気ではない」と話す。
(久保信博、リンダ・シーグ、スチュワート・フィリップ、竹中清 編集:北松克朗)
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