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「毎日新聞のインタビュー:内田樹の研究室」
http://sun.ap.teacup.com/souun/13579.html
2014/3/6 晴耕雨読
内田樹の研究室
2014.03.05 毎日新聞のインタビュー から転載します。
http://blog.tatsuru.com/2014/03/05_0950.php
毎日新聞のインタビュー
3月5日の毎日新聞朝刊にインタビューが載りました。
お読みでないかたのためにオリジナル原稿をアップしておきます。ちょっと紙面とは文言が変わっているかも知れませんが大意はそのままです。
ー中国、韓国との関係改善が進まず、米国も懸念しています。
内田 長い歴史がある隣国であり、これからも100年、200年にわたってつきあっていかなければならないという発想が欠けている。安倍政権は外交を市場における競合他社とのシェア争いと同じように考えているのではないか。韓国や中国との「領土の取り合い」と経済競争における「シェアの取り合い」は次元の違う話だということを理解できていないように見える。
昨年12月の靖国神社の参拝も、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)移転先の名護市辺野古への埋め立てについて沖縄県知事との話し合いがついた直後に行われた。米国に「貸し」を作ったので、今度は米国が厭がることをする「権利」が発生したと考えたのだ。本人はクールな取引をしているつもりだろうが、米国は同盟国としての信頼を深く傷つけられた。安倍政権はアメリカを「パートナー」ではなく、市場における「取引相手」だとみなしている。その「実のなさ」が米国を不安にさせ、苛立たせている。
ーなぜ短期的な発想になるのですか。
内田 民主主義は政策決定にむやみに時間がかかる政体である。時間がかかるかわりに集団成員の全員が決定したことに責任を引き受けなければならない。「そんな決定に私は与っていない」という権利が誰にもない。政策決定が失敗した場合でも、誰かに責任を転嫁することができない、それが民主制の唯一のメリットだということをたぶん首相は理解していない。
民主制が政策決定の遅さと効率の悪さに首相は苛立っている。たぶん彼は株式会社と同じように、経営者に権限も情報も集約して、経営者の即断即決ですばやくものごとが決まる仕組みを政体の理想としているのだろう。会社経営の失敗はせいぜい倒産で済むが、国家の失政は国土を失い、国民が死ぬことさえある。その違いを理解していないのだと思う。
そのような「楽観的な」政権運営を可能にしているのは国民的規模での反知性主義の広がりがある。教養とは一言で言えば、「他者」の内側に入り込み、「他者」として考え、感じ、生きる経験を積むことである。死者や異邦人や未来の人間たち、今ここにいる自分とは世界観も価値観も生活のしかたも違う「他者」の内側に入り込んで、そこから世界を眺め、世界を生きる想像力こそが教養の本質である。そのような能力を評価する文化が今の日本社会にはない。
―ただ、中国も韓国も理解するには難しい国です。
内田 どこの国のリーダーも「立場上」言わなければいけないことを言っているだけで、自分の「本音」は口にできない。その「切ない事情」をお互いに理解し合うリーダー同士の「めくばせ」のようなものが外交の膠着状況を切り開く。外交上の転換はリーダー同士の人間的信頼なしには決してありえない。相手の「切ない事情」に共感するためには、とりあえず一度自分の立場を離れて、中立的な視座から事態を俯瞰して議論することが必要だ。自分の言い分をいったん「かっこに入れて」、先方の言い分にもそれなりの理があるということを相互に認め合うことでしか外交の停滞は終らない。
―外交において相手に譲るのは難しいことです。
内田 外交でも内政でも、敵対する隣国や野党に日頃から「貸し」を作っておいて、「ここ一番」のときにそれを回収できる政治家が「剛腕」と呼ばれる。見通しの遠い政治家は、譲れぬ国益を守り切るためには、譲れるものは譲っておくという平時の気づかいができる。多少筋を曲げても国益が最終的に守れるなら、筋なんか曲げても構わないという腹のくくり方ができる。大きな収穫を回収するためにはまず先に自分から譲ってみせる。そういうリアリズム、計算高さ、本当の意味でのずるさが保守の智恵だったはずが、それがもう失われてしまった。
最終的に国益を守り切れるのが「強いリーダー」であり、それは「強がるリーダー」とは別のものである。
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