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[風見鶏]習氏のメンツと日中関係
政治部次長 高橋哲史
元参院議長の江田五月氏は、幼いころの数年間を中国河北省の石家荘ですごした。終戦を挟んだ混乱期である。物ごころがつくかつかないかの年齢だったが、ひとつの鮮烈な記憶が心に焼きついている。
ある夜、のちに社会党の書記長となる父の三郎氏が傷だらけで帰ってきた。背中はみみず腫れになっている。「八路軍に日本軍国主義の手先とののしられ、むちでたたかれた。持ちものもすべて取られた」
「八路軍」とは中国共産党が農民らを組織してつくった軍隊で、人民解放軍の前身だ。当時はどこの馬の骨ともわからない無法者の集団と恐れられていた。
八路軍に対する三郎氏の見方はすぐに変わる。
兵士が「あなたを誤解していた」と謝罪し、奪ったものを返しに来たのだ。「彼らは単なる農民の一揆ではない。ちゃんと組織され、統制のとれた軍隊だ」。江田氏は三郎氏がこう話していたのを覚えている。
「三大規律八項注意」。共産党を率いた毛沢東が定めたとされる軍紀だ。
「指揮に従って行動せよ」「民衆のものは針一本、糸一筋も取るな」。兵士たちはおきてを破れば、事実上の党主席の地位にあった毛のメンツをつぶしてしまう、とたたき込まれた。
いまの共産党に、かつてのような規律のただしさは感じられない。
幹部らが手を染める汚職のひどさは目を覆わんばかりだ。それでも指導者のメンツを保つため、その指揮に従って行動するという原則だけはしっかり守られているようにみえる。
「止まっていた日中の交流事業はまもなく再開しますよ」。日本政府の関係者がそっと教えてくれた。
1月に予定していた中国の青少年やメディア関係者が来日する計画のことだ。安倍晋三首相が昨年末に靖国神社を参拝したあと、中国側が「内部の事情」を理由に延期を通告していた。
ところが、中国側は間をおかずに再開を申し入れてきた。日本側の窓口である日中友好会館の会長を務める江田氏に確かめると、3月再開の方向で「段取りを進めている」という。
何があったのか。日中関係筋が解説する。
「習近平国家主席は安倍首相の靖国参拝に激怒した。それを知った担当者はただちに交流事業の延期を決めた。しかし、直後に『習主席が昨年10月に示した方針に変わりはない』との情報が伝わり、あわてて再開に動いたようだ」
共産党は昨年10月に北京で「周辺外交工作座談会」を開いた。この会議の重要性は出席者の顔ぶれをみればわかる。党総書記の習氏ら7人の政治局常務委員をはじめ、関係省庁や地方のトップが一堂に会する機会はめったにない。
習氏はここで「わが国の発展のためには周辺国とのよい環境が必要だ」と発言した。日本との関係についても「経済や文化、地方」の分野で少しずつ改善するよう指示したとされる。
沖縄県の尖閣諸島の国有化で滞っていた日中の民間交流はこの前後から、にわかに動き出した。
元駐中国大使の宮本雄二氏は「中国の感覚では、党の総書記が重要会議で示した方針は簡単には変えられない」と話す。安倍首相が靖国神社に参拝したからといって、出したばかりの大方針をただちに改めたのでは習氏のメンツがつぶれるというわけだ。
日中首脳会談が実現するめどは立たない。しかし経済や環境に不安を抱える中国は、日本との交流を絶やしたくないのが本音だ。それは、凍りついた日中関係を少しでも溶かすきっかけになるかもしれない。
(政治部次長 高橋哲史)
[日経新聞2月23日朝刊P.2]
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