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2014年02月23日
“ごめんで済めば警察いらない”と云う比喩的俗語があるが、最近の安倍晋三ご本人、そして、そのお友達らの口から、暴言、妄言の類いが連発されている。「あれは個人的見解、あれはオフレコ、あれは…。ゆえに撤回する」と云う無教養な珍事が頻発している。安倍本人に至っては“立憲主義”の意味すらはき違えているのに、サジェストしてくれる人間が周りにいないので、平気で非常識な認識を披露したままに捨て置いている。
正常にメディアが機能していれば、このような無教養な発言は、直ちに訂正乃至は撤回されるものだが、マスメディア自体が、この無教養首相と夜な夜な酒を酌み交わしているのだから、サジェストしてくれる人がいない。しかし、勘違いの権力志向が、是正されないまま突っ走る、国家レベルの出来事というものは、案外、このような事態の積み重ねで、一気に火を噴くものなのだろう。僅かに数人の論者が、この危機にまっしぐらの安倍政権に警鐘を鳴らしているが、お茶の間のニュースバラエティ番組に出演することはないし、全国紙で取り上げられることも稀だ。つまり、多くの国民は、彼らの暴言、妄言の類いの根底にある問題など、理解不能なのである。
安倍晋三、籾井NHK会長、百田・長谷川NHK経営委員、衛藤晟一首相補佐官、本田悦朗内閣官房参与、麻生太郎財務大臣、森喜朗元首相等々の発言は、それぞれ政権を揺るがす重大発言の数々なのだが、まったく内閣支持率に影響を及ぼしている気配がない。なぜここまで鈍感な、政治空間や言論空間が誕生したのか、明確なことは判らないのだが、民主党の野田政権辺りから、この流れが出来上がっていたようだ。所謂、既得権勢力の逆襲と言えるのだが、誰が逆襲のトリガーを引いたのかと考えてみると、どうも霞が関官僚組織とマスメディアに行き着く。
「原発問題」は発電に関する諸問題関連として、或は人体に与える放射能リスクとして議論されているが、実は一部の人々にとっては、生活基盤を失う、戦後の国家の体制をチェンジしてしまう、核開発の基盤を失う、経済活動に本当に重大な影響があると思い込んでいる人々に多大な影響を及ぼす問題なのである。上述の人々と云うのは、立地自治体、電力会社、電力労連、原発及び周辺産業企業、霞が関官僚組織、経団連等経済団体、そしてそれに連なる勤労者の人々にとって不都合な問題が起きるのが、「原発問題」である。
経済的問題だけにスポットを当てれば、原発には廃炉ビジネスと云う膨大な産業が残されるわけで、大慌てする必要はない。立地自治体の人々も再生可能エネルギーへのシフトによる雇用経済の恩恵は同様に受けられるわけで、世界的革新産業(実は最も根源的産業)を生み、国家の一大産業にもなり得る。まして、貿易赤字、経常収支赤字体質の国家にとって、富が国外に出ない為の政策こそ、国益そのものなのである。筆者から見れば、単に既得権勢力で生きていたいと云う妄執のようなもので、理などないに等しい。あるのは詭弁の連鎖だ。
原発問題を通して眺めるだけでも、日本社会は変わることを怖れ、なんとか小手先で、その変革を後ろへ、後ろへ繋ぎつづけた。これこそ、まさに官僚体制の体質、性癖と言っても良いだろう。変わらないこと、変えないことが、彼らの使命なのだ。アベノミクスの馬脚が現れる原因も、実は彼らの抵抗にある。しかし、国民の多くも、この官僚らの方が、腰の落ち着かない政治家たちよりはマシなのではないかと云う、幻想を抱いているので、より話は複雑になる。複雑になると云えば、安倍政権の正体を見せられ、ヘドモドしているのがオバマ政権だ。否、もしかすると、欧米先進諸国すべてが、安倍政権にヘドモドしているし、その政権を支持する国民が過半数以上を占める、東洋の島国・日本と云う国は、アジアのあだ花だと思いはじめているようだ。
中韓メディアは当然として、NYT、WSJはじめ米国メディアも、安倍政権への違和感を伝えているが、今回のフィナンシャルタイムズのコラムは日米を英国人らしい皮肉な目で、的確に語っている。意外なのだが、中国、韓国、米国と云う、日本との関係が密な国ほど、トンチンカンナ論評を語ることが多い。おそらく、損得勘定が強く介在するためなのだろうが、数歩離れた英国やフランス辺りの論説の方が、全体像を正確に捉えるのかもしれない。以下は、フィナンシャルタイムズのコラムである。
≪ 安倍首相を望んだことを悔やむ米国政府
安倍晋三首相が率いる日本と習近平国家主席が率いる中国との関係を評価するのは極めて簡単だ。どちらも相手をあまり好 きではない。日中双方が、政策目標を推し進める道具としてナショナリズムを利用している。どちらも恐らく、相手側に押しがいのある「タフな男」がいることは都合がいいと考えている。
評価するのがそれほど簡単でないのが、日米関係の状態だ。本来であれば、日米関係は日中関係よりもはるかに容易に読み解けるはずだ。結局、日本は 米国にとってアジアで最も重要な同盟国であり、第2次世界大戦の終結後、米軍の戦闘機と部隊を受け入れる「不沈空母」だったのだから。
緊張する日米関係
そして今、数十年間にわたり米国から促された末に、ようやく強固な防衛態勢を築き、平和主義の日本が長年大事にしてきた「ただ乗り」の国防政策を見直す意思を持った安倍氏という指導者がいる。
だが、長年求めてきたものを手に入れた今、米国政府はおじけづいている様子を見せている。
その兆しの1つは、安倍氏が昨年12月に靖国神社を参拝した後に米国政府が「失望」を表明したことだ。靖国神社は中国と韓国から、自責の念がない日本の軍国主義の象徴と見なされている。
以前は、米国政府は内々に靖国参拝への不満を述べたが、公然と日本を非難することはなかった。日本政府は今回、米国が日本語できつい響きのある失望と訳された「disappointed」という言葉を使ったことに驚かされた。
ほかにも緊張の兆候が見られた。米国の政治家は、安倍氏の歴史観に対する懸念を表明している。バージニア州の議会は、学校教科書に日本海を表記す る際には韓国名の「東海」を併記するよう求める法案を可決した。米国政府は、安倍氏の指揮下で、やはり米国の重要な同盟国である韓国と日本の関係も悪化し たことを懸念している。
日本の観点から見ると、論争になっている島嶼に対する日本の支配権に対し、中国政府が防空識別圏設定の発表で巧妙に対抗してきた時、米国政府は十分な力強さをもって日本を支持しなかった。
米国政府は確かに中国の防空識別圏内に爆撃機「B52」を2機送り込んで不満を表したが、米国のジョー・バイデン副大統領は北京を訪問した時に、この問題をことさら取り上げなかった。
東京の多くの政府関係者は、米国政府は事実上、中国の一方的な動きを黙って受け入れたと考えている。また、彼らは常日頃、中国にどっぷり染まった 人々を周囲に置く傾向のあるバラク・オバマ大統領の回りに「ジャパンハンド」がいないことも嘆いている。米国政府が日本を支持することは、もはや当てにで きないという感覚が広まっていると語る日本政府関係者は1人ではない。
このような背景には、安倍氏にも当然分かる皮肉がある。1950年以降ずっと、米国政府は日本に対し、再軍備し、現在安倍首相が提唱しているよう な国防態勢を取ることを迫ってきた。ダグラス・マッカーサー元帥の命令で書かれた1947年の平和憲法のインクが乾くや否や、米国人は日本に「交戦権」を 永遠に放棄させたことを悔やんだ。
米軍による占領終了の交渉を任じられたジョン・フォスター・ダレスは日本に対し、30万〜35万人規模の軍隊を構築するよう迫った。中国は共産主 義国家になり、米国は朝鮮半島で戦争を戦っていた。東アジアに無力化された「従属国家」を抱えることは、もはや米国に適さなくなっていたのだ。
何年もの間、日本はこうした圧力に抵抗してきた。日本政府は米国の核の傘を頼りにし、ビジネスを築く仕事に勤しんだ。日本の唯一の譲歩は、戦闘を禁じられた自衛隊を創設することだった。
あれから60年経った今、日本には、米国を言葉通りに受け止める指導者がいる。安倍氏には、日本の憲法解釈を見直し、場合によっては平和主義を謳った憲法第9条そのものを覆す個人的な信念と地政学的な口実がある。
中国を挑発しかねない日本のナショナリズムへの不安
しかし、その瞬間が訪れた今、一部の米国政府関係者は考え直している。ある元ホワイトハウス高官によれば、ジョン・ケリー国務長官は日本を「予測不能で危険」な国と見なしているという。
日本のナショナリズムが北京で対抗措置を引き起こすとの不安感もある。オーストラリアの学者で元国防省高官のヒュー・ホワイト氏は、これが意味することは明白だと言う。「米国としては、中国と対立する危険を冒すくらいなら日本の国益を犠牲にする」ということだ。
安倍氏が靖国神社を参拝した時、米国政府にメッセージを送る意図もあったのかもしれない。日本の右派の奇妙なところは、最も熱心な日米同盟支持者 でありながら、同時に米国政府が敗戦国・日本に強いた戦後処理に憤慨していることだ。米国の望みに逆らって靖国を参拝することは、日本は常に米国政府の命 令に従うわけではないという合図を送る1つの方法だ。
ワシントンで見られる安倍氏への嫌悪感は、決して普遍的ではない。
ある意味では、安倍氏はまさに米国という医師が命じた日本の首相そのものだ。同氏は日本経済を浮揚させる計画を持っている。沖縄の米海兵隊基地の 問題を解決する望みが多少なりともある日本の指導者は、もう何年もいなかった。日本は長年、国防費に国内総生産(GDP)比1%の上限を自ら課してきた が、安倍氏は国防費を増額する意思がある。
だが、これらの政策には代償が伴う。ワシントンの多くの人が不快に感じる修正主義的なナショナリズムである。
米国のジレンマと日本の悩み
「中国が成長するにつれ、日本が中国の力に不安を感じる理由がどんどん増え、日本を守る米国の意思への信頼がどんどん薄れていく」とホワイト氏は言う。
同氏いわく、米国は日本の中核利益を守ることをはっきり確約するか、さもなくば、日本が「1945年以降に放棄した戦略的な独立性」を取り戻すの を助けなければならない。このジレンマに相当する日本の悩みは、一層強く米国にしがみつくか、米国から離れるか、という問題だ。
≫(フィナンシャルタイムズ:David Pilling)
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