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無罪確定。されど…
http://bylines.news.yahoo.co.jp/egawashoko/20140215-00032670/
2014年2月15日 15時31分 江川 紹子 | ジャーナリスト
国税当局が告発し、特捜検察が起訴した事件として初めて、1審控訴審ともに無罪判決が出ていた八田隆さんに対し、東京高検は14日に上告断念を発表。八田さんの無罪は確定した。
誰にとっても無益な裁判が、これ以上引き延ばされないことは、喜ばしい。
しかし、釈然としないのは、検察やメディアの対応である。
上告断念でも呼び捨て
上告せずの高検発表
東京高検が発表した「次席検事コメント」は左の写真のような代物。タイトルは「八田隆に対する所得税法違反事件」だ。裁判所に新たな証拠を提出することも認めてもらえないほどの無謀な控訴をし、一審よりさらに踏み込んだ無罪判決が出た事件である。謝罪があってしかるべきところを、なお「八田隆」と呼び捨てる、高飛車な”お上感覚”には唖然とする。
名誉回復に鈍感すぎる報道
多くの新聞は、この結果を報じたが、ほとんどがベタ記事か活字の小さい短信扱い。理解できないのは、朝日新聞、東京新聞、日経新聞、共同通信が、八田氏の名前を匿名としていたことだ。告発、起訴などを実名で報じたからには、その人に対する刑事訴追は無罪が確定して終わったことは、名前を明らかにして伝え、名誉回復を図るべきではないだろうか。ましてや八田氏は、匿名報道を望んではいないのだ。
匿名で無罪確定を報じる朝日、日経、東京新聞(左上から時計回りで)
共同通信の場合、八田氏が告発された時に、50行近い記事を配信した。「国税局は悪質な所得隠しと認定」としたうえで、「八田元部長は国内に住んでいたが、強制調査(査察)に乗り出した国税局が告発する前にカナダに出国した」など、あたかも告発逃れのために移住したような印象を与える記述もあった。さらに、起訴時には英文の記事も配信している。その影響で、八田氏は海外で決まっていた再就職を取り消された。ならば、2度にわたる無罪判決と今回の無罪確定も、英文記事できちんと報じるべきだろう。検索してみても、無罪判決や無罪確定を英文で配信した記事は見つからなかった。このままでは、国際社会の中では八田氏はいつまでも脱税犯のままだ。
無罪確定の記事を掲載しなかった毎日新聞の対応は、論外と言うほかない。同紙電子版で八田氏の名前で検索してみても、無罪確定の記事は出てこない。無罪判決は、大きな節目ではあっても、刑事事件としてはまだ途中経過。起訴を報じた事件で、無罪確定が発表されたのに、きちんと結末を報じないのは無責任のそしりを免れない。
マスメディアは、報道された者の名誉回復に鈍感すぎる。逮捕や起訴などでの実名報道を続けていくからには、今回のように無罪となった場合は、判決時、そして確定時と、手厚く名誉回復の報道をしていくべきだ。
国税も検察もなぜ立ち止まらなかったのか
それにしても、国税当局や検察当局は、なぜ、もっと早くに立ち止まることができなかったのだろうか。
この事件は、八田氏がかつて勤めていたクレディ・スイス証券の日本法人で起きた、集団申告漏れだ。税務調査の対象となった約300人が自社株やストックオプションで受け取った賞与を正しく申告しておらず、約100人が無申告だった。同社では、現金で支給される給与は源泉徴収されていたため、賞与についても源泉徴収されていると思い込んでいた社員がこれだけいたのだ。税務当局は、それぞれに修正申告をさせ、会社を指導して複雑でわかりにくい仕組みを改めさせれば、それでよかったのだ。そうすれば、八田さんは今も、国際的な金融マンとして大いに活躍し、毎年億単位の納税をしていただろう。
高裁判決を受けて満面の笑みの八田さん
にもかかわらず国税当局は、八田氏1人に、脱税の故意があったと決めつけ、告発した。これによって、八田氏は職を失い、国は1人の高額納税者を失った。1人の人間の人生を狂わせると共に、貴重な税収源を潰した国税当局の責任は大きい。
東京地検は、十分証拠の精査をすれば、不起訴の選択ができたはずなのに、無理やり起訴。一審で無罪判決を受けた後も、冷静に考えれば、控訴しない道を選べたはずなのに、あえて控訴した。このため、八田氏は捜査や裁判に4年もの間、縛り付けられることになった。
何度も立ち止まる機会はあったのに、国税当局も検察当局も、それをしなかった。いったい、それはなぜなのか。なぜ、適切な判断ができなかったのか。
八田氏が、それを知りたいと思うのは当然だろう。しかし、冒頭に書いたような検察の対応では、検察自身がそれを検証し、八田氏の疑問に答えると共に、教訓として後に生かしていく、ということも期待できそうにもない。
国賠訴訟を起こすにも負担が…
この問いに対する答えを探すため、八田氏は、国家賠償訴訟を起こすことを考えている。今のところ、それしか道がないからだ。
同じような思いで、大阪地検特捜部に逮捕・起訴された村木厚子さんが起こした国賠訴訟は、国側が3770万円の賠償請求を受け入れる「認諾」をしたために、真相解明という点では不発に終わってしまった。八田氏の裁判は、国がこういう姑息な手段に出られないよう、高額な請求額になるだろう。国税や検察の誤った判断によって彼が失ったものを考えても、それは当然だろう。
だが、そうなると裁判を起こすための印紙代も高額になる。たとえば3億円の裁判を起こそうとすれば、90万円以上を支払わなければならない。4億円だと120万円を超す。加えて、代理人弁護士への報酬も必要になる。
冤罪の被害者が、このような事態に自分が巻き込まれた原因を知ろうとすると、なぜ、これほどの負担を強いられるのか。
これもまた、釈然としないことの一つである。
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