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◇「こんな国もう滅ぼそう原発で 原発推進派(舛添&田母上)ほめご(※)大絶賛キャンペーン by元東京都知事候補 外山恒一」(※正しくは「ほめご」に取り消し線)
黒字に白い文字でそう書かれた看板を車上に掲げた白いバンが、この2週間、タイマーズの「原発賛成音頭」を流しながら、「我々テロリストの標的である原発を奪わないでください。我々は原発推進派候補を勝手に応援します」と過激な街宣をしてまわっていたのをご存じだろうか? 昨日、舛添要一新都知事の誕生で幕を閉じた東京都知事選では各陣営が苛烈な選挙戦を繰り広げていたが、その裏で、この謎のキャンペーンを行っていたのは、活動家・政治結社九州ファシスト党「我々団」臨時総統・前衛芸術家・文筆家・元東京都知事候補などさまざまな肩書を持つ外山恒一氏(43歳)だ。2007年の東京都知事選の政見放送で政府転覆を訴えたことで一躍有名になった人物で、今は自らをファシストと名乗っている。
街宣車の外観(撮影日2014年1月23日)写真提供/秋山理央氏
だが、外山氏は普段は一貫して反原発の立場を取っている。高校時代に反管理教育運動をきっかけに政治に目覚めた頃にチェルノブイリ事故があり、当時日本で盛り上がった反原発運動の影響を受けたのだという。
「去年の参院選と、今回の都知事選のとき以外は反原発です」と笑う外山氏だが、実は外山氏が選挙戦のときに、勝手に原発をテーマに街宣して回るのは今回が3回目。一番最初は2012年12月、自民党が圧勝した衆院選のときに九州各地の原発推進候補をショパンの「葬送行進曲」を大音量で流しながら追い回し、「原発を選挙戦の争点にしましょう」、「前を走っている人は原発推進派です」と告知していくという「原発推進派懲罰遠征」を決行した。
選挙妨害で捕まりそうな話だが、当時の外山氏のツイッターによれば「逮捕覚悟」でありながらも、「相手の演説の邪魔にならない音量で、ただ相手が原発推進派という事実を告知しているだけ」というやり方で直接的な反原発の意思表示をしていたのだ。ちなみに、公選法上は選挙管理委員会に政治団体として登録していると、選挙期間中は街宣ができないが、外山氏は「九州ファシスト党」という政党を率いているものの、政治団体としての届け出をしていないので、「プロレスやキャバクラの宣伝カーと同じ扱い」(外山氏)なのだそうだ。
早稲田大学の大隈講堂前を街宣(撮影日2014年1月23日) 写真提供/秋山理央氏
ところが、昨年7〜8月の参院選で外山氏は「選挙戦の期間限定で原発推進派に転向する」と宣言し、「自民党ほめご…いや大絶賛キャンペーン」と称して、今回と同様の「ほめごろし」を新潟、仙台、札幌などで行った。
「僕は同じことを何回も繰り返すのは好きではないので、2012年の『原発推進派懲罰遠征』で選挙戦中の街宣という活動は終えるつもりだったんですけど、ある右翼青年から『右翼の世界には“ほめごろし”という手法もあって、それも違法じゃないんですよ』という話を聞いて、それは目新しい、だったらやってみようか、と(笑)」(外山氏)
だが、同じことを繰り返すのが嫌いな外山氏が、なぜ今回の都知事選は前回の参院選での街宣と同じ活動をしているのだろうか?
「ほめごろしも前回の参院選でやってしまったので、今回はまったくやる気はなかったんですよ。ところが、都知事選が“小泉マジック”により、3.11以降、初めて選挙で原発が主要な争点のひとつになった。それを見て、やってもいいかなと思ったのと、もう一つは同じことをやるんだったら、街宣の参加者を一般から募って、ほめごろしを体験してもらおうと。その人たちが味をしめて(笑)、今後、僕がやらなくてもその人たちが勝手にやってくれるようになるっていうのを一番期待しているんですよね」(外山氏)
⇒【動画】カメラマン・秋山理央氏による街宣初日の模様(http://www.youtube.com/watch?v=jPiSBqhR_SQ)
◆街宣車に乗ってみた!
高円寺の集合場所に「原発推進音頭」を流しながら登場した外山氏の街宣車(撮影日2014年2月6日) 撮影/編集部
外山恒一氏は都知事選が始まってから、毎日、一般参加者を募りマイクパフォーマンスのコツを教え、20時以降は高円寺で街宣車に乗れなかった人たちとも一緒に集会を開いていた。ツイッター上でその集会のことを知り、どんな人が集まっているのかと都知事選も後半戦にさしかかった2月4日に潜り込んでみたところ、大変なカルチャーショックを受けた。
世間的には右翼と呼ばれる政党に属している若者(維新政党・新風の広報担当、山本和幸氏)と、ゴリゴリの左翼学生運動をしているという学生がにこやかに談笑している一方で、画家の青年が政治について熱い意見を交わし合っている。さらにその脇では、スピリチュアルな話に華が咲いている。まさにカオスだ。
右翼青年・山本氏に「田母神さんをほめごろしている人のところで飲んでていいの?」と聞くと、ニヤリと笑って「いや、ここは田母神さんをほめている人たちの集まりですよね。何が問題なんですか」とスカされる。山本氏と談笑していた左翼学生に「彼とはケンカにならないの?」と聞くと「いや、考え方が違いすぎて思想の話はしないですから。まあ、いずれ世界革命のために殺し合うこともあるかもしれませんが」とこれまたスカされる。
五反田にて街宣車の中から中指を立てるファシスト・外山恒一氏(撮影日2014年2月6日) 写真提供/秋山理央氏
本気なのか、冗談なのか判別がつかない。だが、いたって穏やかに、しかし真面目な政治談義や翌日の街宣マイクパフォーマンスのアイデア出しが朝まで続く(外山氏は翌日の街宣があるので、途中で帰ったが)。
このわけのわからなさは何なのか? 俄然、興味が膨れあがり、外山氏の「ぜひ街宣車に乗ってみてくださいよ」という勧めもあり、2月6日に取材者として街宣車に同乗させていただくことにした。
朝10時、集合場所である高円寺南口公園で待ち構えていると、「原発賛成音頭」を流している白いバンが登場。同じく公園で待っていた金髪の若者と一緒に乗り込むと、挨拶もそうそうに、外山氏が「まず、1時間ぐらい私が街宣をしますから、それを聴いて参考にしてください。それとこれは選挙活動ではないから、選挙関連ワードはNG。また、特定候補に投票しようとか、投票するなといった呼びかけもダメです」と若者にレクチャーすると、車は高円寺を出発。早速、外山氏がマイクパフォーマンスを始める。
新橋付近でマイクを握る外山氏。その語り口調は威圧的なものではなく、いたって穏やか(撮影日2014年6日) 撮影/編集部
「原発賛成。こんな国、滅ぼしましょう、原発で。原発推進の舛添氏を勝手に応援しています」
「私たちはテロリストでございます。アルカイダの友達の友達ぐらいでございます。私たちテロリストの標的である原発を残していただける舛添氏を勝手に応援しています」
道行く人々の反応はまちまちだ。笑う人、顔をしかめる人、手を振る人。手を振る人たちの中には、外山氏の活動を認知して笑っているような人もいれば、本当に舛添氏の応援だと勘違いしている人もいるのかもしれない。
だが、舛添氏は自身を「私も脱原発派」と語り、エネルギー政策について問われると「(原発は)少しずつ減らしてゼロにする」と回答している。
「舛添さんは原発推進派ってことで街宣していいんですかね?」と尋ねると、外山氏は「舛添要一さんは『ずっと脱原発』と経歴詐称してますが、騙されてはいけません。過去にはさまざまなメディアで原発推進派としてコメントしていましたよ」という。
この件について、ますぞえ要一選挙事務所に問い合わせたところ、「質問はFAXで送ってください」とのこと。質問状を送ったが、残念ながら設定した締め切り日までに回答は得られなかった。
車が出発してしばらくすると、パトカーがこのバンの後ろについた。街宣車に初めて乗る私と金髪の若者が「尾行ですかね?」と話していると、外山氏が「別に僕たちの車を追っているわけではないですよ」と笑う。果たして、すぐにパトカーはいなくなった。その後も交番の前を何度も通ったが、警官たちはこちらに注意は払うものの、声を掛けてくることもない。おそらく外山氏のことを認識しているのだろう、笑っている警官も何人も見かけた。
この日のバンには、外山氏を密着取材している反原発カメラマンの秋山理央氏も同乗しており、「外山さん、今日は舛添さんのことしか言っていませんね」と指摘する。このほめごろし活動を開始したときは、舛添氏と田母神氏を「応援します」と言っていたそうだが、世論調査で舛添氏優位が伝えられたあとからは、舛添氏だけを標的にしている、とのことだ。
「僕の街宣が選挙結果に影響を与えるとは1mmも思っていないんですが(笑)、僕のあとに続く人たちに対して、少しでも有効な方法を伝えたほうがいいと思って、舛添一本に絞ったんですよ」(外山氏)
さて、車は新宿方向に向かい、外山氏が金髪の若者に「そろそろやってみますか?」とマイクを回す。慶応の学生で外山氏に興味があって参加したという彼だが、緊張からかどうもたどたどしい。しばらく若者に任せていた外山氏だが、「ちょっといいたいことを紙に書いてまとめてみましょう」とアドバイス。メモをつくった若者が再びマイクパフォーマンスを始めると、見違えるように上手なしゃべりになっている。
今回の「ほめごろし」は一般参加者がマイクを握ったのが新しい試みだった(撮影日2014年2月6日) 写真提供/秋山理央氏
「アドリブでやろうとすると失敗するから。僕だって、アドリブでやっていないんだから。あと、走っている最中は短いフレーズを繰り返し、信号で停まっているときは、少し長めでいつでも終わらせられる言葉を組み立てておくのがコツ。さらに言うと、街中の人たちを笑わせないと意味がないから。威圧的になったりすると怖がられるから、優しく語りかけるように」(外山氏)
この日の街宣車は高円寺から新宿へ抜けて原宿、新宿と山手線沿いに新橋まで向かう。どこを街宣するかはその日の朝に決めるそうで、新橋で金髪の若者が降りたあとは、次の参加者を迎えに四谷、高田馬場へ。彼らも街宣をするのは初めてだそうで、最初の金髪の若者と同様の指示をし、彼らにマイクパフォーマンスをさせながら、車は上野、神田へと向かうこととなった。
これまではひたすら原発推進派をほめごろしてきた外山氏だが、神田へ向かったのには別の目的がある。前衛芸術家という側面も持つ外山氏は、2つのビルの前でこんな街宣を始めたのだ。
「『ユリイカ』を発行している青土社はどこだ」と探し回った末、多分ここだろうというところで「威力営業」を行う外山氏の街宣車(撮影日2014年2月6日) 写真提供/秋山理央氏
「『美術手帖』編集部の諸君! なぜ『美術手帖』は外山恒一特集をやらないのか! 芸術を名乗らないと芸術のアンテナにひっかからないようでは、美術ジャーナリズムはつとまりませんぞ! 猛省を促します。ただいま原発推進派ほめご……いや、大絶賛キャンペーンを展開中の外山恒一でございますが、思うところあり、『美術手帖』編集部に説教をしにまいりました。『美術手帖』は外山恒一を特集せよー! (声色を変えて)特集せよー!×シュプレヒコール2回。よろしくお願いします」
「さまざまな美術特集を掲載されている『ユリイカ』編集部の皆様。なぜ外山恒一特集号を出さないのか。私たちはとても不思議に思っております。芸術を名乗らないと芸術のアンテナにひっかからない。そんなことでいいんでしょうか? 『ユリイカ』編集部は外山恒一を特集せよー! (声色を変えて)特集せよー!。よろしくお願いいたします。」
これは、高円寺での集会で外山氏が思いついた「威力営業」だそうで、ジャンルは違えど同じ出版業界に身を置く者として、こんな街宣が来たらいやだなー、と思いつつ、16時に街宣車を降りた。
この間、6時間、一切の食事休憩とトイレ休憩なし。ひたすらストイックに車の運転とマイクパフォーマンスを続けた外山氏。あとで聞いたところによると、20時まで何も食べずに街宣を続けたそうだ。その集中力には頭が下がる思いだ。
⇒【動画】今回の街宣では外山氏以外の参加者もマイクを握った。画像は活動家のマイクだが、学生から社会人までさまざまな人が参加した。(撮影/秋山理央氏)
◆投票日当日も街宣活動
舛添氏の自宅前で街宣をしたのち、すぐに警察に職務質問を受ける外山氏(撮影日2014年2月9日) 写真提供/秋山理央氏
都知事選投票日である2月9日、朝8時頃。前日の大雪が残り辺り一面真っ白な、ある閑静な住宅街に外山恒一氏の街宣車がゆっくりと現われた。
突如響き渡る、『ルパン三世』のテーマ。そして、外山氏がマイクでしゃべり始める。
「舛添さーん、おはようございます。舛添さん、いらっしゃいますか? 元東京都知事候補、過激派の外山恒一でございます。舛添さん、長い長い闘い、お疲れ様です。舛添さんは今日はゆっくり休まれると聞きました。大変、お疲れなんでしょうね。でも、ご安心ください、舛添さんに代わって、今日も一日中、不肖・この過激派、外山恒一が、舛添さんがこれまでも、そしてこれからも危険な原発を推進してきた、推進していく、ということを都民の皆さんに全力でお伝えして参りますから、舛添さんは安心してお休みください。特に今日は、やはり未来を担う子供たちに舛添さんのことを知っていただこうと、主に都内の公立の小学校、中学校をたくさん回って、舛添さんは原発推進派だと大声で伝えて参りたいと思います。原発再稼働で、スリル溢れる日本を取り戻しましょうね」
なんと、舛添氏の自宅の前で街宣を行ったのだ。これは大迷惑だ。こんなことが許されるのだろうか? しかも、投票日当日に?
だが、外山氏の活動は選挙運動とは無関係。しかも冒頭に書いたように政治団体ではないので、投票日当日も街宣をしても問題ないのだ、と外山氏は主張する。このあとすぐに私服警官に職務質問されたものの、逮捕されることもなく投票所を狙った街宣を続けたらしい。
投票日当日も街宣を続ける外山氏(撮影日2014年2月9日) 写真提供/秋山理央氏
さて、結局この日は20時を回るとすぐに舛添氏の当確が出たが、外山氏は今回の活動をどのように総括するのだろうか? 再び、20時から行われた集会に参加し、直撃した。
「選挙結果については、舛添さんが我々の力でなんとか当選して、原発推進派としてはうれしい限りです(笑)。まあ、今日まで原発推進派なんでね。我々のおかげときっと舛添さんもわかってくれていると思います(笑)」
なるほど、選挙自体はどのような結果になろうと「外山恒一の勝利」と言えるような構えになっているわけだ。もし舛添氏が落選していたら、それは「ほめごろし」が功を奏したと言うこともできる。だが、実は外山氏は前述したように選挙自体に影響を与えようとはさらさら考えていない。
「今回の『ほめごろし』キャンペーンは、一般からの参加者を募集しましたが、さすがに東京だと『一緒に乗りたい』という人が多くいました。開始してから3日目ぐらいから2人ずつぐらいの参加者が同乗してきて、後半に入ってからは毎日定員(6人)ギリギリ。入れ替えなきゃいけないぐらい乗っていたので、『ほめごろし』を体験していただいて個別の活動に移ってもらうという面では成功しました」
実際に、外山氏たちとは別に、新宿や原宿などで、路上でメガホンを使って歩きながら同様のアピールをした人たちも現われたという。外山氏は次のような言葉でインタビューを締めくくった。
「多分、僕はもう『ほめごろし』をやらないので、僕がやらなくても皆さん勝手にやってください(笑)」
<写真提供/秋山理央 取材・文/織田曜一郎(本誌)>
― 街宣車同乗ルポ【3】 ―
- 2007年東京都知事候補 外山恒一 政権放送 2008年外山恒一アメリカ大統領選 出馬声明 五月晴郎 2014/2/11 01:36:11
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