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10年に同作で直木賞受賞/(C)日刊ゲンダイ
注目の人直撃インタビュー 「小さいおうち」原作者・中島京子氏が安倍政権に怒っている
http://gendai.net/articles/view/news/147819
2014年2月8日 日刊ゲンダイ
山田洋次監督の映画「小さいおうち」(松竹)が評判だ。戦争がいかにして、ふつうの人々の生活に忍び込んでいくのかを描いたものだが、ゾッとするのは今の時代との類似点だ。ちょうど、幻に終わった昭和15年の東京五輪が決まった頃で、人々は五輪招致と好景気に浮かれている。日中戦争が始まるが、誰も悲惨な結末を予想せず、三越の戦勝バーゲンなどに足を運び、「勝った」「勝った」と騒いでいたのだ。「今の空気に似ていて本当に怖くなる」とは映画の原作者で直木賞作家の中島京子さん。安倍首相に映画と本を見せたいくらいだ。
■安倍政権になって民主主義の底が抜けた
――小説を書かれたのは2008年ですよね。小さなおうちに戦争の影が忍び込んでいく。ついにはおうちは焼けてしまう。驚くのは本当に戦争が悲惨になるまで、ふつうの人々に悲愴(ひそう)感がないことですね。裏を返すと、人々が気づかないうちに、戦争が泥沼化し、気がついたら後戻りがきかなくなった。戦争って、そんなふうに始まるんですね。
教科書には満州事変があって、日中戦争、太平洋戦争が始まり、学徒出陣があって終戦みたいな歴史的事実だけが書いてありますよね。みんな反対したけど、戦争になった。ハチマキ巻いて竹やり持って戦ったと。でも、祖母からは当時も三越で買い物したとか聞かされていて、何か教科書に書かれているのとは随分、イメージが違うなと思って、調べ始めたんです。そうしたら、当時の人々も買い物に行くし、子供の受験で悩んだりして、結構、ほのぼのとしているんです。今の私たちとメンタリティーが変わらなかった。そうしたら、非常に親近感を覚えましたね。
――当時の人々がとりわけ勇ましくて、戦争に至ったわけではないと。我々と同じメンタリティーの人々だったのに、気がついたら竹やりを持つようになっていたと?
時間を追って、戦争の経緯を背景に人々の日常を調べていったら、怖くなりました。今もまた、いつの間にか、ハチマキを巻き、竹やり持ってしまうんじゃないか。そういう可能性があるわけです。この小説を書いたのは安倍政権の前です。当時は「もしかしたらちょっと怖いな」という感じでした。でも、一昨年、安倍政権が誕生し、あっという間に時代が進み、今は「もしかしたら」が外れた感じがしますね。本当に私、怖いです。
■景気がいいと批判力を失ってしまう
――特定秘密保護法を強行採決し、靖国参拝し、今度は集団的自衛権の行使容認に向けて、「検討」を明言しています。
なんだかんだ言って、平和憲法があるから砦になると思っていたら、あっという間に突き崩されようとしていますね。特定秘密保護法も、その成立過程を見ると、いつの間にか言論統制が入り込んできた戦前とよく似ている。治安維持法みたいなものが、このタイミングで法制化された恐怖というか、戦後、私たちが信じてきた民主主義や言論の自由が、底が抜け、骨抜きになったような気がしています。
――しかし、安倍政権を多くの人が支持している。戦前も同じですね。みんなのほほんとしているが、日中戦争を始めた近衛政権を支持していた。
背景として、景気がよかったことがあると思います。満州事変が起き、軍需景気があって輸出産業は大きく伸びた。だから、戦争が始まった時も日本人は景気がよくなると歓迎しちゃった側面はあると思います。デパートは大繁盛だったようですし、景気がいいと批判力がなくなって、現状を肯定してしまう。当時も軍事、外交をやっている現場の人はすぐに停戦し、この戦争を拡大してはいけないとわかっていたのに、メディアと国民が戦争を支持したものだから、おかしな方向に行ってしまった。
――アベノミクスによる株高も人々に冷静な批判力を失わせているような気がします。
近衛さんは不拡大方針を唱える一方で軍備を増強した。日本は軍事力の強さを見せつけた方がいい、そうすれば、相手は怖がる、とそんな発想だったんですね。それが完全に裏目に出た。今、安倍政権の周辺では同じようなことを言う人がいるでしょう?
――実際、防衛費は拡大し、自衛隊には海兵隊機能を持たせることになりました。
そうやれば、相手が日本は強い、負けたと思うでしょうか? 思わないと思いますよ。軍事力の増強はお互いに火に油を注ぐ結果になる。それが歴史の教訓なのではないでしょうか。靖国参拝する一方で、軍事力を強化し、タカ派路線を邁進(まいしん)している安倍政権は、そうやればいい気持ちになる国内の一部の人々に向けて行動しているように見えます。一生懸命に日中の友好関係を築こうとしている人々はいっぱいいるのに、首相の言動は非常にせつないですね。
■いつも時代もメディアが先走りして空気をつくる
――批判力といえば、メディアも安倍政権の暴走をチェックしないどころか、あおっている。そんな側面がありませんか?
「小さいおうち」には睦子さんという婦人雑誌の編集者を登場させています。この睦子さんが髪形をひっつめにしなければいけない、などと言うのですが、いつの時代もメディアが先走りするんですよ。まだそんなに戦況が悪くなっていなくて、言論の自由だってあったのに、メディアが先走って、「節約しましょう」とかやったわけです。最後は婦人雑誌が「敵をひとりでも殺せ」と。ノンブル代わりに毎ページに書いたりしていました。世の中の空気をメディアが率先して醸成していく。それが当時の日本でした。
――今も似てますか?
NHK会長の恐ろしい発言だけでなく、原発反対の官邸前デモもほとんど報じられませんでした。大江健三郎さんが演説しているのに無視してしまう。報じてはいけない自主規制、自粛みたいなのがあるのでしょうけど、そこが当時と非常に似ていて、これが日本人のメンタリティーなのであろうかと怖くなります。
――そうやって国民全体が戦争になだれ込んでいく?
小説を書くにあたって、最初はざっくり、当時書かれた小説をいっぱい読みました。それから新聞、雑誌、手記、日記を資料にしました。永井荷風の断腸亭日乗、山田風太郎、高見順、伊藤整らです。人によって違いますが、真珠湾攻撃のときは肯定的に「よくやった」みたいに書いている人もいましたね。日中戦争が長すぎて、泥沼化していたものだから、日米開戦で未来が開けるような気がしたのかもしれません。
――閉塞感が無謀な勇ましさを求めてしまう?
それはあったと思います。それまで日本人は戦争を始めて、首都を制圧すると勝ったと思っていた。しかし、南京が陥落しても、向こうは戦争を終わらせなかった。親きょうだいを殺されて憎しみがあるのですから当然です。抗日運動が激化し、それを潰すために戦線は泥沼化した。イラクもそうですが憎しみは永遠に続くわけです。近代の戦争は敵の大将の首を取ったら終わりではない。だから、そういう憎しみを生まないようにすること、至ってシンプルなことです。それなのに、安倍政権は対中関係の緊張をあおっている。盧溝橋事件は一発の銃声で始まったことを考えると、日中の船が行き交う尖閣の緊迫は本当に怖くなります。当時のことを調べてわかったのは、一度、戦争の空気が醸成されると、日本人は竹やりまで行ってしまうことです。だから、普通の人、何も考えていない人がそうならないようにしないといけない。今の時代を見ていると、切実にそう思います。
◇なかじま・きょうこ/1964年生まれ、東京女子大卒。出版社勤務を経て、小説家に。2010年、「小さいおうち」で直木賞受賞。最新作は「妻が椎茸だったころ」(講談社)。
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