三島由紀夫・森田必勝両烈士四十三年祭での講演を聞いて、野村秋介追悼二十年群青忌に寄せられた追悼文と共通する長谷川氏の思いがいっそう強く浮かび上がった。

　日本人は天皇陛下に文字通り命をささげる。
　象徴的にでもその血を浴びたほかの日本人はその心を受け継ぐ。

長谷川氏には「からごころ─日本精神の逆説」という評論がある。
すでに本は手元になく、刺激された印象だけが残っている。
漢文訓読というのはすごい発明だなという程度の刺激だった。
それ以上の内容については、次の書評が参考になりそうだ。

難波和彦＋界工作舎　2005年08月09日
http://www.kai-workshop.com/diary/diary.cgi?move=200508
松岡正剛の千夜千冊　0387夜　2001年09月27日
http://1000ya.isis.ne.jp/0387.html

「からごころ」というのは、本居宣長の言葉だ。
この世やあの世のことを都合よく説明して人を安心させようとするさかしらな空論。
儒仏の説くような真理。外国から伝わった合理的な思想を指す。
本居宣長は、「古事記」を通じ、「からごころ」を排して「いにしへごころ」に立ち返ろうとした。
長谷川氏は、小林秀雄の「本居宣長」に拠りながら、やはり「からごころ」の抜き難さを論じ、さらにはその両義性についても指摘したようだ。

以下は直感的な卑見。
天皇、律令制国家、日本という国号などは、「からごころ」の発露した典型だろう。
ヤマトのオオキミあるいはスメラミコトが日本の天皇となり、この列島をいわば植民地にした。
それを自然な状態、国柄だと人々が思うようになったことで、「いにしへごころ」がどれだけ失われたことか。