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2013年の最後の日は「紅白歌合戦」を聴くともなく聴いていて過ぎた。ただ、美輪明宏の「ふるさとの空の下に」には、目を、耳を、吸い寄せられた。
少年の日、原爆の火のなかを逃げて走った若者が、ふるさと長崎に帰郷する。ああ、この丘で友達と遊んだんだ。あの焼け跡に、もうきれいな店が並んでいる。ぼくも大きくなって小さな工場で働いている。胸を張って、しっかりと生きよう。
1年前の紅白で歌った「ヨイトマケの唄」もよかったが、この歌もいいなあ。美輪さん自身、こどものころ長崎で被爆した。
2014年が明けた。安倍晋三首相は、昨年末に普天間基地の辺野古移転にメドをつけ、12月26日、靖国神社参拝をした。これまで靖国参拝をできなかったことを「痛恨の極み」と公言していたから、政権1年で一区切りつけようということだろう。さて、今年はどんな年になるだろう。
お正月だから、お雑煮を食べて、近くの神社にお参りにいく。小さい静かなお社(やしろ)である。そこで思い立って、飯田橋の東京大神宮まで足を延ばした。なんだ、これは! 参拝を待つ列が延々と続いている。なるほど、ここは縁結びのお社である。30代前半という風情の男女が多い。なかなか結婚相手が見つからないんだなあ。少子高齢化が心配されるゆえんである。
私はさらに足を延ばし、九段の靖国神社を覗(のぞ)いた。こちらは中年以上の人びとが並んでいる。「遊就館に零戦を展示していますよ」と案内の人が叫んでいる。昨今は「零戦」ブームである。この正月、零戦搭乗員を描いた映画「永遠の0」も封切られている。
ふと、美輪明宏に「祖国と女たち」という歌があるのを思い出した。美輪の家は長崎の遊郭の入り口にあったから、女たちの内輪話をそばで聞いていた。戦時中は遊郭が閉鎖されたから、女たちは戦場に慰安婦として駆り出された。従軍慰安婦は韓国人女性だけでなく日本女性が相当部分を占める。その女たちの話を、美輪は歌にした。
毎日、いずれ死んでいく男たちの相手をする。誰の子かわからぬ赤子を残して死んだ女もいる。あまりの怖さに狂った女、将校に斬られた女。そしてこういう歌詞が続く。
「男はなんていいんだろう 羨(うらや)ましいじゃないか 勲章をもらえて恩給もつくさ 死ねば死んだで 名誉の戦死とやらで 立派な社に葬られるんだろ」
その社が靖国神社である。この社には日本を戦争に導いた政治家や軍人のA級戦犯は祀(まつ)られているが、戦場で朽ち果てた従軍慰安婦は祀られていない。祀られるどころか、女たちは「勲章の代わりに唾(つば)をかけられ、後ろ指をさされて、陰口をきかれた」と美輪の歌詞は続く。
安倍首相は靖国参拝にあわせて談話「恒久平和への誓い」を発表した。「戦場に倒れたたくさんの方々。その尊い犠牲の上に、私たちの平和と繁栄がある」と述べ、「日本は二度と戦争を起こしてはならない。私は過去への痛切な反省の上に立って、そう考えています」と誓った。さらには「アジアの友人、世界の友人とともに、世界全体の平和の実現を考える国でありたい」と述べている。
■首相の「平和への誓い」は本物か
靖国参拝の是非を別にすれば、これはなかなかの言葉である。日本国憲法に沿った不戦の誓いではないか。そうだとすれば、他国の戦争にあえて参加する集団的自衛権などはとうてい認められるべきではない。まさか「世界全体の平和の実現」のために軍事力も使おうなどとは考えていませんね。そういうことでなければ、この「恒久平和の誓い」は噓くさいものになる。
そして靖国参拝の是非である。
最近、本屋に並んだ安倍首相と「永遠の0」の作家百田尚樹氏の対談本の中で、安倍さんは靖国参拝を「隣国からやめろといわれる筋合いもありませんし、非難されるいわれも全くありません」と述べている。百田氏は「安倍総理が靖国神社へ参拝しても彼らは何もできないと思います。逆に、ここで毅然(きぜん)とした態度を取れば、中国や韓国は『あ、ゴチャゴチャ言っても聞かなかったな』というふうに引くと思うんです。…アメリカも…言っているだけだと思います」と述べ、安倍首相の靖国参拝を懇望している。
だが、その通りに靖国参拝してみて、中国、韓国は強く抗議し、アメリカまで「失望」を表明した。さあ、これを突っぱねるのかどうか、安倍首相の「恒久平和への誓い」には、「アジアの友人とともに…世界全体の平和の実現」を考えるとある。アジアの友人には、中国、韓国は入っていないのか。「誓い」が本物か単なる美辞麗句か、分かれ目である。
私は靖国神社の喧騒(けんそう)をあとにして、千鳥ケ淵戦没者墓苑を参った。こちらは深閑(しんかん)として、100円で菊一輪を買い求めて献花する人たちがわずかにいた。
この墓苑は、身元のわからない兵のお骨を納めた非宗教施設である。韓国が従軍慰安婦の像をつくったのはけしからんと日本外務省は抗議しているが、日本こそ従軍慰安婦の像をつくって、悼むべきではないか。美輪明宏の歌を思いながらそんな夢をみた。
(早野透=桜美林大教授・元朝日新聞コラムニスト)
http://digital.asahi.com/articles/ASG1701WQG16UEHF055.html
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