02. 2015年1月07日 07:45:43
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極左勢力に命運を握られるユーロの危機希望が見えかけた国家再建努力が水の泡? 再び火種となったギリシャ 2015年01月07日(Wed) 川口マーン 惠美 暮れも押し迫った12月29日、ギリシャ国会が早期解散した! これはEUにとって大変な意味を持つ。 最近あまり話題に上らなかったギリシャだが、今、突然、極度に混乱して再浮上。この一連の動きにより、ギリシャは今度こそ、ちょっとやそっとでは立ち直れない奈落の底に転落する危険が高まっている。 ギリシャ救済策の効果が見え始めた2014年だったが・・・ ギリシャ経済が大火事になってすでに5年。EUとIMF(国際通貨基金)が介入して、決死の思い出で進めてきたギリシャ経済立て直しの効果が、最近、ようやくほんのりと見えかけていた。もうすぐ、ギリシャは独り立ちできるのではないかという期待さえ高まっていたのだ。 12月29日、議会の解散と来月の総選挙実施を発表したギリシャのサマラス首相 (c)AFP/ARIS MESSINIS [AFPBB News] ところが、29日にそれがひっくり返った。きっかけは、単純な話だ。現大統領の任期が今年3月で切れるため、国会は次の大統領を選出しなければならない。ギリシャの大統領というのは象徴的なポストで、政治的な力は持たない。
ただ、この後任が、12月29日までに決まらなければ、国会は解散し、総選挙を行わなければならないと、ギリシャの憲法は定めている。そして実際、大統領は29日までに決まらなかったのである。 何故か? どうしても総選挙に持ち込みたかったグループが、大統領選出を阻止したからだ。そのため、ギリシャでは1月25日に総選挙となるが、その後の政局の混乱はすでに想定済みで、こうなると、もうEUもIMFもそう簡単に援助の手を差し伸べることはできない。 とはいえ、対岸の火事というわけでもなく、それこそEUの経済にとっても深刻、かつ危険な影響をもたらす話であるから、彼らの悩みは深い。これには少し説明が必要だろう。 思えばEUとIMFは2010年5月より、ギリシャの破産を防ぐため、2度に分けて2400億ユーロという膨大な援助プランを実行してきた。1度目の救済730億ユーロは終了。現在は、2度目の救済のうち1530億がすでに支払われている。 そのうえ、2012年3月には、ギリシャの個人債権者の負債の半分以上を返済免除とし、一気に1000億ユーロの負債を御破算にした。EUは手を拱いていたわけでは決してない。 ただ、お金を出す人は、もちろん口も出す。ギリシャの財政を立て直すため、EUとIMFと欧州中央銀行がチームになって、その管理に当たった。この機関はトロイカ(三頭立ての馬車)と呼ばれている。 トロイカが入るとまもなく、信じられないほどの放漫経済と癒着、汚職が明るみに出て、ギリシャの自力更生を信じる人はいなくなった。したがって、トロイカはさらに手綱を締めるしかなかった。 賄賂と脱税の国に課された緊縮財政 ギリシャという国は、元々、手術の予約から運転免許の取得まで、何事も賄賂なしには回らない国だった。EUへの加盟も粉飾会計で果たしたことがわかっていたし、自国の国家公務員の数さえ把握できていなかった。 脱税は国民スポーツのように行われ、辛うじて集まった税金はあちこちで蒸発したが、それについても誰も驚くことはなかった。そんなギリシャ政府にトロイカは次々と宿題を出し、厳しい緊縮財政を強いた。 それにより、この国はたちまち大不況に陥った。増税と年金・賃金カットで消費が落ち込み、公的資金は枯渇し、投資は行き詰まり、人々は職を失い、今までバブルで回っていたものすべてが、回らなくなった。 貧しくなった人々はトロイカを憎んだ。さらに、そのトロイカを牛耳っている元締めであるとしてドイツを憎んだ。ドイツのメルケル首相が、ギリシャ人の最大の憎しみの対象となっている理由がそれである。 そのトロイカに管理されながら、ギリシャは何度も破産の瀬戸際まで来ては、いつも、あわや溺死かというところで援助の浮き輪が投げ入れられたのだった。人々は最初の2年間ほどは、トロイカに協力するギリシャ政府に抗議し、デモとストに明け暮れた。 ドイツのショイブレ財相は、「ギリシャの国民は、金融引き締め対策を妨害するのではなく、支援すべきだ」と怒っていたが、ギリシャ人はデモとストを止めず、トロイカさえいなくなれば、また平和な日々が戻ると思っているかのようだった。 しかし、そのうち、人々は力尽きた。生活苦は5年目に入り、今はもう、デモもストも起こらない。ギリシャでは、たった2000の富裕なファミリーが国の資産の80%を所有しているという。 彼らの財産は、おそらくとっくの昔に安全な場所に避難させてあり安泰なのだろう。どんな緊縮財政が敷かれても、富裕層はびくともしない。政治のいい加減な国では、バカを見るのは一般の国民だ。 国民の困窮を背景に急進左派が台頭 その一般の国民は職がない。若者の2人に1人は失業中だ。子供は学校で教科書も貰えず、医療保険が滞っているので、病人は現金がなければ医者に行くどころか、薬も買えない。病気が悪化すれば早死にするしかない。これまで無類の楽天家だったギリシャ人は、滅多に自殺などしなかったが、昨今、自殺者が増えている。 そこで台頭してきたのが、急進左派連合のSYRIZA党だ。党首のツィプラス氏は、国民の貧困と恨みを追い風に大躍進している。 ツィプラス氏は言う。SYRIZA党が政権を取った暁には、給与を金融危機以前の水準に戻し、解雇された公務員を再雇用し、民営化も元の通りの公営に戻し、EUとIMFからの債務は返済しないと。 そして、南欧の国々を纏めて、EUで南欧の力が強くなるようにし、「ギリシャが世界市場に振り回されるのではなく、世界市場がギリシャの奏でる音楽で踊ることになる!」と息巻いている。 すべては、元になる資金が無くて言っている話なのではなはだ無責任だが、ツィプラス氏のこの主張は、絶望の淵にいたギリシャ国民を大いに勇気づけた。その結果、10年前は議席数3%の泡沫政党であったSYRIZA党は、2012年には27%で第2党にまで伸びた。 今、総選挙が行われたなら、ツィプラス氏はこの人気を最大限に利用し、おそらく第1党に躍り出るに違いない。だから、どうしても国会を解散に持って行きたい。本来なら次の総選挙は2016年だ。ところが、裏ワザがあったのだ! 新大統領が決まらなければ、総選挙ができる。ツィプラス氏がこのチャンスを利用しないはずはなかった。 大統領の選出には、国会議員の3分の2の賛成票が必要だ。候補者は、与党の推すスタブロス・ディマス氏のみ。ツィプラス氏の目的は、大統領が決まるのを阻止することなので、対抗候補は立てなかった。投票は、ディマス氏を認めるか、認めないかを問うものだ。 投票は3度までで、3度目で決まらなければ国会は解散される。12月23日、2度目の投票が失敗した後、サマラス首相が、浮動票を持つと思われる他党議員の説得に必死で奔走したが、大統領候補者ディマス氏は3度目も必要な票数を得ることができなかった。 ツィプラス氏の勝ち誇ったような笑顔が画面に溢れた。その瞬間、ギリシャの命運をかけた選挙運動の火ぶたが落とされたのだ。 再度の政治的混乱はギリシャ経済の死を招きかねない はっきり言って、この代償は大きい。これにより、国家再建のために行ってきた5年間の努力がすべて無駄になってしまう危険性は高い。解散など罷りならない。しかし、その罷りならないことが起こってしまった。 そもそも、今回解散された内閣も、2012年に、長い間の混乱の末、総選挙のやり直しまでしてようやくできたものだ。それ以後、サマラス首相は、EUとの協調を基盤に、一歩一歩、国の再建を図ってきた。 ドイツのショイブレ財相は「構造改革の道筋を外れるならば、ギリシャは困窮することになるだろう」と発言(写真:ウィキペディアより) このままいけば、任期の終わる2016年には、ギリシャ経済は以前とは違った健全なものに生まれ変わっていたかもしれないのだ。翌日、ドイツの財相は、ギリシャに新内閣が発足するまで、後続の援助は凍結すると宣告した。 一方、ツィプラス氏のSYRIZA党は、第1党に躍り出たとしても、過半数を占めることは無理だ。 つまり、2012年の総選挙後に起こったように、長い連立交渉が始まるはずで、それがギリシャ経済再建にとっては、致命的な時間のロスとなる。ギリシャの経済状態は、まだEUからの点滴なしで長く生き延びられるほど健全ではないからだ。 そのうえ、連立交渉がすべて決裂すればもう一度選挙になる可能性もあり、そうなれば、まさに2012年のシナリオが再び繰り返されることになる。現在行われている援助は、2月末で終わる。その時、まだ組閣ができていない場合、ギリシャはたちまち破産の危機に陥る。 また、ツィプラス氏がすんなり政権を取ったとしても、違った問題が起こる。というのも、彼の言っていることは、絶望している国民の耳には爽やかに響くかもしれないが、極めて非現実的であるからだ。 トロイカを追い出し、金融緩和に舵を切り替えるなら、もうEUからの援助は見込めない。そうなれば、ギリシャはユーロ圏離脱? ドラクマの復活? インフレ? 経済の混乱は間違いない。 結局、何がどちらに、どう転ぼうが、ギリシャの将来は暗い。金融関係者は、"Bank Run"を恐れているという。預金者がお金の引き出しに走ることだ。一旦、それが始まれば、銀行は持ちこたえられない。また、ATMに十分にお金が補充されなかったり、故障したりしただけで、暴動のような騒動になる恐れもある。 ギリシャの経済の立て直し、せっかくここまで来たのに、あまりにももったいない。2015年1月からは、リトアニアもユーロ圏に参入した。これまた経済力の伴わない国のユーロ導入である。EUの2015年は、押し寄せる難民の保護とユーロの安定化が、最重要課題となるのではないか。 http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/42584
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