01. 2015年1月06日 00:10:48
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ギリシャの総選挙:ユーロに待ち受ける次の危機 2015年01月06日(Tue) The Economist (英エコノミスト誌 2015年1月2日号)ギリシャの解散総選挙が、同国、そしてユーロに大きな危険をもたらす理由。 アテネとヒルトンホテル、富裕層に人気 ギリシャが再びユーロ危機の中心にいる(写真はアテネ)〔AFPBB News〕 2009年末にユーロ危機が勃発して以来、ギリシャはずっと危機の中心地、または中心に近いところに位置してきた。 2010年5月、同国はユーロ圏で初めて救済策の適用を受けた。2011年と2012年には、単一通貨ユーロからの離脱(いわゆる「Grexit=グリグジット」)を巡り、この国が繰り返し議論の対象となった。 またギリシャは、公的債務が再編されたユーロ圏で唯一の国でもある。そして2014年12月29日、ギリシャ議会は大統領を選任することができず、任期半ばにして解散に追い込まれ、1月25日に総選挙を実施することになった。 ユーロ危機は新たな、非常に危険度の高い段階に足を踏み入れつつあり、ギリシャはまたしてもその中心となっている。 危険な段階に入るユーロ危機 投資は即座に卒倒した。アテネの株式市場はたった1日で5%近く下落し、なかでも銀行株の落ち込みはさらに激しかった。ギリシャの10年物国債の利回りは9.5%にまで上昇し、2014年の最高水準を更新した(これはイタリア国債の利回りと比較しても7ポイント以上高い数字だ)。 このような過敏な動きが一斉に起きたのは、世論調査から、アレクシス・ツィプラス氏が率いる極左のポピュリスト政党、急進左派連合(SYRIZA)が選挙に勝利すると見られるためだ。 ツィプラス氏はギリシャをユーロ圏に留まらせたいとしているものの、現在の救済策に付帯している条件の大半を反故にする意向を示している。
緊縮財政を終わらせ、最低賃金の切り下げや公的支出の削減方針を撤回し、資産売却も取りやめて、債務のほとんどについて支払いを拒否するというのだ。 このような施策は、控えめに言っても、ギリシャが今後も単一通貨ユーロに参加し続ける道筋とは相容れないものに見える。 ゆえに、任期半ばで行われることになった今回の総選挙は、ギリシャで政治危機を招く可能性が高い。危機の先に何が起きるかは、はっきりしない。投資家たちは、イタリアやスペイン、フランスの国民はアテネの混乱を垣間見て震え上がり、その結果、ドイツのアンゲラ・メルケル首相が処方箋を書いた緊縮政策を堅持すると予想しているようだ。 しかし、本誌(英エコノミスト)は、このような見方はあまりに楽観的すぎると考える。ギリシャでの危機が波及し、ユーロ圏の他の地域に新たな騒動が発生する事態が起きないとは考えにくい。特に、メルケル首相の処方薬がもたらす悪い副作用が、明らかに効用を上回っていることを思えばなおさらだ。 ギリシャの見通しは暗い ギリシャ第1党が組閣を断念、第2党の急進左派連合が連立協議へ 急進左派連合(SYRIZA)のアレクシス・ツィプラス党首(左)〔AFPBB News〕 まずはギリシャを見てみよう。ここ14カ月というもの、SYRIZAは世論調査で、間もなく退陣するアントニス・サマラス首相が率いる与党・新民主主義党(ND)よりも支持率で上回っている。 経済は再び成長を始めたものの、国内総生産(GDP)が2010年以降で20%近くも縮小し、失業率がいまだに26%にも達していることに、ギリシャの有権者は当然ながら怒りを抱えている。 今のところ、ここ数週間の世論調査を見る限り、SYRIZAのリードは縮小しつつある。だが、たとえSYRIZAが1月の総選挙で単独過半数に達しなかったとしても、他の政党にある程度の差をつけて第一党になるのは確実な情勢だ。そのため、選挙後にどのような連立政権が樹立されるにせよ、これを率いるのはツィプラス氏になると見られる。 2012年の総選挙の際には、ギリシャ国民が当初の選挙結果よりも分別のある政権を選んでくれるかもしれないというメルケル首相の思惑の下に再選挙が行われたが、今回はこのような離れ業の再現は難しいだろう。 SYRIZAの政策が象徴するものは、良く言っても不確実性と矛盾であり、最悪の場合は無謀なポピュリズムだ。 ツィプラス氏はかつて、ギリシャのユーロ参加を激しく批判したが、現在はこれを撤回し、自らの公約の中でも行き過ぎたものについてはトーンダウンしている。しかしその一方で、2度にわたる救済策と引き替えに債権国から押しつけられた条件については、破棄が可能だと今でも考えている。 経済がようやく回復し始め、ギリシャが現在、プライマリーバランス(利払い前の基礎的財政収支)の黒字化を達成している点も、同氏がよって立つ論拠の一部となっている。さらには、ユーロ圏の他の国々が、これまでと同様に自らの要求を飲むはずだとの読みもあるだろう。しかし、両方の点において、ツィプラス氏の読みは無謀と言える。 理屈の上では、経済が成長に転じ、プライマリーバランスが黒字化している状態であれば、他国からの資本流入に頼らなくてもよくなるため、国の債務支払い拒否の後押しになるはずだ。 しかし、ギリシャ経済が失われた競争力を取り戻すまでの道のりはいまだ長く、ツィプラス氏の施策は、ここ数年で得られたプラス要素のほとんどを台無しにしてしまうだろう。 欧州連合(EU)の首脳たちがグリグジットの恐れに平静さを失い、これを避けるためならあらゆる代償を払うだろうとの読みは、2011〜12年時点ではある程度正しかったが、今はそれほどではない。 前回の危機以降にユーロ圏が築き上げた波及に対する防御策により、グリグジットの可能性について真剣に検討することも以前よりは容易になった。ユーロの構造強化に向けて多くの手が打たれており、新たな救済基金が設けられたほか、欧州中央銀行(ECB)が最後の貸し手としての役割を担い、部分的ながらも銀行同盟も実現した。 さらに、救済を受けたユーロ圏の周縁国の多くもようやく成長に転じ、失業率も低下し始めている。 欧州版のリーマン・ショック? その結果生じるのはチキンゲームであり、そんなことをしている余裕はギリシャにも欧州全体にもないはずだ。以前ほどのリスクはなくなったとはいえ、グリグジットは危険性が高く、その結末が予測不能なことに変わりはない。 2014年12月の最終週の状況には、2008年9月のリーマン・ショックを思わせる気がかりな兆候があった。当時、大方の見方は、グローバル金融システムは堅固で、たった1つの投資銀行の破綻には持ちこたえられるというものだった。 そして今も、投資家は失業問題に悩むユーロ圏の国々が持ちこたえられるだろうと信頼を寄せている。このような国の1つ、フランスでは、大統領の支持率が史上最低レベルにまで落ち込んでおり、イタリアでは21世紀に入ってからの14年間で、実質GDPが縮小した(ギリシャでさえ、現在のGDPは1999年よりも拡大している)。 こうした経済の停滞は、警戒が必要なより深刻な理由を指し示すものだ。ユーロ圏で続く経済不振は今や、単一通貨ユーロにとって大きな政治的リスクとなっている。短期的に見れば、債権国(この場合は主にドイツを指す)が財政健全化だけにこだわり、金融および財政面での追加刺激策に向けたあらゆる提案を拒否している限り、経済は上向きそうもない。 さらに悪いことに、インフレ水準がいまや危険なまでに低下しているため、欧州は長期的なデフレと経済停滞に陥る瀬戸際にある。これは1990年代の日本を思わせる、憂慮すべき状況だ。欧州の首脳の多くは、自国の経済の競争力向上につながる構造改革を推進できていない。 未来に希望を見いだせなくなると、有権者はポピュリストに投票する可能性が高くなる。しかも、これはギリシャだけに限った話ではない。 回復し始めた時が危ない ユーロ防衛に89兆円、緊急支援基金を新設へ EU ユーロ危機の最悪期が過ぎたという見方は甘かった〔AFPBB News〕 2015年が近づく中、欧州の首脳の大半は、ユーロ危機の最悪の時期はもう過ぎたと思い込んでいた。ギリシャの解散総選挙により、こうした期待は早計だったことが露呈した。 明言しているかどうかはともかく、ユーロに反対の立場を取る左右両翼のポピュリスト政党が、多くの国で支持を集め続けている。 スペインでは世論調査でトップに立つ政党、ポデモスの党首が、12月最終週に入り、現政権を総選挙に追い込んだツィプラス氏の成功に歓迎の意を表明した。 皮肉なことに、ある国の経済が回復し始める時期は、国民の不満が頂点に達する時期でもある。この点は今、アテネだけでなくベルリンでも心に留められるべきメッセージと言えるだろう。 http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/42596
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