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FT執筆陣が占う2015年の世界
(2014年12月31日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
2014年もいよいよ終わりを迎えた。そこで本紙(フィナンシャル・タイムズ)は今年も当たり障りのない占いをお届けしようと思う。
例年通り、本紙執筆陣を何人か集め、部屋の明かりを落とし、水晶玉のほこりを払い、英国の総選挙からウエアラブル・テクノロジーの見通しに至るさまざまなテーマについて、今後12カ月間に起こりそうなことを予測してもらった。
当然ながら、これは危険を伴う仕事だ。昨年の大予測には、今となっては話題にしたくない予想もいくつか含まれている。
例えば、クリス・ジャイルズはイングランド銀行が2014年に政策金利を引き上げると見込んでいたし、サイモン・クーパーは、サッカー・ワールドカップ(W杯)でブラジルが優勝すると予想していた。クライブ・クックソンは、ヴァージン・ギャラクティックが史上初の民間宇宙旅行を年内に成功させると書いていた。
一方、拍手を送るべき予測もあった。ビクター・マレットは、インドの総選挙でナレンドラ・モディ氏が勝利を収めると明言していたし、ジョナサン・フォードは、スコットランドの住民投票で独立反対派が勝利すると論じていた(確かに、投票日の直前にはあわやと思われる場面もあったが)。
ギデオン・ラックマンは、5月の欧州議会選挙でフランスの国民戦線(FN)と英国独立党(UKIP)がともに勝つと予測していた。
もちろん、このような予測では、与えられた問題に正解を出すことだけがすべてではない。予測の腕前の大半は、まず適切な問いを立てることで発揮される。本紙は昨年、ウラジーミル・プーチン大統領はウクライナを侵略するか、ISISなる怪しげな集団が中東の戦略的脅威になるか、キューバが対話の扉を開くかといった問いに思いが及ばなかった。
今年もそうなると見て間違いないだろう。国際ニュースの現場では、世界の誰もが――今のところはまだ――想像し得ない出来事が起こるものなのだ。
(James Blitz)
■英国では次の総選挙の後、挙国一致内閣が生まれるのか?
答えはイエスだ。前回2010年の総選挙では、1945年以降では初となる連立内閣が誕生した。
5月に行われる次の選挙ではさらに一歩踏み込み、労働党と保守党が連立を組むという1930年代の「挙国一致」内閣が再度作られることになるだろう。
1931年の時と同様に、これは進んでそうするのではなく、そうせざるを得ないとの判断によるものだ。
主流派3党がそろって得票数を減らし、保守党と自由民主党(自民党)、または労働党と自民党という組み合わせではちゃんと機能する連立内閣を作ることができなくなるだろう。
このところ台頭しているスコットランド民族党(SNP)やUKIPといった非主流派政党と組む代償は、労働党にとっても保守党にとっても耐えがたいほど大きなものになる。次の選挙が早まりかねないという意味で、少数与党政権を作るリスクも同様に受け入れがたいものとなろう。
挙国一致内閣を作ることは容易ではない。誰が主導権を握るのかという問題を巡って関係者が大いに苦悶する場面も出てくるだろう。
どんな形になっても連立は激しい議論を巻き起こすだろうし、双方から離党者が出る事態にもなるだろう。党の分裂が見られる政界の新しい風景に政治家が適応するには、それなりの時間がかかると思われる。
(Jonathan Ford)
■原油価格は1バレル50ドル台を割り込むか?
割り込むだろう。北海ブレント原油の価格は2014の6月から12月にかけて50%近く下落したが、その原因となった世界の石油市場の供給過剰は、少なくとも2015年上半期に入っても続くと考えられる。理由は主に2つある。
第1に、供給量が増える公算が大きい。今回の相場下落で最も早く打撃を被ると見る向きの多い米国シェールオイル業界は、財務面で圧力に直面するにもかかわらず、生産量を増やすことができるだろう。
一方、サウジアラビアやそのほかの石油輸出国機構(OPEC)加盟国は、減産を口にすることはあっても、実際には何もしないだろう。
第2に、需要の伸びは、2014年下半期と同じくらい冴えないものにとどまるだろう。中国やそのほかの新興国での伸びが大幅に回復すれば別だが、うまくいってもそれは数カ月先の話だ。このような条件下では、原油価格が1バレル50ドルを割り込むと見ていいだろう。
時間が経てば、市場原理が作用する。価格の下落は需要を刺激し、供給を(特に米国で)抑制することになるだろう。
従って、2015年の年末の原油価格は年初のそれを上回る可能性が十分にある。確実に言えるのは、価格が下がれば下がるほど石油生産への投資へのダメージは大きくなり、それゆえに石油価格が反転上昇する時のペースも速くなるということだ。
(Ed Crooks)
■欧州中央銀行(ECB)は全面的な量的緩和に踏み切るか?
答えはイエスだ。ユーロ圏の総合インフレ率(消費者物価上昇率)は前年比0.3%という水準に落ち込んでいる。ECBは、「2%を下回るもののそれに近い水準を中期的に」目指すとしており、足元の値はこれを大幅に下回っている。
超低インフレか完全なデフレになるという予想が定着するリスクは大きい。
マリオ・ドラギ総裁が2014年12月4日、ECBのバランスシートを「2012年年初の水準に向けて拡大させる方針だ」と発表したのはそのためだ。この発表通りになれば、バランスシートは約1兆ユーロ拡大されることになる。国債の買い入れ以外の方法でこの結果を得られるとは考えにくい。
残念ながら、ドラギ総裁による「拡大する見込みだ」から「拡大させる方針だ」への表現の変更は、理事会のメンバー6人の反対を押し切って実行された。とはいえ、反対がどれほど強かろうと、ECBはまず間違いなく、国債買い入れを試みざるを得なくなる。そこで激しい論争が巻き起こることになるだろう。
(Martin Wolf)
■ロシアはウクライナや欧州で新たな領土を併合するか?
答えはノーだ。国内では経済危機、国外では制裁に見舞われ、ウラジーミル・プーチン大統領は自身の拡張主義を棚上げするだろう――少なくとも2015年は。
その代わりプーチン氏は、クリミアで得た成果を確固たるものにし、「ウクライナ東部」の一部地域を凍結された紛争の状態にとどめておこうとするだろう。
そうすると、これら地域にはキエフからの効果的な支配が及ばなくなる。
もっとも、この判断は、2つの厳しい条件で意味を弱める必要がある。まず、プーチン氏は一貫して、西側の観測筋を悪い意味で驚かせてきた。2014年にロシアがクリミアを併合することを予期した人はほとんどいなかった。
次に、国内の経済問題に対する対応策として1つ考えられるのは、プーチン氏がウクライナでの紛争をいっそう激化させることで国内の支持と国家主義をかき立てることだ。だが、こうした状況にもかかわらず、2015年は、戦闘拡大の経済的、軍事的リスクはロシア政府にとって大きすぎるように思える。
(Gideon Rachman)
■米国はイラクとシリアでのISISとの戦いで地上戦闘部隊を派兵するか?
しないだろう。「イラク・シリアのイスラム国(ISIS)」は間違いなく、2015年も大きな脅威を突き付ける。
そのため米国防総省は引き続き、ISISの能力を低下させることを狙い、この地域、特にイラクに意識を集中させるだろう。
特殊部隊はすでに地上に配備されており、空爆の指揮を支援している。2015年には、こうした精鋭部隊の配備が増強される可能性が高い。
また、米国はバグダッドへ送り込む軍事顧問の数も増やし、作戦行動にあたって彼らをイラク軍部隊に同行させる可能性さえある。ただし、バラク・オバマ大統領はまだこれに抵抗している。
しかし、米国と、米国と同盟関係にある欧州諸国がやらないことは、自国の戦闘部隊を戦場に配備することだ。ISISと戦うことは、今後もイラク軍の役目になる。西側諸国の政府は、イラクの政府軍と地元のスンニ派部族、そして反政府勢力が十分な力を持って初めてISISを倒すことができるとの見方を堅持するだろう。
(Roula Khalaf)
■中国の成長率は2015年に7%台を割り込むか?
イエス。中国政府は信頼感が揺らぐのを避けるために、2015年の国内総生産(GDP)成長率の公式目標を7%かそれ以上にしておこうとするかもしれない。
残念ながら、中国経済は恐らくその願いを聞き入れず、この数字を若干下回る水準に減速するだろう。
すでに2014年のGDPは公式予想をわずかに下回ることが確実なため、経済政策の立案者としては、新年に2年続けて目標を達成できない事態は何としても避けたいだろう。
それでも、国内債務の急増、固定資産投資の減速、鈍い不動産販売と冴えない製造業セクターがどれも中国のダイナミズムに重くのしかかる。
中国政府が低インフレ(消費者物価で測ったインフレ率)の環境がデフレスパイラルに発展するのを防ごうとするため、金融政策は恐らくさらに緩和されるだろう。そのような動きは、成長を促すうえで中国が最も期待できる消費支出を支えることになるだろう。
(James Kynge)
■どちらの中央銀行――米連邦準備理事会(FRB)かイングランド銀行――が最初に金利を引き上げるか?
FRBだ。絶対にFRBに逆らって賭けるな、というのが古い格言であり、これは2015年の金利に関しても良い助言だと言える。
経済情勢を見ただけでは、この結論に達しないだろう。英国の急成長と生産性の危機は英国経済の余剰生産能力をほとんど取り除き、インフレなき成長をさらに続ける余地は狭まっている。
比較的参加率の低い米国の労働市場の方が余剰資源が多く、英国より長期にわたり、より低い金利を安全に維持できるように見える。
金利の予想は単に経済だけの問題ではない。中央銀行の行動も重要だ。FRBはそこそこ予測可能だが、イングランド銀行は気まぐれなことで悪名高い。ある月に引き金に指をかけていると示唆したかと思えば、翌月には、これ以上ないほど利上げから遠いように振る舞う。
イングランド銀行は5月の英国総選挙の前には何もしたくないだろうし、その後はFRBの動きを待つ口実を見つけるだろう。
(Chris Giles)
■2015年にヒラリー・クリントン氏の有力なライバルが出現するか?
答えはノーだ。共和党の大統領候補の名前は2016年まで分からない。
その時でさえ、彼――巷に出回っている20人ほどの名前に有望な女性候補は入っていない――はひどく傷ついているため、クリントン氏は大統領選の本選挙で有利なスタートを切る。
民主党内の戦いでは、クリントン氏はバージニア州選出の元上院議員、ジェームズ・ウェッブ氏やメリーランド州知事を近く退任するマーティン・オマリー氏など、1人か2人の二番手候補に挑まれるだろう。だが、クリントン氏は予備選をしっかり制する。
本格的な脅威となる唯一の人物は、マサチューセッツ州選出の上院議員でポピュリストのエリザベス・ウォーレン氏だが、同氏はリベラルな左派からの強力な要請にもかかわらず、大統領選への出馬を拒むだろう。いざとなったら、ウォーレン氏は米国初の女性大統領選出への道のりを阻むことは望まないはずだ。
(Edward Luce)
■ロンドンの超高級不動産の価値は下落するか?
イエス。新築の超高級不動産の過剰供給のために、2015年には価格が10%程度下がるだろう。
ただし、価格下落は主に、メイフェアやナイツブリッジなどの伝統的な高級住宅地の外で感じられることになるだろう。
新たに建設された超高級不動産の一部――ネオバンクサイドやバタシーなど――は価値を保つのに苦労するはずだ。
ネオバンクサイドはテムズ川越しにセント・ポール大聖堂の見事な景色を臨み、シティー(ロンドン金融街)への交通の便がいいかもしれないが、メイフェアとは大違いだ。また、バタシー発電所は表面的な魅力が多少あるが、周辺地域はまだ、超高級というよりはバタシー動物保護施設の雰囲気が色濃く残る。
労働党のマンション税(豪邸税)の脅威も、ダモクレスの剣のように裕福な不動産購入者の頭上にのしかかる。「調節」と「調整」は5月の総選挙まで続くだろう。
(Jane Owen)
■インドの成長率はナレンドラ・モディ首相の下で加速するか?
答えはイエスだが、それも加速という言葉で何を意味するかによって異なってくる。インドは本当にモディ氏の指揮下で前政権の悲惨な最後の1年よりも急速に成長しないとおかしい。
実際には、2013年に5%台を割り込んだ時に、経済成長は恐らくすでに大底を打っている。モディ氏の功績とは言えないものの、同氏が政権を握った直後に成長率は5.7%に上昇した。
2015年には、インドにとって有利な要素がいくつかある。原油安は経常赤字にかかる圧力を和らげる。インフレを一段と抑え込む助けにもなり、成長を促す利下げの可能性が開けてくる。
モディ氏はラグラム・ラジャン氏という世界一流の中央銀行総裁にも恵まれている。
だが、真の課題は、インドの潜在成長力をほんの数年前に占めていた7〜9%のレンジに戻すことだ。これには構造改革が必要になる。モディ氏は官僚を数人脅して時間通りに出勤させる以上のことをしなければならない。
インドが復調を遂げたということを投資家に納得させるためには、いくつかの劇的な改革――例えば労働市場や税制、外国からの投資規則などの改革――が必要だ。
(David Pilling)
■2015年末までに西アフリカでエボラ出血熱が根絶されるか?
イエス。西アフリカのエボラ熱流行は1年前にギニアで始まり、9月に重大な懸念を呼び始めた。
死者数は7000人に迫り、流行はまだ制御できていないとはいえ、9月以降、発症例の劇的な増加にブレーキをかけるために、世界は十分な医療資源と財源をエボラウイルスとの戦いにつぎ込んできた。
ウイルス学者らは、エボラウイルスの性質――感染した人にとっては致命的なことが多いが、感染性が極端に高いわけではない――からすると、ほかの人たちが患者と直接接触することを避ければ根絶は可能だと話している。
痛手の大きい学習期間を経て、現地の医療従事者は現在、以前より安全かつ効果的にエボラと戦っており、今もまだ世界保健機関(WHO)や国境なき医師団(MSF)、その他多くの団体から外部の支援が流れ込んでいる。
2015年には後退や再燃があるだろうが、西アフリカはエボラのない2016年を期待することができるだろう。
(Clive Cookson)
■2015年はビットコインやその他の暗号通貨が崩壊する年になるか?
ならないだろう。暗号通貨の実験を守るために損の上に損を重ねる覚悟がある――それがひいては全面的あるいは劇的な崩壊を防ぐことになる――資金潤沢な利害関係者があまりに多く存在しているからだ。
それでも、この新種の自己決済型金融商品のうち最も人気の高いビットコインが主流な通貨として成功する可能性は今やゼロだ。
価格はもう何カ月間も1ビットコイン=350ドル前後で低迷しており、1200ドルという2013年の最高値でビットコインに投資した人たちの損失が膨れ上がっている。
ここへ、2014年2月に起きた東京のビットコイン取引所マウントゴックスの経営破綻など過去1年間に相次いだ派手なスキャンダルを加えると、一般市民がこの実験に対する興味を完全に失うのは、可能性の問題ではなく、時間の問題だということが分かるだろう。
(Izabella Kaminska)
■パーソナルテクノロジーの世界では、2015年はウエアラブルの年になるか?
答えはノーだ。間もなく発売予定の「アップルウオッチ」は、少なくとも審美眼の暗号は解読した。これは実際に人が身に着けたいと思うかもしれないウエアラブル端末だ。
アップルウオッチは強力なハイテクステータスシンボルにもなるだろう。だが、時間を告げてくれるといった一握りの役立つ機能を除くと、人がこの端末を必要とする理由ははっきりしない。
ウエアラブル業界のもう1つの期待の星である「グーグルグラス」は、会社側が約束した発売日に間に合わず、ハイテク界の傲りの象徴になる恐れがある。
グーグルは、人々が日常生活にグーグルグラスのようなサイボーグ風のスタイルを取り入れると本気で思っているのだろうか?
グーグルが新年に、恐らくより限定的な形でこのアイデアを再起動すると思っておいた方がいい。ヘッドアップディスプレーを持つことが極めて有用な仕事はたくさんある。
マスマーケットでは、健康管理などのアプリに大きな期待が持てる。だが、ウエアラブル・テクノロジーはまだ目的を探し求めている技術のように思える。本当に便利な機器が開発されるのは、これからだ。
(Richard Waters)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/42583 米国を潰せ!サウジが仕かけたエネルギー戦争 早くもささやかれ始めた2015年の最悪シナリオ原油価格の下落が止まらない。
2014年6月にニューヨーク原油市場での先物価格は1バレル107ドルまで上昇したが、12月29日には一時52ドル台にまで落ちた。半年で50%以上の下落である。
米エネルギー業界が描く最悪シナリオ
米エネルギー業界では2015年になっても下落が続くことを予想して、最悪のシナリオが描かれているという。「米経済への大きな打撃」になるという見方が強い。現実になれば日本経済への悪影響も避けられない。
一般的に原油価格が下がると、多くの企業や市民に恩恵がもたらされる。
ガソリン価格が下がって輸送料が抑えられ、石油製品や原材料の価格も下落するからだ。1980年代後半の日本のバブルは、まさに原油価格が10ドルを割った時点からスタートしている。
けれども原油価格の下落が社会によからぬ影響を与えることも考慮する必要がある。それが「米経済への大きな打撃」なのだという。いったいどういうことなのか。
まず時間を11月27日に戻すところから始めたい。
この日、石油輸出国機構(OPEC)はオーストリアで総会を開き、減産を見送った。OPECの加盟12カ国はこれまで、原油価格の下落を止めたい時には生産量を減らすという協調行動を採ることが多かった。
原油の流通量を減らすと、市場原理が働いて価格は下げ止まる。貨幣の流通量に似ている。総会では賛否両論の議論が起きたが、減産しない決定を下した。サウジアラビアの意向が反映された結果で、多くの専門家が指摘しているとおり、米国を叩く意味があった。
サウジ、米国へ宣戦布告
サウジは、シェール革命によって原油生産量を1日900万バレル超にまで増やしている米国を牽制したかったようだ。極言すれば、サウジが米国に原油戦争の宣戦布告をしたということである。
これまでサウジは世界最大の原油生産国だった。だが国際エネルギー機関(IEA)は、すでに米国がサウジを抜いて原油と天然ガスで世界1位になったとしており、原油価格を下げて米石油企業の利益を削減させるという手荒い手法を採ったというのだ。
原油価格が下がればサウジも当然利益を落とす。それは百も承知である。
だがサウジは米国のシェールオイルは掘削にコストがかかることを熟知しており、原油価格が下がれば、米石油企業の中には赤字に直面するところもでてくると踏んだ。米企業を潰しにかかったわけである。
近年、コストを抑えてシェールオイルを掘削する技術が導入されているが、2014年10月下旬に米バーンスタイン・リサーチが公表した試算結果では、1バレル80ドルを切ると米シェールオイル生産の3分の1は採算割れとなるという。
すでに採算割れしている企業があるということだ。
採算が取れる原油価格の最低ラインは、全米の掘削地域およびにプロジェクトによる。ノースダコタ州北西部に広がるバッケン・シェールと言われる石油鉱脈は米本土48州で最大の原油埋蔵量があり、1バレル42ドルに落ちても採算が取れると言われている。
しかしエネルギー関係者によるとサウジの考えは過激だ。ヌアイミ石油鉱物資源相は1バレル20ドルに落ちても減産しない考えだという。
本当にそこまで落ちると、米シェールオイル企業は操業を停止せざるを得なくなるし、長期間低価格でとどまった場合、倒産という憂き目に遭う。
エネルギー産業に牽引されている米国経済
サウジの無慈悲な石油商法は、それくらいのことは何でもないだろう。米国の原油産業が傾けば、「米経済への大きな打撃」となることは必至である。というのも、エネルギー業界こそが現在の米経済の牽引役と言っても過言ではないからだ。
米ゴールドマン・サックスの企業ポートフォリオ担当のアマンダ・スナイダー氏が書いている。
「いまや米格付け会社スタンダード&プアーズが挙げる500銘柄(企業)の費やす設備投資額の3分の1がエネルギー業界に集中している。研究開発費においても25%がエネルギー分野であり、米雇用の創出にも貢献している」
米経済はエネルギー業界を頼りしているがために、原油価格の下落で産業界全体に悪影響がでてしまうのだ。
しかも投機的要素の強いジャンク債の約20%がエネルギー関連という事実も踏まえておく必要がある。
2009年の割合が9%だっただけに注意が必要だ。原油価格が1986年レベルまで落ち込まなくとも、40ドル台を推移した場合、即刻ではないが高利回りのジャンク債がデフォルト(債務不履行)を起こす可能性は捨て切れない。
多くの企業はデフォルトの危機をヘッジ(回避)する措置をとっているようだが、価格の低迷が長期に及ぶとデフォルトする債券も出るはずだ。こうした流れが株式市場に影響しないわけがない。もちろんデフォルトは金融機関を窮地に陥れる。
エネルギー関連企業が発行するジャンク債に要注意
過去のデータを眺めても、デフォルト後に金融機関の株価が急落する現象が起きている。そうなると、原油価格の低下が続いた後は、ジャンク債の動きに注視する必要がある。ジャンク債に負の動きが見えた時は、株式を売りさばく時期と言えるかもしれない。
2015年にこうした流れが米国内で見られた場合、当然日本経済にも悪影響が出るはずだ。低い原油価格は多くの市民が望むことだが、その後に来る因果関係を眺めれば、喜んでばかりはいられない。
現象として、1980年代後半のバブルと同じように原油安による好影響から特定企業の株価が高騰すると考えられる。だがジャンク債がまずデフォルトし、その後金融機関に飛び火し、一般企業の株価下落という流れも予想できる。
OPECが11月末の総会で減産に踏み切らなかったのは、サウジが「新原油価格」を模索しているからとも言われる。
サウジは米国との原油戦争に勝つことができさえすれば、1976年から2000年にかけて推移していた12ドルから40ドルという価格帯に近いところでも構わないようにも見える。となると、近年のような100ドル超という価格に戻ることは今後ないかもしれない。
一般論として、原油の低価格はガソリン代を含めたエネルギー費をはじめ、物価の値下げによる支出の抑制など、多くの点で利点がある。
シティグループのエド・モース氏の推測によると、原油価格の低下がもたらす世界的な経済効果は最大で132兆円ほどにもなるという。
しかしここまで記したように、低価格による最悪のシナリオもある。仮説ではあるが、現実にならないとも限らない。
「ガソリン代が値下がりして嬉しい」というレベルの話だけで終わらない可能性があることを心の片隅にとめておいていただければと思う
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/42578 ギリシャ総選挙とユーロ危機の再来 ユーロ圏の最も弱い環は「有権者」だ(2014年12月30日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
ユーロ危機が再燃している。ギリシャで来月実施されることになった総選挙と、恐らくそこで見られる極左政党の急進左派連合(SYRIZA)の勝利に、政治家と投資家は怯えることになるだろう。
そしてデフォルト(債務不履行)から銀行取り付け、救済策、社会不安、下手をすればギリシャのユーロ圏離脱にもつながりかねない恐ろしい展開について、憂鬱な議論を再び続けることになるのだろう。
ユーロ危機は基本的に終結したと市場が思っていた年の最後になって今回の危機が勃発するというこの流れは、何となくしっくりくる。
ギリシャ情勢が物語る市場の見方の甘さ
ユーロを救うためには「何でもやる」という欧州中央銀行(ECB)の有名な約束によりユーロ崩壊のリスクは取り除かれたとの見方が市場には広まっており、それを反映して欧州の債務国の借り入れコストは急低下していた。
ギリシャの情勢が今まさに物語っているように、この見方は甘かった。この見方の最も弱い環は、欧州の政治だった。具体的に言うなら、有権者が経済の緊縮政策に反発し、ユーロを維持する方法についての欧州の合意を拒絶する「反システム」政党に1票を投じるリスクもそうだった。
もしこの合意が崩れれば、債務、救済、そして緊縮政策から成るデリケートな、それこそトランプの家のように脆い構造全体がぐらつき始める。ギリシャで今起こっているのはそういうことだ。
ユーロ危機はずっと、政治、市場、経済という3要素の相互作用を伴いながら進展してきた。事態が改善している時には、この3要素が好循環を作り出す可能性がある。有権者が主流派の政治家を選挙で選び、市場が落ち着きを取り戻して金利が低下し、実体経済も改善して政治の中心にいる人々の立場を強めるという好循環だ。
逆に、悪循環も生じ得る。経済的な苦境が急進的な政治勢力の台頭を招き、市場がこれに動揺して金利が上昇し、債務の負担が重くなって緊縮政策が強化され、これが政治のさらなる急進化につながるというパターンだ。
ギリシャで好循環が生じることを期待していた人々は、2014年になって経済成長率がついにプラスに転じたことを指摘していた。ただ困ったことに、この成長はあまりにも遅く弱々しいため、この国の現状に対する人々の苦悩を和らげるには至っていない。
ギリシャ経済は危機が始まってから25%以上縮小しており、若者の失業率は50%を超えている。しかも、国の債務残高の対国内総生産(GDP)比は、危機が始まった時よりも大幅に高まっている。このような状況では、反システム政党が台頭するのも分からないではない。
欧州各国で勢力伸ばす急進主義的な政党
相変わらずギリシャは極端な例だが、ユーロ圏に似たような国が全くないわけではない。ほかの主要国でも、緊縮政策は急進主義的な政党の台頭につながっている。
スペインでは現在、ギリシャのSYRIZAと同様なイデオロギーを掲げる左派政党のポデモスが世論調査で最も高い支持率を得ている。フランスでは、今年5月の欧州議会選挙で極右の国民戦線(FN)が最も多く票を集めた。
イタリアでは、マッテオ・レンツィ首相率いる改革派の政権の失敗を、極右政党と極左政党の両方が手ぐすね引いて待っている。
反システム政党の台頭はユーロの存続を脅かしている。ユーロという単一通貨は、これを導入した18カ国の間で親ユーロの合意が維持されることに依存しているからだ。
ブリュッセルで毎度開かれる「緊急サミット」に出席する首脳が全員、ユーロのプロジェクトの推進を基本的に約束している限り、これまでの経験から言えば、ユーロ存続の道が見いだされることになるだろう。
理屈を言うなら、ギリシャのSYRIZAがこの合意を破ることはない。この急進主義的な政党は、ギリシャをユーロ圏内にとどめるつもりだと話している。
問題は、彼らがギリシャの対外債務の約半分を帳消しにしたがっていることだ。これはほかのユーロ圏諸国、とりわけドイツにとっては、恐らく受け入れられない要求だろう。
本質的にはギリシャは債務を返済できない状況にあるというSYRIZAの言い分は、その通りかもしれない。
SYRIZAへの譲歩を警戒するドイツ
しかし、ドイツのアンゲラ・メルケル首相がドイツの有権者を説得し、ギリシャ支援を継続できるようにするためには、「extend and pretend」の政策、すなわち最終的には全額が返済されるとみせかけながら債務の期限を延長するという政策が必要不可欠だった。
もし今、ギリシャへの融資が全額返済されることはないなどとドイツの有権者に告げれば、ドイツの有権者たちも急進主義的な政党の支持に回る恐れがある。ドイツで現在台頭しているのは極左ではなく、反ユーロの立場を取る極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」だ。
また、ドイツがSYRIZAへの譲歩を非常に警戒していることについては、対外的な理由もある。ドイツには、ギリシャへの融資を帳消しにする余力はあるかもしれないが、これをいったん認めてしまうと、イタリアやポルトガル、アイルランド、スペイン、さらにはフランスにまで、同様な要求をする機会を与えてしまうことになるのだ。
ユーロ圏で大惨事が起きる可能性があることは、非常に容易に理解できる。では、何がどうなればそれを回避できる可能性が出てくるのだろうか。シナリオは主に2つ考えられる。
どうすれば大惨事を回避できるのか
第1に、ギリシャの有権者がおじけづく可能性がある。SYRIZAの支持率は主流派の政党のそれをまだ上回っているが、その差はここ数日縮小しており、来年1月25日の投票日までにさらに小さくなるかもしれない。
もしそうなれば、中道政党が団結して反システム政党を締め出すこともできるようになるだろう。このパターンは、欧州でかなり普通に見られるようになりつつある。
第2に、仮にSYRIZAが政権を取っても、債務デフォルトの深淵を一度のぞき込めば、要求を弱める可能性がある。空っぽの国庫ほど、人の目を覚ましてくれるものはない。またドイツも、ギリシャのユーロ離脱が大混乱を引き起こす可能性を考慮して、さらに譲歩するかもしれない。
市場は現在、複雑な妥協が成立すると見ているようだ。確かに、最近の歴史はそうなることを示唆している。しかし、ユーロを巡る物語はまだ展開している最中だ。それに、ハッピーエンドが保証されているとはとても言えない。
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