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[真相深層]「陰の主役」は英蘭シェル 出光、昭和シェル買収へ交渉 エクソンの轍踏まず
石油元売り国内2位の出光興産が同5位の昭和シェル石油の買収交渉に入った。今春に水面下で始まった交渉には「陰の主役」がいる。昭シェルの筆頭株主、英蘭ロイヤル・ダッチ・シェルだ。
資産売却相次ぐ
「アジアは製油所の新増設が続き、欧州も設備過剰だ。地域トップクラスの競争力がある製油所や付加価値の高い販売網を持たない国は見直し対象だ」。英蘭シェルのベン・ファン・ブールデン最高経営責任者(CEO)は1月に就任するや、こう繰り返してきた。
まず2014〜15年の2カ年で150億ドル(約1兆8千億円)の資産売却を表明。オーストラリアの製油所や給油所網、イタリアの石油製品販売事業の売却を決め、有言実行ぶりを見せつけた。
原油価格の急落も事業見直しを急がせた。国際指標の北海ブレント原油は6月以降、5割弱下落し1バレル60ドル台で低迷。業績の重荷になっている。
日本も少子化やエコカー普及で石油製品の需要の伸びは期待できない。昭シェル株の売り時と判断しても不思議はない。出光が計画する昭シェルへのTOB(株式公開買い付け)に応じる意向なのもこのためだ。
これまでも撤退観測はあった。04年にサウジアラムコに昭シェル株式の15%を売り、出資比率を35%に下げた。「シェルはいつでも足抜けできるよう準備を始めた」(日本の石油業界関係者)
だが英蘭シェルには決して踏めない轍(てつ)がある。12年の米エクソンモービルの撤退劇だ。
東燃ゼネラル石油の株式の50.5%を持っていたエクソンは日本の精製・販売事業の売却に動いた。コスモ石油との経営統合など様々な案が浮上したが、最後は東燃ゼネが約3千億円を支払ってエクソンの持ち株の大半を買い取る形になった。
これを境に東燃ゼネの財務体質は大幅に悪化。同社の取引先だけでなく、国内元売り各社からも「長年、高配当でエクソンの利益に貢献してきた東燃ゼネになんという仕打ちをするのか」と批判が渦巻いた。
英蘭シェルは昭シェル株を売っても日本やアジアから手を引くつもりはない。同社は液化天然ガス(LNG)販売の世界最大手。世界一のLNG消費国・日本を含む東アジアは成長戦略に欠かせない。石油化学も同じだ。シンガポールには同社最大の石油化学プラントがある。「アジアの化学品需要は年4〜5%伸びる」(英蘭シェル)
同社の日本進出は1900年。古参販売店も多く、「日本の事情をくんでくれるウエットな会社だ」(東日本の販売店首脳)との評がある。日本でビジネスを続ける以上、強引な印象を残して、せっかく培ってきた「親近感」という財産を失うのは得策でない。
一方、昭シェルの思いはどうか。石油メジャーの傘下で事業を日本国内に制限され、売上高こそ元売り大手5社で最も少ないが、13年度は最大手のJXホールディングス(HD)に次ぐ純利益を稼ぎ出した自負がある。業界再編にも受け身だったわけではない。
「需要が減るなか一肌脱ぐ考えはある」。10月、昭シェルの香藤繁常会長兼CEOは経済産業省幹部にこう答えた。同省は石油業界の供給過剰是正に向け、7月にエネルギー供給構造高度化法の大臣告示を改正。設備削減や製油所再編を求め、元売り大手各社の首脳にヒアリングをしているときのことだった。
構造不況では縮小均衡に陥りがち。だが今年、ポリエステル繊維やペットボトルの材料の増産に100億円を投じるなど攻めも忘れていない。
「うまくやって」
英蘭シェルは持ち株の売却先、つまり昭シェルの将来のパートナー探しは同社に任せた節がある。JXHDという大樹の陰に入るのではなく、民族系の代表格で肌合いが異なる出光を選んで「2強」をめざす姿勢も積極戦略と符合する。
「なんとかうまくやってほしい」。今秋、昭シェルと出光の交渉を知ったロンドンの英蘭シェル幹部は即座に日本の交渉当事者にこう伝えた。両社の交渉はこれからが山場。買収劇の「震源」となった英蘭シェルは波風を立てずに身を引くことができるかどうかを固唾をのんで見守っている。
(フランクフルト=加藤貴行、指宿伸一郎)
[日経新聞12月27日朝刊P.2]
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