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穏健サウジの「ぶった切り広場」  NewsWeek
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投稿者 ダイナモ 日時 2014 年 12 月 26 日 00:04:37: mY9T/8MdR98ug
 

残忍な処刑はテロ組織だけじゃない。米国の同盟国で実行されている斬首刑の実態

2014年12月25日(木)16時05分
ジャニーン・ディジョバンニ

 あなたがYouTubeの熱心なユーザーなら、イスラム教スンニ派テロ組織ISIS(自称イスラム国、別名ISIL)の戦闘員がアメリカ人ジャーナリストやイギリス人ボランティアの首をはねる動画を見たことがあるはずだ。あの目を覆いたくなるけれど繰り返し見たくもなる映像のせいで、世界中で彼らへの反感が高まり、彼らに対する欧米諸国の軍事的対応もエスカレートしたのだった。

 どう見ても許し難い野蛮な行為である。しかし、実を言うとこうした野蛮な処刑が日常的に行われている国がある。例えばアメリカにとってアラブ圏で最大の同盟国であるサウジアラビアだ。今年だけで既に59人の首をはねている。

 サウジアラビアの法制はイスラム法典「シャリーア」に基づく。シャリーアを採用しつつ、別に近代的な刑法規定を持つ国もあるが、サウジアラビアはそうではない(ただし改革を求める声は国内にもある)。

 あなたがサウジアラビアで斬首による死刑を宣告された場合、どのようにして最後の日を迎えることになるだろう?

 この世で最後の朝は、たいてい独りぼっちだ。朝早くに起床し、最後の朝食を取る。運がよければ、しかるべき鎮静剤をもらえるかもしれない。

 処刑は通常、砂漠を猛烈な暑さが支配する前の午前中に、公共の広場で行われる。世界で今も「公開処刑」を行っているのはサウジアラビアとイラン、北朝鮮、ソマリアだけだ。

 あなたが死ぬのを見るために大勢の人が集まってくる。イギリスの作家ジョン・R・ブラッドリーによれば、公開処刑はサウジアラビアで、サッカーを除けば「唯一の大衆的娯楽」だ。

 あなたが首都リヤドの刑務所にいれば、たぶん「ぶった切り広場」という恐ろしい別名を持つディーラ広場に連れて行かれることになる。

 あなたの到着前に、警察と治安部隊が準備を整えておく。好奇心で集まる見物人を下がらせるために非常線を張る場合もあるが、それでも多くの見物人が遠巻きにしているはずだ。

 到着すると、あなたは広場の中央に連れて行かれる。公認の処刑人であるモハメド・サード・アルベシが03年に地元紙のインタビューで語ったところによれば、この時点でたいていの受刑者は気力を失い、極度の脱力感で抵抗もできなくなる。

「刑場に着くと死刑囚の体からは力が抜ける」と語るアルベシは、1日に7人の処刑を行った経験がある。自分は「神に代わって」剣を振り下ろすだけであり、特に陰惨な仕事だとは思っていないそうだ。

 刑の執行前に被害者の家族の元を訪れ、加害者を許す気はあるかと尋ねることもある。彼らが加害者を許せば、死刑は中止になる場合もあるからだ。「受刑者が死なずに済むよう神に祈り、最後の最後まで希望を捨てない」と彼は言う。

 アルベシは88年から処刑人の仕事をしている(一般に、この仕事は代々受け継がれる場合が多いが、彼は違うという)。サウジアラビアでは、処刑人の仕事は首を切ることだけではない。犯罪の種類によって、手首を切り落とすこともあれば、脚を切断することもある。

 さて、あなたは広場の中央に連れて行かれ、ひざまずくよう命じられる。首をはねたときに飛び散る血を受け止めるために、周囲にはビニールが敷かれる。ちなみに、手首を切り落とす際には関節を狙うとアルベシは言う。「脚の場合はどこから切り落とすかが決められており、その指示に従って切る」

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死刑を見慣れている群衆

 最近では処刑人の数が不足しており、それが理由で昨年は斬首刑の廃止案も浮上した。内務省と司法省、保健省のメンバーで構成される委員会は昨年、「公式処刑人が不足していること、一部のケースで執行場への到着の遅れがあったことを考えると(斬首刑の廃止も)現実的な」選択肢だとする声明を出している。おそらく、現在も検討が続いているものと思われる。

 処刑人(常に男性)は絶対に受刑者と話をしない。淡々と受刑者の罪状を告げ、コーランの一節を読み上げるのみだ。

 そしてあなたは目隠しをされる。これは極めて重要な手順だが、決して人道的理由からではない。剣が振り下ろされたとき、あなたが恐怖で体を動かすと面倒なことになるからだ。一度で切断できないかもしれないし、狙いが外れる可能性もある。血がビニール袋の外にまで飛び散ったり、首があらぬ方向に飛んでいって「回収」が難しくなる可能性もある。

 あなたは、首回りの肌の柔らかいところを露出した衣服を着ている。両手は背中の後ろで縛られている。こうなったら、もう身動きはしないことだ。なぜか。雇い主の生後4カ月の息子を殺した容疑で有罪となったスリランカ人のメード、リザナ・ナフィーク(24)の処刑映像を見れば分かる。彼女は体を左右に動かしてしまい、そのせいで首を切り落とすのにひどく手間取った(ナフィークは無罪を主張していたが、13年1月に斬首刑が執行された)。

 集まった群衆の間から興奮した声が上がることもある。「彼らは死刑を見慣れている」と、アムネスティ・インターナショナルのサバグ・ケチチアンは言う。死刑の執行日は公式に発表されるわけではないが、それでも噂はあっという間に広まる。

 広場では警備員たちが持ち場につき、遺体回収用のジープも定位置で待機する。アルベシによれば「そこで私が死刑執行命令書を読み上げ、合図で受刑者の首を切り落とす」。

 たいていの場合、死は一瞬で訪れる。剣が振り落とされたときに首が真っすぐに保たれていれば、切断は驚くほど「きれいに」行われる。だが一度で終わらないこともある。

 切り落とされた頭は、まるで壊れた人形の頭のように体から分離し、胴体の前か脇に転がる。それでもしばらくは心臓が動いているから、胴体はピクピクと痙攣を続ける。処刑人はここで一歩下がり、別の人物が進み出て頭を拾い上げる。また別の人物が胴体を回収し、ジープに積み込む。

 さて、あなたは死んでも解放されない。公開処刑は国民に、「サウジアラビアでは体制への異議申し立ては許されない」ことを見せつけるために行われている。犯罪の内容は大音響の拡声器で告げられる。あなたの死体がすぐに埋葬されれば幸運だ。しかし罪によっては、はりつけにされることもある。

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欧米諸国は見て見ぬふり

 首のない死体をさらす方法はいくつかある。首なし死体をクレーンで持ち上げることもあるが、柱が使われるほうが多い。ビニール袋に入れた頭部は持ち上げられた胴体より高いところに、浮いたような状態で掲げられる。犯罪の行く末を示すグロテスクな見せしめとして、死体は最長4日間、そのままにされることもある。

 ここに詳述したサウジアラビアにおける斬首の光景は、すべて筆者が多くのビデオ映像で確認したものだ。映像はある人権団体が提供してくれたもので、斬首の残忍さをアピールし、執行数の増加に警鐘を鳴らすのが目的だ。

 今年の場合、6〜7月のラマダン(断食月)後、8月4日から9月22日の間に31人が首をはねられた。およそ2日に1人の割合で刑が執行された計算だ。31人目の犠牲者の罪状は「魔術を使った」ことだった。

 その後の数週間は平穏に過ぎた。10月初めの時期が、年に1度のハッジ(メッカ巡礼)の期間だったからだろう。イスラム教のハッジは、信者の男性が一生に一度はやらねばならない宗教上の義務で、全世界から数百万人がメッカに集まる。だから混乱を避けるために斬首刑の執行が途絶えたらしい。

 ケチチアンによれば、過去数年の死刑執行に関する統計を見ると、サウジアラビア政府が年間の斬首刑執行数を一定のレベルに維持していることが分かる。今年の斬首刑執行数はまだ昨年の総数(79件)に達していないから、これから執行のペースは再び上がるだろうとケチチアン指摘する。

「あくまでも推測でしかないのだが」と、ケチチアンは言う。「今年はゆっくりしたペースで始まり、ラマダンが終わると急に増えた。1カ月以上の間、1日1件執行された。私の推測では、メッカ巡礼の期間に続くイスラムの謝肉祭が終われば、政府は目標とする年間執行数を消化しようとするだろう」

 サウジアラビアの豊かな原油と、その戦略的・軍事的な重要性から、アメリカもEUも現体制を強力に支持している。だから恐ろしい時代遅れの公開処刑にも、表立っては苦言を呈さない。ジョン・ケリー米国務長官は9月にサウジアラビアを訪れて、ISISに対する有志連合を結成するためにアラブ各国の外交官と話し合ったが、人権侵害の話題には触れなかった。

 しかし、これは明らかなダブルスタンダードだ。サウジアラビアの地政学的なライバルであるイランに対しては、アメリカの政治家はよく人権侵害を非難する。だが実のところ、イランの政治過程はサウジアラビアよりもはるかに民主的だ。

 ではなぜ、サウジアラビアには目をつぶるのだろうか。ISISの斬首はおぞましいが、サウジアラビアの場合は見て見ぬふりだ。

「ISISの行為を非難するサウジアラビアが、自分の国では残酷な刑罰の執行を認めていることには矛盾がある」と、レバノンの首都ベイルートにあるカーネギー中東センターのリナ・ハティーブは言う。

「自国の囚人には死刑を宣告する一方で、サウジアラビア政府はISISの暴力を非難する声明を出している。つまり、彼らが非難しているのは暴力そのものではなく、その合法性の欠如だということになる」と、ハティーブは言う。要するに「国家による暴力は許されるが、国家ではない主体の暴力は許されないということだ」。

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量刑は裁判官の自由裁量

 斬首刑を適用されるのは殺人犯だけではない。大半は不倫や「魔術の使用」、あるいは麻薬関連の罪だ。8月には「麻薬の受領」で4人が処刑された。

「死刑は犯罪だ。あとで冤罪と分かっても、間違いを正すすべがない」と言うのは、ヒューマン・ライツ・ウォッチのアダム・クーグルだ。「本当に取り返しがつかない」

 サウジアラビアには近代的な刑法がなく、刑の宣告はたいてい裁判官の自由裁量に任されている、とクーグルは言う。今年、斬首刑を執行された59人のうち、20人は麻薬密売の罪に問われた人々だ。

 匿名を希望するある活動家によれば、こうした死刑囚は「麻薬の大物売人ではなく、麻薬の所持で捕まった人たちだ。サウジアラビアの南部はイエメンに近く、政府に反感を抱く住民も多いため、当局は特に神経をとがらせており、麻薬の密輸も厳しく取り締まっている」。

 斬首される人の多くはサウジアラビア国民だが、その他の中東諸国の出身者もいるし、パキスタンからやって来た密輸業者もかなりの数に上る。

 強盗、殺人、麻薬、児童性愛に加えて、斬首刑に処せられるもう1つの犯罪カテゴリーは政治犯だ。11〜12年に立ち上がったシーア派住民のように、政府に抗議したり、改革を要求した活動家たちの場合、刑の宣告から処刑まで待たされる苦痛に満ちた期間は数カ月、時には数年に及ぶ。

 12年7月に逮捕されたシーア派の聖職者ナムル・アルニムル師も、処刑を待つ政治犯の1人だ。裁判所は、演説で暴力を誘発し、シーア派住民の多くが住む東部行政区で起きた騒乱をあおったという理由でアルニムルに死刑の判決を下した(彼の18歳未満の甥も斬首刑を宣告されている)。

 サウジアラビアは欧米にとって、ISISとの戦いにおける重要な同盟国だ。だからといって残忍な公開処刑を見て見ぬふりでいいのだろうか。

「アメリカをはじめ先進諸国が、ISISの蛮行を含めたアラブ地域における人権侵害を本気で問題視していることを知らしめたいのなら」と、アムネスティのケチチアンは言う。「同じ基準を、最も親しい同盟国にも適用しなければならない」


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