02. 2014年12月25日 22:10:01
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油価で読み解くロシアの将来、プーチン次の一手は アジア太平洋地域との協調を模索、欧米との関係も強調 2014年12月25日(Thu) 杉浦 敏広 本稿では、現代ロシアを読み解くカギとなる油価とウラジーミル・プーチン大統領の大統領年次教書に言及したいと思います。 油価下落と正比例してロシアの通貨ルーブルが急落していますので、まず油価とロシア経済、および国家予算案の関係を考察してみたいと思います。大統領年次教書に関しては、今回は要点訳出のみにとどめ、追って詳細な分析に入りたいと思います。 筆者は2012年7月に、下記の通りご報告致しました。 油価で読み解くプーチン・ロシア 2014年、ルールブックを破ったロシアのプーチン大統領 ウラジーミル・プーチン大統領〔AFPBB News〕 では、今後のプーチン政権の行方を占ってみたいと思います。直近の1〜2週間では、米WTI(西テキサス原油)先物油価は1バレル85ドル前後、北海ブレント先物油価は100ドル前後で推移しており、7月13日のWTIは87.10ドル、ブレントは102.40ドルにて取引終了しました。 ロシアの2012年度期首予算案は1バレル100ドル前提、期中で115ドルに上昇修正。100ドル以上の国庫収入は全額、露準備基金に繰り入れる予定ですが、100ドルを割ると、予算執行に支障をきたします。 今年3月5日付米ウォールストリート・ジャーナル紙は、プーチ大統領が大統領選における選挙公約をすべて実行するためには、油価バレル150ドル必要と報じています。実際問題として、プーチン大統領自身、「油価バレル100ドル以下になれば、予算見直しが必要」と発言しております。 では、来年2013年度の露予算原案の想定油価はいくらでしょうか? 露財務省原案の油価想定はなんと、1バレル82ドルです。これでは、プーチン大統領の公約実現は画餅に帰すこと間違いありませんね(中略)。 油価がバレル100ドル以上を維持する限り、プーチン大統領のエネルギー政策はある程度、実現可能でしょう。しかし、100ドル以下の趨勢ともなれば、すべては画餅に帰すでしょう。 上記より、プーチン政権の行方は今後の油価次第となります。 上記を報告してから約2年半が経ちましたので、今回は『油価で読み解くプーチン・ロシア(パート2)』をお届けしたいと思います。 ロシア経済を支える油価 最初に、ロシア経済を支える油価推移を概観します(図1)。 ロシア経済はプーチン大統領代行が大統領に就任した2000年以降、原油・ガスを中心とした資源エネルギー価格の上昇と輸出拡大、好調な内需に支えられて成長してきました。 パイプライン輸送によるロシアから欧州向け天然ガス輸出価格は油価連動型価格フォーミュラになっています。油価連動型ですから、約半年間のタイムラグはありますが、油価が上がればガス価格も上がり、油価が下がればガス価格も下がります。 油価上昇場面では、ガス価格も上昇します。 油価連動型価格はけしからんとの論調が一時期日本のマスコミにも横溢しましたが、これは欧州の大手ガス需要家がロシア側に提案した契約条件です。ロシア側が欧州の需要家に押しつけた条件ではない点、我々は理解する必要があります。さもないと一部評論家の論調のように、「ロシアはけしからん」になってしまいます。 現在は油価下落の局面です。これが何を意味するのかと申せば、今後ロシアから欧州向け天然ガス輸出価格が下がることを意味します。するとたちまち、油価連動型ガス価格契約はけしからんの論調はなりを潜めてしまいました。 出所:ロシア連邦国家統計庁 欧米による対露経済制裁措置が長引けば、原油・天然ガス生産にも影響必至となりましょう。2000年代前半は、エネルギー価格高騰・ルーブル切り下げを追い風に、ロシアは石油・ガス輸出によって得られる外貨を収益源に発展してきました。
原油・石油製品・ガスの輸出額合計が総輸出額に占める割合は、1992年の約46%から2013年の約65%へと拡大しています。世界金融危機の発生に伴い原油価格は2008年後半から大きく下落しましたが、2009年第1四半期を底として再び上昇に転じました。 しかし、2010年以降は原油価格が高止まりしており、実質GDP成長率の伸び方も緩やかになっています。2009年は主要な輸出先である欧州経済低迷の影響を受け、ロシアの実質GDP成長率は前年比▲7.8%と大幅なマイナス成長となりました。 しかし2010年には対前年比+4.5%とプラスに再び転じ、2011年は+4.3%、2012年は+3.4%となりましたが、2013年の実質成長率は+1.3%となり、成長率は鈍化しました。 2013年秋から始まったウクライナ紛争や2014年3月のクリミア半島の対露併合を巡る露・欧米との関係悪化・対立激化により、欧米は対露経済制裁措置を発動し、ロシア経済は打撃を受けています。 さらに、最近の油価下落により、天然資源依存型露経済は大きな打撃を受けており、2014年は実質ゼロ成長(あるいはマイナス成長)の見込みとなりました。 油価と国家予算 ここで、油価とロシア国家予算の関係に言及したいと思います。まず、今年2014年のロシア国家予算案を概観します。 ロシア国家予算案は、下院が採択し、上院が承認し、大統領が署名して発効します。2014年の予算原案は2013年11月22日に下院が採択して、11月27日に上院が承認して、プーチン大統領は2013年12月2日、2014〜2016年のロシア連邦予算に関する法案に署名して、発効しました。 2014年〜2016年の国家予算概要は下記の通りです(想定油価は過去5年間の平均価格) 赤字額として、2014年に約4000億ルーブル(約120億ドル/GDP比0.5%)、2015年に約8000億ルーブル(GDP比1%)、2016年に約5000億ルーブル(GDP比0.6%)を見込んでいました。
国家予算の前提となる過去5年間の平均油価は2014年1バレル93ドル、2015と2016年は95ドルに設定されていますが、単年度としての油価は各年度とも100ドルと想定されております。 ちなみに、ロシアの代表的油種であるウラル原油の2012年平均輸出油価は110ドル、2013年108ドルでした。2014年1〜10月度平均輸出油価は103ドル(前年同期比▲4.4%)ですが、2014年10月度は86ドル(同▲20%)になりました。 次に、2015年以降のロシア国家予算案と予算案の基礎となる油価を概観したいと思います。 プーチン大統領は2014年12月3日に2015年度国家予算案に署名しました。この予算案は下院が11月21日採択、上院が11月26日承認してプーチン大統領に提出され、12月3日に署名され発効しました。 2015年度は歳入15.1兆ルーブル、歳出15.5兆ルーブル、赤字額はGDP比0.6%、想定インフレ5.5%、対米ドル38ルーブルとなっていますが、問題は想定油価です。 2015年の単年度想定油価は1バレル100ドルですが、予算案策定の基礎となる想定油価は96ドル(過去5年間の平均油価)に設定されています。 ロシアのアントン・シルアノフ財務相は2014年11月24日、対露経済制裁措置による2014年のロシア経済の蒙った損失は約400億ドル、油価下落による損失は900億〜1000億ドルと述べており、11月26日の上院への説明では、直近の油価下落により予算赤字額は1兆ルーブル以上になるだろうと説明しています。 同相の説明により、ロシア経済にとっては欧米の対露経済制裁措置強化よりも油価下落の方が影響大であったことが分ります。なお、プーチン大統領は署名直後の12月5日、大統領令にて5%以上の歳出削減を政府に指示しました(ただし、治安・国防費は除く)。 一方、世界銀行は2014年12月2日にロシア経済予測を発表しました。2日の予測では、2015年のロシア経済は零成長(想定油価85ドル)、2016年は+0.5%(同90ドル)でしたが、その後の油価急落を受け、1週間後の9日には再度経済予測を下方修正しました。 修正後の2015年ロシア経済成長率は▲0.7%(同78ドル)と▲1.5%(同70ドル)、2016年は+0.3%(同80ドル)となりました。 では、ロシアではなぜ1バレル100ドルの想定油価のまま予算案が採択されてしまったのでしょうか? ロシア経済発展相省は2014年9月26日、2015年以降の予算原案作成の基礎となる経済予測を下記表1の通り発表しました。 ロシア経済発展省は11月末に単年度想定油価を80ドルに変更しましたが、国家予算案では単年度100ドルのまま審議され、採択された次第です。
しかし最近の油価下落傾向に伴い、国家予算の前提となる想定油価の見直しも十分考えられます。既にそのような動きも出ており、油価下落は対露経済制裁以上に、ロシア経済と国民生活に大きな悪影響をもたらしています。 ちみに、アゼルバイジャンの2015年度国家予算案の基礎となる想定油価は90ドル、カザフスタンでは80ドルですが、両国とも想定油価が高すぎるとして予算案見直しを検討中です。 ロシア経済のアキレス腱 最近の油価急落により、通貨ルーブルも下落しています。ルーブルは2014年に入り約50%下落しており、ロシア中銀はルーブル買い支えのため2014年10月には約250億ドルを拠出しました。 その結果、ロシアの金・外貨準備高は大幅に減少し、12月1日現在では4190億ドルとなり、年初(5100 億ドル)と比較して約900億ドルの金・外貨準備高の減少となりました(図2)。 出所:ロシア中央銀行 ロシアは2014年11月10日にはついに変動為替相場制に移行しましたが、その結果、ルーブルはさらに下落してしまいました。
ロシア国家歳入に占めるエネルギー部門からの税収は全体の半分以上を占めており、天然資源依存経済構造からの脱却が焦眉の急となっています。 プーチン大統領が2012年の大統領選で掲げた社会保障の充実などの選挙公約を実現するには、膨大な財源が必要となります。 2011年と2012年には国際石油・ガス価格高騰の恩恵に浴したのですが、その後原油・ガス生産は伸びず、油価も下落傾向の今日、ロシア財務省が目指す財政均衡はますます厳しい状況となりました。この油価こそロシア経済発展の原動力であり、かつアキレス腱と言えましょう。 プーチン大統領/年次教書発表 このような苦しい経済状況の中でもプーチン大統領は従来のばらまき政策を大きく変更することなく、2014年12月4日に第3期3回目の大統領年次教書を発表しました。 今年の年次教書の特徴は、例年必ず石油・ガスプロジェクトに言及しているのですが今回はほとんど言及なく、ロシア国家の生立ちから入り、クリミア編入を正当化している点です。 また、プーチン大統領はウクライナ危機の原因は2014年2月の国家クーデターであるとの見解を再度強調しました。 付言すれば、大統領年次教書のロシア語全文は国民に語りかける口語調であり、平易ですが、内容は高尚です。では、プーチン大統領発言の主要部分のみ訳出してみます(筆者仮訳)。 ●我々は今年、成熟した一枚岩の国民と真の主権国家、強い国家でなければ耐えることができなかった試練を一致団結して乗り越えました。ロシアは我らが同胞を擁護し、真実と正義を実現する能力があることを立派に証明したのです。 ●本日は、今年起こった歴史的事件に触れないわけにはいきません。ご承知の通り、今年3月にはクリミアで国民投票があり、クリミア半島に住む住民はロシア連邦への帰属を表明。その後、クリミア議会の帰属賛成決議がありました。すべて合法です。かくして、クリミアとセヴァストーポリはロシアに歴史的復帰を果たしました。 ●クリミアとセヴァストーポリの歴史的復帰はロシア国家とロシア国民にとり、特別な意義を持っております。なぜなら、クリミア半島で暮らしているのは我らが同胞であり、クリミア半島という領土自体が我々にとっては戦略的に大変重要なのです。 また、多様ではありながらも一枚岩のロシア民族と中央集権国家ロシアの精神的根源がここに存在するからです。まさにここクリミア、古代ケルソネスで、またロシアの年代記編集者がコールスンと命名した土地でヴラジーミル公は洗礼を受け、その後全ロシアを洗礼しましたので、(クリミアは)ロシア人にとっての聖地なのです。 ●イスラム教徒やユダヤ教徒にとりエルサレムの神殿が神聖な価値を持っているのと同様、ロシアにとりクリミア・古代コールスン・ケルソネス・セヴァストーポリは大きな文明的、かつ神聖な意味を持っているのです。我々は現在もまた未来永劫に、クリミアに対してはそのように対応します。 ●キエフで今年2月に起こったことは武力による国家クーデターです。今ウクライナで起こっていることとウクライナ南東部の悲劇は、我々の考え方が完全に正しかったことを証明しています。 ●今重要なことは、策を弄することではなく、空疎な約束を喧伝することでもなく、ウクライナ経済を支援することです。ロシアはウクライナを実質的に支援してきました。 ●(欧米の)対露経済制裁は昨日・今日思い付いたものではありません。“クリミアの春”に対する対応でもありません。今回の対露経済制裁がなかったとしても、成長するロシアの可能性を抑止するために、何か別の制裁口実を考えたにちがいありません。 ●武力を背景にロシアと交渉しようとしても、それは無駄です。ロシアに対する軍事的優位性を達成することは誰にもできません。我々は自由を守るための力も意志も勇気もあります。 ●我々の目標は、西側でも東側でも、できる限り多くのパートナーを獲得することです。我々は欧米との関係を断絶するつもりはありません。 ●国外に逃避した資本がロシアに戻る場合、あらゆる意味でその出自を問わず、完全な恩赦を約束します。 ●我々はアジア太平洋地域が大きく発展している姿を目の当たりにしています。ロシア極東の発展が必要です。極東のウラジオストク港に自由貿易港の地位を提案します。北洋航路の発展も必要です。ロシアの太平洋沿岸地域の活性化と北極圏開発を推進します。 上記が、筆者が重要と考えるプーチン大統領の発言要旨ですが、近いうちにより詳細にご報告させて戴きたいと思います。 http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/42531
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