04. 2014年12月19日 07:01:50
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オバマケアの問題は日本にとって対岸の火事ではない 『沈みゆく大国―アメリカ』の著者、堤未果氏 に聞く 2014年12月19日(金) 石黒 千賀子 『沈みゆく大国 アメリカ』 ジャーナリストである堤未果氏の新書『沈みゆく大国 アメリカ』が11月14日の発売から1カ月足らずで4刷りが決まるなど話題だ。テーマはオバマ政権が、共和党の反対を押し切って導入したオバマケア(医療保険制度改革)――。先進国でありながら医療の皆保険制度が存在しない米国でようやく実現したはずの医療皆保険制度だったが、その実態は格差拡大を一層悪化させ、既に疲弊している米中間層を「消滅させる最後のトドメ」となりつつあると著者は指摘する。 何より問題は、この医療を商品化してしまった米国発の大きなうねりは今、日本をも巻き込もうとしている点だ、と警告する。堤未果氏にそのエッセンスを聞いた。 (聞き手は石黒 千賀子) 恥ずかしながら堤さんの『沈みゆく大国 アメリカ』を読んで初めて知ったのですが、オバマケアの実態は凄まじくひどいですね。
堤氏: はい、ひどいありさまです。日本の医療制度は、社会保障制度に裏打ちされた国民皆保険制度ですが、オバマケアの最大の問題は、民間の皆保険制度になっている点です。つまり、医療を「商品」にしてしまっている民間の保険会社が提供する保険に入ることを「義務」づけてしまったということです。すると、どうなるか――。 医療保険、保険料が上がったのに内容は悪化 堤 未果(つつみ・みか)氏 東京都生まれ。高校卒業後、米国に留学、ニューヨーク州立大学国際関係論学科卒業。ニューヨーク市立大学大学院国際関係論学科修士課程修了後、アムネスティ・インターナショナルなどを経て米野村證券に勤務するが、2011年の米同時多発テロをきっかけにジャーナリストに転身。2001年以降は、米国と日本と行き来しながら執筆、講演活動を続けている。 2006年に『報道が教えてくれないアメリカ弱者革命』で黒田清日本ジャーナリスト会議新人賞を受賞、2008年に『ルポ 貧困大国アメリカ』で日本エッセイスト・クラブ賞と新書大賞を受賞。2011年には『政府は必ず嘘をつく』で早稲田大学理事長賞を受賞するなど、著書は多数。夫は、参議院議員の川田龍平氏。 (写真:村田和聡、以下同じ)
オバマ政権は、保険会社が既往歴などを理由に加入を拒否することを違法化した上に、HIV(エイズウイルス)の検査や大腸検査、妊婦健診といった予防医療から薬物中毒カウンセリング、小児医療など10項目の医療の提供を保険商品に含めないと「違法だよ、必須条件だよ」としたために、保険商品としてのパッケージが大きくなってしまいました。すなわち、多くの人にとって毎月支払う保険料は高くなってしまったわけです。 保険料が多少高くなっても、保険でカバーされる検査や治療の範囲がその分、大きくなるのであれば望ましいとも言えますが、実態は全く異なります。保険料が大幅に上がったのにカバーされる範囲は大幅に減る、あるいは同じ内容の保険に入るのに従来の2倍の保険料を支払わなければならなくなったといった信じがたいケースが多発しているのが実態です。 本に、50代の女性が激怒しているケースが出てきます。確かに彼女が今後、妊婦医療や薬物中毒カウンセリングを受ける可能性はなさそうですし、ほかの条件は悪くなったのに従来より高額の保険料の保険を夫と買わされることになったのでは、怒るのは当然かと… 堤氏:はい、彼女の場合、夫と一緒に加入していた従来の保険では、月々の支払いが600ドル(約8万3000円)、保険会社から保険金が出る前の免責額(患者側の自己負担額)が4000ドル(約47万円)、診療窓口での負担が毎回20ドル(約2300円)で、処方薬の自己負担額が1回40ドル(約4700円)というものでした。 しかし、オバマケア導入されて多くの保険会社は、既存の保険プランはオバマケアの必須条件を満たしていないという理由で廃止しました。彼女の入っていた保険も廃止されたために、新たな保険に入ることを余儀なくされたわけです。 ところが、家計に余裕がないことから月々の保険料が同じ600ドルの商品を選んだところ、免責額は4000ドルから6000ドル(約71万円)に引き上げられたうえ、処方薬が従来の定額払いから、種類によっては毎回薬の40%が自己負担になるというものでした。薬価が高いアメリカにおいて、これは大変な負担増です。 怒った彼女が思わず「こんな保険を買ってお金をどぶに捨てるより、病気になってから(保険を)買うわよ」と言うと、窓口の人に「保険に入らなければ、来年から国税庁に罰金を払うことになりますよ」と言われる――打ちのめされるというか、もう逃げ場もありません…。 全米、半分の州で保険料は上がった 堤氏:そうです、オバマケアは民間の医療保険を「購入する」ことを「義務」づけましたから。所得が低く、一定条件を満たしていれば、処方薬などに対して政府から一定の補助金をもらえますが、彼女たちの場合、年間所得が6万5000ドル(約770万円)と受給条件を超えているため、補助金は1セントももらえません。 オバマケアが導入されて、膨大な数の人が従来よりずっと条件の悪い保険を自分たちの意思と関係なく買わされることになりました。米調査会社マンハッタンインスティテュートの調査によると、約半数の州で保険料が大幅に値上がりしています。 本にも書きましたが、全米50州のうち45州は、保険市場の50%以上が1社か2社の保険会社に独占されています。つまり、オバマ政権は、オバマケアの導入によって保険会社による企業間競争が活発になり、保険料が抑えられる、などと喧伝していましたが、実際にはそんな事態はほとんど起きていないということです。 オバマケアは中間層に大打撃 その1:リストラされる正社員 営利を追求することを目的とした民間企業が、様々なリスクを抱える人たちを保険でカバーするとなると、いかなる事態を招くかをまさに浮き彫りにしたと言えそうですね。 堤氏:その通りです。問題は、中間層にそのしわ寄せが最もいっているという点です。従来のより条件の悪くなった保険を買わされているとだけではなく、オバマケアはほかの面でも中間層に厳しい事態をもたらしています。2つあるのですが、1つは、オバマケアが結果として、企業による正社員数の削減を促進してしいる、という点です。 オバマケアの導入で企業が負担する医療保険料も高くなってしまったということですね。 堤氏:そうです。これまでアメリカでは、国民の3人に1人が雇用主を通した医療保険に加入していました。つまり、まともな企業は、民間の医療保険を自社の従業員に対して提供していたわけです。ところが、さっきも言いましたが、オバマケアが施行されて以降、10の必須条件を含んでいない保険がどんどん廃止され、その代わりに保険会社が提供するようになった保険のほとんどは、保険料が高くなっています。 保険料は会社側と従業員の双方で負担するわけですが、その高くなった保険料に対応しきれない企業が増えているんです。企業に残された選択肢は、保険をやめて政府に罰金を支払うか、リストラして正社員の数を減らし、非正規のパートタイマーを増やすことで保険料の負担を減らすかです。罰金は毎年、払わなければなりませんから、当然、正社員数の削減ということになる。 非正規であれば、企業は医療保険を提供する義務がなくなる? 堤氏:そうです。1週間の労働時間として30時間(1日8時間、週5日)働く正社員には保険を提供する義務が生じるので、正社員をパートにして1週間の労働時間を30時間未満にする。フルタイムの正社員を解雇して、パートタイマーを2人雇えば、パートタイマーは福利厚生の対象ではないので、理論上、仕事はこなせて、会社として負担する人件費は減ることになります。従って大企業から中小企業はもちろん、大学など様々な組織が猛烈な勢いで正社員の数を減らし、パートタイマーに替えているのです。 イエレンFRB議長が「雇用の質」にこだわる理由 世界的に見れば米国経済は現在、好調です。FRB(連邦準備理事会)はそのため、今年10月で量的緩和を終えて、来年はどこかで金利引き上げに踏み切るとされていますが、イエレンFRB議長は金利の引き上げには「雇用の質に十分に注意する必要がある」とかねて発言している背景には、こうした正社員が減ってパートタイマーが増えている問題も影響しているのかもしれません。 堤氏:そうかもしれません。オバマケアが導入されると決まった当初は、「企業に医療保険の提供を義務づけることは弱者救済につながって素晴らしいことだ」「オバマ大統領は企業の首根っこをがっちり掴んだ」というイメージが国民の間に広がり、みんなオバマケアに大きな期待を持ちました。企業がオバマケアの導入によって、よもや人員削減に動くとは想定していなかったのです。 日本の以前の労働者派遣法の強化に似ていますね。派遣社員を3年以上雇うのであれば正社員にするよう企業に義務づけたら、3年で派遣スタッフをクビにする企業が続出しました…。 堤氏: 競争がますます激化する中で、企業も生き残りがかかっているだけに、やはり政府が企業に対して「賃上げをしろ」とか「保険に入れ」というのは難しい。無理があるということです。 米国ではそれでなくても金融危機以降、正社員の仕事がなかなか増えないなど中間層にとっては逆風が続いているわけですが、オバマケアの導入がその逆風に拍車をかけるというのは想定外だった…。 オバマケアは中間層に大打撃 その2:財源は中間層への21もの増税 堤氏:そうです。しかも、オバマケアの最大の目的は、これまで医療保険をもたなかった無保険者たちに保険証を配り、米国に皆保険体制を築くことでしたが、その財源を中間層に対する大増税によって実現させたという意味でも問題が大きい。これが、オバマケアが中間層に与えた打撃が2つあると言った2つめの問題点です。どういうことか。 ご存じのように、米国では低所得者については公的な医療保障制度、「メディケイド」があります。ただ、メディケイドは、所得が少ないだけでなく、子どもがいない人は不可、貯金も資産も使い切らないと受けられないなど、加入条件が厳しい。 そこでオバマケアでは、子どもがいるか、資産規模や口座チェックという条件を廃止して、収入の要件も貧困ラインの33%増まで引き上げて、年収部分さえクリアすればメディケイドを受給できるようにしました。その結果、かつて正社員だったもののパートタイマーにならざるを得なくなった人や、従来から無保険者だった人など実に3000万人もの人が新たに税金で補助される形で保険の加入者となれたわけです。 保険会社にとっては、税金に支援された形で3000万人分の莫大な保険料が新たに入って来ることになったわけですから、こんなに嬉しい話しはありません。しかし、オバマ政権はこの保険料を賄う財源を確保するために、中間層に対して所得税など21項目もの増税と高齢者向け公的医療保険制度である「メディケア」の予算を削ることで捻出したのです。 米国人の大半がオバマケアの実態をまだ理解していない 不思議でならないのが、どうしてそのような法案が議会を通過するのか、という点です。 堤氏:ちなみにオバマケアの法律は3000ページにも上ります。そこへさらにオバマ大統領が1万ページも加筆しています。私も今回、大事なところだけを弁護士さんなどに聞きながら読みましたが、極めて複雑で分かりにくい。 実際、カーネギーメロン大学のジョージ・ローウェスタイン教授(専門は行動経済学)が行った調査の結果によると、オバマケアについて「よく理解しているアメリカ人」は14%しかいないとのことです。アメリカの人はオバマケアの実態をまだよく分かっていないわけで、これから真の姿を知っていくということです。 すべての元凶は米国の政治資金法 さらに理解できないのは、オバマ大統領はなぜこんな医療保険を導入したのか、という点です。2008年の大統領選で、全米国民に医療保険を提供する医療保険制度改革を公約に掲げていました。今回導入されたオバマケアがオバマ大統領が望んでいた医療制度改革なのでしょうか 堤氏:質問の意味はよく分かります。最大の問題は、オバマ大統領にある、というより、米国の政治資金法に問題があるのです。これが、今の米国の政治が抱える本質的問題の元凶といっても過言ではありません ちなみに2012年にオバマ大統領が再選されたとき、大統領選に使われた選挙資金の額をご存じでしょうか。 いえ、何百億円規模のお金が動いたのでしょうか。 堤氏:1900億円です。それだけのお金を集めないと今は米国の大統領にはなれないということです。しかし、それだけの資金を集めるには個人から1000円、1万円と集めていたのでは足りません。産業界、経済界からもらわないと厳しい。 ヘルスケア業界というのは、米国の様々な業界の中でも最も政治力を持つことで知られています。献金する額が最も多い、突出しているということです。しかも、彼らは豊富に資金を抱えているだけに、民主党と共和党のいずれが勝ってもいいように、両方に賭ける、つまり、両方に莫大な金額を献金するわけです。 2009年1月、オバマ氏が大統領に就任する時、私もワシントンDCまで行きました。多くの人がオバマ大統領なら格差の広がる米国を変えてくれるとの大きな期待を抱き、その感動から涙を流しながら彼の就任式を見ていました。私も高まる気持ちを抑えきれず、涙を流したのを今も覚えています。 ただ、就任後、オバマ大統領への献金のランキングリストを見て、ヘルスケア業界から20億円ももらっていたことを知りました。これだけの額の献金をもらって、どうやってヘルスケアの業界と戦いながら医療の皆保険制度を導入するのか――疑問に思って、取材を始めたのが今回の本を書くきっかけでした。 結局、ヘルスケア業界の利権にはメスを入れられないまま、米国民に民間の医療保険に入ることだけを義務化したわけです。さらに問題なのは、オバマ氏は、米国政府が以前手放してしまった政府による医薬品メーカーとの薬価交渉権を取り戻すとしていたにもかかわらず、医薬品業界がオバマケアの導入には反対しないことを条件に薬価交渉権の奪回をあっさりあきらめてしまいました。2008年の大統領選の時には奪回すると公約に掲げていたにもかかわらず、です。 薬価交渉権なしの結果、1錠12万円の薬が登場 これも本を読んで衝撃を受けたのですが、米国政府が薬価の交渉権を持たないからなのでしょうか。今年8月、米国で保険適用薬として承認された効果が素晴らしいとされるC型肝炎の新薬「ゾバルディ」の価格は1錠が1000ドル(約11万円)、1クール12週間で8万4000ドル(約990万円)と書いてありました。そんな金額を払えるのは、ごく一部の富裕層だけでしょう。 堤氏:そうです。いくら米国民が民間の皆保険制度に入っているからとはいえ、入っている保険によって、つまり負担する、負担できる保険料に応じて、様々な条件が付いているわけです。保険適用の対象となる薬も限られ、一部の薬を除いては自己負担になっているというケースが多々あります。従って、高額な薬を実際に手にできる患者は限られます。 自分の収入あるいは持っている資産の規模に応じた医療しか受けられないというのが、医療を「商品」してしまった米国が今、直面している現実です。 しかも、本にも書きましたが、今の米国の病院や医者は、メディケイドの患者を診た場合、診療報酬額をフルに支払ってもらうことができません。診れば診るほど、開業医にとっても大手の病院にとっても、それだけ「持ち出し」が増えてしまうということです。従って、メディケアの患者は診ないという医者や病院が出てきています。つまり、形の上では米国民は皆、医療保険に入れたものの、メディケアに入っている人は実際には診てもらえる医者がいないという事態にも直面する可能性が高いのです。 はい、本に、メディケイドのために米国のお医者さんや病院がいかに厳しい経営を迫られているかが書いてありました。診てあげたくても診られない、、、、 米ヘルスケア業界は日本に熱い視線、「医療」の「商品化」の波が来る 堤氏:米国の現状は、まさに「命の沙汰も金次第」ということです。しかし、私が今回の本で、何より訴えたかったのは、こうした問題は何も米国に限った話しではなくなりつつあるという点です。米国市場をある意味、制覇した米ヘルスケア業界は、アジアにおける最も裕福な国である日本の市場を次のターゲットとして狙いを定めているということです。 実際、今回の本を書くために取材した米国の金融関係の人の中には、「日本の現在の医療費は39.3兆円でGDP(国内総生産)比では米国の半分だが、医療の経済特区などができて米国並みになれば、80兆円、いや100兆円の市場が見込める」などと日本市場を有望視している人が少なくありませんでした。
現在進めているTPP(環太平洋戦略的経済的連携協定)の交渉でも当然、議題に上がっていそうです。 堤氏:そう思います。そもそも日本は、TPP交渉を本当に継続する価値があるのか見極める必要があります。12月3日に「ツィッター」でも発信しましたが、米農務省がこのほど、TPPで関税を全部撤廃して、規制緩和を行った場合とそうしなかった場合のそれぞれの交渉参加国の2025年までのGDP伸び率の差を試算して発表したのですが、5カ国(編集部注:オーストラリア、カナダ、シンガポール、米、ペルー)の場合、違いはゼロです。日本はもGDP伸び率は0.02%しか増えない、とある。それならやらない方がましではないかと思います。 その数字が事実ならそうですね。米国は環太平洋でTPP交渉を進める一方、欧州ともFTA(自由貿易協定)のTTIP(環大西洋間・貿易・投資パートナーシップ)を結ぶべく交渉を進めています。しかし、英国もTTIPが成立すれば、自国の国営医療サービス(NHS)が米国の保険会社に乗っ取られるのではないかと警戒感を強めている、という記事が英誌「エコノミスト」や英紙「ガーディアン」に載っています。 医療の持ち株会社化を認める安倍政権の「国家戦略特区」 堤氏:日本だけではなく、アメリカは欧州にも狙いを定めている…つまり、米国発の強欲資本主義の拡大は止まるところを知らないということでしょう。 日本で私が懸念しているのは、安倍晋三政権は今年6月に閣議決定した成長戦略の中で、医療・介護などを一体的に提供できるように、グループを束ねるホールディングカンパニーのような持ち株会社型の法人制度の導入を決めたり、医療分野の規制緩和を図るための「国家戦略特区」を作ったりと、「医療」を米国のように「商品化」する動きを着々と進めている点です。 ホールディングカンパニー型法人というと、これまで病院は医療福祉法人しか経営を認められてこなかったのが、企業が病院経営にかかわることが可能になるということでしょうか。 堤氏:そうです。資金調達や仕入れをグループでまとめることで運営を効率化して医療費の伸びを抑えるという狙いがあるようです。米国でも近年、大手のファンドなどが病院をどんどん買収してチェーン化する動きが加速しています。確かにうまくいっている時は医療費の削減につながりますが、赤字が出たりすると、何しろ企業ですから株主のために利益を出すことが最優先されるため、採算が取りにくい小児科や産婦人科はやめます、というような事態になり、地域医療が崩壊するケースも出てきています。 企業が病院を経営するというのは、医療を「商品化」する危険が高まるという意味でもちろん注意を払うべきです。特に米国のヘルスケア関連企業が日本の医療関連市場に熱い視線を注いでいる中ではなおさらです。 医療分野に参入してくる企業が外資となると問題はさらに深刻です。外資というのは、国会の証人喚問にも呼ぶことができません。このことは、国会が日本の国民を守る力を失うということにもなりかねません。彼らの動きを規制することもできなくなる可能性があります。 日本初のヘルスケアREITも登場 もう一つ最近の気になる動きは、この11月5日に、ついに日本でも初めて「ヘルスケアREIT(上場不動産投資信託)」が上場されたことです。日本初の今回のヘルスケアREITの当初の運用規模は90億円で、全国8カ所の有料老人ホームに投資しているとのことです。世間的には、高齢化社会を民間資金で支える新たな枠組みとして期待が高いかのように報道されていますが、果たして本当に素晴らしいものだけかどうかは注意を持って見守る必要があると思います。 政府は、今年度中にREITによる病院の取得も認め、そのための運用指針をつくる方針のようですが、これも「医療」の「商品化」にほかなりません。 「商品」となった瞬間、「利益を生むか」どうかがすべての判断基準となります。日本の国民は皆、これまでは所得の大きさに関係なく、公的な国民皆保険制度によって医療を受けることが保障されてきました。世界でも高く評価されているこの皆保険制度を守り続けるのか、私たち日本人は今、大きな岐路に立ちつつあると言えます。 「知らない」ということは極めて危険です。TPPを含め、医療を巡る動向を自分たちの問題として注視していくことが大事です。 このコラムについて キーパーソンに聞く 日経ビジネスのデスクが、話題の人、旬の人にインタビューします。このコラムを開けば毎日1人、新しいキーパーソンに出会えます。 http://business.nikkeibp.co.jp/article/interview/20141217/275278/?ST=print |