05. 2014年12月04日 07:32:14
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賢明な賭か? 倫理の欠如か? ウクライナ国債の半分を保有するトレーダーの戦略 アイルランド国債で大儲けを実現 2014年12月4日(木) The Economist 第2次世界大戦が勃発した時、ジョン・テンプルトン卿はある賢明な賭けを行った。同氏は、世界有数の資産運用会社であるフランクリン・テンプルトンの創立者の1人だ。投資のための絶好のタイミングは「悲観論が頂点に達した時」との信念を抱いて、ニューヨーク株式市場に上場されている銘柄のうち、株価が1ドル以下だった全銘柄の株を買ったのだ。その中には破産状態にあった34銘柄も含まれていた。1945年に戦争がようやく終結した時、テンプルトン氏はそれらの銘柄を売却し、400%の売却益を得た。
そんなテンプルトン氏の理念を引き継いでいるのが、マイケル・ハッセンスタブ氏だ。現在、フランクリン・テンプルトンで1900億ドル(約22兆5360億円)に上る国債の運用を担っている。同氏の口調は穏やかだ。落ち着いており、人前にもあまり出たがらない。「債券王」と呼ばれるビル・グロス 氏とは対照的な人物である。だが、運用成績では全く引けを取らない。ハッセンスタブ氏が運用する中核ファンドは過去10年にわたり、年率8%のリターンを上げてきた。これは、国債に投資するファンドの平均リターンの2倍に達する。 ウクライナ国債の半分を保有 逆張りスタンスで大規模なポジションをとることがハッセンスタブ氏の特徴だ。2010年以降、ハッセンスタブ氏はウクライナ国債に積極的に投資。今や、海外投資家が保有する外貨建てウクライナ国債の発行残高160億ドルのうち88億ドルを保有している。今年4月、ウクライナ東部が戦争に突入した際に同氏は、キエフからの宣伝ビデオに登場、ウクライナ経済が持つ膨大な潜在成長力について語った。 さらに、マーケット・インテリジェンス会社の米アイプレオ によれば、ガーナ、ハンガリー、イラク、アイルランド、フィリピン、スリランカ、ウルグアイ国債についても最大の投資家となっている。ハッセンスタブ氏のファンドにおける「比較的安全性の高い投資先」――マレーシア、メキシコ、韓国の国債で大きなポジションをとっている――ですら、かなりエキゾチックだ。 そうしたポジションは高いリターンを生み出す可能性がある。2011年を通じて、ハッセンスタブ氏はアイルランド国債に110億ドル(1兆3000億円)を超える額を投資した。当時、デフォルトの不安が高まるなか、アイルランド国債はジャンク債に格下げされた。パニックに陥った投資家が同国債を投げ売りするに至り、ハッセンスタブ氏は14%という高い利回りで同国債を購入することができた。ハッセンスタブ氏は、アイルランドは長期的に見て優れた投資先になると考えている。豊富な熟練労働者を抱えているうえ、ギリシャのような社会不安もないからだ。そして事実、その通りになった。彼は18カ月のうちに50%を大きく上回るリターンを得た。 ハッセンスタブ氏は、30年にわたる国債の強気相場を経て金利が上昇する可能性が高まっている今、債券市場で利益を上げる唯一の方法はミスプライシングされている国を見つけることだと主張する。そこで20人からなる彼の国際リサーチ・チーム――その多くが経済博士号を取得している――は高い潜在成長力を有しながらも蚊帳の外に置かれている国を見つけ出すべく、日夜目を光らせている。 彼らは株価指数やベンチマーク、格付け機関、新聞などの情報は概ね無視し、データや自身で行う調査を重視している。ハッセンスタブ氏自身も、今年だけで25カ国を訪れた。彼にとって、長期的視野を持つことが投資戦略における不可欠の要素である。そのため、運用成績を評価する際、最低3年間を見るよう投資家に求めている。 倫理が欠如しているとの批判も ハッセンスタブ氏は成功の秘訣を、独自の思考方法と徹底、忍耐に帰している。だが、これを壮大な倫理の欠如だとする見方もある。例えばアイルランドの投資が高いリターンを上げたのは、EU(欧州連合)とIMF(国際通貨基金)による救済があってのことだ。 同様に、ハッセンスタブ氏は昨年、ポートフォリオにガーナ国債のポジションを追加した。当時、ガーナはGDP(国内総生産)の10%に上る財政赤字を抱え、通貨が下落し、同国の借り入れは持続不可能だとIMFから警告を受けていた。にもかかわらず、ハッセンスタブ氏は資金を投入した。このポジションの運用成績は水面下に沈んでいたが、ガーナがIMFに救済を要請したと8月に発表されるや同国債価格は急騰した。 テンプルトンの業務とIMFの動きが密接にかかわっているもう1つの典型例はウクライナだろう。ハッセンスタブ氏はまず、ウクライナの債務が相対的に小さいこと(2010年に国債の購入を開始した時点ではGDPの40%未満)、農業が膨大な潜在成長力を秘めていること、利回りが2けたあることに引き付けられた。同氏は、ヴィクトル・ヤヌコビッチ前大統領の追放を巡って今年初めに起きた混乱を、押し目買いの好機と見なした。 ハッセンスタブ氏は「ウクライナ国債を買っても上手くいくはずがない」というのが圧倒的なコンセンサスだったと、宣伝ビデオの中で語っている。しかも、IMFによる救済策が決まった後も、そうしたコンセンサスは変わらなかった。通貨フリブナの対ドルレートは今年に入って、半分に下落した。ウクライナの外貨準備は減少し、経済は縮小している。ほとんどの観測筋は、救済が再度必要になるのは時間の問題だと考えている。 一方、テンプルトンは大量のウクライナ国債を保有していることで、同国に甚大な影響力を有している。厳しい債務再編交渉をウクライナ政府に回避させることで、必要な改革を遅らせているとして非難する声も一部にある。また、テンプルトンがウクライナ国債を売却すれば、同国で危機が発生することは避けられないだろう。ウクライナ国債の自発的な再編も阻害される。ハッセンスタブ氏は「我々は政治には関与しない。実際、我々はマクロ経済の動向だけを注視するエコノミストにすぎない」と語る。だが、あれだけ大量の投資を行っていてそんなことが可能なのかと疑問視する声も上がっている。 ハッセンスタブ氏はIMFについて次のように語る。「IMFが関与するか、あるいは関与しないかだけが我々の投資を左右する要因ではない」。彼が運用するファンドの運用成績はウクライナの救済に左右されるわけではない。ウクライナ国債のポジションは、運用資産のわずか4.5%を占めるにすぎないからだ。IMFが関与しなかった多くの国でも、高い運用成績を上げていると、彼は指摘する。そうした例としてはハンガリー、インドネシア、リトアニア、メキシコ、韓国などがある。逆に、ギリシャなど、救済が不可避だと思われた国への投資を避けた例もあると言う。 ハッセンスタブ氏に危機を引き起こす気がないことは間違いなかろう。そんなことをすれば運用成績に悪影響を及ぼすからだ。また彼のファンドは常に相当な現金ポジションを用意している。予期せぬ解約が発生した場合に、ポジションの売却を迫られることがないようにするためだ。 ハッセンスタブ氏は、自身に向けられる非難は主に彼の成功を妬むハゲタカ・ファンドからのものだと言う。確かに、彼らの言い分は一貫性に欠ける。例えば、国債を買って財政が行き詰った国を支え続けることが、成功に至る最大の理由だの批判がある。だが、そうした批判は、彼は国際金融機関により救済される国を探すことによって高い運用成績を上げているだけだという批判とは相容れない。ただし、彼はマクロ経済的な知見だけに基づいてリターンを上げているという見方も、受け入れられるものではない。 http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20141201/274516/?ST=print
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