01. 2014年12月05日 07:05:57
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「景気失速の主犯〜アベノミクス再浮上へ「新・3本の矢」」 米国版、大学は出たけれど 学費ローンが若者たちを飲み込む 2014年12月5日(金) 長野 光 、 細田 孝宏 2012年12月の第2次安倍政権のスタートから2年。消費再増税の延期に伴う衆院解散・総選挙はアベノミクスの真贋を問う「中間選挙」の色彩を帯びてきた。株式相場が空前の活況を呈する中、日経ビジネスの12月1日号の特集「景気失速の主犯〜アベノミクス再浮上へ『新・3本の矢』」では消費や生産、雇用などの実体経済は本当に復調しているのかを検証した。回復基調が続くとされる米国経済は日本経済の行方に大きな影響を与えるが、必ずしも楽観できる材料ばかりではない。 米国経済は好調だと言われている。データにもそれは表れている。 米商務省が発表した2014年第2四半期の米GDP(国内総生産、季節調整後の年率換算、確報値)は前期比4.6%増、そして第3四半期のGDP(同、改定値)は前期比3.9%増と、堅調な伸びとなった。米連邦公開市場委員会(FOMC)は労働市場が力強さを増したと判断、景気の下支えを目的としてきた資産購入プログラム(量的緩和)の終了を決定した。 しかし国民は必ずしも景気回復を実感できずにいる。とくに若者は自分の努力では解決できない問題を抱えている。 学費ローンの平均債務は3万ドル超 今年5月、米経済紙ウォールストリートジャーナルがあるデータを発表した。1993年にはおよそ1万ドルとなっていたものが、2014年には3万3000ドルを超えた。これは米国の学費ローンを借りた学生が大学卒業時に抱える平均負債額である。 大学の学費は年々値上がりし、比例して学費ローン残高も積み上がっている。 若い債務者たちは現状をどう感じているのだろう、実際に学費ローンを抱える人たちを取材してみた。 「消費を抑えるのは習慣」 ジョセフ・ラックさんは37歳、シカゴ美術館附属美術大学、ニュージャージー州のモントクレア州立大学を経て、ニュージャージー州のラトガース大学を2011年に卒業した。専攻は美術。 学費ローンの負債額は利子を含めて7万8000ドルに上る、事情があって今は支払いを待ってもらっている。 ラックさんは現在無職、アート系の職場を探しているが、なかなか希望に沿う仕事が見つからない。さらに両親が病気を患っており、特に父親は心臓の手術を終えたばかりで入院している。今はどうしても自分が両親の側にいる必要がある。 ジョセフ・ラックさん。来月からローンの返済が始まるが、まだ仕事が見つからない。 父親の医療費が最終的にいくらかかるかは退院するまで分からない。場合によっては新たに借金を増やすことになるかもしれない。
「学費ローンの返済猶予は今年の12月で終わります。来年1月からは月600ドル支払わねばなりません。早急に仕事を見つける必要があります」 ラックさんはこの数年あらゆる消費を抑えることが習慣になっているという。自分の置かれた状況を説明するほど表情が暗くなっていくのが印象的だった。 想像していた以下のものしか手に入らない 学費ローンは若者たちに不幸感を与えている。 ジェシカ・ターディス(仮名)さんは29歳、マサチューセッツ州のスミスカレッジで英文学を学び、2007年に卒業、現在フリーランスの記者として雑誌に記事を書いて生計を立てているが、それだけでは足りず時々アルバイトもしている。 負債額は利子を含めて10万ドル、大学在学中は両親に多少の支払いを肩代わりしてもらい、卒業後は毎月400ドルのペースで返済を行ってきた。すでに半分の5万ドルを返済した。あと6年か7年で支払いを終えたいと考えている。 ジェシカ・ターディスさん(仮名)。雑誌の記者をしながらローンを返済している。 返済を怠るとローンの会社から毎日何度も電話がかかり、金利を上げると脅かされると友人から教えられたので、なによりも借金の返済を優先している。今回のインタビューも名前を明かさないことを条件に引き受けた。
月々の返済は大きなストレスだ。あらゆる支払いを減らすために、外出も控えるのが当たり前になってしまった。米国の医療費は高いので、ちょっとやそっとの病気やケガでは絶対に病院に行かないと決めている。 周りの友人もみな同じ状況だという、多くの人が学費ローンの苦しみを嘆いている。 「昔はもっと若い時期に経済的に独り立ちできたと思います。大学を卒業すれば、安定した収入が得られる就職先が見つかった。私たちの世代は違います。大学卒業は安定に直結しません」 経済面ではすべての項目に関して、自分が想像していた以下のものしか手に入らないというのが社会人になった実感だと彼女は語る。 もっと良い学位がほしい 現在学校に通っている学生たちは、この状況をどう考えているのであろうか。 オニカ・デルブさんは32歳、ニューヨークのコミュニティカレッジで経済学と経営学を学んでいる。 高校を卒業してからしばらくフルタイムで働いたが、大学を出なければより良い給料が稼げるようにはならないと考え学校へ戻った。 「大学を卒業してもいい仕事に就けるとは限らないという話はよく聞きます。しかし行かないよりは行ったほうが将来に可能性が多いのであれば、大学に行こうと考えるのは当然のことです。仕事は何かあるはずです。そう考えないと、どんどん諦めてゆくばかりになってしまいます」 オニカ・デルブさん。4年制大学へ進学のため、学費ローンをもっと借りようと考えている。 彼女の負債は利子を含めて1万ドル。学校に通いながら別のコミュニティカレッジの図書館でアシスタントのアルバイトもしている。
彼女は進学を検討している。コミュニティカレッジを卒業して得られるのは短期大学士という卒業資格止まり。これでは給料のいい就職先には繋がりにくいという。 「毎日オンラインで求人広告を見ていますが、多くの仕事には大学卒業以上を募集とあります。ここでいう大学卒業とは4年制大学の卒業資格のことです。つまり私が得る卒業資格では足りない、ということです」 進学に際しては新たなローンを借りなくてはならず、まだその額は想定できていない。コミュニティカレッジを卒業したら、すぐに今借りているローンの返済も始まる。本当の戦いはこれからのようだ。 「学生はだまされている」 はたしてデルブさんの言うように、良い学位をとれば高収入の仕事に就けるのであろうか。デルブさんの働くコミュニティカレッジに彼女と正反対の意見を持つ人がいた。 日経ビジネス12月1日号の特集でも紹介したジェイソン・リジットさんは33歳。ワシントン大学で政治学を学んだ後、シアトル大学とニューヨーク州立大学の大学院で社会正義学を学んだ。現在コミュニティカレッジで助教授をしながら、知人の会社向けにコンサルティング業務も行っている。 大学院を2つ卒業した彼のローンは総額で32万5000ドルに及ぶ。 ジェイソン・リジットさん。多額の借金をして大学院を出たのに良い仕事が見つからない。 今の仕事に就く前は時給30ドルで弁護士のアシスタントをしながら、工事現場のアルバイトもしていた。本当は弁護士になりたいが、今米国には弁護士が多すぎて仕事が見つからない。
そこで様々な業種で就職活動を行ったが、なかなか雇ってもらえない。高等専門教育を受けた彼は、多くの仕事にはミスマッチと判断されるのだ。大学院卒の需要はむしろ少なかった。 「学生はだまされています。良い学歴を持てば良い仕事に就けるなんて嘘です。良い大学を出た、でも稼ぎが無い、そういう話ばかりです。それでも大学に行かないと仕事に就けないと大人から脅かされ莫大なローンを背負います。しかも良い学校の学費、良い学位にはそれだけお金がかかるのです」 学費の負担は30年で3〜4倍の重さに 稼ぎは減るが借金は増える。米ウォールストリートジャーナル紙の調査によると、25歳から34歳の大卒の平均給与は2005年から2012年の間に2.2%下がったのに対し、同期間の30歳未満の学費ローンの平均負債額は35%も上昇している。 また米国の非営利団体カレッジボードの統計によると、物価上昇率を考慮した大学の学費は、この30年で実質3倍から4倍に上がっている。もはや大学に行くことは割に合わない選択なのであろうか。 「学費が高すぎることが問題なのだと思います。大学の各部門は予算を削られては困るので予算を使い切ろうとします。教室には誰も使わない設備がたくさんあります。大学の広い敷地の芝刈りひとつとっても、たいへんお金がかかるのです。設備投資は重要ですが、そのために学生が大きな借金を背負うのは許せません」。リジットさんは怒りを込めて語った。 このコラムについて 景気失速の主犯〜アベノミクス再浮上へ「新・3本の矢」 高揚する金融市場は実体経済を先取りしているのか、「あだ花」で終わるのか――。日銀の追加金融緩和による株高効果が続く中、安倍晋三首相は消費増税の先送りを決断。国民の信を問うとして、衆院解散・総選挙に踏み切った。期待感をあおり、経済を引き上げるアベノミクスだが、市場と実体の差は一向に埋まらない。街角の景況感は経済指標の数値以上に厳しく、頼みの海外需要は視界不良が続く。円安・株高が民間投資の喚起、そして賃金上昇に結びつかないのはなぜか。景気回復を阻む要因を探る中で、「アベノミクス景気」再浮上のヒントが見えてきた。 http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20141203/274618/?ST=print
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