01. 2014年11月25日 07:08:05
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ロシア経済:思っている以上に切迫した危機 2014年11月25日(Tue) The Economist (英エコノミスト誌 2014年11月22日号) ロシアの危機は、西側諸国やウラジーミル・プーチン大統領が考える以上に切迫している。 露大統領、ウクライナ和平への行動計画を発表 ウラジーミル・プーチン大統領が抱える問題の多くは、自ら招いたもの〔AFPBB News〕 問題に事欠かないロシアのウラジーミル・プーチン大統領だが、その多くは自らが招いたものだ。同大統領が事態を複雑にし続けているウクライナ東部では大量殺戮が起きている。 また、西側との関係も思わしくなく、今やドイツでさえプーチン大統領と敵対している。ロシアの国境地帯ではイスラム主義者が反旗を翻し、国内でも、同大統領のウクライナ政策への見識を疑う国民が増え、不満がくすぶる。 しかし、これらの内憂外患がすべてかすむほどの大問題がある。不振を極めるロシア経済が、危機に陥る恐れがあるのだ。 原油安、通貨安、制裁に苦しめられる手負いの経済 ロシア経済の問題点の一部は、広く知られている。石油に牽引された同国経済は、エネルギー価格の上昇局面で急成長を遂げた。しかし、2014年前半には1バレル当たり平均110ドルに達しかけていた原油価格が80ドルを切るまでに急落した今、ロシア経済は不振にあえいでいる。同国の輸出のうち実に3分の2以上がエネルギーに由来する。 通貨ルーブルはここ3カ月で23%も下落した。西側の経済制裁も、プーチン大統領の取り巻きだけでなく、ロシア実業界のさらに広い範囲に銀行が制約を課す事態を招き、これも痛手になっている。 より一般的な話として、長年にわたり国の財産を権力者が私物化してきたことが、ロシアを徐々にむしばんできた。ロシアの富の大部分は、プーチン大統領の友人の間で山分けされてきたのだ。 誰もがロシアでは今後もさらなる停滞が続くと予想しているが、プーチン大統領にはこの状況にも耐えられるだけの力があるとするのが一般的な見方だ。 ルーブルの下落により、農業をはじめとする一部の輸出産業の競争力は増している。これらの輸出と、プーチン大統領が西側の制裁に対抗して導入した輸入制限により、ロシアは今でもわずかながら貿易黒字を生み出している。 また、ロシアは、中央銀行の発表によれば3700億ドルという、かなりの額の外貨準備高を有している。さらに、経済損失の原因はやはり外国にあると考えがちなロシア国民の粘り強さも考えに入れ、ロシア政府は、大統領には対策を巡らせるだけの時間的余裕があると見ている。この時間は、おおまかに2年ほどと言われている。 実際は、危機はもっと早く起きてもおかしくない。ロシアの防衛は当初の見かけよりも弱い。さらなる原油価格の下落、ロシア企業による債務繰り延べの失敗、西側の制裁強化といった予想される事態のうち、どれか1つが起きれば、そうした防衛力が試されることになる。 経済が不安定化の道に向かっている時には、多くの場合、国際金融はその動きを速める方向に作用する。そのため、こうした国々は政治家や投資家の予想よりも速く危機に瀕することになる。 危機を自ら招いたプーチン大統領 ロンドン原油、一時1バレル=55ドル割れ 米エネルギー情報局(EIA)は原油価格が2015年の年間平均で1バレル83ドルになる可能性が高いと予想している〔AFPBB News〕 差し迫った懸念事項は原油価格だ。プーチン大統領は、価格は持ち直すと確信している。しかし石油輸出国機構(OPEC)がシェア維持に躍起になっている現状では、供給は今後も増加する見込みだ。 米国の政府機関は、2015年の原油価格は1バレル当たり平均83ドルまで下がると予測している。これはロシアが景気後退を避ける(さらには政府収支の均衡を維持する)ために必要な90ドルの水準を大きく割り込んでいる。 世界的な石油の需要が弱まれば(実際、最新の経済予測以降、日本の景気は後退局面に転じた)、原油価格がさらに下落する可能性もある。そうなれば投資家は即座に、ロシアの経済見通しを考え直し始めるだろう。 さらに控えているのが、借り入れの返済だ。ロシア企業の対外債務残高は5000億ドルに達しており、うち1300億ドルは2015年末までに返済期限を迎える。しかも今はロシアへのエクスポージャー(投融資)を増やしたいとの意向を持つ西側の銀行はほとんどない。 ドル建ての収益がある企業でも、借り入れ返済には苦労する恐れがある。石油大手のロスネフチは、最近になってロシア政府に440億ドル相当の融資を求めた。今のところ、プーチン大統領はこの要請に難色を示しているが、同大統領といえども、株式の70%を政府が所有し、16万人の従業員を抱える企業の破綻を黙って見ているわけにはいかないはずだ。 ほかにも、苦境に陥っているロシア企業は増えている。ルーブル防衛のために政策金利が9.5%に引き上げられる前から、不良債権は増加していた。また、無理もないことだが、預金者の間では銀行預金をドルに転換する動きが起きており、ロシアの銀行はその埋め合わせを中央銀行に頼っている。 直接的にせよ間接的にせよ、これらの負担の向かう先は、最終的にはロシア政府になるはずだ。ゆえに政府の外貨準備高は今後重要な意味を持つ。 しかし、外貨準備も急速に目減りしつつある。失敗に終わったルーブル防衛策の結果、この1年間で準備高は1000億ドル減少した。また、準備高として公表されている数字もいささか疑わしい。 3700億ドルとされる準備高のうち、1700億ドル以上はロシアの2つの政府系ファンドに属している。これらのファンドの資産には、ロシアの国有銀行へのさまざまな形の出資金や、ウクライナ発行の債券など、一部に疑わしいものがある。後者の債券は、プーチン大統領自身が仕掛けた同国への侵攻により、急速にその価値を失いつつある。また、2つあるファンドのうち1つは年金基金とされているお金だ。 現実的に見ると、ロシア政府がほかで大幅な削減をすることなく使える利用可能な現金は、恐らく2700億ドル程度だろう。これは、今後2年のうちに返済期限を迎える対外債務の総額を下回る。 ウクライナ東部、停戦合意後も1000人近く死亡 国連 国連によると、停戦協定が結ばれた後も、ウクライナ東部で1000人近くの死者が出たという(写真はドネツクの空港近くで、砲撃により破壊された家屋の消火活動を行う消防隊員)〔AFPBB News〕 これらすべてが、ロシアにとっては問題を引き起こす要因となっているが、プーチン大統領自身の強硬な対外政策がさらに事態を加速させる恐れがある。 何と言っても、大統領は他国に武力侵攻しておきながら、そんな事実はないと嘘をついた人物なのだ。 さらなるウクライナへの侵略は、西側諸国による制裁の強化を招くだろう。こうした制裁の一部、例えば国際銀行間通信協会(SWIFT)の国際決済システムからのロシアの銀行の締め出しといった制裁が実行に移されれば、ロシアの対外貿易は完全に停止しかねない。 石油輸出の一部禁止も、イランの場合と同様に、経済にダメージを与えるはずだ。そして、直面する問題が増えれば増えるほど、プーチン大統領は国家主義的なカードを切る可能性が高まる。つまり、外国への侵略がいっそう激しくなり、さらなる制裁が待っているということだ。 ロシアからリオへ、愛をこめずに ロシアを近年で最大の経済危機が襲ったのは1998年のことだが、この時は政府がデフォルト(債務不履行)に陥った。今回は、政府のデフォルトというよりは、一連の銀行破綻、企業のデフォルト、深刻な景気後退が生じるシナリオの方が可能性が高い。 とはいえ、これらの事態から発生する問題は、国外にも急速に広まる恐れがある。これはロシアとの貿易に依存する国々(バルト3国やベラルーシでは、対ロ輸出が国内総生産=GDP=の5%と高い割合を占めている)に加え、金融の波及効果を通じてその他の国々にも及ぶ。 モスクワに「地獄の門」開く? 悪臭たれこめ苦情殺到 ロシアが危機に陥ったら、他国も波及する(写真はモスクワの赤の広場を歩く人々)〔AFPBB News〕 オーストリアとスウェーデンの銀行はロシアへの融資を回収できないリスクを負っている。 さらに、コモディティー(商品)に牽引された国の企業のドル建て債券が、政府の失策の末にデフォルトに陥り始めたということになれば、投資家はブラジルなど、同様の経済構造を持つ他の国についても不安を抱くはずだ。 ロシア経済の崩壊の可能性が高いと見られるようになったなら、西側諸国でも制裁を緩和すべしとの声が起きるのは間違いない。プーチン大統領も11月14日に、ドイツでは30万人分の雇用がロシアとの貿易に依存していると指摘した。 だが、ドイツのアンゲラ・メルケル首相はいみじくも、これまでの姿勢を堅持した。プーチン大統領は、行動には結果が伴うということを、ついに学ばなければならない。他国を侵略すれば、国際社会から制裁を受けるのだ。 同じことは、経済に関しても言える。プーチン大統領が自らの時間を、友人たちの懐を温めるのではなく、ロシア経済の強化にもっと割いていたなら、いま、これほどまでに危うい立場に追い込まれることはなかったのだ。 http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/42269
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