01. 2014年11月21日 07:50:59
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経済制裁に強い副作用、揺らぎ始めたドル基軸通貨 G20を一足先にさよならしたプーチン大統領の本当の狙いとは 2014年11月21日(Fri) 杉浦 史和 オーストラリア東部のブリスベンで開かれていたG20サミットの終了を待たずに帰国の途に着いたロシアのウラジーミル・プーチン大統領に関して、ウクライナ問題に関する欧米勢の非難攻勢を嫌気したのが理由だったとまことしやかな噂が流れた。孤立無援ではなかったロシア 日米豪3か国首脳会談、ロシアにウクライナ介入停止など求める G20の首脳会議前に握手する左からバラク・オバマ米大統領、トニー・アボット豪首相、安倍晋三首相〔AFPBB News〕 確かに東ウクライナにおける停戦の現況は予断を許さないものがあり、ロシアと欧米の主要な対立点の1つでもあるが、百戦錬磨のプーチン大統領が本当にそんな一時の感情の爆発で帰国するだろうか。 まず、事実関係から整理してみよう。 今回のG20サミットの機会を利用して、BRICS5カ国(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)の首脳も非公式会談を行った。BRICS諸国はこれまでもウクライナ問題においてロシア寄りの立場を明確にしており、その一点においても、ロシアがG20で孤立無援だったと結論するのは無理がある。 さらにBRICS首脳会議の議論のテーブルに上がったのは、BRICS「新開発銀行」ならびに「緊急時準備基金」に関してであった。 両機関については2013年の同首脳会議で構想が発表され、今年に入ってから実際の設立へと動き出している。ここでBRICS諸国の設立の意図は明らかであり、それは従来の国際金融の枠組みにおいて、世界の開発銀行の役割を果たしたり、緊急時の備えを補完する機能を持ったりした国際機関の役割が不十分であるという不満の表明である。 具体的には第2次大戦終了後から存続する国際復興開発銀行や、国際通貨基金が、昨今の世界的な経済情勢の変化を十分に反映していないということだ。 これに関しては同時に、中国が主導する形でアジアインフラ投資銀行(AIIB)の設立も進められている。 中国が参加を要請した諸国に対して、米国がその参加を思いとどまるよう要請したという事実も明らかになり、米国と中国の陣取り合戦さながらの動きが、国際金融の世界で進行中であることが浮き彫りとなっている。 それでもインドを含め、20カ国が参加したのだから、中国の影響力をみくびるべきでははない。一方、今年中の合意が困難になった環太平洋経済連携協定(TPP)の枠組みも、米国を中心とする諸国が中国を除外した形で連携を強化するという狙いがあるから、いよいよ中国と米国の対立が深まっていることが認識できる。 そんな中、問題のプーチン大統領は、どういう役割を果たしているのか。 今回の一連の外交日程の中で注目されるのは、中国の習近平主席との会談で、今年5月に続いて、再びロシアからの天然ガス取引量の拡大など中国とロシアのエネルギー資源を介した経済連携をより強化していく方針が再び確認されたことだ。端的に言って、ロシアは米・中対立の構造において、中国を選んだといってもいいだろう。 アジアへ回帰しているのはオバマでなくプーチン 米国のバラク・オバマ政権が華々しく掲げたが遅々として進まない「アジアへの回帰(ピポット)」政策を揶揄してか、こうしたロシアの中国接近を「プーチンのアジア回帰(ピポット)」となぞらえる向きもある。 もちろん、ベトナムなど少数の例外を除き、ロシアは元々アジアに強い足場を持っていたわけではないから「回帰」は形容過剰かもしれない。 他方、リチャード・ニクソン大統領とヘンリー・キッシンジャー補佐官が実現させた、冷戦下での米国による中国接近との相似を見る考えもある。 いわば米、中、ロシア(ソ連)の三国志で、1971年にはソ連を意識した米・中接近が進んだが、その後ソ連が消滅し米国の一国覇権が進むにつれ、今度は米国を意識した中・ロシア接近が起こっているという見方だ。 実のところ、ロシアは米・中対立の構造の中で、実に重要な役割を果たしている。それは、米ドルの国際通貨としての役割を骨抜きにするための「脱ドル化」施策の数々である。 プーチン大統領は、早期から米ドルの特権的な地位についてそれが米国の覇権と不可分の関係にあることに注意を払っており、例えば国際原油市場において決済通貨が米ドルに限られていた状況を打破すべく手を打ってきた。 ロシアと中国は、2国間の決済について、互いに自国通貨による決済の比重を高めようとしているが、これは国際貿易における決済通貨としてのドル利用をできるだけ回避したいからである。 一方、米国は今年、対ロシア制裁の一環で、ロシアの主要企業・金融機関による米ドルでの資金調達を制限するという措置に出た。米国としては、最も大きな切り札を切ったと言えるだろう。 実際、それまで外国資金を主要な資金調達経路としてきた主要企業はたちまち困難に陥り、ロシアが保有する外貨準備からの緊急融資を受ける羽目となった。 ロシアからの国外への資本逃避の勢いも止まらず、通貨ルーブルも変動相場制への移行を余儀なくされており、まさにロシア経済は制裁の効果を痛感して窮地に陥っている。 脱ドル化で一致するロシアと中国 制裁を嫌ったロシアマネーが香港市場に流入して香港の金融管理局が対応に追われているとの報道もある。これだけを見れば、米国の一方的な勝利とすら言えよう。 だがロシアは中国への接近を通じて、「脱ドル化」での中国との共闘を強く働きかけている。両国貿易の「脱ドル化」は言うまでもなく、さらなる「脱ドル化」構想の具現化した形が新開発銀行でありAIIBではないか。 つまり、中国はロシアの現在の苦境を見れば、やはり米ドルに頼る構造のままでは、自分たちが米国と戦えないと考える。それならば、IMF(国際通貨基金)と世界銀行の国際金融体制を打ち壊すとは言えないまでも、明らかにその代替を目指すのは当然の動きだろう。 そして、その結果として、徐々にではあるが米ドルの支配的な地位は間違いなく脅かされることになるのだ。 ロシア、中国以外のBRICS諸国や、さらにロシアや中国の強い影響下にある国が貿易の米ドル決済を回避することが普通になれば、米ドル離れが加速度的に起こる可能性も十分にある。 つまり、米国が対ロシア制裁として切った切り札は、あまりにも効き目が強過ぎて、ブーメランのように米国に帰ってくる恐れががあるのだ。その最終形は米ドル圏と人民元圏による世界の分断なのかもしれない。 以上のように、外交のめまぐるしく展開する表舞台の裏で進行していることは、間違いなく「新たな冷戦」への動きであると言えよう。 これはかつてのような資本主義か社会主義かといったイデオロギーの争いではもちろんない。また武力衝突の起こっている東ウクライナを巡る文明圏の争いでもない。 それは世界通貨の覇権を巡る争いなのである。 新たな冷戦の枠組みは、かつての米国vs.ソ連に代わり米国vs.中国・ロシア連合であって、中国とロシアは、同じく米国に不満を持つイランやインドなどとも協調しつつ、米ドル支配の構造を切り崩そうと躍起になっているのだ。 日本は地理的には中国・ロシア連合に近いが、安全保障面で米国の強い影響下にあるという難しい状況に置かれている。これからの米・中・ロシアの三国志の行方に冷静に目を凝らし、本質を誤らない外交政策が今こそ求められていると言えよう。 http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/42259
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