01. 2014年11月12日 07:20:15
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米国の最優先課題がロシアであるべき理由 核武装した怒れるモスクワ、ISISよりも深刻な未知の脅威 2014年11月12日(Wed) Financial Times (2014年11月11日付 英フィナンシャル・タイムズ紙) 先週末、米国はイラクに米軍を増派すると発表し、ロシアはウクライナへ部隊を追加派遣したとされ、バラク・オバマ大統領は北京に向けて出発した。 ワシントンの政策立案者に、世界のさまざまな地域のうち米国はどこを最優先すべきか尋ねれば、最初に返ってくる答えは通常、「我々はガムを噛みながら歩けるはずだ」といったことを意味する何らかの言葉だ。さらに踏み込んで質問すると、返答はもっと面白くなる。 ワシントンで支配的な中東優先論 大まかに言えば、ワシントンにおける総意は、2つの差し迫った危機のうち、中東の危機の方がウクライナのそれより急務だということのようだ。ロシアと中東の双方について責任を負う、米国のある国家安全保障担当官は先週、ロシアと中東のどちらが重要かと筆者が聞いた時、いぶかしげな表情を浮かべ、「断然中東だ」と答えた。 中東を優先すべきだとする根拠は3つある。第1に、中東では実際に戦争が繰り広げられており、米国が日々の爆撃に参加している。米国防総省で使われている不安になるほど弾んだ言い回しでは、米軍は「額に弾頭(warheads on foreheads)」を食らわしている。 空爆でも止まらない外国人戦闘員の流入、イスラム国 イラク、シリア双方の領土のほぼ3分の1を支配下に置いたとされる過激派武装組織「イラク・シリアのイスラム国(ISIS)」の戦闘員〔AFPBB News〕 第2に、もし国家安全保障を民間人を危害から守ることと定義するのであれば、米国人はロシアよりもジハード(聖戦)主義者のテロリズムの方にずっと差し迫った脅威を覚える。 第3に、米国人は、中東では地域の秩序全体が崩壊しつつあり、秩序回復には数十年かかる可能性があると考えている。対照的に、欧州の秩序は末端部分で綻びを見せているだけだ。 中には、米国がロシアに没頭していることが、肝心な時にイラクとシリアから米国の注意をそらしてしまったと懸念する向きさえある。 ある政府高官は、物思いにふけるように言う。「歴史家は、2014年春に、折しもイラク・シリアのイスラム国(ISIS)が広大な領土の支配権を奪っていた時に我々がウクライナに専念しすぎたと記録するのではないかと本気で考えている」 政策立案者が間違った方向に目を向けるという現象は、確かに、歴史上なかったわけではない。今から100年前、第1次世界大戦勃発までの1カ月間、英国政府は、欧州での戦争の脅威よりも、アイルランドでの内戦の見通しに関する議論にはるかに多くの時間を費やした。 「ロシア優先派」が描く最悪のシナリオ 露大統領、ウクライナ和平への行動計画を発表 ロシアのウラジーミル・プーチン大統領〔AFPBB News〕 だが、ウラジーミル・プーチンのロシアを一番心配している人にとっては、中東こそが注意をそらしてしまう危険な要因だ。 「ロシア最優先」のグループは、ワシントンよりもワルシャワやベルリンで優勢だ。このグループは、折しも欧州で危険が高まっている時に米国が「テロとの戦い」と中東の紛争に引き戻されてしまったと懸念している。 この分析によると、米国はまだ、ロシアが突きつける課題の急進主義を認識していない。クリミアの併合とウクライナ東部への侵入はほんの端緒にすぎないと危惧されている。いつか、ロシアは恐らくウクライナのさらに多くの地域を脅かすだろうし、バルト諸国をも脅かす可能性がある。 米国がウクライナでの軍事行動の可能性を排除したという事実そのもの――このために、ワシントンではウクライナ危機があまり差し迫ったものに感じられないようになった――が、図らずもリスクを高めてしまった。欧州のある上級外交官が言うように、「プーチンは、我々が行かない場所にいつでも事態をエスカレートできることを知っている」のだ。 密室で議論されている最悪のシナリオには、ロシアのエスカレートは戦術核兵器の使用にまで至り、実際に使用することも含まれている。そんな事態が起きれば、言うまでもなく、過去数十年間で最大の国際的な安全保障の危機となる。それは25年間にわたるイラクでの戦争がもう1周繰り返されるよりもはるかに重大で危険だ。 ロシアがバルト諸国に介入し、NATOが対抗しなければ・・・ NATO7か国、バルト海で合同軍事演習「BALTOPS」 クリミアと同じことがバルト諸国で繰り返されるとの懸念が広がっている〔AFPBB News〕 大方の専門家はまだ、核シナリオは現実味がないとして片づけている。 それより一般的なのは、プーチン氏がウクライナで全面的な通常戦争に乗り出す、あるいは、北大西洋条約機構(NATO)加盟国であるバルト諸国でロシア語を話す住民の反乱を促すかもしれないという懸念だ。 その段階でもしロシアがバルト諸国に介入し、NATOがこれに対抗しなければ、ロシア政府は西側の軍事同盟が張り子の虎であることを実証するという大きな成果を達成したことになる。 一部には、ロシア経済と通貨ルーブルに対する圧力の高まりから、ロシア政府が危機をエスカレートさせるのを思いとどまることを期待する向きもある。だが、経済危機は、ロシアの行動をより予測不能で無謀なものにする可能性もある。 こうした不安が渦巻く中で、オバマ大統領は中国での首脳会議に向けて出発した。米国の「アジアへのピボット(旋回)」を信じる人にとっては、長期的には、米国の力に挑む最大の課題はいまも、衰退するロシアや崩壊する中東ではなく、台頭する中国だ。 こうした向きは、米国がさまざまな危機に巻き込まれるほど、中国が東アジア――次第に世界経済の中核となっている地域――で優位性を確立するのが容易になると心配している。 オバマ政権はそれが現実になるのを防ぐ決意を固めており、将来的に米海軍の6割が太平洋地域に配備されるよう軍事的な資源をシフトしている。 米国政府は抑止と外交の絶妙なバランスを取れるか? 米大統領、対イスラム国で国際連携呼び掛け 英仏は軍事行動示唆 歴史家はオバマ政権をどう評価するのか?〔AFPBB News〕 オバマ政権が戦略的な優先順位を正しく定めたのか、あるいは決定的に重要な場面で間違った方向へそれてしまったのかを決めるのは、歴史家の仕事になる。 筆者自身の直感では、いまはロシアが最も重要な課題だ。中国の台頭は極めて重要だが、差し当たりは長期的なプロセスであり、米国との対立の差し迫ったリスクはないように思える。 中東の破綻しかけた国家とテロリズムのリスクは、悲しいかな、今ではほとんど普通のことのように感じる危険性だ。 だが、米国の力に挑むことに余念がない、怒れる核武装したロシアは、我々がいまやっと理解し始めたばかりのリスクを突き付ける。欧州の平和は、米政府が抑止と外交の絶妙なバランスを取ることにかかっているのかもしれない。 By Gideon Rachman http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/42186
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