01. 2014年10月31日 18:14:35
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英国を激怒させたEU予算の追加支払い請求 支払えば、キャメロン首相の政治生命の危機 2014年10月31日(Fri) Financial Times (2014年10月28日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)英首相、EU残留を問う国民投票を約束 17年末までに 英国のデビッド・キャメロン首相は、EUからの請求書を突き付けられて激怒した〔AFPBB News〕 英国のデビッド・キャメロン首相と欧州委員会の対決を、後者を引き立てるような形で説明する方法がある。 欧州委は度を越すまでに合理的で、組織内の規則の論理を最後の最後まで守る。もしその論理が、英国が欧州連合(EU)予算に追加で21億ユーロ支払うことを意味するのであれば、良識のような些細なことが邪魔をすることを許さない。 歴代の英国首相の中で最もイングランド人らしいキャメロン首相は、この大陸的なリテラリズム(直解主義)を軽蔑している。同氏は主流派ではない妥協の世界に住んでいる。この世界では、規則は操作することができ、分別のある人間の判断に委ねられる。 欧州委員会の合理性と加盟国の事情を斟酌してきた過去 これらの対照的な思考習慣は異なる文化から生じるものだが、欧州委のやり方の方が28カ国から成る連合の秩序をうまく保てる。EUについて英国が気に入っている域内市場は、欧州委が規制の調和を図り、公正な手で各国の保護産業をこじ開けることに依存している。 これが欧州委を引き立てる説明だが、実際には通用しない。実際には、EUの規則の執行は乱雑で公平性を欠く作業だ。 法律の条文は常に政治と戦ってきた。大きな加盟国が騒ぎ立て、国内の圧倒的な世論や、格別に大きな戦略的利益について訴えれば、言い分を通すことができる。過去10年間に複数の加盟国によって安定・成長協定が無視されたのは、そういう経緯だった。また、これによって、なぜ域内市場がまだ不完全なのか説明がつく。 先週、フランスのフランソワ・オランド大統領がキャメロン氏に「規則を守る」よう求めた時、同氏のチームは笑いすぎて死にかけた。何しろ彼らはこれまで、歴代のフランス政府がEUの規則に対して完全とは言えない忠誠を示すのを見てきた。 今でさえ、欧州委はフランスとイタリアに対し、国家予算の制約の執行について妥協の余地があると内々に伝えている*1。 だから、ブリュッセルは純粋な論理の要塞ではない。欧州委は加盟国の政治的な現実を斟酌する。 *1=実際、欧州委員会は10月28日、両国が提出した予算案をEUの予算規則に対する「重大な違反」がないとして、大幅な修正を求めることは見送った 英国の政治的な現実 英国の政治的現実とは、キャメロン氏がこの追加分担金を払うわけにはいかないということだ。12月の支払い期限までには絶対に払えないし、仮に払うことがあるにしても、恐らくは来年5月の総選挙までは払えない。もしこれを払えば、政治的な死に至る恐れがあるからだ。 欧州議会選、英で反EU政党が勝利へ 英国では、反EUを掲げる英国独立党(UKIP)が勢力を伸ばしている(写真中央がナイジェル・ファラージ党首)〔AFPBB News〕 支払ったら、反EUの英国独立党(UKIP)や自党である保守党、多くの有権者から、キャメロン氏が耐え切れないかもしれない怒りが噴出する。 保守党内ではすでに、イングランド南部のロチェスターで11月に行われる補欠選挙でUKIPに敗れた場合に、バックベンチャー(要職に就いていない平議員)が何らかの形でキャメロン氏を突き上げる動きに出る可能性がある。 総選挙の半年前に、自党の支持率の足を引っ張っていない唯一の主流派の指導者の立場を揺るがすことは、興奮した人の自傷行為のように見えるが、これは保守党だ。 「神経が高ぶっている人は馬鹿なことをする」と、ある党内関係者は話す。怒っている人は、それ以上に馬鹿な真似をする。EUの追加分担金を速やかに支払えば、キャメロン氏の敵を燃え上がらせることになるだろう。 また、追加の分担金の支払いは、英国のEU懐疑主義に一世代に一度しかない刺激を与え、筋金入りの反EU派の態度を硬化させ、意思が決まっていない有権者を反EU陣営に引っ張り込む可能性もある。 今回は理由があって本気で怒っているキャメロン首相 追加分担金の根拠は、計量経済的な方法論の淀んだ空気の中にある。だが、UKIPは難なくこれを捻じ曲げて、追加金を繁栄に対する税金として、そして狂信者によって考案された破滅的な単一通貨に加わらなかったことに対する罰金として喧伝できる。 英国人が目にするのは物事を公平に扱う手ではない。彼らが見て取るのは、侮辱的な中指だ。 これまで、キャメロン氏が自身の欧州政策の主導権を握っているように見えたことは、めったになかった。キャメロン政権はその日暮らしをしており、バックベンチャーと安全な距離を保っておくために、周期的に彼らのご機嫌をとるような材料を探し回る。だが、今回の追加分担金については、キャメロン氏は本気で怒っている。それには理由がある。 イデオロギー上のEU憎悪と正当な不満を区別するのは容易だ。こんな思考実験をしてみればいい。キャメロン首相が仮に、野党党首のエド・ミリバンド氏のような労働党の親EU派だったと想像してみてほしい。 ミリバンド首相の下では、英国は欧州逮捕令状に参加すべきか否かを巡る物議は、そんな議論にならない。ミリバンド氏はそこそこ楽に事を進めるだろう。右派は抵抗するだろうが、クリティカルマスは得られない。 分担金の追加請求は別問題だ。もし労働党の首相が、折しも自国の財政が困窮している時にほぼ即座に支払い期限が来る21億ユーロの請求書を送りつけられたら、ただ律儀にお金を払うことはできない。時間を稼ぎ、割引を求めるだろう。自分自身の考えはともかく、有権者と一定数の自党議員がそれだけは求める。 EUは妥協せよ だからこれは、キャメロン氏が何もないところから作り上げた論争ではない。英国首相を務める人なら誰もが苦しめられる問題だ。 その永遠の平和の概念がEUに影響を与えたとされる啓蒙主義の哲学者イマニュエル・カントは、「人間性のねじ曲がった木材から真直ぐなものが作られたことは一度としてない」と言った。偉大な啓蒙主義者でさえ、世俗的な妥協の必要性を理解していた。EUはキャメロン氏と妥協すべきだ。 By Janan Ganesh http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/42101 共和、民主両党から見放されたオバマ大統領 米中間選挙を前に漂流し始めた米国、世界の行方は 2014年10月31日(Fri) 堀田 佳男 「米国はいま漂流し始めている」
首都ワシントンのシンクタンクに勤務する知人はこう電話で告げてきた。 イスラム国への対応で民主党からも反発強まる オバマ大統領、イラクでの米軍戦闘任務を否定 バラク・オバマ米大統領〔AFPBB News〕 11月4日の中間選挙を前に、オバマ政権の評価と民主・共和両党の攻防を聞くと知人は「漂流」という言葉を使った。 その意味は、バラク・オバマ大統領が内政と外交の両面で国をリードし切れず、国家の行き先が定まらないということだった。知人はイスラム国への対応を例に挙げた。 「オバマ大統領が9月にイスラム国の空爆に踏み切ったことで、民主・共和両党から反発を招いてしまいました。民主党リベラル派からは、『空爆したところでイスラム国を壊滅できるわけではないし、米国への反発が強まるだけ。軍事介入は間違いだった』という声が聞かれます。テロとの戦いで、米国はすでに約6800人もの命を失っています。戦争はもうたくさんという切実な思いがあります」 「一方、共和党保守派からは、『イスラム国を叩くには空爆だけでは不十分。地上部隊を投入しない限り勝算は見えてこない』との意見が出ています。中途半端が一番いけないというのです。今のオバマ政権は行き場を失った漂流者になったかに見えます。民主党は連邦上下両院で敗退するでしょう」 政治家が1つの事案で政治決断をした場合、有権者の意見は賛否両論に分かれることが多い。だがイスラム国への空爆問題でオバマ大統領は、両党のコアの支持層からそっぽを向かれているというのだ。 オバマ大統領自身は再選の心配がもうないが、中間選挙で選挙に望む民主党議員(候補)たちは負の遺産を引きずりながら戦わざるを得ない。 国内問題に目を向けても同じだ。オバマ大統領が力を入れてきた移民制度改革は、連邦上院でこそ法案が通過したが、共和党が過半数を占める下院では却下されてしまった。 医療保険制度改革も議会を通過して法律になったものの、混乱が相次いだ。当初ウエブサイトでの申請ができなかったり、予算案をティーパーティ(茶会党)の下院議員から反対され、連邦政府機関が一部閉鎖されたりする事態を経験した。 問題はそれだけではない、中間選挙を前に、オバマ大統領と距離を置く民主党議員たちが現れたのだ。それは優柔不断で確固たる指導力を発揮できず、理念的な政治を行おうとしている現職大統領への反抗として捉えられる。 反オバマを掲げたアラスカ州の民主党上院議員 代表格がいる。アラスカ州選出のマーク・ベゲッチ上院議員だ。日本ではほとんど馴染みがないが、前アンカレッジ市長で2008年のオバマ・フィーバーの波に乗って民主党から上院議員に初当選し、今年改選を迎えている。 同議員がいま苦戦を強いられている。というのも、アラスカ州は保守王国として共和党の地盤が強いところで、2008年の「オバマ・チルドレン」の1人として初当選した事実は、すでにプラスどころかマイナスに働き始めているのだ。 ベゲッチ議員は共和党のライバル、ダン・サリバン氏に世論調査でリードされている。そこでベゲッチ議員が劣勢を跳ね返すために採った戦術は、民主党でありながらオバマ大統領と距離を置くことだった。 日本であれば、自民党議員が安倍晋三首相を支持せずに国政選挙をするようなものである。党内からの反発と制裁が予想されるし、自民党議員という理由で1票を入れた有権者の気持ちに背くことにもなる。 ただ米政界では党議拘束が緩いため、法案の採決時に党の決定に従わなくても構わない。議員自らの意思で投票できる。 それでもあえてオバマ氏と距離を置く戦術は、何がなんでも自分だけは再選を果たしたいという我欲に映る。本当に民主党有権者から多くの支持が得られるかは疑問だ。まして共和党有権者からは「心変わりをした民主議員」とレッテルを貼られてしまう。 唯一期待できるのが無党派層からの票だが、有権者の心を動かせるかどうかは分からない。ただ今週行われた世論調査では、ベゲッチ議員の支持が少し伸びており、サリバン氏とつばぜり合いを繰り広げている。 ベゲッチ議員の選挙前の行動は、いまの米国が漂流し始めている一端を表しているかもしれない。 さらに、オバマ大統領が2008年の選挙戦から繰り返し述べてきた人種や階層、性別などを乗り越えた「1つのアメリカ」という野望は、6年経っても実現できていない。「1つのアメリカ」どころか、米国を分断させてしまったとの見方さえある。 それが大統領の支持率42%という数字に示されている。次の世論調査を見て頂きたい。CNNとORCインターナショナルという団体が行った調査結果だ。 オバマ施政に不満な国民が68% 米国の現状に「大変怒っている」(30%)と「やや怒っている」(38%)と答えた人を合わせると68%になる。世論調査は質問の文章で結果が変わってくるが、現状に怒るということはオバマ政権の施政に不満であるということにつながる。 米経済はリーマンショックから立ち直り、実質GDP(国内総生産)成長率も4-6月期で前年比年率4%のプラスを示すと同時に株価も伸張している。失業率は5.9%(9月)まで下がっており、数値の上では悪くはない。 しかし有権者の現状への怒りは治まらない。経済指標には個人の生活が反映されないからだ。 むしろハーバード大学経済学部ローレンス・カッツ教授が指摘する、24歳の若者の6人に1人(16%)は学業にも仕事にも従事していない米版「プー太郎」状態という事実の方が説得力を持つ。 こうした社会状況を眺めると、オバマ大統領が率いる民主党が、中間選挙で躍進するとは考えにくい。共和党が下院で過半数を維持することはほぼ確実で、上院でも過半数を奪うことになりそうだ。 というのも、中間選挙は歴史的に投票率が30%台であることが多く、若者が投票所に足を運びにくい。投票するのは中高年の有権者が多く、おのずと保守系の共和党議員に票が流れることになる。 しかも中間選挙は、時の大統領と敵対する政党の有権者が「不満票」の意味合いで一票を入れる傾向があり、政権党は負けるのが常である。過去100年を見ても、政権党が勝ったのは3回(1934年、1998年、2002年)だけだ。 ホワイトハウスと議会が違う政党であることの方がワシントンでは普通であるが、共和党の「打倒オバマ」の姿勢が緩むようには見えず、与野党間の対立は激化していくだろう。 「漂流」という言葉はいまの米社会を的確に表現しているのかもしれない。 http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/42099 |