09. 2014年11月05日 07:40:59
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イラン:革命はもう終わった 2014年11月05日(Wed) The Economist (英エコノミスト誌 2014年11月1日号)イランに起きている変化は、核開発協議における交渉の可能性を高めている。11月の期限内に交渉がまとまらないとしても、いずれ合意に至る道が見えてきた。 IAEA、イラン重水炉を12月8日に査察へ イランとP5+1の交渉は11月24日に期限を迎える(写真はイラン中部アラクにある重水炉)〔AFPBB News〕 イランの核開発プログラムの抑止を目指す交渉は、期限まで1カ月を切った。 これまで足掛け12年にわたり断続的に協議が行われてきたが、今日に至るまでイランは、求めているのは民生用の原子力であり、原子爆弾ではないと言い張っている。しかし、この主張を心から信じる者はいない。 交渉が決裂した場合、中東に核兵器が拡散する恐れがある。あるいは、イランを押しとどめようと、米国かイスラエルのいずれかがイランの施設に軍事攻撃を開始する可能性もある。どちらの道も、最悪の事態と言えるだろう。 イランと、国連常任理事国にドイツを加えた交渉団(P5+1の略称で知られる)の主張には、いまだに大きな隔たりがある。ここで焦点となっている問題の多くは、合意実行の具体的仕組みに関する事柄だ。両者はウラン濃縮のためにイランが使用できる遠心分離機の数や、合意事項の有効期間、経済制裁の解除時期について、まだ意見が一致していない。 イランと米国がお互いを信頼していれば、この隔たりは容易に埋まるはずだ。両者の関係がここまで悪化している一因として、イランに対する西側の一般的な見方が、もはや戯画の域に達するほどに時代遅れになっている点が挙げられる。イランへの理解が深まれば、核開発交渉を包括的な合意に至らせるためにも役立つし、最低限、最悪の事態を招く交渉の枠組みの崩壊は避けられるだろう。 危険な前兆と遠心分離機 イランのやっていることの多くは、間違っている。イランはレバノンやパレスチナ自治区のテロリストや武装組織に資金を提供しているほか、残忍なバシャル・アル・アサド大統領率いるシリアの政権も支援している。イランの政治家は、イスラエルには存在する権利がないと発言することもしばしばだ。 また、現体制に異を唱える自国民に対しても、残虐かつ不当な仕打ちを続けている。10月25日(現地時間)には、殺人で死刑判決を受けた女性に対し、被害者から性的暴行を受けたためだとの主張があったにもかかわらず、絞首刑が執行された。数日後には、国連の特使が、イランにおける死刑執行件数の急増と女性の取り扱いについて糾弾した。 また、国連傘下の国際原子力機関(IAEA)の高官も最近、イランは核開発に関してすべてを明らかにせず、そのほかにも言い逃れと欺瞞が繰り返されていると、不満の意を示した。 これらの行動は確かに間違っているとはいえ、西側の非難も、イランを他に類を見ないほどの邪悪な存在に仕立て上げている。 西側いわく、イランは無慈悲な敵であり、ジョージ・W・ブッシュ前大統領が「悪の枢軸」と呼んだ国の1つでもある。イランの独裁政権は革命の輸出に熱意を燃やし、さらには終末論を奉じる危険なイスラム思想に取り憑かれ、核による終末を歓迎してもおかしくないほど理性を欠く存在だというのだ。 米国のバラク・オバマ大統領は、このような世界の嫌われ者と交渉の機会を持ったというだけで、非難を受けているほどだ。 米国の高官が最後にイランを公式訪問してから35年が経った。その間に、イランは変化を遂げている。本誌(英エコノミスト)今週号の特集記事には、革命の火がすでに消え失せた国の様子が綴られている。 大きな変化を遂げたイラン イラン女性に許された唯一の自己表現、それは「メイク」 イランはジーンズ禁止?イスラエル首相の「勘違い」に嘲笑の声 イラン社会は大きく変化している〔AFPBB News〕 イラン国民は、かつて住んでいた村落を離れ、都市部に移動するにつれ豊かになり、消費財や欧米の技術の魅力に目覚めてきた。5年前には3分の1だった大学進学率が、今では50%以上に増えている。 マフムード・アフマディネジャド前大統領時代の悲惨な状況や、その前大統領を政権の座から追い落とそうとして失敗に終わった2009年の「緑の革命」、さらには中東に混乱をもたらしたアラブの春を経て、一時的にせよ、急進的な政治主張は支持を失い、代わって現実路線を取る中道派が台頭した。 イスラム教指導者が夢見た伝統的な宗教社会は、その影響力を弱めつつある。時間が経つとともに、モスクは空き始めた。塔の上から祈りの時間を知らせる呼びかけも、その声がうるさいとの苦情により、以前ほどは聞かれなくなった。宗教勢力の中心地であるゴムの街でも、神学校よりもはるかに巨大なショッピングモールが建設された。 カリフ制を信奉する動きがイラクやシリアに根付く中で、宗教が退潮しつつあるイスラム国家、それが今のイランの姿だ。 イランは、単純な独裁国家ではない。最終的な決定権を持つのは、同国の最高指導者、アヤトラ・アリ・ハメネイ師だ。しかし、同師の役割は、多くの政治家や聖職者、軍幹部、学術研究者、実業界の人々から構成されるエリート層の、さまざまな主張を裁定することにある。これらのエリート層は、派閥を作って対立したかと思うと、お互いに手を結ぶなど、傍目には難解な合従連衡を繰り返している。 イラン次期大統領、ウラン濃縮継続も核交渉には前向き 2013年の選挙で大統領に選ばれた穏健派のハサン・ロウハニ師〔AFPBB News〕 民主主義として機能しているとはとても言えないが、これはいわば、政治的な取引が繰り広げられる市場のようなもので、アフマディネジャド大統領が思い知ったように、こうした層のコンセンサスから乖離するような政策は長続きしない。 2013年にイランがハサン・ロウハニ師を大統領に選んだのは、まさにそれが理由だった。ロウハニ大統領は、開放政策を志向し、強硬派で知られるイスラム革命防衛隊も自らの統制下に収めている。 当然ながら、ロウハニ大統領は既存のエリート層に属しているが、その内閣に占める米国の大学の博士号取得者の数がオバマ政権よりも多いという事実は、今日のイランについて多くを物語っている。 安易な妥協は許されない こうした変化は、核開発を巡る交渉にどんな意味を持つのだろうか? 第1に、結局のところイランは、世界秩序を覆すという救世主的な使命感からではなく、自国にとっての利害関係に従い、現実的に行動するようになるということだ。そうなれば、同国は交渉する価値のある相手となる。 第2に、イランにおける権力が米国と同様に、各党派の間を移行するものである以上、交渉によるあらゆる取り決めは、強硬派が政権に復帰する日を念頭に置き、そうした事態にも耐え得るものでなくてはならない。そして第3の、最も重要な意味は、時間が世界に味方するということだ。 1979年のイラン革命が遠のくにつれ、イランは今後、もっと普通の国になっていくはずだ。宗教的教義は、金儲けやビジネスといった日々の悩みの前に、さらに影が薄くなっていくだろう。イランが即座に核開発プログラムを放棄するとは考えられない。一般のイラン国民も、こうした放棄を屈辱と捉えるだろう。 また、イランがすぐに米国に友好的になったり、周辺地域への介入をやめたりすることもまずない。しかしイランの現政権が、核兵器開発を放棄した末に権力の座から引きずり下ろされたリビアのムアマル・カダフィ大佐のような運命を避けられると実感するようになれば、核開発の制限もそれほど大きな賭けには見えなくなるはずだ。 また、イランにとって交渉の妥結の価値が増しているという意味でも、時間は味方と言える。ロウハニ大統領は、経済制裁の緩和を必要としている。10年にわたり年間5%以上の成長を続けていたイラン経済は、2012年に5.8%縮小した。 また、イランでは石油の輸出による収入が、政府の歳出に充てられている。その原油価格が最近になって25%も下落したことで、経済はさらに圧迫されている。 また、イランの周辺地域も危険な情勢にある。イスラム国(IS)はイランの味方であるイラクのシーア派を脅かし、シリアのアサド大統領や、レバノンの親イラン勢力のヒズボラも、シリアの内戦に飲み込まれている。 イラン側は、米国は中東地域における同国の協力を確保するためにも、核開発交渉で譲歩すべきだとの見解をほのめかしている。だが、実際のところ交渉の妥結で得をする立場にあるのは、シーア派のイランの側だ。米国は、スンニ派が多数を占める同盟国のサウジアラビアや、イラクやシリアで味方に取り込もうとしているスンニ派の人々から反発を受けるリスクを冒すことになるのだから。 イラン核協議再開、「長く複雑な」交渉へ イラン核交渉の期限は11月24日に設定されている(写真は今年2月にオーストリア・ウィーンで行われた核協議に臨むイランと主要6カ国の代表ら)〔AFPBB News〕 期限が11月に設定されているとはいえ、P5+1は我慢強く交渉にあたるべきだ。 今回の交渉への道筋を開いた暫定合意によって遠心分離機の新たな設置は禁止され、核開発プログラムは休止状態にある。 世界は、実現不可能な要求を突きつけて交渉を決裂に追い込むべきではないし、逆にこれ以上の良い機会は今後訪れないのではないかとの恐れからイランに屈すべきでもない。 そうではなく、P5+1は粘り強い交渉で適正な合意を引き出すべきだ。そうした合意が11月の期限内に得られればよいが、それまでに得られないとしても、ただちに最悪の事態に至るというわけではない。 http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/42120
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