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(回答先: 不安定化工作-エネルギー戦争における、アメリカの武器(マスコミに載らない海外記事) 投稿者 赤かぶ 日時 2014 年 10 月 15 日 21:54:05)
『フォーリン・アフェアーズ・リポート』2014 No.4
P.74〜78
「ウクライナ危機とパイプライン
― ヨーロッパの本当のエネルギーリスクとは
ブレンダ・シャツファー ジョージタウン大学客員研究員
ウクライナ危機を前にしたヨーロッパ人の脳裏をよぎったのは、2009年の天然ガス供給の混乱だった。この年、ロシアがウクライナへの天然ガスの供給を停止したために、ヨーロッパ諸国への供給も混乱し、真冬に暖をとれない事態に陥った。すでにウクライナ危機からヨーロッパを守るために、アメリカからの液化天然ガス(LNG)輸出を急ぐべきだという声も耳にする。たしかに、短期的に供給が混乱する危険もあるが、長期的にみてより厄介なのは、ハブプライシングシステムの導入など、ヨーロッパのエネルギー政策が方向を違えており、しかも(天然ガス価格が高いために)石炭の消費が拡大していることだ。仮にアメリカからLNGを輸出しても、その価格は、ロシアの天然ガス価格の少なくとも2倍になる。ワシントンは、ヨーロッパへLNGを供給することの利益が明確になるまで、拙速にエネルギー輸出の決定を下すのは自重すべきだろう。
■ヨーロッパのエネルギー問題
2013年3月初旬、ロシアの部隊がクリミア半島へと展開するなか、ヨーロッパ人は頭を抱え込んでいた。暖かくなるまでまだ数カ月あるというのに、危機への対抗策としてロシアがウクライナへの天然ガス供給を打ち切れば、ヨーロッパもその余波を受けることになるからだ。多くのヨーロッパ諸国が、ウクライナ経由のパイプラインで供給されるロシアの天然ガスに依存している。
ヨーロッパ人の脳裏をよぎったのは2009年の供給の混乱だった。供給価格をめぐるロシアとウクライナの交渉が決裂し、ロシアが天然ガスの供給を停止したために、ヨーロッパ諸国への供給も混乱し、真冬に暖をとれない事態に陥った。
以来、ヨーロッパ諸国はガスの安定供給の確保を重視するようになり、例えば、域内のパイプラインインフラを改善し、よりスムーズに各国へと天然ガスが流れるようにしたいと考えている。
だが、ヨーロッパが脆弱性を克服できたわけではない。不安定な供給の問題もそうした脆弱性の一部だが、長期的にみてより厄介なのは、ヨーロッパのエネルギー政策に問題があり、エネルギー企業が倒産し、しかも(天然ガス価格が高騰しているために)石炭の消費が拡大していることだ。利用できる天然ガス資源があるにもかかわらず、ヨーロッパがそれを消費していないのはこのためだ。「ウクライナ危機からヨーロッパを守るために、アメリカからの液化天然ガス(LNG)輸出を急ぐように」と提言したジョン・ボーナー下院議員(共和党、オハイオ州選出)とジェーソン・ボードフ前大統領補佐官(気候変動・エネルギー担当) の考えが間違っているのも、この理由からだ。
アメリカがヨーロッパへのLNG輸出を開始する前に、ヨーロッパへのエネルギー供給に関して検討すべきポイントがいくつかある。そうすれば、ヨーロッパは域内問題を一部改善することで、自分たちの力でエネルギー安全保障を強化できることがわかるだろう。
■欧州の天然ガス市境とパイプライン政治
専門家は「ヨーロッパエネルギー市場」という言葉を安易に用いているが、それを一括りにしてとらえることはできない。例えば、ブルガリア、ギリシャ、ハンガリーのようなヨーロッパ周辺諸国の天然ガス価格は、ドイツのようなヨーロッパ中央に位置する諸国と比べてはるかに高く、より大きなエネルギー安全保障上の問題に直面している。
これは、依然として天然ガスのグローバル市場が存在しないためで、価格は一つではなく、市場が変われば価格も違ってくるためだ(ヨーロッパの市場も一つではなく細分化されている)。西ヨーロッパ諸国は、ヨーロッパの周辺国と比べてより多くのパイプラインネットワークへのアクセスをもち、供給はより安定しているし、価格も相対的に安い。一方、東ヨーロッパ市場は大きな脆弱性をもっている。ほとんどの国が船による輸入ができない内陸国であるために、LNG輸入の道が閉ざされているからだ。
アメリカからヨーロッパへ天然ガスを送り込む場合、LNGタンカーによる輸出になる。もちろん、ヨーロッパが充実した相互乗り入れ型のパイプラインネットワークをもっていれば問題はないが、現実にはそうではない。しかも、仮にアメリカのLNGが東ヨーロッパに供給されても、多くの東ヨーロッパ諸国には、それを買いとれるだけの財政上の余裕がない。北米の天然ガスを輸出するには、液化を経てLNGとして海上輸送し、さらにヨーロッパでの気化処理が必要になる。このために、北米からの天然ガス価格は、ロシアからパイプラインで送られてくる天然ガス価格に比べて少なくとも2倍になる。
ロシアからの天然ガス価格でさえ、すでに非常に高いレベルにある。近年では、価格が高騰しているためにヨーロッパの天然ガスの消費は抑え込まれ、石炭の使用が増大している。いずれにせよ、アメリカからのLNG供給が、ロシアからの供給に対する代替策となることはあり得ない。
おそらくこの点を理解しているヨーロッパは、カスピ海周辺からのパイプラインを経由した天然ガス輸入を増やそうとしている。2013年末に、欧州連合(EU)はアゼルバイジャンからの南回廊の整備プロジェクトに合意し、このルートでの供給確保に向けた重要なステップを踏み出した。
このパイプラインによってアゼルバイジャンの巨大なシャーデニスガス田からイタリアへと天然ガスが供給され、7カ国がパイプラインネットワークで結ばれることになる。完成すれば、ヨーロッパでもっとも大きなエネルギー安保上の脆弱性を抱える諸国に天然ガスが供給され、その市場価格も低下する。石炭資源の消費が少なくなれば、汚染と二酸化炭素排出量も少なくなる。
南回廊がモスクワの怒りを買ったことは容易に想像がつく。ロシアのガスプロムは、このプロジェクトを頓挫させようと、パイプラインルートの中継基地や輸送インフラを買い上げようと試みた。もっと悪辣なのは、環境保護団体に資金を提供して、環境保護運動を展開させ、パイプライン建設を邪魔しょうとしたことだ。企業利益を守ろうと環境運動をでっち上げただけでなく、ガスプロムはヨーロッパ域内での天然ガス生産を抑え込もうと、「ウクライナとブルガリアを含むヨーロッパでの水圧破砕法は環境汚染を伴う」というキャンペーンを展開した。
ヨーロッパ当局が監視を怠り、ロシアによる汚染キャンペーンのお先棒を担いでしまえば、正当な環境汚染への懸念とガスプロムの主張を区別できなくなり、ロシアからの天然ガス輸入にますます依存することになる。
ヨーロッパ大陸のエネルギー問題に対処する上でアゼルバイジャンからのパイプラインを通じた供給を増やすのは、よいスタートだろう。将来的には、南回廊による供給を増やして、大きな脆弱性を抱えるバルカン諸国をネットワークに組み込むべきだ。これによって南回廊を通じてEUに供給される天然ガスの量が拡大するだけでなく、ロシアとヨーロッパの境界に位置する諸国のロシアへの依存を低下さシェール助けになる。
■市場原理という幻想
エネルギー供給の確保という側面だけでみても、ヨーロッパは深刻な問題を抱え込んでいるが、問題の本質はさらに深いところにある。それは、ヨーロッパの市場がパッチワークのようにばらばらで統一性がないにも関わらず、そのエネルギー政策が過度に市場経済イデオロギーに根ざしていることだ。
21世紀に入って以降、ブリュッシェールはエネルギー領域における加盟国政府やEUの役割を小さくしようと試みてきた。エネルギー企業を民営化し、天然ガスと電力供給チェーンを分割し、長期的な供給契約の代わりに、(パイプラインが交差するハブで価格・量・期日などに応じて天然ガス価格を決める)「ハブプライシング」システムを導入した。EUは、エネルギー市場を自由化すればエネルギー安全保障が強化されるという、まだ実証されていないアイディアを実行に移した。
ブリュッシェールは、比較的うまくいったアメリカの天然ガス取引モデルを参考にしたようだ。アメリカは「スポットプライシング」システムを導入し、政府の役割を小さくした流通・供給モデルをとつている。しかし、アメリカの天然ガス市場はヨーロッパのそれとは根本的に違っている。アメリカで天然ガス取引の規制緩和が機能したのは、その多くが国内で生産され、しかも3%を上回る市場シェアをもつサプライヤーが存在しなかつたからだ。
ヨーロッパの場合、天然ガス資源のほとんどは輸入に依存し、三つの外部サプライヤーがほぼ3分の1ずつ市場をシェアしている。この状態で「ハブプライシング」を導入すれば、外部サプライヤーの市場占有率をますます高めてしまう。最大のサプライヤーであるロシアのガスプロムは、特定のハブからの供給を増減さシェールことで自己利益を高めることもできる。
さらに、市場原理によってヨーロッパが必要とするインフラが自律的に整備されていくと信じる根拠もない。南回廊からの供給を例外にすれば、ヨーロッパ天然ガス市場のインバランスに対処していく方策は存在しない。
戦略備蓄設備、パイプライン連絡管、逆方向へ資源を供給できるリバースフローメカニズムのすべては供給の混乱に対処できるが、そうしたインフラを整備することで企業が大きな利益を手にすることはなく、民間主導ではインフラ整備は進まない。当然、そうした供給インフラの構築に向けてEU加盟国政府とブリュッシェールがイニシアティブをとるか、あるいは、規制を通じて企業をインフラ整備へと向かわシェールしか手はない。
もう一つ、ヨーロッパのエネルギー政策が欠陥を抱えている領域がある。それは、気候変動対策を重視しながらも、奇妙な現象が起きていることだ。再生可能エネルギーだけでなく、石炭の消費が拡大している。
さらにヨーロッパ諸国は、電力の安定供給を確保しようと、非現実的な規制ゆえに利益を出せなくなった老朽施設をもつ電力企業を救済しようとしている。ヨーロッパが規制を適切なものへと見直していかない限り、天然ガスの供給が効率化されることはない。
アメリカのシェールガス革命からEUが学ぶべき教訓があるとすれば、公益と市場のロジックがうまく重なりあつたときに、エネルギー政策はもっともうまく機能するということに他ならない。ウクライナにも開港がある
ウクライナとヨーロッパに対するガスプロムの悪意に満ちた行動については、すでにさまざまなことが言われているが、現実には、誰が悪者で誰が善人なのかをはっきりと区別できる状況にはない。
ヨーロッパへと輸出されるロシアの天然ガスの半分以上はウクライナを経由しているし、ガスプロムの最大規模の天然ガス貯蔵施設もウクライナにある。だがロシアにとつて、ウクライナは責任あるパートナーとは言えなかつた。歴代のウクライナの指導者たちは、個人的利益を確保しようとオリガーク(新興財閥)と共謀して資源を盗み出し、ロシアへの支払いを滞らせてきた。
新しいウクライナの指導者たちは、天然ガス産業と政治家の癒着を含む政治腐敗対策をとり、消費を抑えるために価格を引き上げるべきだろう。当然、米欧はロシアがウクライナへの天然ガス供給価格を引き上げても、これを批判すべきではない。むしろ価格上昇によって、ウクライナのエネルギー使用効率が改善され、国内の潜在的天然ガス資源の開発が進み、長期的にロシアへの依存を低下させていくとすれば、それはむしろ好ましい展開とみなせる。
さらに言えば、モスクワがウクライナの天然ガス消費を低価格の資源供給で支えるべきでないのと同様に、アメリカも融資を通じてそれを支えるべきではない。
2014年にはEUの議会選挙があり、欧州委員会の指導者も刷新される。そしてヨーロッパの新体制にとつてのアジェンダの一つがエネルギー政策であることは明らかだ。EUがエネルギーをユーティリティ(社会財、公共財)ととらえ、コモディティ(消費財)ではないことを認識することを期待したい。
さらに、EUは電力の安定供給をめぐってリーダーシップを発拝すべきだろう。一方ワシントンは、ヨーロッパへLNGを供給することの利益が明確になるまで、拙速にエネルギー輸出の決定を下すのは自重する必要がある。
Brenda Shaffer ハイファ大学教授でジョージタウン大学ユーラシア・ロシア・東ヨーロッパセンター客員研究員、アゼルバイジャン外交アカデミー客員教授を兼務。専門はエネルギーと外交政策。ハーバード大学ケネディスクール・カスピ海研究プログラムリサーチディレクターを経て現職。」
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