06. 2014年10月17日 07:45:01
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欧米の過剰反応はエボラ出血熱対策に逆効果2014年10月17日(金) The Economist 西アフリカでエボラ出血熱の感染が広がっている。感染者が最も多い3カ国、ギニアとリベリア、シエラレオネにおける死者は現在、約3900人に達している。
一方、アフリカ大陸の外でエボラ出血熱と診断され、亡くなった人はわずか1人だ。リベリア人のトーマス・ダンカン氏が10月8日、米国のテキサス州で亡くなっただけである。感染の影響が比較的少ないこうした国々がエボラ出血熱に対して抱く恐怖が、アフリカの悲劇を悪化させかねない。 感染地域から米国へ移動する人は100人中1人 10月3日、ルイジアナ州知事ボビー・ジンダル氏(共和党)が、「エボラ出血熱に襲われた」国々から米国への渡航を禁止するよう求めた。共和党の他の政治家たちも同様の要望をしている。多くのアフリカ諸国が飛行禁止令を既に出しており、欧米の航空会社の一部は飛行スケジュールを変更している。 しかし、公衆衛生の専門家はアフリカの国々を隔離することに反対している。人道援助や医療のスタッフが、被害を受けている地域に入りにくくなり、アフリカ大陸の状況がさらに悪化するからだ。また、旅行しようと思う者は別のルートを探すため、取り締まりが一層困難になる。経済への影響も深刻だ。つまり事態は、ジンダル氏らが言うよりも少々複雑なのだ。 ベルリンにあるフンボルト大学のディルク・ブロックマン氏は複雑なネットワークの専門家。航空輸送のデータを使って、エボラ出血熱の感染が国境を越えていかに広がっていくかを研究している。同氏の調査は、通常のフライトスケジュール通りに運航された場合、最も感染者が多い国々――特に、ギニアとリベリア、シエラレオネ――から搭乗したある感染者が、別の場所に降り立つ可能性を予測するものだ。 ブロックマン氏の調査は、3つの重要なメッセージを持つ。第1は、航空機が通常通り運行されたとしても、欧米諸国のリスクは比較的低いままということだ。つまり、ギニア、リベリア、シエラレオネから100人の感染者が飛行機に乗った場合、そのうち84人はアフリカ大陸の別の空港に降り立つ。英国とフランスで降りるのは3人、米国ではたった1人だ。 そもそも、感染者が飛行機に乗って先進国に降り立てば、絶対リスクが減少する。よく準備され、資金も十分な医療制度が上手く対処できるからだ(インドのような人口密度の高い新興国にとって、到着者の数が少ないことは安心材料にならない)。 第2に、ある国が本気でエボラ出血熱を締め出すつもりなら、最も感染が広がっている地域からの運航を禁止するだけではすまない。国際線のハブ空港でもウィルスは拡散しやすい。米国での唯一の死者は、ダラス空港から入国したかもしれない。だが、彼がリベリアの首都モンロビアを発って最初に立ち寄ったのは、ベルギーのブリュッセル空港だった。 ロンドンやパリの空港は、シエラレオネやギニアを世界とつなぐうえで大きな役割を果たしている。西アフリカを切り離せという要求は、ブロックマン氏に言わせれば「19世紀の考え方」だ。スタンドプレーと言った方がより正確かもしれない。 空路がだめなら陸路で国境を越える 米国は10月8日、検疫を強化すると発表した――米国には、感染地域からの渡航者をより確実にスクリーニングする役割がある。より確実に検疫するためには、渡航者がどのように移動するかを知っておくと助けになる。これがブロックマン氏の調査が示す第3の教訓だ。 多くの乗客は、必要に迫られれば、予測困難なルートを見つけ出して目的地に到達しようとするだろう。例えば、ギニアのコナクリ空港とパリのシャルル・ド・ゴール空港を結ぶ便を運航停止にすれば、ドバイ空港やコートジボワールのアビジャンにある空港に飛ぶ人が増える可能性が高まる。 あるいは、空港を全く使わない者もいるだろう。伝えられるところによると、ケニア国境の検問所は、飛行機ではなく寿司詰めのバスに乗って陸路でケニアに入国しようとする西アフリカの人々で混雑しているという。 エボラ出血熱に背を向けることと、それを止めることは同じではないのだ。 ©2014 The Economist Newspaper Limited. Oct 11th, 2014 All rights reserved. 英エコノミスト誌の記事は、日経ビジネスがライセンス契約に基づき翻訳したものです。英語の原文記事はwww.economist.comで読むことができます。 このコラムについて The Economist Economistは約400万人の読者が購読する週刊誌です。 世界中で起こる出来事に対する洞察力ある分析と論説に定評があります。 記事は、「地域」ごとのニュースのほか、「科学・技術」「本・芸術」などで構成されています。 このコラムではEconomistから厳選した記事を選び日本語でお届けします。 http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20141016/272627/?ST=print |