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10月 6th, 2014
10月号では「プーチン来日を実現せよ」という特集を組み、「アメリカが作った四島返還論」(本誌編集部)、「米露の信頼を失う安倍外交」(東郷和彦氏)、「プーチン来日こそ対米自立の第一歩だ」(木村三浩氏)という記事を掲載しました。にここでは本誌編集部の特集記事をご紹介いたします。
ウクライナ問題をめぐり欧米とロシアの対立が激化している。その煽りを受け、今秋に予定されていたプーチン来日が延期される可能性が出てきた。北方領土問題解決のためには、日本は何としてもプーチン来日を実現しなければならない。
しかし、たとえプーチンが来日したとしても、我々日本国民が従来の枠組みに囚われている限り、領土問題は解決しない。従来の枠組みとはすなわち、四島返還論である。
歴史を振り返ってみた時、この主張が必ずしも正しいとは言い切れないことがわかる。サンフランシスコ平和条約締結時、日本政府は国後島と択捉島を放棄するという立場をとっていた。日本の全権として講和会議に参加した吉田茂は、席上で次のように述べている。
「千島列島及び南樺太の地域は日本が侵略によって奪取したものだとのソ連全権の主張は承服いたしかねます。日本開国の当時、千島南部の二島、択捉、国後両島が日本領であることについては帝政ロシアもなんらの異議を挿さまなかったのであります。(中略)千島列島及び樺太南部は、日本降伏直後の一九四五年九月二十日一方的にソ連領に収容されたのであります。また、日本の本土たる北海道の一部を構成する色丹島および歯舞諸島も終戦当時会々日本兵営が存在したためにソ連軍に占領されたままであります。」
ここからも、日本政府が当時、サンフランシスコ平和条約で放棄した千島列島の中に国後島と択捉島も含まれており、いわゆる日本固有の領土は北海道の一部である色丹島と歯舞諸島までだと考えていたことは明らかである。
政府の立場は国会の場でも確認された。平和条約に規定された千島列島の範囲を問われた際、西村熊雄条約局長は次のように述べている。
「条約にある千島列島の範囲については、北千島と南千島の両者を含むと考えております。しかし南千島と北千島は、歴史的に見てまったくその立場が違うことは、すでに全権がサンフランシスコ会議の演説において明らかにされた通りでございます。あの見解を日本政府としてもまた今後とも堅持して行く方針であるということは、たびたびこの国会において総理から御答弁があった通りであります。なお歯舞と色丹島が千島に含まれないことは、アメリカ外務当局も明言されました。」
ところが、日本政府はソ連との国交回復交渉が始まると、これまでの立場を変更し、日本の放棄した千島列島に国後島と択捉島は含まれないと言い始めた。これにはアメリカが大きく関わっていた。アメリカは日ソ接近を恐れ、交渉に露骨に介入してきたのである。重光葵外相が二島返還でソ連と平和条約を締結しようとした際、アメリカのダレス国務長官が、日本が二島返還で決着させるなら沖縄を永久に返還しない、と恫喝してきたのは周知の通りである。
もっとも、ダレスの恫喝が行われる前に、当時の鳩山一郎政権は既に四島返還へ転じていた。それ故、ダレスの恫喝によって初めて四島返還論が出てきたというわけではない。
とはいえ、アメリカはダレスの恫喝以前から日本に対して様々な働きかけをしていた。和田春樹氏の著書『領土問題をどう解決するか』によれば、日ソ交渉の始まる一か月以上前の1955年4月28日に、アリソン駐日大使が日本側に「アメリカは、日本がクリル諸島のすべて、ないし一部に対する領有の主張の承認をかちとるか、日本が潜在主権をもつことにソ連の同意を得るよう努力することに異議をとなえない」と伝えている。鳩山総理が四島返還に方針転換したのも、歴史的文書が見つかっていないだけで、アメリカから恫喝を受けたからかもしれない。
以上を見ればわかるように、四島返還論は、日ロ分断というアメリカの国益のために作られた神話という側面が大きい。四島返還を唱えることは、アメリカの国益を代弁することと同義である。北方領土問題を解決するためには、我々はこの神話から脱却しなければならない。
いかなる理由であれ、他国に領土を渡せば、自国民から強い反発を招くことは避けられない。それは日本が尖閣諸島を中国に渡したと考えれば明らかだろう。プーチン大統領はそうしたリスクを負いながらも、日本にひとまず二島を返還しようとしているのである。
安倍総理には、プーチンが大きなリスクを負っているということを真剣に受け止め、自らも同等のリスクを負って交渉に臨んでもらいたい。
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