02. 2014年10月16日 07:53:47
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蔓延するエボラ出血熱、死者500万人との予測も 準備のない日本へ上陸したときには、一気に感染が拡大する危険性 2014年10月16日(Thu) 堀田 佳男 「シエラレオネとリベリアでは全国民に感染が広がり、死者は500万人に達するだろう」 エボラ出血熱(以下エボラ)の感染が広がり、誇張とも思える衝撃的な予測が出されている。これはドイツの著名なウイルス学者ジョナス・シュミット・チャナシット氏が9月、ドイツメディアに発言したものだ。 ワクチンが開発されない限り拡大が続く危険性 米国初のエボラ熱患者、テキサスの病院で死亡 エボラ出血熱で死亡したトーマス・エリック・ダンカンさんが入院していた米テキサス州ダラスのテキサス・ヘルス・プレズビテリアン病院〔AFPBB News〕 世界保健機関(WHO)の予測が140万人という数字なので、改めてエボラの恐ろしさが強調された感がある。ただ同氏の予測について、医学者からは「行きすぎた数字。正確ではない」との声もある。 それでも米国立衛生研究所(NIH)のアンソニー・ファウチ博士は、「ワクチンが国中に行き渡らない限り、エボラの拡大を止めることはできないかもしれない」と医学雑誌とのインタビューで答えている。 西アフリカの3国(シエラレオネ、リベリア、ギニア)で今後も感染者・死者が増加することは残念ながら否定できず、500万人という数字は最悪のシナリオとしてあり得るのかもしれない。 WHOが発表した14日現在の感染者は8914人、死者は4447人で、過去数カ月の数字の推移を見ると、ほぼ4週間で感染者と死亡者が2倍ずつ増えてきている(エイズよりはるかに怖いエボラ出血熱、蔓延の兆し)。 日本人の感染者は報告されていないが、米国テキサス州ダラス市で8日、リベリア人男性トーマス・エリック・ダンカンさんが死亡した。世話をしていた看護師の女性が感染し、米メディアはエボラに大きな関心を注いでいる。 まるで米国内に感染が拡大していくかのような騒ぎだ。同じウイルスでも、エボラは水疱瘡のような空気感染で伝播する感染症でないにもかかわらず、である。 というのも、現時点で軽視できない報告が積み上がってきているからだ。 ウイルスは早い段階で分離(発見)されたが、感染経路はいまだに曖昧なところがある。テキサス州ダラス市の女性看護師は、防護服を着ていたにもかかわらず感染した。何度も隔離病棟に入ってダンカンさんの世話をしていた人だが、直接体液に触れたということではないようだ。 米疾病予防管理センター(CDC)のトーマス・フリーデン所長は、「看護師に何らかの手順違反があり、感染の原因になった」とコメントしたが、従来の予防行動だけでエボラを防止することは不十分との見方もある。 「空気感染はしない」の"常識"は信用できるのか? エボラ対策で米軍から3000人、西アフリカへ シエラレオネのカイラフンにある施設で、遺体処理にあたる国際医療支援団体「国境なき医師団」〔AFPBB News〕 実は10年ほど前、空気感染もあるとの医学論文が出ていた。米イリノイ大学公衆衛生学の教授2人は、「エボラ・ウイルスは免疫学的に、空気中に拡散した分子によって感染する可能性がある」と英医学誌「ランセット」に記している。 通常の布製マスクではウイルスを防止できないこともあるため、両教授は患者を診る医療関係者は「防毒マスクを着用すべきだ」と忠告した。その後、空気感染はしないとの認識が定着するようになる。 感染経路については今夏まで、エボラを発症した患者や遺体の体液に触れなければ感染はないと言われてきた。いまだにそうした認識だが、「本当にそうなのか」との疑問符もつけられている。 というのも、エボラは数個のウイルスが体内に入るだけで感染すると言われており、ひげ剃りあとの顔や、目に見えない手先の擦り傷に微量のウイルスが付着するだけで感染する可能性があるからだ。 テキサス州の看護師が感染したのも、防護服の着脱のときに、微量のウイルスが皮膚についたとも考えられる。 リベリア政府が9月に発表した報告によると、エボラでの死者の15%が医師と看護師だった。この事実を考慮すると、これまで実戦されてきた作業手順や安全基準の枠を超えて感染が広がっているとも言える。 米CNNの報道によると、米国には細菌・ウイルスを取り扱う実験室(バイオセーフティー・レベル4)がいくつもあるが、エボラの患者を完全に隔離・治療できる医療施設は4カ所しかないという。 8月、エボラに感染したケント・ブラントリー医師が治療を受けたのは、その1つのジョージア州エモリー大学附属病院。今回、感染してしまった看護師がいるのがダラス市の病院で、残念ながらエボラを完全にシャットアウトする施設ではなかった。 CDCのフリーデン所長は会見で、「米国内では1人の感染者も許すべきではなかった」と述べたが、エボラの感染力が想定よりも勝ったと言えなくないのか。 米国には毎日、西アフリカ3国から約150人が入国してくる。ニューヨークのケネディ空港では特定国からの入国者に体温測定をさせているが、発症前であれば発熱していないので、完全な阻止は難しい。 日本に入ってきたら感染拡大は食い止められない リベリアのエボラ熱感染者、3週間で数千人増える恐れ WHO リベリアの首都モンロビアで、エボラ出血熱の症状を周知する壁画を描く地元アーティスト〔AFPBB News〕 コロンビア大学医学部のスティーブン・モース教授も「一般的な病院でエボラの患者を安全な環境で診られるところはない」と述べている。 撲滅という点に目を向けると、抗ウイルス薬も試されているが、ワクチンの完成を待つのが最も近道だろう。今秋から英国の大手製薬グラスコ・スミス・クラインがワクチンの臨床治験を始めている。実際の患者にワクチンを投与するということだ。 通常の新薬認可のプロセスであれば、第1段階の結果が良好であれば、対象患者を増やした第2段階に入り、さらに大勢の患者を対象にした第3段階を経て認可に至る。 一般的な新薬認可には数年を要するが、特例的にスピード認可を認めたとしても、今回のアウトブレイクを止めるには遅すぎる。CDCはエボラの感染者・患者の対応手順マニュアルを精査し直すようだが、全米の医療機関に強制させる権限はない。 幸いにして、まだ日本では感染者・患者が確認されていないが、日本で感染者が出たときのために、他国から学ぶことは多い。元厚生労働省幹部に話を聞くと、「日本はまだエボラの対応はできていないのが実情」と述べており、早急に具体的な対応策を用意すべきだろう。 問題なのは、西アフリカ3国に渡航していた人が発症前に日本に戻り、発熱したことで自宅近くの医院や病院に突然現れることだ。患者側も医療機関側も全くエボラ・ウイルス拡散の対応ができていないため、感染拡大は免れない。 冒頭の「死者500万人」という数字が来年になって、「やはり誇張だった」と笑い飛ばせればいいが、日本を含めて西アフリカと地理的に遠い国までが患者の対応に追われないことを祈りたい。 【対岸の火事ではありません。エボラ出血熱についてこちらもお読みください】 ・「現地レポート:米国初のエボラ出血熱による死亡」 ( 2014.10.14、滝田 盛仁 ) ・「エボラ出血熱:高まる脅威」 (2014.08.20、The Economist) ・「過去最悪の流行になった西アフリカのエボラ出血熱 国境なき医師団からもSOS」 (2014.07.09、川口マーン 惠美) ・「エイズよりはるかに怖いエボラ出血熱、蔓延の兆し 日本も他人事でなくなってきた」 (2014.07.31、堀田 佳男 ) ・「エボラ出血熱の治療薬が簡単にできない理由」 (2014.08.18、堀田 佳男) ・「支援団体、エボラ危機への国際社会の対応を批判」 (2014.08.21、Financial Times) http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/41972 |