03. 2014年10月10日 08:12:50
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ロシア:核の鏡の向こう側の国 2014年10月10日(Fri) Financial Times (2014年10月7日付 英フィナンシャル・タイムズ紙) ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は意気地無しなのか? 大統領には男らしいイメージがあり、クリミア併合で西側に衝撃を与えた。しかし、モスクワには、プーチン氏がさらに踏み込まなかったことに苛立っているように見える強硬派がいる。 そんな1人がヴャチェスラフ・ニコノフ氏。ロシア下院の教育問題委員会委員長で、ヨシフ・スターリンの下で長年外相を務めたヴャチェスラフ・モロトフの孫である。ニコノフ氏は、プーチン氏のウクライナ政策を「非常に慎重」と評している。 ロシアに広がるナショナリズムと西側への疑念 「弱者は打たれる」、プーチン氏 最初の首相就任から10年 マッチョなイメージで、クリミアを併合して西側にショックを与えたプーチン大統領だが・・・〔AFPBB News〕 筆者は先週、下院内のニコノフ氏の執務室に座り、祖父ならウクライナをどう扱っただろうかと尋ねた。若干顔を赤らめながら、ニコノフ氏はこう答えた。「モロトフならウクライナに侵攻し、1週間で掌握しただろう」 もしニコノフ氏の見解が主流から遠くかけ離れているのなら――あるいは、彼が洗練されていない二流政治家だったなら――、この発言には何の価値もない。 だが実際には、ニコノフ氏が抱くナショナリズムと西側に対する強い疑念は現在、ロシアではごくありふれたものなのだ。 ニコノフ氏はカリフォルニア工科大学のような米国の有名大学で教鞭を執ったこともある大学教授であり、著作家だ。だが、米国に関する疑う余地のない知識にもかかわらず、ニコノフ氏と話すと、まるで西側から鏡を通り抜けるような感じがする。 筆者が最近訪問した欧州の首都、特にワルシャワとベルリンでは、ウクライナ危機に関する一定の考えは既成事実と見なされている。いわく、クリミアの併合は違法な侵略行為だった。ウクライナではロシアによる直接的な軍事介入があった。実際、ドイツ政府はウクライナ東部の戦闘で500人から3000人のロシア軍正規兵が死亡したと考えている。 ウクライナ紛争がロシアと西側の戦争に発展する恐れ しかし、ニコノフ氏の世界では、ウクライナ危機は米国による侵略の産物だ。ウクライナには確かに外国の兵士や軍事顧問がいるが、それは米国人であって、ロシア人ではないというのだ。これらはロシアのテレビで日常的なテーマとなっている。 ロシアメディアのナショナリスト的な論調は、バルト諸国とポーランドで大きな懸念材料となっている。だが、ロシアとポーランド双方の危機の分析が合致するところが1つある。鏡の両側の政府高官と評論家は、ウクライナ紛争がロシアと西側諸国の大掛かりな戦争に発展する真の危険が存在することに同意しているのだ。 「ロシアと西側の関係においては、今はキューバミサイル危機以来最も危険な局面だ」とニコノフ氏は話す。カーネギー財団モスクワ・センターの所長で、それほど主張の激しくないアナリストのドミトリー・トレーニン氏も1962年の核を巡る対立を引き合いに出す。 トレーニン氏は、ウクライナに対する欧米の軍事支援がロシアを激怒させるエスカレーションの段階を描いてみせる。ロシアはそれに対し、ウクライナを全面的に侵略し、核の使用も辞さないかもしれない――あるいは少なくとも、通常弾頭を積んだ核弾頭搭載可能なミサイルを使用するかもしれないという。 ポーランドやバルト諸国が描く悲観シナリオ おかしな話だが、筆者はその2週間ほど前にワルシャワで、ポーランド政府高官から同じシナリオについて説明を受けた。ポーランド人たちは、クリミアを飲み込んだプーチン氏は次に、より大きなウクライナ領土、恐らくはロシア人が「ノボロシア(新しいロシア)」と呼ぶようになった同国南部を強奪する誘惑に駆られることを心配している。 それに続くプーチン氏の標的がバルト海沿岸諸国で、ウクライナと同様に、ロシアがここでも抑圧されているロシア系少数民族の利益を守っていると主張する事態をポーランド人たちは恐れている。 NATO7か国、バルト海で合同軍事演習「BALTOPS」 米軍と欧州のNATO加盟国は毎年、バルト海と周辺地域で合同軍事演習を行っている〔AFPBB News〕 「プーチンは西側の真意を見抜いた」。ある悲観的なポーランド高官はこう話す。「我々が武力を使わないことを彼は知っている」 ポーランド人が描く最も悲観的なシナリオは、核弾頭も搭載できる通常兵器搭載ミサイルを使うことによって、プーチン氏が核戦争の瀬戸際まで行く誘惑に駆られるかもしれない、というものだ。 そのような行動の危険性は説明する必要もない。しかし、バルト諸国に対する北大西洋条約機構(NATO)の安全保障の信頼性――ひいてはNATO自体の信頼性――を打ち壊せば、ロシアにとってとてつもなく大きな成果となる。 ベルリンで聞かれた話は、幸い、ワルシャワやモスクワよりも落ち着いていた。ドイツ政府内には、アンゲラ・メルケル首相に繰り返し嘘をついたと言われるプーチン氏に対する深い幻滅感がある。だが、その一方では、危機を段階的に鎮める方法があるとの信念もある。 段階的な沈静化への期待は、先月ミンスクでプーチン氏とウクライナのペトロ・ポロシェンコ大統領の間で交わされた脆い停戦協定にかかっている。 ウクライナ東部で激しい戦闘、揺らぐ停戦 ウクライナ東部では、停戦協定の発効後も断続的に戦闘が起きている〔AFPBB News〕 期待されているのは、双方が紛争を凍結することだ。つまり、ウクライナ側が、もうクリミアを失い、東部の一部地域の実効支配も失ったことを暗に認める一方で、ロシア側がさらなる戦闘の代償は高すぎると判断する、ということだ。 しかし、和平の可能性があると思っている人でさえ、危機が簡単に激化し得ることも認めている。停戦協定にもかかわらず、先週、ドネツク空港周辺で激しい戦闘が繰り広げられた。 鏡を挟んだロシア側では、最大の危険はウクライナ政府が戦争にチャンスを与えることにし、戦闘を再開することだと言われている。 そして西側諸国の首都では、不安視されているのは、プーチン氏の究極の意図に対する最も悲観的な見方が正しかったことが証明され、ある時点でロシアがさらに領土を強奪することだ。 プーチン大統領の狙いはソ連の再建? 西側の筋金入りの悲観主義者は、プーチン氏の究極のビジョンはソ連の再建だと考えている。だが、下院の執務室で、ニコノフ氏はソ連再建という目標を一蹴する。「ソ連はもう過去のものだ」。同氏はにべもなくこう言う。「これはガラスのようなものだ。いったん粉々になってしまったら、もう繋ぎ合わせることはできない」 そして、彼の思いは1986年に死去した祖父に戻っていく。「モロトフがソ連崩壊を見ることなく亡くなって本当によかった」 By Gideon Rachman http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/41926 ロシア、制裁で損失被ったオリガルヒに補償へ 2014年10月10日(Fri) Financial Times (2014年10月9日付 英フィナンシャル・タイムズ紙) ロシアは西側諸国の制裁措置によって国外で差し押さえられた資産について自国のオリガルヒ(新興財閥)に損失を補償するため、ロシアの裁判所に同国内にある諸外国の資産を接収する権利を与える準備を進めている。 欧州連合(EU)と米国の制裁に基づき大富豪のアルカジ・ローテンベルク氏が所有している高級不動産が先月イタリアで差し押さえられたことにちなみ「ローテンベルク別荘法」とのあだ名をつけられた法案は、政府予算がロシアのオリガルヒの保険証券にされているとの抗議を招いた。 資本逃避を懸念する閣僚からも批判の声 露大統領、ウクライナ和平への行動計画を発表 ロシアのウラジーミル・プーチン大統領〔AFPBB News〕 法案は、ロシア国内にある外国の資産がロシア政府と西側諸国との対立の人質になりかねないとの懸念も煽っている。法案はアレクセイ・ウリュカエフ経済相にも批判され、同相はロシアからの資本輸出を促す恐れがあると述べた。 ウラジーミル・プーチン大統領の与党・統一ロシアに所属するロシア下院議員は8日の一次審理で、通常は従順なロシア連邦共産党と極右の自由民主党の反対票を押し切って同法案を強制通過させた。 同法案は、外国の裁判所によって自身の権利を侵害されたロシア国民は、差し押さえられた資産やその他の損失を埋め合わせるために、ロシアの政府予算からの補償を申請できると規定している。そのうえで、ロシアの裁判所はロシア政府に費用を弁償するために、問題になっている国の政府がロシア国内に保有する資産の差し押さえを命じられると定めている。 一部の野党政治家は、経済停滞とインフレ高進を受けて政府が社会福祉への予算支出を削減しているため、この法案は政府に対する怒りを招きかねないと話している。公正ロシアに所属するオレグ・ニロフ議員は「思い出してほしいが、予算にそんなお金はなく、病気の子供の面倒を見るためのお金さえない」と述べた。 オリガルヒは同法を使わない? しかし、法律の専門家の間には、大物たちは同法を使いたがらないと見る向きもある。補償を受けるためには、問題の資産の所有権をロシアの裁判所に証明しなければならないからだ。 多くのオリガルヒの外国資産は、外国の持ち株会社や信託を通じて保有されており、所有権をロシア政府から隠せるようになっている。「彼らは税務調査官を恐れ、強制捜査を恐れている。そもそも彼らが自分の会社を外国の管轄下に置いているのは、そのためだ」とモスクワのある外国人弁護士は言う。 ロンドンに拠点を構えるロシア人弁護士で、石油会社ユーコスの当時のオーナー、ミハイル・ホドルコフスキー氏の投獄が会社解体につながる前に同社の法務顧問を務めていたドミトリー・ゴロロボフ氏は「15年刑務所に入るよりは、そうした資産を失った方がいい」と書いた。 今回の法案は、ロシア人弁護士の獄中死に対応し米国が複数のロシア政府関係者の資産凍結を定めた「マグニツキー法」への対抗措置として2013年初めに想起されたものだ。だが、ロシア政府は今夏まで、憲法違反だとして同法案を拒絶してきた。先月末になって突然、政府は法案の支持に回った。 ユーコスの元株主との戦いも視野か 一部の政治評論家は、ロシア政府はユーコスの元株主との戦いに備えていると考えている。オランダ・ハーグの仲裁裁判所は7月、ユーコスの元株主に500億ドルの損害賠償を認めた。この判決が上訴審でも支持され、ロシア政府が支払いを拒めば、株主は賠償を得るために他国でロシア政府の財産を追求することができる。ロシアの法案が通れば、ロシア政府は説得力をもって報復の脅しをかけられるようになる。 「この法案は、ロシアと西側の離婚と共有財産の分割に関する法律と呼べるだろう」。モスクワの政治工学センターのアナリスト、タチアナ・スタノヴァヤ氏はブログでこう書いている。 By Kathrin Hille in Moscow http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/41928
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