01. 2014年9月25日 21:35:23
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スウェーデン総選挙と岐路に立つ欧州政治 既成政党が支持失い、極右が躍進〜北欧・福祉社会の光と影(49) 2014年09月25日(Thu) みゆき ポアチャ 9月14日に実施されたスウェーデン総選挙の大ざっぱな総括は、中道右派政権のフレドリック・ラインフェルト首相が交代し、社会民主労働党(以下、社民党)党首のステファン・ロベーン氏が首相を引き継ぐことになったことと、ファシズムを標榜するスウェーデン民主党が同国第3の政党となったことだ。 さらに特徴的なことは、既成の政党が大幅に支持を失い、いわゆる新興政党が票を伸ばしたことと言える。社民党の勝因を一言で言うと、「政権党である穏健党の支持票が大量に極右党に流れた」からだ。 スウェーデン国民の消極的選択 予想通り社民党が第1党となり、連立を形成して政権を引き継ぐことになったが、同党が獲得した投票は31%だ(上図参照*1)。これは、前回2010年の総選挙時の得票結果からわずか0.4%増えただけなので、国民が喜んで「次期政権を任せたい!」という強力な支持を送った結果、というわけでもなさそうだ。
社民党の得票に、環境党6.8%、左翼党5.7%を合わせても、得票率は半数に満たない43.7%である。つまりこの3党連合は、議会投票で過半数を占めるために必要な175席には15議席ほど足りないことになる。 これまで2期にわたって政権に就いてきた、穏健党が率いる中道右派連合も悲惨な結果だ。穏健党は、前回選挙から得票率を6.7%減らし、23.2%という低率となった。同党と連立してきた3小党、自由党、中央党とキリスト教民主党も、前回から支持を減らしている。 この2大連合の得票差は4.4%と、それほどの大差ではない。有権者にとっては、「どっちに投票しても大した違いはない」ということなのだろう。 「次なるスーパーモデル」も今は昔、急拡大する格差に有権者がノー 保守・穏健党党首のラインフェルト氏は選挙ポスターで「さあ、スウェーデンを建設しよう!」と呼びかけたが、敗北を喫した 敗北が確定した後、ラインフェルト氏と財務大臣のアンダース・ボリ氏は辞任を発表した。ボリ氏は政界からも引退すると宣言した。
昨年、英エコノミスト誌のカバーストーリーで、「世界が学ぶべき北欧諸国: 次なるスーパーモデル」として彼らも賞賛されていたが、それももう「今は昔」だ。 この8年間にわたり政権を率いてきた中道右派は、就任した2006年以降、スウェーデン史上最大の規模で国有資産を売却し、公共部門の民営化、規制緩和、社会福祉の削減と減税を推進してきた。 *1=http://www.dn.se/valet-2014/se-2014-ars-valresultat/ この結果、社会の不平等が極端に深化した。経済協力開発機構(OECD)の調査では、スウェーデンは社会的不平等が最も急速に拡大している国となっている。 このコラムでも触れてきたが、教育制度のスタンダードは劣悪化し、学校生徒の成績低下が止まらない。重病患者の病院での待ち時間の長さも、加盟国中ほぼ最高レベルだ。失業率は約7.9%だが、25歳以下の若者と移民、および一部の地域では20%を超えている。 移民・難民の排斥を唱える極右スウェーデン民主党の躍進 極右スウェーデン民主党の選挙ポスターは「組織的な物乞いをストップせよ」と謳っていた 票を確実に伸ばした唯一の党は、13%と得票を倍増させた極右スウェーデン民主党だ。これにより同党はスウェーデン第3党という大勢力となり、議会にこれまでの20人から、49人に膨張した議員団を送ろうとしている。
同党は、福祉国家を濫用し、国が現在直面している社会・経済的な問題を生成している諸悪の根源は移民・難民であるとして、増大する社会への不満を吸収して肥大してきた。 そして政権が交代するとはいえ、新政府を担う社民党とその同盟2党は、恐らくこれまでの路線を大きく変更しようとはしないだろう。 実際には、2006年まで首相のヨーラン・ペーション氏が率いた社民党が、教育など公共部門の重要な分野を民営化するなどの改革の多くの基礎を築いてきた。これがラインフェルト氏に継承され、政権交代した後、さらに深化され実行されてきた。野党として反対はするものの、社民党は政府の右派政策の多くに暗黙の支持を提供してきたと言える。 そしてこのたびの選挙後に明らかになった、スウェーデン国民を驚かせた事実は、社民党はこれまでのように環境党と左翼党との3党連立を形成せず、環境党はそのまま政権に受け入れるが左翼党は連立から外し、自由党や中央党と連立しようとしているということだ。 新政府は、政策路線を右傾化していくということを明確に宣言したということだ。やはり「どっちの陣営に投票しても大した違いはない」ということが実証された格好だ。 社民党にも、スウェーデンの北欧社会モデルを崩壊させてきた責任は大いにあり、それは政権継承後も継続させるということのようだ。そして今、新たに政権に就くことにはなったが議会で過半数に満たない弱小政府は、前政権と同様、「バランス・オブ・パワー」、拮抗のバランスを決定する勢力となった極右党にも結局は頼らざるを得ないことになる。 長期にわたって、住みよい社会のモデルとされてきたはずのスウェーデンは、実は国民からも信任を失っており、これが今回の選挙で如実に露呈する結果になったと言える。 欧州極右の伸長、極端な未来を先取りするフランス 欧州の政界は、大揺れだ。欧州が進むかもしれない極端な未来を先取りしているのはフランスだ。 極右の伸張という点で言えば、フランスのネオファシスト政党である国民戦線(FN)の党首マリーヌ・ルペン氏が、次期のフランス大統領になりそうな勢いだ。同党は今春の欧州選挙で25%の支持を得、欧州議会ではすでにフランスの第1党となっている。 9月5日付の仏フィガロ紙によると、9月中に実施された世論調査で「次の日曜日に大統領選挙が実施された場合、あなたはどの候補に投票しますか」という問いに「マリーヌ・ルペン」と回答した人が30%を超えた(上図参照*2)。現職大統領のフランソワ・オランド氏の支持率は、半数の17%だ 。
フランスでは、8月末に社会党政権が大揺れし、公に政府政策を批判した経済相と教育相を更迭して内閣改造を実施するなど、政治情勢が極端に不安定化している。政府の支持率は20%以下という歴史的な低率だ。 内閣改造の数日後にルペン氏は、仏フィガロ紙のインタビューで、「この政府はフランソワ・オランドの最後のチャンスであり、純粋に危機に直面するだけだ」と言い、大統領はすぐに新たな議会選挙を行うことを余儀なくされるだろうとして、こう言った。 「私たちが選挙で過半数を得た場合、私たちはフランス人が私たちに委ねた責任を直視します」 つまり、自分たちはフランスを支配する準備はできていると宣言したということだろう*3。 国民戦線が勝利すれば、EUとユーロ圏から脱退か フランス極右「国民戦線」、ルペン氏3女が党首に 勢力を伸ばすフランス極右政党、国民戦線(FN)のマリーヌ・ルペン党首〔AFPBB News〕 彼女はこのインタビューで、フランス通貨の競争的切り下げを主要な経済戦略とする意図をほのめかしている。つまり欧州連合(EU)とユーロ圏から脱退するということだ。 ルペン氏は、仏ルモンド紙のインタビューでは批判の矛先をEUに向け、こう発言している。 「ウクライナ危機を引き起こしたのはすべてEUの責任である。EUの指導者たちはウクライナに欧州とロシアのどちらかを選択することを強制し、現在の危機を引き起こした」「EUの外交は問題を作り出すか、状況を悪化させるかのどちらかだ。EUは破局的な大惨事を引き起こしている」*4 そして、これに同意する圧倒的な多数が同党へ支持を集中させているということなのだろう。 *2=http://www.lefigaro.fr/politique/2014/09/05/01002-20140905ARTFIG00167-sondage-marine-le-pen-en-tete-de-la-presidentielle-dans-tous-les-cas-de-figure.php *3=http://www.lefigaro.fr/politique/2014/08/29/01002-20140829ARTFIG00286-marine-le-pen-nous-sommes-prets-a-gouverner.php *4=http://rt.com/news/185616-eu-pen-crisis-ukraine/ とはいえ極右政党の党首を大統領に迎えることは、真にフランス国民の総意なのだろうか。 既成政党への支持の失墜、右派勢力の拡大に関しては、他の欧州国でも似たような現象が起きている。 既存の体制が揺らぎ始めた欧州 スウェーデン総選挙と同日に行われたドイツ地方選挙でも、既成政党が大幅に支持と権威を失墜させ、昨年結党された新政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が大きく票を伸ばした。こちらもEUとユーロからの脱退とドイツマルクの復活、外国人の入国審査の厳格化などを党是としている。 同党は設立から7週間で党員数が1万人に達したと報道された。現在も伸張を続け、勢力の増大が与党を脅かしている。 スコットランド住民投票、投票率およそ9割 過去最高 スコットランドの住民投票では、独立反対派が勝ったが、独立支持の得票も45%に達した〔AFPBB News〕 英国でも、スコットランドで独立を問う住民投票が行われたが、これも体制を揺るがすに十分な大事件だ。 スコットランドは独立には至らなかったが、投票前には307年にわたるスコットランドとイングランドの連合の解体は「リーマン・ショック」に匹敵するほどの体制の激変と弱体化をもたらすといった懸念が政治家や企業者、軍部などから警告されてきた。 このように現在の欧州は、過度の政治的緊張状態にある。 つまり欧州全土で、EUも含め、既存の政治・支配体制が根底から揺らぎ、瓦解を開始している。体制の崩壊は時間の問題と言えるのかもしれない。 議論なく膨張する国防費 話をスウェーデンに戻すと、総選挙前の討論で大いに議論されたのは教育と福祉、移民問題などだ。筆者が引っかかっていたのは、どの党もメディアも識者も、急激に増大する軍事費に関して一切触れていなかったことだ。 4月に、国防費が今後10年間にわたって10%以上増加されることが公表されたが、選挙前にこのことにはほとんど言及されていない。国防相によると、防衛費増強により主に空軍を強化し、バルト地域の防衛に焦点を当てるとしている。つまりスウェーデンは米国・北大西洋条約機構(NATO)とともに、ロシア封じ込めの一翼を担うということだ。 米国とスウェーデンの諜報機関の緊密な連携も、これに伴う国家の監視権限の拡大も、何ら議題には上らなかった。 スウェーデンはNATO加盟国ではないのだが、米国に追随しNATOの作戦行動に参加し大きく貢献していくというコンセンサスが、少なくとも政党間では暗黙裡に出来上がっているようだ。 現在、地域で焦点化しているウクライナ情勢は、筆者の私見では、全く沈静化する兆しは見えない。状況の悪化に応じて、国防費はほとんど議論されないまま、今後も膨れ続けるのだろうか。ウクライナの状況は、軍事のみならず経済的にも社会的にも、欧州に大きく影響する。 ますます緊迫するウクライナ情勢 ウクライナをめぐる情勢はますます緊迫している。9月5日、ベラルーシの首都ミンスクで両者間の停戦がサインされ、「ウクライナは安定に向かう」とメディアは報道したが、その後も東部ウクライナの分離独立派に対するウクライナ政府軍の砲撃が継続している。 報道では9月17日に市街が銃撃され、市民2人が死亡した。ドネツク当局のアンドレイ・プルギン氏は、「重火器が激しく使用されており、ドネツクの4つの区域が常に爆撃されている」と言い、その2日前にも市民を乗せたバスが砲撃され、現場には6メートル幅の巨大なクレーターが残ったと話している*5。 同17日、ウクライナ首相アルセニー・ヤツェニュク氏は、分離独立派に対する完全な戦闘準備に入るようキエフ軍に命じたと報道されている*6。同首相はNATOに対し、ロシアとの全面戦争になればウクライナを支持するよう呼びかけた。 核を持つ超大国との「全面戦争」が、現実的にはどういったことを意味するのだろうか。 ウクライナ大統領、米議会で演説「ロシアは世界の脅威」 9月18日、米連邦議会で開かれた上下両院合同会議で演説するウクライナのペトロ・ポロシェンコ大統領〔AFPBB News〕 18日には、ウクライナ大統領のペトロ・ポロシェンコ氏が米国議会で演説し、東部の独立派を抑圧するための軍事支援を増加するよう求めた。 議会の広報紙「The Hill」は、「(ポロシェンコ大統領の演説は)ウクライナの夢を守るために我々に呼びかける、非常に熱心な訴えだった」とし、ウクライナに対戦車兵器、地対空ミサイルや弾薬などを送るべきだとする、民主党議員で上院軍事委員会委員長のカール・レビン氏の声を載せている*7。 同議員はウクライナへの武器援助を、何週間にもわたって表明し続けている*8。 米国がウクライナに殺傷兵器を直接供給するようになるのは時間の問題だろう。 *5=http://www.telegraph.co.uk/news/worldnews/europe/ukraine/11102111/Ukraine-rebels-say-ceasefire-has-broken-down.html *6=http://www.dw.de/fighting-in-donetsk-as-eastern-ukraine-granted-more-autonomy/a-17927705 *7=http://thehill.com/policy/defense/218186-levin-arming-ukraine-up-to-obama *8=http://thehill.com/policy/international/216457-democrats-push-obama-to-send-arms-to-ukraine この翌19日から、ウクライナ軍は本格的な攻撃を開始し、ドネツクで分離独立派が掌握していた兵器工場を爆破し、破壊した。22日の報道によると、ウクライナ軍の広報担当者アンドリー・ルイセンコ氏は、ドネツク空港周辺での「防衛」攻撃により、分離独立派の戦闘員40人を殺害したと言っている*9。 停戦条項は2週間も持たずに失効し、和平協定は事実上無効化したと言える。 というより、そもそもこの「停戦協定」の目的は、ウクライナの東部国境に沿って西側軍の非常線を設置し、その間にウクライナ部隊を再編成しNATOがロシア封じ込めを準備するための時間を稼ぐことだったようだ。 21日にはリトアニアで、米空軍将軍とNATOの上級司令官らの会議が行われ、ロシアと国境を接する国家群にNATOの地上軍と空軍が駐留する、いわゆる準備行動計画が具体化した。発表された声明によると、バルト諸国およびポーランド、ルーマニアなどロシア周辺国でのNATO軍の展開は10月に開始する予定のようだ*10。 この会議が行われていた全く同時刻に、15カ国から派遣された1300の軍隊は、ウクライナ内で米国とウクライナ軍の連携を伴うラピッド・トライデント作戦の一部である軍事演習を開始した。この演習は9月26日まで続くことになっている*11。 失われていく「スウェーデンらしさ」 「平和を愛し、200年にわたる中立を維持してきた」スウェーデンは、この情勢の中で、西側勢力の一員として、この戦争にも深々と加担していくのだろうか。 結局、スウェーデンはこの選挙以降も、政権交代前と全く変わらず、これまでスウェーデンをスウェーデンたらしめてきた「高度な福祉国家」とか「中立を守ってきた平和主義国」「移民に寛容な国民性」とかいったユニークさを失っていくのだろう。 つまり、他の国家と何ら変わりない国づくりを着々と進めていくということだ。 そして世界はますます不安定になりそうだ。 *9=http://www.cbc.ca/news/world/ukraine-crisis-casualties-climb-despite-ceasefire-1.2773245 *10=http://news.xinhuanet.com/english/euruope/2014-09/19/c_133656933.htm *11=http://www.reuters.com/article/2014/09/02/us-ukraine-crisis-exercises-idUSKBN0GX23Q20140902, http://www.stripes.com/news/us-army-to-proceed-with-planned-exercise-in-ukraine-1.272551 http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/41783
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