01. 2014年10月24日 07:54:18
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英国に深刻な被害を及ぼしかねない愁苦主義 こんなに素晴らしい国なのに、なぜ不満だらけなのか? 2014年10月24日(Fri) Financial Times (2014年10月21日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)テムズ川岸で居眠り、川に落ちた男性救助される 英ロンドン 英国では移住者や「エリート」、政治そのものに対する不満の声が高まっている(写真はロンドン)〔AFPBB News〕 「静かな絶望の中で耐え忍ぶのがイングランド流だ」――。1973年にピンク・フロイドはこう歌った。ストイックな態度は当時の国民性であり、欧州の病人だった英国にはそれが必要だった。 現在、この国の否定的な態度には、静かなところなど何一つない。今日の英国を取り巻く雑音は、移住者や詳細不明の「エリート」、政治そのものに対する唸るような不満の声だ。 目下、選挙に関して世間を沸かせている英国独立党(UKIP)は、今の状況がひどく、一段と悪化しているという多くの人の見方を糧に伸長している。最大野党の党首であるエド・ミリバンド氏は、近代経済と対立している。明るい気質のデビッド・キャメロン首相でさえ、不機嫌な気分にふけっている。 このような耽溺はとにかく許し難い。というのも、そうした不機嫌さは全く見当外れだからだ。 不満の声が間違っているこれだけの理由 博識な外国人のような目で英国を見るといい。ここにあるのは、国の存在を脅かす分離派の脅威に対して、自由で公正な住民投票を実施することによって対応する国だ。英国は、大半の欧州諸国よりも企業に寛容で、米国よりも貧困層に優しい経済モデルを発展させてきた。 公共支出を年々減らしながら、これといった社会不安も起きない。犯罪は減っている。失業率は6%だ。政治家は大した人物ではないが、基本的には尊敬に値する。首都ロンドンは現代世界の奇跡だ。 英国は他の先進国と比べても、不気味なほど安定している。フランスでは、2017年に国民戦線(FN)の大統領が選出される可能性が少なからずある。ここ英国では、来年の総選挙で考えられる最も極端な結果は、その偏屈な気難しさが過激主義にはまだ至らないUKIPが議席をいくつか獲得することだ。 移住者は確かにやって来る。それも理由があってのことだ。英国は、来るに値する場所なのだ。最も効果的な移民排斥政策は自国を魅力のない国にすることであり、英国は戦後の大半の時期を通じて、その実験を行ってきた。 我々は自分たちが思っている以上に良いだけでなく、以前の自分たちより良くなっている。1973年には、英国は自らを統治することもままならず、ましてや、フランスとドイツを経済的に対等な相手と見なすことなどできなかった。 ちなみに、それは英国が実際にエリートによって動かされていた時代だった。大企業と組合労働者、政府のトロイカが国を支配し、そのよろめくコーポラティズムのために、世界最初の工業国はやがて、国際通貨基金(IMF)に支援を求めることを余儀なくされた。 英国は今、当時より豊かで、自由で、広く羨まれている。それなのに、話題という話題が衰退一色だ。英国は、自分たちが成功していることを知らない成功国だ。ツキに見放されたバナナ共和国のように塞ぎ込む、安定と進歩の地なのだ。 ここ数十年間の英国の大いなる繁栄は、欧州プロジェクトへの加盟と時期が重なった。英国が欧州プロジェクトに加わったのは、ピンク・フロイドが英国人の絶望について歌ったのと同じ年だ。この事実は、欧州が英国の役に立ってきたか、あるいは――考えられる限り最も厳しい分析でも――決定的な形で英国を阻害することはなかったことを示唆している。 真の脅威は不満そのものに対する政治的な過剰反応 英国は、惨めな気分を楽しむような愁苦主義者が政治的取引の条件を決めることを許すわけにはいかない。それは単に彼らが間違っているからではない。愁苦主義者は、重大な害をもたらす力も持っているからだ。 この国にとっての真の脅威は、彼らが不満をこぼすこと――欧州や移住者、市場、ロンドンがこれらすべてを包括していることなど――では決してなく、不満そのものに対する政治的な過剰反応だ。 次期政権が、国民のムードに合わせる無駄な努力を払う過程で全くもって馬鹿げたことをすることは想像に難くない。ミリバンド氏は増税を口にしているだけでなく、1970年代に実に見事に機能した類の価格介入で自由な経済モデルを壊すことも話題にしている。 英首相、EU残留を問う国民投票を約束 17年末までに デビッド・キャメロン首相はEUからの脱退を望んでいたわけでもないのに、着実と出口に向かっている〔AFPBB News〕 キャメロン氏に関して言えば、同氏が一度として本当に望んだわけでもない欧州連合(EU)からの脱退の実現に向け、3分の2の道のりを達成したように見える。 そのパターンは、こうだ。不満を持つ人たちがキャメロン氏を追い立て、同氏がEUからの出口に向かって一歩進む。すると、不満を抱えていた人はしばらく喝采するが、またキャメロン氏を追い立て、同氏が出口に向かってさらに一歩進むといった具合だ。 その過程は、重役が机上に飾る置物のメトロノームのような予測可能性をもって進んでいく。 キャメロン氏は今、EUが自由な移動の権利を制限することを望んでいる。英首相官邸がまだ作成中の声明で、同氏はこれをEU残留を支持する条件にする可能性さえある。首相はとっくの昔に、一連の出来事の流れの中に自らを閉じ込めてしまった。それがどこで終わるのかは、はっきりしている。 英国の国益がどこにあるのかという冷静な分析の結果がEU脱退なのだとしたら、首相は是非とも脱退を勧めるべきである。抑えられない苛立ちのムードを鎮めるためにEU脱退を勧めるべきではない。 豊かな国を当たり前だと思う危うさ 見事な皮肉屋だった米国外交官のジーン・カークパトリック氏は、自己に対する米国の辛辣さに触れ、「米国人は、自分たち自身に関する真実と向き合わなくてはならない。それがどれほど心地よくても、だ」と述べた。 英国人も同じだ。英国人は、自分の一生のうちに向上した、類稀なダイナミズムと成熟度を兼ね備えた豊かな国に住んでいる。彼らが不機嫌なのは、それを当たり前のことと考えているからだ。実際は、それは長年にわたる賢明な決断の蓄積だ。頭に血がのぼった数年間はそれを台無しにしてしまう可能性がある。 By Janan Ganesh http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/42041 |