02. 2014年9月24日 07:38:29
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アメリカ中間選挙を左右する4つの国際情勢 日本は“自立した”国際関係構築の努力を〜アメリカ空軍戦争大学で教えて(8) 2014年09月24日(Wed) 片桐 範之 アメリカでは11月4日に中間選挙が行われる。今回改選となるのは上院議員のうちの3分の1、下院議員は全員である。2年後の大統領選挙への布石ともなる、大切な選挙である。今回の中間選挙の動向 幾つかの世論調査が出されているが、その中でもギャロップの報告によると、米国民の間では一般的に不満が高まっており、特に議会に対しての評価が低い。つまり今回選挙を迎える現職に対する逆風が強まっている可能性が高い。 現時点では共和党が僅差で有利なようだ。リアル・クリア・ポリティクスの情報によると、どの世論調査を見るかにもよるが、一般的に共和党への票が伸びそうな気配がある。 モンキー・ケイジと呼ばれる、政治学者が集まって行うワシントン・ポスト紙の政治分析コーナーでは、今回の選挙で上院は共和党が過半数を制し、下院では今後も共和党が過半数を維持するだろうと予想している。 世界の多くの国では内政や経済が選挙に強い影響を与え、それはアメリカも例外ではない。 アメリカで最近問題になっているのは、景気、国民の社会保障、雇用、健康保険、メキシコ国境地帯の不法移民流入、そしてミズーリ州ファーガソンでの射殺事件が反映する人種問題などがあり、それらが選挙の行方を左右するのは明らかである。 しかしアメリカ国外の出来事も重要である。大統領選挙まではまだ2年あるが、例えばリビアのベンガジで起きたアメリカ在外公館襲撃事件では、当時国務長官だったヒラリー・クリントン氏の責任が問われている。 事件の発生から2年以上経つにもかかわらず、議会や一部のメディアを中心にいまだに政治問題として扱われており、彼女が大統領選に出馬する場合は共和党が攻撃の材料にする可能性が高い。 ワシントン・モニュメントの後ろにかすかに見えるアメリカ議会(写真:著者提供) 一方でその共和党はランド・ポール上院議員や、マルコ・ルビオ上院議員、そしてミット・ロムニー前大統領候補の名が挙がっているが、現時点ではこれといった候補がいない状態である。 海外の事情が重要である理由は、世界の政治や経済は一般的にアメリカの外交政策を反映していると考えられるからである。それがオバマ政権の外交政策の支持率として評価されるため、選挙では必ず問題提起される。 本稿では重要な国際問題を4つに絞り、それらが今年の選挙にどう影響するのかを考察したい。 その1: イラクとシリア ここ数カ月の間で混迷を極めるイラクとシリアに関してアメリカ国民が懸念しているのは、今後アメリカの地上軍の投入が始まり、それが「第3の」イラク戦争に発展してしまう可能性である。 9月17日の時点では空爆を中心としている軍事行動も、今後エスカレートする場合は、その戦争の規模にもよるが、軍事予算の増加がアメリカ経済に負の影響を与える可能性がある。その場合は国民の生活が苦しくなり、結果としてその政策を支持する議員を選挙で不利にする。 2011年に終わったイラク戦争は日本では残念なことにその参加の是非が十分議論されることもなく、日米同盟を維持するために行われた「正しい」戦争だったと見られているが、ここアメリカでは見方が大分違う。 イラク国民はもちろん、多くの米兵の犠牲者を出し、極めて不人気の戦争である。従って今回は地上軍の本格的な投入が本当に必要か、アメリカ国民も注目しているのである。 オバマ政権は今後のイラクでのエスカレーションの可能性を否定しているが、イラクやシリアを含む国土で「イスラム国」を中心とする情勢次第でアメリカの中東政策が変化する可能性は残っている。 同時にアルカイダの脅威も残っているままである。アルカイダはイエメンやアルジェリア、パキスタンなどでも影響力を維持しており、それがアメリカの今後の軍事戦略に関わり続けるのは間違いない。 先日もアルカイダは南アジアでの分派を開くと宣言した。これらの勢力がアメリカ本土を脅かすようになれば本格的な戦争の可能性も否定できず、それをどうアメリカ国民が感じるかが焦点になる。 その2: イスラエル・パレスチナ問題 ハマス、イスラエルとの停戦交渉終了を宣言 テルアビブ便に警告 ガザ地区からイスラエルに向けて発射されるロケット弾。イスラエル側から撮影 ©AFP/DAVID BUIMOVITCH〔AFPBB News〕 ガザ地域におけるイスラエルとハマスの間の紛争は長い歴史を持つが、ここ数カ月の間で激化した。幾たびの停戦合意も途中で破棄され、双方による砲撃が繰り返し行われている。 アメリカ連邦議会の議員の多くはロビーグループを通して様々な経済・圧力団体から政治資金を受けており、政治・経済的に強い影響力を持つユダヤ人を多く含むアメリカはイスラエルに対して強く抑制することができない。 それが結果としてイスラエル寄りの中東政策を生み出し、ヨーロッパやアラブ諸国などから批判を浴びている。ここ最近でもイスラエルのアイアンドームと呼ばれるミサイル防衛システムの資金援助を米議会が承認した。 悪化する状況に今後ロビーが中間選挙をどう動かすかが注目される。アメリカがイスラエルを捨てることは政治上不可能に近い中、一般市民の犠牲者を減らすべくデリケートな外交努力が続けられている。 その3: ウクライナ危機 ロシアとの大国間の戦争の可能性を含むウクライナの危機も長期化してきている。ロシアとアメリカの核ミサイルの削減の交渉は進んでいるが、スノーデンやサイバー問題などの件もあり、モスクワとワシントンの間の信頼関係は薄く、双方とも有効な解決策にコミットするのに苦労している。 欧米諸国は経済制裁をロシアに押し付け、フランスは外部の圧力に押されてロシアへの武器輸出を一時停止している。しかしヨーロッパのほぼ全土ではロシアからのエネルギー資源が必要なため、今後どこまで制裁が続けられるかは分からない。マレーシア機撃墜に関するロシアに対する国際批判は短期的であった。 もちろん、ロシアと欧米諸国の間には相互的な核抑止もあり、ロシアとアメリカの戦争の可能性は低い。従って冷戦時代のようにアメリカ国民を核兵器の危険に晒すというわけではない。 また、経済制裁に対するロシアからの反撃が限定的であり、それがどこまでアメリカ国民の生活に影響するかはまだ不明である。しかし強気のプーチンに対してオバマ大統領がどう出るかでアメリカの評判や民主党のイメージにも影響が出かねず、それが共和党を有利にする可能性がある。 その4: アジアの経済と安全保障 ここで興味深いのは、ここ数年のアメリカ外交政策の要とも言われてきた「アジア回帰」が、どれほど選挙に影響するのかということである。 3月の寄稿で私は、様々な世界情勢の中、どこまでアジア回帰が継続されるかという問題を提起した。 米軍事予算の低下、アジア外での状況の不安定性(同稿では分析しなかったイラン情勢やエボラ出血熱を含む)、そしてオバマ政権内におけるアジア回帰の推進派の影響力の有無などを考慮すると、アジア回帰がそのうち終わってしまう可能性がある点を指摘した。 ここ数カ月の間は北朝鮮の状況はある程度の安定性を示しており、東アジア地域で危険なのはどちらかと言うと東シナ海や南シナ海であろう。これらの地域での紛争は米中にとって経済的なダメージが大きいため、できるだけ回避しようとしている。 しかし万が一紛争が起きる場合、日本やフィリピンなどの同盟国へのコミットメントが試される。これに失敗すると、アジアの秩序を崩したとし、オバマ政権の外交政策に影が落ち、今回の選挙で共和党を有利にする可能性がある。 一方で、TPPの締結は農業や自動車産業界から反対があるが、これがアジア企業の投資を促進しアメリカの雇用状況を改善すればTPP推進派や、それを可能にしたオバマ政権を支える民主党に有利に働く。 今後2年の間で民主・共和両方の大統領候補がTPPの重要性をアメリカ国民に説き、TPP承認のための日本への圧力が増す可能性がある。 同様に重要なのは米中の経済関係である。米中貿易はアメリカ国民の雇用問題と直結し、政治プロセスにも影響する。ただ同時にサイバー面での信頼を構築する必要も挙げられる。 7月の寄稿でも書いた通り、中国のサイバー攻撃はアメリカ連邦政府や州政府だけでなく、民間企業の情報ネットワーク、ガスや水、核施設などもターゲットになっており、オバマ政権がいかにしてそれらの生活インフラを守るかが鍵である。 日本への意味合い 日米関係を考える場合、日本ではよく、共和党政権の方が親日的であると思われており、結果として民主党政権を嫌がる傾向が見られる。 日米関係を見ている人間として、この視点には感情的な性質が強いとは思う一方、理解できないことではない。この点は実はアメリカの日本専門家の間でも議論になっており、数カ月前には「ネルソン・レポート」というワシントン発の報告でも話題に上っていた。 しかし仮にそれが本当であったとしても、これは特に重要ではない。結局のところ、ワシントンにおける日本ロビーは数十年前と比べて弱体化し、アメリカ国内での影響力を大きく失った。 在米日本人の政治的影響力も乏しく、日本が共和党政権を望んだところでできることは少ない。現時点ではアメリカ国民がどう投票するかを傍観し、その結果を受け入れることしかできないのである。 バングラデシュ、日本の安保理非常任理事国入りを支持 6日、バングラデシュのハシナ首相は安倍首相との首脳会談後、日本の非常任理事国入りを支持すると表明 ©AFP/Munir uz ZAMAN〔AFPBB News〕 それよりも重要なのは、アメリカの政治がどうであれ、今日の日本人が戦略的なビジョンを持ちそれを実行すべきことではないかと思う。アメリカ国内の動向を基に意見を構成するのではなく、自分たちの能力を高めながらより積極的に海外に発信していく努力が必要であると思う。 共和党・民主党どちらが今回の選挙で優勢になろうが、日本にとって最も重要な日米同盟や貿易関係は維持されるだろう。大切なのはその変化しつつある国際情勢を理解し、日本独自の政策を打ち出すべく努力を重ねることだと思う。 本稿で述べた世界の問題は日本の国益にも影響を与える。エネルギー資源や中東の政治的安定性、そして世界各地の中国企業の影響力は日本企業にとって大切な戦略的問題である。 また、欧米の対ロ制裁の中、日本は北方領土問題の解決を目指している。アジア太平洋地域でも日本の役割は経済面だけでなく、安全保障の面でも多く期待されている。 ※本稿の内容は筆者個人の考えに基づくものであり、必ずしもアメリカ政府、国防総省、およびアメリカ空軍戦争大学の政策を反映するものではありません。 http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/41779 |