01. 2014年9月16日 07:32:08
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スコットランド独立:英国の連合体制の終焉か? 2014年09月16日(Tue) The Economist (英エコノミスト誌 2014年9月13日号) 連合体制の放棄は、スコットランドにとっては過ちであり、残された国にとっては悲劇となるだろう。 英国旗でいっぱいの目抜き通り、ロイヤルウエディングで イングランドやスコットランドの旗を重ね合わせたデザインの英国国旗〔AFPBB News〕 学校に通う子供たちはかつて、郵便物の詳細な宛先を書くことで、複雑なネットワークと帰属意識が絡み合う、この世界における自分の居場所を頭に描いたものだった。 英国の子供なら、まず通りと町の名前(ロンドン、マンチェスター、エジンバラ、カーディフなど)に始まり、イングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドのいずれかが続き、そのあとに連合王国(UK、英国)という記載が来る(さらにそのあとは欧州、世界、宇宙・・・と続く)。 子供たちは、英国、さらには産業革命、大英帝国、ナチスに対する勝利、福祉国家など、この国が味わってきた数々の苦難と偉業のすべてが、スコットランドのハイランド地方やイングランドのクリケットと同様に、自分たちの歴史的遺産であることを理解していた。 同じ軸から同心円状に広がるこうしたアイデンティティーは、互いに対立するものではなく、補い合うものだということを、子供たちは本能的に知っていた。 少なくとも、かつてはそうだった。スコットランド独立の是非を問う住民投票が実施される9月18日以後は、そうした層状構造のうちの1つ、すなわち英国の部分が消滅するかもしれない。少なくとも、3世紀前の連合法成立から認識されてきた形では存在しなくなる。 投票日が近づくにつれ、世論調査ではスコットランドの民族主義勢力が独立に反対する連合維持派に追い付き、さらにはわずかながらリードを奪っている。 スコットランドの兵士や政治家、思想家やビジネスマンがその建国や繁栄に貢献したにもかかわらず、英国はスコットランドの民族性を守り育てず、逆に押しつぶしていると考えるスコットランド人がますます増えている。市民全体のわずか7%しか参加しない投票により、この偉大なる多民族国家が、一夜にして崩れ去ってしまうかもしれないのだ。 かつては想像もできなかったその結末は、スコットランドにとっては散々な結果、あとに残された英国にとっては悲劇となるだろう。 分裂がもたらすダメージ 独立後に残された英国の存在感は、あらゆる国際的な議論の場で小さくなるだろう。自国民に背を向けられた国の言うことに、誰が耳を傾けるだろうか? 英国が自由貿易と国際秩序の維持を概ね支持していることを考えれば、これは世界にとっても災難と言えるだろう。核保有国としての英国の地位も危うくなる。核ミサイルを搭載する英国の原子力潜水艦は、スコットランドの入江に設けられた海軍基地に配備されていて、すぐに動かすことはできない。 また、英国が欧州連合(EU)を離脱する可能性も高くなる。というのも、スコットランド人のほうがイングランド人よりもEUに対して好意的だからだ(保守党は2015年の総選挙に勝利した場合はEU加盟継続の是非を問う国民投票を実施すると公約しているが、スコットランドの人々は保守党に投票する可能性がイングランドと比べて低い)。 英国にEU離脱の可能性が出てくれば、今後予想されるスコットランドの英国離脱よりもはるかに投資家を怯えさせるだろう。 スコットランドの住民のみが、英国の将来を決めることになる。そしてこれらの人々には、自らが去る国の心配をする義務はない。しかし、危機に瀕しているとはいえ、連合がここまで持ちこたえ、成功を収めてきたことを考えれば当然かもしれないが。スコットランド人とそれ以外の英国人の利害は、実は一致しているのだ。 スコットランド首相、独立国家の「青写真」を発表 スコットランドの独立運動を率いるアレックス・サモンド自治政府首相〔AFPBB News〕 民族主義を掲げる人々による独立運動の中核には、「英国から独立すれば、スコットランドはいまよりも繁栄した平等な国になる」という主張がある。 豊かな石油と慎み深い気質を持つにもかかわらず、スコットランドは英国政府のせいで貧窮し、しかも無情な政策を押しつけられているというのだ。 こうした人々に言わせれば、製造業の衰退から健康状態の悪化、ハイランド地方での小包郵便料金の高さまで、スコットランドに降りかかったほぼあらゆる災難は、歴代の英国政府のせい、ということになる。 スコットランド民族党(SNP)を率いるアレックス・サモンド氏の逆襲の矛先は広範で、スコットランドの軽視という点では労働党も保守党も同類だと主張している。 スコットランド独立派の主張の問題点 だが、スコットランドの相対的な経済衰退は、英国政府に無視されたせいではなく、製造と輸送の拠点がアジアに移った結果だ。英国政府がグローバル化とハイテク化の悪影響の軽減に失敗しているとしても、それは単に、そもそも軽減することが不可能だからだ。民族主義を掲げる側もそれを知っている。ゆえに彼らはこっそりと、英国政府の既存政策の多くを継続するだろう。 代わりに、あちこちに細かい修正を加えるはずだ。その一例が、補助金受給者を必要以上に広い住宅から追い出すために英国政府が最近導入した「寝室税」の廃止だ。そんなささいな、ごく最近の不快な施策を理由に国を分裂させるなど、正気の沙汰ではない。 経済面でも、民族主義者の主張には不備がある。スコットランドが独立しても、実際には今よりも豊かにはならないだろう。 気前良く金をばらまくスコットランドの国を維持するための出費は、独立後は英国政府による資金拠出を受けられなくなるとはいえ、北海油田からの税収によって概ね埋め合わせられるはずだ(2013年の1年間で住民1人当たりの政府支出を比較すると、スコットランドは英国のほかの地域よりも1300ポンドほど高い)。 だが、石油による税収は不安定だ。スコットランドを独立国と仮定すると、2008〜09年の石油の税収は115億ポンドだったが、2012〜13年はわずか55億ポンドにとどまる。独立国家が石油ファンドの設立により、そうした変動の影響を軽減しようとする場合は、今すぐ使える資金が少なくなる。 いずれにしても、石油は徐々に枯渇しつつある。枯渇後も同程度の歳出を維持するためには、税金を引き上げなければならなくなる。さらに、経済危機はもっと早く訪れるかもしれない。国外の投資家や主にイングランドの顧客を相手にしている大企業が南にあるイングランドに撤退することも十分あり得るからだ。 拾った当たりくじ換金の夫妻に半額返還命令、英国 スコットランドはたとえ独立しても英ポンドを使い続けると言っているが・・・〔AFPBB News〕 英国政府は独立後のスコットランドとの通貨同盟を拒絶している。スコットランドの民族主義者が赤字を増やす財政浪費を主張し、スコットランドの銀行資産が国内総生産(GDP)の12倍という危険な水準にあることを考えれば、これは正しい判断と言えるだろう。 英国政府側が態度を軟化させる可能性もあるが、それもあくまでスコットランドが厳密な管理下におかれることに同意すればの話で、その場合、独立する意味はほとんどなくなってしまう。 スコットランドの民族主義者は、通貨などを巡る問題は穏便に解決されるはずだと主張している。新しく生まれた北の隣国を敵に回しても、英国にとっては何の利益にもならない、何しろ(彼らがそれとなく匂わせているように)スコットランドは国家債務の分担を拒否することもできるのだから、というのがその根拠だ。 これはあまりにも楽天的すぎる。スコットランドが独立すれば、あとに残された英国民は、スコットランドに対しても自らの指導者に対しても激怒するはずだ。そうなれば、英国の指導者たちは強硬な態度で交渉せざるを得ないだろう。 スコットランドが英国にとどまれば、自分たちの意志に反してEUから引きずり出されるかもしれないという点については、サモンド氏の主張にもそれなりの説得力がある。確かに、これは脅威ではある。だが、スコットランドが独立を選べば、EU離脱の恐れと引き替えに、無防備な小国としての将来を手にすることになる。 スコットランドが影響力を保ちたいなら、英国にとどまり、EU懐疑派と闘うのが最善の道だ。 失うものは大きい 結局のところ、住民投票の結果を左右するのは、税金や石油収入に関する計算ではなく、アイデンティティーと権力だろう。 「スコットランド人が(住民投票そのものとその後の両方について)自らの運命を決められる」という考えは、気分を浮き立たせるものだ。だが、スコットランドは既に自らの内政事項の多くを支配できる立場にある(ただし、自治政府を運営し、独立運動を主導しているサモンド氏率いるSNPは、これまでのところこの権限をあまり活用していない)。 さらに、英国政府のあらゆる党派の政治家たちが慌てて明言しているように、スコットランドが残留を選択した場合、自治政府はすぐに大きな力を手に入れ、残留と独立の実質的な違いはごく小さなものになるはずだ。そうなれば、ずっと昔に行われていてしかるべきものだった、英国政府からスコットランド以外の地域への権限移譲も進むだろう。 したがって、英国に残留すれば、スコットランドは連合体制を救うだけでなく、これをさらに強化することになるだろう。 過去300年にわたって、スコットランドはそうした役割を果たしてきた。というのも、英国という国は、その偉業や風変りさもひっくるめて、イングランド人のものであるのと同じく、スコットランド人のものでもあるからだ――たとえ、苦労の末に手にした輝かしい遺産を手放し、最初に述べた同心円のうち1つを捨て去って、アイデンティティーを単純化するつもりの人が増えているように見えるとしても。 このような態度は、地域にせよ民族にせよ宗教にせよ、大多数の人が複数のアイデンティティーを持ち、流動性を高める今世紀の精神に反すると同時に、過去3世紀にわたり実証されてきた成果とも相容れないものだ。 緊張や対立があるとしても、そして時にはそれゆえに、スコットランド、ウェールズ、イングランド、北アイルランドは、ばらばらになるよりも1つにまとまっている方が強く、寛容に、そして想像力豊かになれることは、連合体制の歴史が示している。 http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/41721
スコットランド、英ポンドを維持するなら真の独立はない 2014年09月16日(Tue) Financial Times (2014年9月5日付 英フィナンシャル・タイムズ紙) 金融危機で英国がユーロ導入を検討、バローゾ欧州委員長 スコットランドは独立しても英ポンドを使い続けたいと考えている〔AFPBB News〕 ウェストミンスターの英国議会の3大政党が独立後のスコットランドとの通貨同盟に反対しているのは、はったりだろうか? 境界線の北側では、多くの人がそう思っている。筆者は人の心の奥底を見通すことはできない。こうしたスコットランド人は正しいのかもしれない。 だが、筆者は3大政党の反対がはったりではないことを願っている。どんな条件であっても、通貨同盟の可能性が排除される必要はない。しかし、残る英国にとって意味をなす通貨同盟は、極めて不平等なものになる。新たに独立した国家がなぜそんな同盟を受け入れるのだろうか? ユーロの経験は、通貨同盟というものに関係する多くの問題をはっきりさせた。一部の問題は、スコットランドと英国の通貨同盟には、ある程度しか関係しない。石油に依存するスコットランド経済は英国経済とは異なるものになるが、3世紀以上の連合の歴史を経た今、両者の経済、特に労働市場の統合は、通貨同盟を実行可能にするのに十分だと言っていいだろう。 これが独立に対する熱意が理解しがたい理由の1つだ。オックスフォード大学の経済学者、ポール・コリアー教授が主張したように、独立熱は本当に資源強奪以上のものではないのだろうか? 独立したスコットランドと英国の通貨同盟の姿 狭い意味での経済的な観点から通貨同盟が機能し得ることを受け入れたとしよう。これで話は終わりなのか? 絶対に違う。 通貨同盟の重要な点は、ユーロ圏の経験から明らかなように、それが経済だけの問題ではないということだ。法定不換紙幣(つまり、政府が発行したお金)の共有には、高度な制度的、政治的統合が必要になる。名目上独立した国家間の通貨同盟が極めて困難に満ちているのは、そのためだ。 (どれほど無分別だったにせよ)ユーロの場合がそうだったように、同盟深化に向かうことを提案している国々にとっては、そのリスクを冒すことは理にかなっているかもしれない。だが、連合の解消を決めた国にとっては、一体どう意味をなし得るのか? イングランド人に向かって、あなたたちと別れたくて仕方ないと言いながら、続けざまに、あなたたちを非常に信用しているから、自分たちが去ろうとしている国の中核的な活動を共有したいと言うのは、おかしい。 スコットランド住民投票が浮き彫りにした英「連合王国」の亀裂 9月18日の住民投票を前に、世論調査では独立賛成と反対が拮抗している〔AFPBB News〕 では、スコットランドの住民投票で独立賛成という結果が出たら、残りの英国はその翌日、どう対応すべきなのか? 通貨同盟の制度機構が英国の法律に基づいて確立され、英国政府に対して責任を持つことを条件にスコットランドはポンド圏に入れる、と言えばいい。 このような機関は、ほかのことと並び、金融規制も遂行する。スコットランドの財政赤字は拘束力のある協定によって管理される。政府の借り入れも同様だ。また、救済が必要になった場合には、スコットランドは特定の財政負担も負う。スコットランドと英国の間のこうした取り決めは、条約によって定められる。 一方的なリスクには一方的なコントロールが必要 一方的な財政規則のロジックは、通貨同盟内では、小さい方のメンバーの放漫財政のコストが大きい方のメンバーに転嫁される可能性がある、というものだ。 だが、規模がずっと大きいメンバーは、その放漫財政の代償を小さいメンバーに負わせることができない。そのためスコットランドは、英国が持たない浪費への動機を持つ。一方的なリスクには、一方的なコントロールが必要になるのだ。 同じようなロジックが金融規制にも当てはまる。スコットランドは、そのコストが究極的に英国にのしかかる、エディンバラを舞台とする金融ブームの恩恵を受けるかもしれない。その理由から、規制は中央集権的なものにする必要がある。だが、惨事が起きた場合には、スコットランドは一定の財政負担を負わなければならない。コストが英国だけにのしかかることがあってはならない。 説明責任と権限の間の明確な線引きの必要性が何よりも重要だ。一国、一政府、一中央銀行というのが、正しい原則である。これは緊急時には特に重要だということを我々は学んだ。 次に、政府、中央銀行、規制当局の間の可能な限り綿密な協力が重要となる。危機が次に生じた時には、政府は中央銀行に対し、あからさまな財政ファイナンスを求める可能性さえある。そのような状況下では、中央銀行は1つの政府、つまり英国政府に対して責任を持つことが明確でなければならない。 一部には、こうした条件を強要するのは不可能だと言う人もいる。本紙(英フィナンシャル・タイムズ)へのある読者投稿は、「スコットランド分離後の英国は、英国ではなく別の国になる」とまで断じた。 そうはならない。英国はスコットランドのない英国になる。現アイルランド共和国が1920年代に去った時と同じように、ウェストミンスターの議会、同議会の法律の大半、そして同議会に対して責任を持つ政府は皆、存続するだろう。スコットランドはただ単に、英国という連合への一時的な参加を打ち切ったことになるだけだ。 明らかに、(1707年の)連合法は破棄されなければならない。だが、これはイングランド銀行の存在や同銀を司る法律に疑義が生じることを意味しない。スコットランドは英国から去るかもしれないが、中核的な制度機構を一緒に持ち去ることはできないのだ。 上記に概説した線に沿った通貨同盟は、完全に申し分のないものになるだろう。だが、そのような同盟は、スコットランドおよびスコットランド人が現状より小さな影響力しか持たないものになる。彼らはポンド圏内で最後の貸し手に対するアクセスを維持するが、その代償は大きい。 もしそれが本当にスコットランド人が望むものなのであれば、筆者はそれで構わない。だが、彼らが主権国としての平等を望むのであれば、そのような案を拒むべきだ。通貨同盟に代わる道筋は存在する。中にはうまくいくものもあるかもしれない。スコットランドが独立するのであれば、そうした選択肢の1つを選ぶべきだ。 By Martin Wolf http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/41704 世界はスコットランド分離に「NO」と言っている 2014年09月16日(Tue) Financial Times (2014年9月12日付 英フィナンシャル・タイムズ紙) スコットランド独立、反対がやや優勢か 最新世論調査 英スコットランドのエディンバラで、スコットランド独立反対を訴えるデモ行進の開始を待つ人が手にした英国旗(左)とスコットランドの旗(右)〔AFPBB News〕 民主主義の素晴らしいところは、考えを変えられることだ。民主主義は冷静な計算だけでなく、発作的な怒りにも場所を与えてくれる。ひとまず、ならず者を追い出しておいて、もし彼らに代わる新しい人たちが期待を裏切ったら、次に考え直すことができる。 スコットランドの独立に関する住民投票は違う。高価な買い物をした後に選択を間違ったと後悔する余地はない。ひとたび解体されたら、連合を取り戻すことはできないのだ。 英国国外へ旅行すると、絶えず耳にする質問は実に単純だ。一体なぜなのか? 世界で最も成功している多民族国家の1つが、どうしてそのような意図的な自傷行為を検討できるのか、という質問だ。 こうした海外の観察者たち――米国の外交官や欧州の政治家、中国の学者たち――は、古い灰から不死鳥が蘇る姿は想像していない。彼らは、スコットランドが目立たない見当外れの未来に向かおうとしており、バラバラになった英国が衰退を受け入れる方向にまっしぐらに進んでいる姿を想像している。 筆者は、米国、インド、欧州連合(EU)、中国の政府関係者の中で、誰一人として分離がスコットランドと英国にとって良いことだと言うのを聞いたことがない。困惑したインドのスシュマ・スワラジ外相は9月初旬、スコットランドが実際に分離を選択する可能性があると聞かされた時、「とんでもないことだ!」と言った。 グローバル化が生み出すナショナリズム だが、スコットランドの分離に対する支持の高まりはある意味で、より大きな図式に合致している。グローバル化はナショナリズムを生み出している。自由市場の厳しい風にさらされて、市民は先祖返り的なアイデンティティー――時に民族的、部族的なものであり、時に宗教的なもの――の中に逃げ込んでいる。 スコットランド民族党(SNP)のアレックス・サモンド党首は、部族への忠誠を呼び覚ましている。スコットランドらしさによって定義付けられる国家は、単独の方がうまくやっていける、とサモンド氏は話している。これは信頼につけ込む詐欺のようなものだ。 だが、欧州各地のナショナリストたちも――大半はサモンド氏よりもっと明白な外国人嫌いと言っておくべきではあるが――、同じ妄想を売り込んでいる。 スコットランド人はかつて、世界各地を制覇した大英帝国の冒険家であり、行政官だった。今は帝国がすべてなくってしまったため、接着剤が弱くなったと言われている。ところが実際は、過去300年間で、英国という連合王国を構成する国々が分離するのが今以上に馬鹿げていた時代を想像するのは難しい。 大国間の競争の時代における繁栄と安全保障は、多様なアイデンティティーを心地良く感じる人々、共通の努力において結束する人々に属している。 世論調査会社は、住民投票の結果は接戦で勝敗の予想がつかないと言っている。連合支持派内ではパニックが起き、保守党、労働党、自由民主党は急遽、9月18日の投票で分離に「ノー」と言った場合、その後すぐにエディンバラの議会に新たな権限を移譲することをスコットランドの有権者に保証する計画を作っている。 そのため、選挙戦の終盤は、間違いなく勢いと冷静さの間の戦いになるだろう。サモンド氏は、分離賛成派のエネルギーと興奮によって勝利がもたらされることを望んでいる。 一方の連合支持派は、有権者が真剣に考えてくれることを祈っている――分裂の差し迫ったリスクについてだけでなく(そうしたリスクは確かに重大だが)、連合の枠内にとどまって自治能力を持つスコットランドを作る可能性についても、だ。 サモンド氏は追い風を受けている。欧州政治の気分を最もうまく表す言葉は、幻滅感と不信感だ。サモンド氏は、支配者層の人間だが、自らを反体制派の指導者として打ち出した。臆面もない冷笑主義はともかく、同氏の政治的な巧さは称賛せざるを得ない。投票が近づくにつれ、SNPは、市民ナショナリズムのベールをはぎ取り、アイデンティティー政治という暗いゲームを展開している。 すでに始まった罪のなすり合い スコットランド、独立問う住民投票実施で英政府と合意 2012年10月、エディンバラのスコットランド行政府庁舎で、スコットランド独立の是非を問う住民投票の実施を決めた合意文書に署名するスコットランド自治政府のアレックス・サモンド首相(左)とデビッド・キャメロン英首相〔AFPBB News〕 ウェストミンスターでは、すでに罪のなすり合いが始まっている。住民投票で独立賛成派が勝てば、大勢の人に行き渡るだけの責任問題が生じる。真っ先に攻撃を受ける立場にいるのはデビッド・キャメロン英首相だ。 首相の怠惰な無関心がなかったら、スコットランド人は18日、彼らの多くが望んでいると言っていた決着――つまり、連合内での自治――に賛成票を投じることができたかもしれない。 ところがキャメロン氏は、住民投票は連合か分離かの二者択一だと主張した。今、キャメロン氏は前言を撤回せざるを得なくなっており、当初は投票用紙に記載することを拒否した「最大限の権限移譲」をスコットランドに提案しているが、時すでに遅しかもしれない。 長期的には、スコットランドは独立国家として繁栄する可能性が高い。だが、サモンド氏は、非現実的な希望的観測を経済的現実から切り離すことを拒んでいる。スコットランドは、経済のみならず、政治、文化の面で英国の残りの地域との継ぎ目のない交流という計り知れない利益を失うことになる。 ナショナリストたちは、分離後にやって来るであろう深刻な経済的打撃も軽く扱っている。金融市場はすでに、ちょっとした予告をしている。スコットランドは一夜にして、金融サービス業の多くを失い、外国からの投資は干上がるだろう。 「個人的なことは何もない」。南へ向かう計画を立てているスコットランドのある大手金融機関のトップはこう言う。「厳密にビジネスの問題だ。我々はリスクを取ることはできない」 スコットランドが分離・独立したら、イングランドは・・・ 英国の他の地域の連合支持派は、少なからず私利があることを認めるべきだ。スコットランドを失えば、考えられるほぼすべての面で英国は衰えるだろう。不安は、経済的な混乱や国際的影響力の喪失よりもっと深いところにある。分離に賛成票が投じられれば、国境の南でアイデンティティー政治――つまり、イングランドのナショナリズムの台頭――を醸成する可能性が高くなる。 スコットランドにとってのサモンド氏は、イングランドにとっての英国独立党のナイジェル・ファラージ党首だ。イングランドが単独国家であれば、EUを離脱することが十二分にあり得る。 連合支持派の現在の望みは、旧体制に石を投げる誘惑に切に駆られているものの、そうした選択がどれほど決定的なのか恐らくまだ確信が持てずにいる人たちにかかっている。そうした人は、海外の友人たちから投げ掛けられた「なぜか」という質問を考えてみるのも悪くない。 住民投票で独立に「イエス」と言うことは、単にまた投票用紙にチェックマークを入れ、結果次第であとで考え直せばいい話ではない。分離は永遠なのだ。 By Philip Stephens http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/41725 |