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2014年08月26日
米国とEUがロシアに対する経済・金融制裁を強化した結果、ロシア企業が対外取引の決済通貨や手元に確保しておく通貨を、ドルやユーロから香港ドルや人民元に変更している可能性があります。
ロシアに対する経済・金融制裁とは、米国とEUの銀行がロシア企業と取引することを禁じるため、当然に(すべてではありませんが)ロシア企業はドルとユーロの資金決済ができず、ドルとユーロを調達することもできず、最悪の場合は保有しているドルとユーロを凍結される恐れまであります。
ドルとユーロの資金決済ができないと、ロシア企業が例えば天然ガスをEUに輸出しても代金(ドルやユーロ)を支払ってもらえません。またロシア企業が欧米から製品を輸入しても、その代金(ドルやユーロ)を支払うことも一時的に調達することもできません。
こうなるとロシア企業は外貨(ドルやユーロ)を手元に確保しておく必要もなくなり、ひいてはロシアも外貨準備をドルやユーロにしておく必要もなくなります。直近のロシアの外貨準備は4750億ドルほどあります。
まずロシア企業が保有するドルやユーロを大量に香港ドルに交換しているようです。香港ドルは1ドル=7.75〜7.85香港ドルの範囲内に収まるように香港金融管理局が介入していますが、ちょうどロシアへの経済制裁が始まった7月以降、連日の香港ドル売り・米ドル買い介入を繰り返しています。
つまりロシアが大量の米ドル売り・香港ドル買いを持ち込んでいることになります。最近、香港の株価指数のハンセンが上昇しているのは、ロシアからの資金流入が理由と考えられます。
人民元は中国人民銀行が厳しい為替管理を行い、建前では実需以外の為替取引を禁じているため、ロシアが単純に米ドル売り・人民元買いを持ち込んでいることはなさそうです。
その代わりにロシアから中国に輸出している天然ガスや天然資源の代金決済を、ドル建てから人民元建てに変更しようとしています。ロシアもドルやユーロが受け取れないなら人民元ででも決済しようと考え、中国は天然ガスや天然資源の輸入代金を紙切れ(人民元)で支払えることになります。
中国は近年、エネルギーや天然資源を大量に輸入する中東や中南米や豪州に対し、人民元での決済比率を引き上げるように申し入れ、直近では人民元決済比率が中東で58%、中南米で66%、豪州でも23%まで引き上がっています。
つまり中国はすでにエネルギーや天然資源の輸入代金を紙切れ(人民元)で支払っており、今般のロシアに対する経済・金融制裁のおかげで、ロシアにも紙切れ(人民元)で支払うようになります。
各国に輸入代金として紙切れ(人民元)を支払うと、各国は受け取った紙切れ(人民元)を手元に置き、銀行に預金し(銀行で換金しても人民元は銀行に留まります)、今度はその運用として中国国債や、より有利な(有利にみえるだけですが)理財商品などの別の紙切れに投資し、中国経済を豊かにすることになります。
まさに基軸通貨・ドルが米国にもたらす特権を、国際通貨となった人民元が中国にもたらすことになります。
実は、これこそ日本が最優先で取り組むべき「国策」だったはずです。円が国際化して決済通貨となれば、例えば原油の輸入代金を円で支払うと円安で輸入代金が膨らむこともなく、何よりも紙切れ(円)で原油が買えることになります。そして輸入代金として受けとった円を各国が保有していれば、その運用手段として日本の国債が自然に海外で消化されることになります。
アベノミクス開始前の円高の間に、本誌は円を国際化する必要性を「いやっと」いうほど主張していました。ところがアベノミクスとは「円の価値を自ら毀損する政策」のため、その瞬間に円が国際化するチャンスは消滅してしまいました。
値下がりする通貨(円)を好んで決済通貨にする国(企業)はなく、値下がりする通貨(円)建ての国債を好んで保有する国(投資家)もいません。
アベノミクスはこれだけでも大いに国策を損ねたのです。その隙にいつのまにか共産主義であるはずの中国政府が、そのメリットをしっかりと認識して実践しているのです。
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2014年08月27日
日本円が国際化しない意味
昨日付け「人民元が国際化する意味」の続編ですが、その昨日の記事に正確ではない部分がありましたのでお詫びして訂正させていただきます。
ロシアが大量の米ドル売り・香港ドル買いを持ち込んでおり、それがハンセン指数を押し上げていると書いたのですが、香港上海銀行など香港の発券銀行がロシアの香港ドル買いに応じて香港ドルを発行すると必ずそれに見合う米ドルを買い入れなければならず、計算上はロシアが売却した米ドルを買い入れるため差し引きでは香港に資金は流入していません。
つまりそれでハンセン指数が上昇していたわけではありません。
さて本題ですが、自国通貨が国際化する(基軸通貨化するともいいます)意味を考えてみましょう。
実物資産である金(きん)と同じように、ドルは国際通貨(基軸通貨)として世界中で抵抗なく受け取られ、交換され、保管(貯蓄)されています。つまり世界中どこでも単なる紙切れであるドルの価値が疑われていないことになります。ドル高になるかドル安になるかは全く違った概念です。
このドルはFRBの永久債務であり、FRBは償還(返還)義務がありません。確かにFRBの資産には米国債やMBS(住宅ローン担保証券)がありますが、別にドルを持っていても担保の住宅を引き渡してくれるわけではなく、要するに「紙切れ」です。
「そりゃ米国だから大丈夫だよ」と世界中が納得しているだけです。昨年4月に出版した「闇株新聞 the Book」には、もう少し理論的に解説してあります。
最近はさすがにドルだけだと不安なので「一部はユーロにしよう」となり、ユーロもドルに次ぐ国際通貨(基軸通貨)となりましたが、間違ってもアルゼンチン・ペソやブラジル・レアルやトルコ・リラなどは国際通貨とはなりません。誰もその価値を(あるいはその価値が維持されることを)信用していないからです。
それでも日本ではブラジル・レアル建てやトルコ・リラ建てなどの投資信託が溢れかえっています。販売している証券会社や銀行(それもメガバンク)の常識が「世界標準から大きく遊離している」ことになります。
自国通貨が国際通貨(基軸通貨)であることのメリットは、世界中から財やサービスを「紙切れ」で買えることですが、同時に世界中にその「紙切れ」が蓄積されることになり、その運用のために自国の国債も世界中で買われます。国債ももちろん「紙切れ」です。
つまり自国通貨が国際通貨(基軸通貨)となるメリットは計り知れないことになります。
中国は1994年に人民元をドルに対して大幅に切り下げ(1ドル=5.4人民元から8.7人民元に)そこからドルに実質固定し、2005年からドルに対して緩やかに切り上げました。本年に入って少し方針変更したようですが「人民元は確実に値上がりするもの」とのイメージを世界に植え付けました。
そして近年は、昨日も書いたように原油や天然資源を大量に輸入する中東や中南米や豪州に「人民元で受け取れ」とゴリ押しして認めさせ、最近もロシアへの経済制裁の隙をついてロシアからの天然ガスも人民元で決済しようとしています。
中国政府も人民元の国際化(基軸通貨化)のために、このような努力をしているのです。
それでは、最近は貿易赤字が定着し、国債残高が膨らみ続ける日本では、円の国際通貨化(基軸通貨化)は最優先で取り組むべき「国家プロジェクト」のはずです。
しかしマネタリーベースを際限なく膨らませて円の価値を毀損させる金融政策を続ける国の通貨(円)が世界中で喜んで受け入れられるはずがなく、同じ円建ての日本国債が世界中で買われるはずがありません。日本国債の利回りが低いことは問題ではありません。
2%の物価上昇目標も円の価値を2%ずつ減価させる政策に外ならず、円の国際化を妨げます。だったら「円を毎年2%ずつ上昇させる」とでも宣言すれば、世界中から日本国債が買われるはずで、弊害が目立つ日銀「異次元」量的緩和などは必要がなくなります。
円はせっかく2年前の70円台から100円台まで円安となっているので、ここから年間2%くらい円高になってもまだまだ円安です。円安でも貿易収支が改善するわけではなく、むしろ円高と円の国際化のメリットを考えるべき時期に来ています。
円安になると株高になるというのも決して健全な考え方ではなく、長い目で見れば緩やかな円高こそ外国人投資家の日本株買いを増やすような気がします。誰も指摘しませんが、「異次元」量的緩和を含むアベノミクスは、見直すべきタイミングに来ているのです。
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2014年08月29日
日本円はこう国際化すべき
8月26日付け「人民元が国際化する意味」と8月27日付け「日本円が国際化しない意味」にいくつかコメントをいただきましたので、あと1回だけ続けます。
まず円を国際化するために、例えば中国のように石油や天然ガスを自国通貨(円)で輸入したら米国に喧嘩を売ることになり、現実的ではないとのコメントをいただきました。
これは中東産油国や(今後はわかりませんが)ロシアなどのエネルギー輸出国が代金をドルで受け取ると、そのドルは運用のため米国債などに投資され結局は米国に還流することになりますが、ドル以外(例えば円)での決済が増えると米国への還流が減るので好ましくないという意味だと思います。
というよりも世界で流通するドルは米国の返済義務のない負債であり、このドルが他通貨に置き換わるとその負債を返済することになり、やはり好ましくないことになります。
この流れを日本が率先して行うと、やはり米国に喧嘩を売っていることになります。
国際通貨(基軸通貨)の機能の一部に過ぎませんが、世界の外貨準備の通貨別内訳は(判明分だけです)、直近でドルが61%、ユーロが24%、ポンドと円が各4%となっています。
ユーロがスタートする直前の1998年末は、ドルが69%、ユーロが17%、円が6%でした。もちろんこの時点ではユーロは存在しないため、17%とはユーロに転換する前のドイツマルクなどを合計したものです。
1998年当時と現在では外貨準備の総額が全く違うため、あまり意味がない比較かもしれませんが、ドルがユーロにシェアを奪われていることだけはわかります。ユーロ圏の経済規模は米国よりも大きいので、最終的には国際通貨としてのシェアは、ドルとユーロがほぼ等しくなるはずです。
つまり10年位のサイクルで考えれば、為替市場でもドルはユーロに対して長期的に下落することになると考えます。
ここに、それほど遠くない将来に人民元が「第三の国際通貨」として加われば、ドルのシェアはもっと低下します。
その前に中国自体が今年3月で3兆9500億ドルもの外貨準備を抱え、その通貨別内訳は明らかにされていないため上記の通貨別内訳には含まれていませんが、だいたい直近のドルの比率である61%に近いとすれば2兆4000億ドルが「ドル資産」となります。
余談ですが、中国の発表する経済統計はあまり信用できませんが、最大の「謎」は本年5月時点で中国の米国債保有額が1兆3160億ドルしかないことです。この数字は米国財務省が発表しているので正しく、同時点の日本では1兆2800億ドルの外貨準備のうち実に1兆1100億ドルもの米国債を保有しています。
つまり中国の外貨準備とは1兆ドル以上の「何だかわからないドル資産」と、1兆5000億ドルほどの「何だかわからない通貨もわからない資産」で構成されていることになります。直感では共産党幹部やその子弟の「海外における不正蓄財」にかなり化けていると思います。しかも中国の外貨準備は中国人民銀行の資産の85%を占めており、発行される人民元とは、まさに「紙切れ」となります。
話を戻しますが、国際通貨としてのドルのシェアは「放っておいても」低下します。それなら日本はドルの基軸通貨体制の中で、ユーロや人民元に流れるシェアを、できるだけ円に誘導するということであれば、米国の利益も損なわないはずです。
つまり円は、基軸通貨であるドルの運用手段としての機能の一部だけを肩代わりして、国際通貨におけるドルと円を合計したシェアが低下しないような役割を果たすことになります。何もドルに代わって世界の決済通貨になる必要はありません。
そうすると海外で保有される(外貨準備だけとは限りません)円の運用手段として日本国債が自然に買われることになり、最も好ましい状態になります。
さしあたっては中国政府に「だいぶ海外の不正蓄財に消えているようですね」といいたいところを我慢して、「ドルもユーロも(人民元にくらべて)減価してしまいますよ、何よりも米国やEUと喧嘩したら凍結されてしまいますよ、日本円は(昨日書いたように)これから年2%の上昇を目標としますので日本国債もおすすめですよ」くらい働きかけてみるべきです。
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