03. 2014年8月27日 08:25:16
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一応、言うだけ言ってみたということだろうhttp://diamond.jp/articles/print/58173 【第5回】 2014年8月27日 北野幸伯 [国際関係アナリスト] 日本に行きたい?行きたくない? プーチンとロシアの本音を徹底解説! 日本では今、「プーチンが何を考えているかわからない」という話をよく聞く。マレーシア機撃墜事件の後も、ウクライナ政府vs親ロシア派の内戦は収まらず、ロシアと欧米の制裁合戦が続いている。日本も消極的にではあるが、欧米に追随して制裁を強めており、ロシアの日本への態度も一見すると、徐々に硬化しているように見えるだろう。一体、プーチンはウクライナ情勢と欧米との悪化した関係の落としどころをどこにするつもりなのか。そして、日本との関係をどうしていきたいのだろうか。 これを理解するために、今回は二つのテーマに触れる。一つは、「プーチンとロシア国民が、今何を考えているか?」。もう一つは、「プーチンは訪日を実現したいのか?否か?」。 プーチンの「頭の中」を知ることは可能か? 日欧米とまさに「正反対」のロシア報道 実をいうと、「プーチンの頭の中」(何を考えているか)を知ることは可能である。なぜなら、ロシアは「独裁国家」で「報道の自由がない」からだ。 たとえば日本には、「安倍総理を失脚させることを天命と考える」A新聞のようなマスコミもいる。一方で、「安倍総理を守ることに熱心な」S新聞もある。つまり、総理に対して、「賛成」「反対」のメディアがあり、バランスがとれている。 ところが、ロシアに、「反プーチンマスコミ」はない。正確にいうと、あるのだが、「とても細々と」存在している。ロシアの「3大テレビ」といえば、国営「1カナル」と「RTR」、そして民法最大手「NTV」のことを指すが、このすべてが、クレムリンの支配下にあり、プーチンを批判する報道はいっさい見られない。 ということは、どういうことか?プーチン → 大統領府 → ロシアメディア というラインが一直線でつながっているということを意味する。つまり、ロシアの国営テレビを見れば、「プーチンが何を考えているか?」「何をプロパガンダしたいのか?」がわかるのだ。 モスクワ在住の筆者は、幸い日本、米国、欧州のメディアに加え、ロシアメディアに接することができる。ロシアメディアだけだと、「クレムリン」に洗脳されてしまうが、日欧米メディアと見比べることで、バランスをとることができる。 「ウクライナ」をめぐる一連の事件に関する報道は、日欧米とロシアの報道が、完全に「正反対」である。「情報戦」「プロパガンダ戦」が熾烈に行われていることを実感でき、実に興味深い。以下、日欧米とロシアの報道の違いを見てみよう。 1、ウクライナ革命(2月)について 日本と欧米では、「独裁者ヤヌコビッチ(大統領)に反対し、大規模なデモが起こった。ヤヌコビッチはロシアに逃亡し、平和裏に革命が行われた」と報じられている。 一方ロシアでは、「欧米(特に米国)の支援を受けた『右派セクター』などの『過激な民族主義者』が、武力で政権を強奪した」となる。ヤヌコビッチが追放されたのは、もちろん彼が「親ロシア」だったから。 2、クリミア併合(3月)について 日欧米では、「ウクライナ領クリミア自治共和国とセヴァストポリ市を、ロシアが武力を背景に併合した!」とされる。そして、これは「国際法違反」とされている。 ところがロシアでは、「クリミアはそもそもロシア固有の領土」とされている(クリミアは1783年から1954年までロシアに属していた)。そして、「強制的に併合した」という欧米の主張は、「クリミアで住民投票が実施され、97%がロシアへの編入を支持した」と退ける。「国際法違反」ではなく、ロシアは「国連憲章にある『民族自決権』を行使したまでだ!」と強弁する。 そして、「欧米は08年、コソボ自治州がセルビアから一方的に独立するのを支持したではないか?コソボが合法なら、なぜクリミアは違法なのか?」と至極まっとうな反論もしている。 マレーシア機撃墜は「ウクライナの仕業」 プーチンの本音“欧米によるロシアいじめ” 3、5月にウクライナからの独立を宣言した東部「親ロシア派」について 欧米では、「ウクライナからの独立を目指す「親ロシア派」の背後にロシアがいる。ロシアが支援しているから、彼らは抵抗をつづけられる」と報じられている。 一方ロシアの公式的立場は、「ロシア政府と親ロシア派は何の関係もない」というもの。これについては、事実は微妙なところだ。まず、親ロシア派の幹部にロシア人が多数いる。これを暴露した「REN TV」の人気報道番組「ニデーリャ」は打ち切りになってしまった。 しかし、ロシアが「積極的に支援している」わけでもない。ロシアが本格的に介入していれば、親ロシア派はとっくにウクライナ軍を撃破したことだろう。もう一つ、ロシアメディアは、(当たり前だが)「親ロシア派=悪」という話を否定する。毎日ロシアメディアは、「ウクライナ軍が、民間人を大虐殺している!」と報じている。 4、マレーシア機撃墜について 日本および欧米では、「親ロシア派の誤爆」が「定説」になっている。しかし、ロシアでは、「ウクライナ軍がやった!」ことが「定説」になっている。 なんのために?「ウクライナ軍が撃墜し、それを親ロシア派のせいにすることで、親ロシア派とロシアを孤立させるため」。 これは、日本的にいえば、「陰謀論」だろう。では、どのくらいのロシア人が、「ウクライナ軍説」を信じているのか?7月の世論調査によると、ロシア人の実に82%(!)が「ウクライナ軍説」を支持している。そして、「親ロシア派の誤爆」と考える人は、わずか3%(!)しかいない。 ロシア側の見解をもう一度整理してみよう。 1、ウクライナ革命は、親ロシアのヤヌコビッチを失脚させるために、欧米(特に米国)が起こした。 2、クリミア併合は、住民投票の結果であり、民族自決権の行使である。よって「完全に合法」。 3、ロシアと親ロシア派は、何の関係もない(よって、「親ロシア派支持」を理由に制裁するのは理不尽)。 4、「マレーシア航空機撃墜」は、ロシアを孤立させるためにウクライナ軍がやった。 これらの見解から導き出される国民感情は、「ロシアは何も悪いことをしていないのに、欧米からいじめられている」である。これは、ジョークではない。私の近所に住むロシア人も、ほとんどそういう意識で暮らしている。そして、ロシア国営テレビが、プーチンの頭の中をそのまま反映しているとすると、おそらくプーチン自身もそう考えているのだろう。 前述したように、ロシアのみならず、欧米も自分に有利に、そして敵に不利になるようなプロパガンダを繰り返している。日本人からすれば、ロシアでの報道の多くは「トンデモ話」のたぐいだろうが、逆もまた然り。双方の言い分にこれだけの隔たりがある以上、ウクライナ情勢とロシアvs欧米の構図は当面、維持されると見なければならない。 プーチンは日本に行きたい? 矛盾した対日行動の真意とは さて、「欧米からいじめられている」と感じているプーチンは、欧米サイドについている日本に対して、どう考えているのだろうか? 欧米と日本は、7月の「マレーシア航空撃墜事件」を受け、「クリミア併合」時から続く「対ロシア制裁」を強化した。ロシア要人の在外資産凍結や渡航制限に加え、ロシアの政府系金融機関の欧米市場での資金調達禁止などがその内容だ。 これに対し、ロシアの日本への態度は矛盾している。ロシアは8月7日、欧米に対する報復措置(食品輸入禁止)を発表したが、これに日本は含まれなかった。つまり、ロシアは日米欧をひとくくりに見てはおらず、日本に対しては配慮を見せているわけだ。 一方で、ロシア軍は8月12日、北方領土での軍事演習を開始した。そして22日にはとうとう、特定の日本人のロシア渡航を制限するという、日本に対する初めての制裁措置にも踏み切った。もちろん、これは日本を怒らせる行為だ。 「日本に対する報復措置を緩くしているということは、日本と仲良くしたいのか?」「北方領土で軍事演習をするということは、日本はもうどうでもいいのか?」当然、こういう矛盾した疑問が生じる。 しかし、考えてもみてほしい。先に制裁を仕掛けたのは欧米、そして(消極的な追随ではあるが)日本だ。ロシアはこれに対して仕返しをしているだけ。日本が制裁をしておいて、相手が何もしないことを期待するのはナイーブすぎる。むしろ、プーチンの態度、つまり「日本への報復は、欧米に対してのそれよりかなり緩くしている」ことに注目すべきだ。 「プーチンは日本に行きたいか?」これは、当然「行きたい」だ。実際、ラブロフ外相も「訪日の予定に変更はない」と明言した。そもそも、ロシアが日本に接近している最大の理由は、米国で起こった「シェール革命」が原因だと考えられる。ロシアは長年「天然ガス生産」で「世界一」だった。ところが、「シェール革命」が起こり、米国は09年、ロシアから「世界一」の座を奪った。これは、プーチンやロシア上層部に強い衝撃を与えたはずだ。 「シェール革命」で埋蔵量も供給量も激増し、天然ガス価格は下がった。米国内のガス価格は、欧州の3分の1、日本の5分の1。世界市場価格も下がり、ロシア最大の顧客欧州は、カタールなどからの輸入を増やし、「脱ロシア」を模索するようになっている。 ロシアには、「新たな顧客」を探す必要が生じた。第1の見込み客は、陸つづきの経済大国中国である。第2の見込み客は、世界第3位の経済大国で、「高いカタール産の液化天然ガス」に苦しむ日本である。 こうした状況に、欧米日の「経済制裁」という新しい局面が加わった。制裁を主導しているのは米国だ。「米国、欧州、日本などが結束を強め、ロシアを孤立させる」のが基本的な戦略である。 ということは、ロシアの戦略は当然、「米国、欧州、日本を分裂させる」となる。そして、米欧日の中で、もっとも「御しやすい」のは日本だろう。なぜなら、日本は「北方領土返還」を切望しており、安倍総理は「任期中の決着を目指す!」と宣言したのだから。 今回の場合、日本への報復制裁を緩くしていることで、ロシアは「日本は大事」というシグナルを送った。一方で軍事演習することで、「早くしないと、北方領土は永遠に返しませんよ!」と脅すことも忘れなかった。いわゆる「アメとムチ」だ。 北方領土への色気を見せすぎれば逆効果 安倍総理は中国をダシに米国を説得すべき では、日本はどうするべきなのか?はっきり知らなければならないのは、「世界の大局」である。世界情勢は、去年と今年ではまったく変わっている。ロシアが3月にクリミアを併合し、欧米は「対ロ制裁」を決めた。中国はロシアを支持することで、事実上の「中ロ同盟」が形成された。 日本は「制裁」に加わり、さらに「集団的自衛権行使」を認めることで、米英豪などとの関係が劇的に改善された。日本は現在、米欧豪の陣営にあり、中国は尖閣を狙うことが非常に困難になっている。 つまり、日本は今、「とてもいいポジション」につけている。しかし、「プーチン訪日」を強行すれば、もっとも大切な同盟国米国との関係が損なわれるだろう。すると、その後ろにいる欧州やオーストラリアとの関係も悪くなる。では、「プーチン訪日」は諦めるしかないのか? 答えは、「米国の説得を試み、賛同を得られれば、ロシアにプーチン訪日を要請する。賛同を得られなければ、プーチン訪日は諦める」となる。 ではどうやって米国を説得するのか?最悪なのは、「北方領土を返してもらうためにプーチンを呼ぶ」とバカ正直に言うこと。北方領土が日本に戻ってくるかどうかは、米国には何の関係もないのだから。そうではなく、「プーチンを招待するのは、米国の覇権を永遠にするためです!」と言う。 なぜか?米国の「シェール革命」が進展すれば、エネルギー価格は下落し、資源大国ロシアの経済はどんどん苦しくなっていく。米国は、ロシアに対して大騒ぎする必要などないのだ。 しかし、中国はどうか?すでに、GDPでも軍事費でも世界2位の大国で、日本、フィリピン、ベトナムと対立している。世界に「米国から覇権を奪える国」があるとすれば、中国以外にありえない。 では、どうやって中国の台頭を抑えることができるのか?中国は、陸続きの資源大国ロシアから、原油・天然ガスを大量供給してもらう体制を構築しようとしている。さらに、ロシアから最新兵器を輸入し、軍備を増強させている。つまり、中ロを分裂させることが、中国の覇権を阻止し、米国が世界ナンバー1でありつづける道なのだ。 これを安倍総理が言っても説得力がないかもしれない。しかし、「中ロ分裂」を主張している有力者は、米国内にも存在している。リアリストの大家エドワード・ルトワック(戦略国際問題研究所)、スティーヴン・ウォルト(ハーバード大学教授)、あるいはロバート・ゲーツ(元国防長官・元CIA長官)などである。 確かに「北方領土返還」を求めるのは大事である。しかし、「日本が国際社会でサバイバルすること」は、それよりはるかに重要だ。 日本は、1937年に日中戦争がはじまったとき、中国、米国、英国、ソ連の4大国を敵にしていた。「孤立して大敗」という愚かな過ちを繰り返さないために、「大局」を見て行動しなければならない。大局とは、「現在、欧米と中ロが争っている」ことであり、「日本は欧米側についている」ということ。その立場を堅持しながら、日本は、「中ロを分裂させ、米国の覇権を守るためにプーチンを呼ぶ」と米国を説得する。 オバマがそれを拒否したら、残念ながら「社長は理解できなかった」と諦めるしかない。 |