01. あっしら 2014年8月26日 01:59:25
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『フォーリン・アフェアーズ・レポート』2014 No.7 P.70〜73「CFRインタビュー ロシアの戦略とウクライナ東部――流れは国家内国家へ チャールズ・キング ジョージタウン大学教授(国際関係論) ウウライナ東部に対するロシアの戦略は公的には関与を否定しつつ、水面下で不安定化を画策することだと言われることも多い。これは、ロシアが1990年代に「近い外国」に対してとった戦略アプローチの系譜とみなせる。ロシアは最終的な結果がどうなるかは気に懸けずに、現地情勢への影響力を確保することを重視する。この戦略をとれば、ウクライナ東部における分離独立勢力の将来の地位をめぐって影響力を確保できる。一方、ウクライナ政府が軍事的対応を試みればみるほど、より多くの敵を作り出し、親ロ派を勢いづけてしまう。これは、対ゲリラ戦争に付きまとう古典的な問題だ。国際交渉も、(国連その他の)外部プレイヤーが(分離独立勢力にとっては受け入れられない)領土保全を目的に掲げるために、結局、うまくいかないことが多い。皮肉にも、交渉プロセスそのものが、紛争を長期化させる作用をもっている。・・・ウウライナ政府が明確な勝利を得られないまま、混乱が長期化すれば、親ロシア派が独自の統治構造を作り上げていく危険がある。
聞き手はロバート・マウマホン ■国家VS・事実上の国家 ウクライナ東部に対するロシアの戦略は、公的には関与を否定しつつ、水面下で不安定化を画策することだと言われることも多い。ロシアはこれまでもこうした二重戦術をとつたことがあるようだ。 ウクライナ東部に対するモスクワの戦略は、1990年代に「近い外国」に対してとった戦略アプローチの系譜とみなせる。この時期、ロシアと旧ソビエト諸国は、突然国境線となったかつての連邦内の共和国境界線をどうするかをはっきりと決めていなかった。 (モルドバの一部だった)沿ドニエストル、(グルジアの一部だった)アブハジアと南オセチア、(アゼルバイジャンの一部だった)ナゴルノ・カラバフなどで、共和国内部の境界(つまりは分離独立)をめぐって一連の紛争が起き、これらの紛争の一部にロシアは事後的に関与した。 当時の沿ドニエストルには大規模なソビエトの軍隊が残留していた。社会暴力が深刻になると、モルドバ政府は分離主義勢力、ロシア政府双方からの圧力にさらされた。(モルドバに限らず)多くのケースで分離主義勢力は、ロシアの支援もあって、地域的な管理権を確立することに成功している。 その後、国家と「国際的には認知されていない事実上の国家」間の「凍結された紛争」という現象が出現した。 ウクライナの場合も、政府が明確な勝利を得られないまま、混乱が長期化すれば、親ロ派が独自の統治構造を作り上げていく危険がある。 ― ウクライナの指導者にとって、そうした「凍結された紛争」の教訓とは何だろうか。
これまでの「凍結された紛争」では、国際的に承認されている共和国政府側が敗北している。大規模な犠牲を強いられたからではなく、戦闘を継続する気力をなくしてしまったからだ。 その結果、グルジアのアブハジア、モルドバの沿ドニエストルで、中央政府のライバルとなるような独自の統治体制が形作られていった。時間が経過するとともに、こうした地域を一つの国に収めるのではなく、実質的に分離しているが、体裁だけでも一つの国であるかのように繕おうとする流れが生じた。 ウクライナの状況はまだそこまで悪化していないし、まだかなりの時間的猶予がある。しかし、1990年代の事態を見守っていたわれわれにとって、(現在ウクライナで展開されている)パターンをみるのは初めてではない。 ■今後ウクライナはどうなるか
― 親ロ派が国家統合を妨げる大きな障害を作り出す前に、ウクライナ政府が管理権を再確立できる可能性はどのくらいあるだろうか。 大規模な戦闘を数週間、数カ月にわたって続けるのは、事実上不可能だ。厄介なのは、現在起きているのが、人口密集地帯におけるゲリラ戦であることだ。この環境で政府が東部における軍事的管理を確立しようと強引に試みれば、民間人に犠牲が出る。 しかも、ウクライナ政府が軍事的対応を試みればみるほど、より多くの敵を作り出し、親ロ派を勢いづける。これは、対ゲリラ戦争に付きまとう古典的な問題だ。実際、政府がウクライナ東部でどの程度政治的正統性を確立できるか、つまり、民衆の支持を得られるかは、非常に重要なポイントだろう。 1990年代初頭の旧ソビエト地域におけるあらゆる紛争において、多くの共和国政府がこれと同じ問題に直面した。 共和国側はモスクワに対して「自分たちは自決権をもっている」と主張して中央から離れていったが、その後、共和国内の地域が同様に自決権をもっていると主張し、共和国の中央から離れようと試みるようになった。ウクライナ東部の武装勢力とエリートたちも、現在、これと同じ主張をしている。 ― 欧州連合(EU)、欧州安全保障協力機構(OSCE)、国連などの国際的アクターは和平の実現に向けて大きな役割を果たせるだろうか。
アブハジア、南オセチア、ナゴルノ・カラバフ、沿ドニエストルでの問題をめぐって、国際的アクターは役割をうまく果たせただろうか。 国際社会は交渉を通じてモルドバ、グルジア、アゼルバイジャンなどが国家的統合(領土保全)を維持していくのを助けようと試みたが、分離独立を求める勢力はまさにその点を問題にしていた。このために、国際社会が交渉を通じて調停を試みるのは非常に難しかった。 次に、これらの紛争のすべてに対してロシアは最終的な結果がどうなるかは気に懸けずに、現地情勢への影響力を確保することを重視した。ウクライナに対してもこの戦略をとれば、東部の分離独立勢力の将来における地位をめぐって、ロシアは影響力を確保できる。問題は、交渉プロセスそのものが、紛争を長期化させる作用をもっていることだ。 一方、沿ドニエストルなど、1990年以降、いまも国際的な承認を得ていない「事実上の独立国家」は、主権が曖昧な状態でも、紛争さえなければ、長期的に存続できることを立証している。 残念なことに、ウクライナではいまも紛争が続いている。だが、犠牲者が出るのを避けることがもっとも重要だとすれば、主権が暖昧になっていることはあまり心配すべきではないのかもしれない。 ■モルドバは新たな紛争の火種か
― モルドバはまさにEUとの政治経済(連合)協定を結ぼうとしているが、東部の沿ドニエストルはどう動くだろうか。モルドバが新たな火種となる危険はないか。 モルドバ、ウクライナ、グルジアのような国がEUとの関係を強化しようと試みた場合、共和国内の分離主義勢力がどう動くかは、たしかに重要なポイントだ。 全般的に言って、EUとの関係強化を概念として受け入れて、市民たちが熱狂的に支持することはない。だが、それによってどのような恩恵がもたらされるかを具体的に想定できる段階になれば、かなり前向きに支持する傾向がある。 実際、すでにモルドバのパスポートを申請している沿ドニエストル地域の住民たちもいる。モルドバ市民として登録し、モルドバが最終的にEUに加盟すれば、シェンゲン協定によって、ヨーロッパ内を自由に移動できるようになるからだ。 EU加盟への道を歩き始めれば、EUメンバーになることで得られる恩恵を誰もが考え出す。 問題はその前段階だ。「EU加盟が良いことか、悪いことか」が争点とされている段階で、EUとの関係強化へと踏み出せば、国内情勢は不安定化する。だが、EU加盟がもたらす具体的恩恵を意識できる段階になれば、変化はスムーズに進む。
― (ロシアはカザフスタン、ベラルーシともに)ユーラシア経済同盟(EaEU)を最近立ち上げた。今後、EaEUかEUかをめぐって旧ソビエト諸国は思い悩むことになるのだろうか。 EaEUがEUの主要なライバルになることはあり得ない。カザフスタンでさえも、EaEUは基本的に貿易ブロックに過ぎないと表明することで、保険を賭けている。 たしかに、数カ月前の時点でのプーチンのEaEU構想は壮大なビジョンだったかもしれない。だが、その後何が起きたかを考える必要がある。 ウクライナは危機に陥り、カザフスタンは保険策をとつている。しかもロシアのクリミア併合がEaEUの拡大にとって大きな障害を作り出している。 Charles King ジョージタウン大学教授(政治学、国際関係論)。専門はナショナリズム、民族政治など。」
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