02. 2014年8月26日 10:26:20
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差別は、無くならないな http://diamond.jp/articles/print/58123 【第476回】 2014年8月26日 仲野博文 [ジャーナリスト] “ダイバーシティ”“自由と平等”はおとぎ話か? セントルイス騒乱で明らかになったアメリカの病巣 ??ジャーナリスト・仲野博文マイケル・ブラウンさんが白人警官に射殺されたことをきっかけに、黒人住民たちの警察官に対する不満が爆発。大規模なデモになった。それを鎮圧するために投入された警察は軍隊並の重武装で臨んだ。最終的に州兵も投入される事態になった Photo:AP/AFLO 今月9日に米ミズーリ州セントルイス近郊の町ファーガソンで18歳の丸腰の黒人少年が白人警察官に射殺された事件では、警察による暴力や嫌がらせにかねてフラストレーションを抱えていた地元住民らがデモを決行。デモ隊に地元警察が催涙弾を発射する光景は世界中のニュースで紹介され、黒人大統領が誕生した現在のアメリカで人種問題がまだまだ残る現実が露呈された。人種問題に警察の軍隊化――。セントルイス騒乱からアメリカの抱える問題が垣間見える。 警察官がすぐに発砲 真相は明らかにされていない 「パトロール中の警察官が犯罪とは無縁の若者に暴言を吐いたり、嫌がらせをしたという話は、私の町でもたまにあります。ただ、ファーガソンで起こったことは酷すぎます。日常の生活で人種問題がまだまだ存在することを思い知らされた気分です」 ?メリーランド州ボルチモア在住の黒人女性にファーガソンで発生したデモや、そのきっかけとなったマイケル・ブラウンさんが白人警官に射殺された件について聞いたところ、彼女は開口一番こう言い放った。 ?人口60万のボルチモアは、毎年200人以上が殺害される犯罪多発エリアで、全米でもっとも危険な都市の1つとして知られている。ボルチモアでもパトロール中の警察官と若者との間でトラブルが発生することは珍しくないが、ファーガソンのように警察官がすぐに銃を発砲するケースは稀なのだという。 ?ボルチモア在住の黒人女性も絶句したというミズーリ州ファーガソンの白人警官が地元の黒人少年を射殺した事件。射殺されたマイケル・ブラウンさんは丸腰で、射殺される前に両手をあげて、抵抗する意思がない事を表明していたという報道もある。 ?近くで強盗事件が発生していたため、無関係のブラウンさんが容疑者と間違えられたという情報もあるが、地元警察がすべての情報を公開していないため、事件の真相は公にはされていない。8月9日にファーガソンで何があったのだろうか。 ファーガソン市民の怒りが 沸点に達した理由 ?殺害されたブラウンさんは司法解剖の結果、頭部への3発を含む6発の銃弾を受けており、ほぼ即死に近い状態であった。警察官はブラウンさんと彼の友人を呼び止め、3分もしないうちにブラウンさんに向けて銃を発砲していた。発砲があったのは正午過ぎ。路上に横たわるブラウンさんの遺体は炎天下で数時間も放置され、警察の対応に憤る地元住民も少なくなかった。 ?ブラウンさんを射殺したダレン・ウイルソン氏は、2011年までファーガソンの近くにあるジェニングス市の警察官であったが、ジェニングス市では地元警察官による黒人住民に対する嫌がらせなどが以前から何度も報告されており、2011年に市議会は署員全員の解雇を決定し、すべてのポジションに新しい人材を投入するという大ナタを振るっている。しばらくして、ウイルソン氏はジェニングスからそれほど離れていないファーガソンで警察官として再び働き始めている。 ?人種問題で解雇された警察官が隣町の警察に再就職できる現状も理解に苦しむのだが、黒人人口が大半を占めるファーガソンで、黒人が警察官になるチャンスがほとんど無い一方、白人警官の採用基準は非常に緩い。 ?ファーガソンの人種構成はこの20年間で大きく変化しており、1990年には住民の約75%が白人であったが、2010年には黒人人口が住民全体の約67%に到達。しかし、地元警察の95%は白人警察官で占められていた。 ?町にはこれといった大きな産業も存在せず、ファストフード店やコンビニで働くのはヒスパニック系。行政や雇用の面で、住民の半数以上を占める黒人がコミュニティから締め出されるという、いびつな構造が存在していたのだ。 ?英ガーディアン紙のアメリカ特派員として数日前までファーガソンで取材を続けたローリー・キャロル西海岸支局長は、地元住民と警察との間に何年にもわたって軋轢が存在していたなかで、ブラウンさん射殺事件がきっかけとなって市民の怒りが沸点に達したのだと語る。 「ファーガソンで話を聞いた地元住民の多くが、何年もの間、地元の警察官から嫌がらせを受け、暴言を吐かれた経験があると語ってくれた。ファーガソンの警察官のほとんどは白人で、黒人がコミュニティ内で政治・経済的に隔離されている現状を示す一例と言えるだろう。黒人住民の多くが行政に対して楽観的な考えは持っておらず、教育や雇用といった問題でも他都市より閉塞感が強いように思える」 ?ブラウンさんが丸腰で射殺されたことに怒りを隠せない地元住民はファーガソン市内でデモを開始したが、夜間に商店で略奪行為などが相次いで発生したため、地元警察は重武装した警察官をデモの鎮圧に投入。デモ隊に向かって催涙弾が何発も打ち込まれるなか、一部のデモ参加者は警察に向かって火炎瓶を投げ、その光景は政権交代を求めて治安当局とデモ隊が衝突した今年初めのウクライナ・キエフを彷彿とさせるものであった。 全米各地で発生している 白人警官による黒人容疑者射殺 ?19日はファーガソンから数キロしか離れていないセントルイスで、23歳のケイジーム・パウエルさんが警察官に射殺されている。食料品店からパウエルさんがドーナツとソフトドリンクを盗んだ容疑で通報を受けた警察が、パウエルさんを発見。パトカーから出てくる警察官に対して、パウエルさんは「俺を撃ってみろ」と叫び、警察官に向かって少し近づいたところで射殺された。 ?住民の1人が一部始終をスマートフォンで撮影しており、警察官が現場に到着後15秒で発砲を開始し、12発がパウエルさんに向けて発砲されていたことが判明している。地元警察はパウエルさんがナイフらしきものを所持していたため、身の危険を感じた警察官が発砲したと釈明したが、スマホで撮影された動画(*)ではパウエルさんと警官との間には十分な距離があったことが確認できる。 ?ミズーリ州ファーガソンで18歳のマイケル・ブラウンさんが射殺されたのが8月9日。それから2週間もたたないうちに、隣接するセントルイスで、23歳のケイジーム・パウエルさんが地元の警察官によって射殺されているが、こういった警察官による射殺はセントルイス周辺に限った話なのだろうか。 ?非常にショッキングな話だが、警察官が容疑者を射殺するケースは全米の各都市で発生しており、射殺された人の多くが黒人という特徴を持つ。 ?アメリカ最古の公民権運動団体として知られるNAACP(全米黒人地位向上協会)は、2004年から2008年の間にカリフォルニア州オークランドで警察官が容疑者に対して発砲した事例を調査し、発表している。 ?45件の発砲の中で、37件は黒人容疑者に対して行われたもので、白人は1人もいなかった。15件では撃たれた容疑者が死亡。45件すべてで発砲した警察官が罪を問われることはなかったが、容疑者が武器を所持していなかったケースが全体の約4割を占めていた。 ?米司法省が公開したデータによると、2003年から2009年までの間に、全米で警察による拘束前や拘束後に死亡した容疑者は少なくとも4813人に及び、事件現場で警察官によって射殺された容疑者は410人に達していた。 (*)YouTubeにアップされた、住民が撮影した映像はこちら(※リンク先の動画には暴力的な表現が含まれています。視聴にはご注意ください)。 20年以上続く軍の余剰品が 警察に流れるというシステム ?ファーガソンで発生した地元住民らによるデモでは、警察だけではなく州兵も投入され、緊張感の中で続く睨み合いはアメリカの国内外でトップニュースとして伝えられた。州兵ではなく、黒い強化ヘルメットをかぶった地元の警察官が装甲車の上からショットガンやアサルトライフルを構える異様な光景。しかし、軍隊化する警察はファーガソンに限った話ではないのだ。 ?昨年夏、筆者は爆弾事件発生後のボストンを訪れ、ボストン市民や警察関係者、地元メディアの記者に取材を行った。その後、「脅えるアメリカ社会」というタイトルでボストン爆弾事件から垣間見えるアメリカ社会の問題点について連載を開始したが、そのなかで軍の余剰品を全米の警察に寄贈する「1033プログラム」の存在についても紹介した。 ?1980年代のレーガン政権時に特例として、軍の余剰品が警察に寄贈されることはあったが、制度化されたのは90年代に入ってからで、現在までに総額で約5000億円分の余剰品が警察に寄贈されている。「1033プログラム」では、軍の余剰品は基本的に無償で警察に寄贈され、送料やメンテナンスは各警察署が個別に負担する仕組みだ。 「1033プログラム」で寄贈される余剰品の90%以上は、机や椅子といったオフィス家具や、懐中電灯やレインコートといったものだが、殺傷力の高いアサルトライフルのような銃火器類も全体の約5%を占めている。 ?また全体の1%とはいえ、装甲車両もアメリカ国内の警察に寄贈されており、カリフォルニア州サンフランシスコやオクラホマ州タルサの市警察は、北アイルランド紛争で英軍が市街地に頻繁に投入したイギリス製の装甲車を1033プログラム経由で米軍から譲り受けている。ほかにも、装甲兵員輸送車やヘリコプターまでもが警察に寄贈されている。 ?米軍の準機関紙「星条旗新聞」は24日に1033プログラムに関する記事を掲載。アサルトライフルなどが警察に寄贈された背景に、当時のアメリカが国内外で「麻薬戦争」に直面しており、重武装した麻薬組織のメンバーや凶悪犯と対峙する際に当時の警察の一般的な装備品では太刀打ちできないという問題が存在したと指摘している。1033プログラムを利用して余剰品を受け取った警察署の数は約8000。自治体の総数が約2万といわれおり、利用率は極めて高いといえる。 ?しかし、余剰品の寄贈によってアサルトライフルや装甲車を手に入れた地方警察が、過剰なまでに武装化を進めているという批判もある。1970年代には大都市の警察にしか配置されていなかったSWAT(警察の特殊部隊)だが、現在では人口2万人程度の町の警察にもSWATが作られるようになり、全米で数千ユニットのSWATが存在する模様だ。 ?警察の重武装化は、地域の住民にどのような影響を与えるのだろうか。前出の英ガーディアン紙・キャロル支局長が語る。 「必要以上に警察が武装化することによって、住民と警察との間にできた溝はさらに深まっていると言わざるを得ない。警察の重武装化に地元住民は不信感を抱き、結果的に双方に恐怖感が芽生え、お互いを理解しようとする動きも無くなっていく。強化ヘルメットとゴーグルを身につけ、装甲車両の上からショットガンを構える警察官を、ファーガソンの住民はダースベーダーと揶揄していたが、地元住民に仕えるという意識はあまり感じられなかった」 職業倫理の向上よりも ウェアラブルカメラ装着を ?ファーガソン市警察は18台のパトカーを所有。今年に入ってから車載カメラとウェアラブルカメラを2台ずつ購入したものの、インストールするための予算が組めなかったという理由で、購入したカメラを全く使用していなかった。 ?ブラウンさんの射殺をめぐっては、地元住民から寄せられた目撃情報と地元警察の見解が大きく異なり、これが問題をややこしくしているのだが、ビデオ映像を残すことで警察官の過剰な行動を抑止できるという指摘は以前から存在する。 ?ブラウンさんが射殺されて間もなく、ホワイトハウスの陳情受け付けサイトには警察官のウェアラブルカメラ着用を義務付けるよう法改正すべきとの投稿があり、陳情を支持する署名はすでに10万人分を突破している。 ?ウェアラブルカメラの着用によって、パトロール中の警察官も市民に対して過剰な行動を取りにくくなると考えられており、外勤の警察官にウェアラブルカメラの着用を義務付けたカリフォルニア州リアルトでは、警察への苦情が1年間で88%も激減している。 ?ウェアラブル製品に詳しいプロダクトデザイナーの濱田浩嗣氏は、ウェアラブルカメラなどが将来的により低価格化されるとの見通しを示し、ウェアラブル製品が警察官一人一人に配布されることによって、勤務中のトラブルを未然に防ぐ抑止力に十分なり得ると語る。 「現場の状況が第三者に共有されることで、行動が律されることは、有効な手段の一つだと思う。警官に対してはもちろん、撮られている対象者にも同様の効果があるだろう。緊迫した現場で、客観的な判断や援助の要請ができるのは、当事者として恩恵を受けることも多いのではないだろうか」 ?ファーガソンで発生した白人警官による丸腰の黒人少年の射殺は、人種問題や警察の軍隊化など、アメリカ各地のコミュニティが未だに抱える問題を浮き彫りにした。警察官に対する倫理教育の必要性も唱えられているが、即効性と確実性を求めるのであれば、倫理教育よりもウェアラブルカメラ装着ではないだろうか。 |