07. 2014年8月14日 20:56:33
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http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/41472 プーチン大統領が読み誤ったメルケル首相の決意 厳しい対ロ制裁を主導したドイツ、安定した世界を望み、その対価を払う覚悟 2014年08月13日(Wed) Financial Times (2014年8月12日付 英フィナンシャル・タイムズ紙) ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は1980年代に旧ソビエト連邦国家保安委員会(KGB)の情報将校として、共産主義国だった旧ドイツ民主共和国(旧東ドイツ)に5年間滞在した。ドイツのことは理解しているという自負がある。 しかし今回のウクライナ危機を巡っては、ドイツのアンゲラ・メルケル首相の気持ちと決意を大きく読み誤った。大統領の経験は明らかに陳腐化していた。 プーチン大統領の大きな誤算 「世界一影響力ある女性」はメルケル独首相、4年連続 EUによる対ロ制裁強化を主導したドイツのアンゲラ・メルケル首相〔AFPBB News〕 欧州連合(EU)加盟28カ国が先月、ウクライナの内戦においてロシア政府が分離主義者の武装勢力を支援したとの理由からロシアへの制裁強化で合意した時、クレムリンはショックを受けた。 ドイツの輸出企業に深刻な影響を及ぼすような行動を取ることにはメルケル首相が抵抗するだろう、とプーチン氏は見込んでいたからだ。 この読みは間違っていた。今回の制裁パッケージは、ドイツ政府が推し進めたものだった。メルケル首相とフランク・ヴァルター・シュタインマイヤー外相が主導したドイツの政策において、何よりも重要だったのは、欧州の共同戦線を維持するという決意だったのだ。 「プーチンは昔のスタイルのKGBのスパイだ。何でもゼロサムゲームだと考えている。いろいろな選択肢を残しておき、2国間の接触や企業との接触を通じてEUや西側諸国を分裂させようとしている」。メルケル氏が率いるキリスト教民主同盟(CDU)の副議員団長、アンドレアス・ショッケンホフ氏はこう語る。 「首相は欧州諸国を一つにまとめ、かつ企業を仲間に引き込むために、長い時間と大量のエネルギーを費やした」 メルケル氏の真意を読み違えた指導者はプーチン氏が初めてではない。英国のデビッド・キャメロン首相は過日、ルクセンブルクのジャン・クロード・ユンケル氏が次期欧州委員会委員長に指名されるのを阻止しようとメルケル氏の支持を求めた時に、同じように間違えた。しかし、プーチン氏の読み違いは、はるかに深刻なものになる恐れを秘めている。 外交的な解決策を見いだす力を持った唯一の欧州の指導者は、ウクライナにおけるプーチン氏の振る舞いを見て、今年3月のクリミア併合以降は同氏から距離を置くようになっている。プーチン氏は出口戦略を持たずに行動し、にっちもさっちもいかなくなってしまった格好だ。 もっとも、ベルリンからの信号は何カ月も前からずっと発信されている。プーチン氏が2012年に大統領の座に返り咲いて以来、メルケル氏はロシア政府の専制主義的傾向とナショナリズム志向に不快感を示してきた。合意されている国境を一方的に変更したクリミア占領にはショックを受けていた。 プーチン大統領、ロシア独自のカードシステム開発に意欲 ウラジーミル・プーチン大統領は何度もウソをついたとされる〔AFPBB News〕 ドイツ政府高官の話によれば、メルケル氏がプーチン氏をとうとう信用しなくなったのは、分離主義者を制止する用意やロシアの関与についてプーチン氏がウソを繰り返した(両者は30回以上電話で話をしていた)と考えるに至ったからだという。メルケル首相にとって、信用できるか否かは非常に重要だ。 メルケル氏は不承不承、EUによるロシア制裁の中心になった。平和的な解決を目指す傾向が強い同氏は、キエフやロンドン、ワシントンではロシア政府シンパとして嘲笑された。しかし、ロシアは妥協しなければならず、それができないなら相応の結果に直面するとの見方は常に明確にしていた。 メルケル氏はプーチン氏の頑迷さに対し、何の脈絡もなく厳しい態度で臨んでいるわけではない。ドイツの外交政策の見直しはすでに進められており、ウクライナ危機はそれを加速させたというのが実情だ。 外交政策でも積極的な役割を担い始めたドイツ ドイツは以前から、ユーロ圏危機への対処に関する問題――表面的には、経済・財政政策の問題――ではEUを仕切る立場にあるが、外交政策においてはそうではない。この分野は、昔からの世界の主要国であるフランスと英国に任せてきた。 ドイツの外交・安全保障政策のベテランアナリスト、クリストフ・ベルトラム氏は、ユーロ危機と「ほかの欧州諸国政府の著しい弱さ(ベルトラム氏は非常に礼儀正しい人物なので、英国やフランスを名指ししない)」のせいで、ドイツがもっと積極的な役割を担う必要があるとの議論が刺激されたと考えている。 「(積極的な役割に)ドイツが飛びついたわけではない。自分たちがそういう立場に置かれていることを、渋々認識したのだ」。外交政策については先頭に立たず、後からついていく方を常に好んでいた国が突然「甲板に引っ張り出され、時折舵を任されるようになった」とも同氏は表現している。 ベルトラム氏は、ドイツの外交政策見直しを手伝ってくれないかとシュタインマイヤー外相から頼まれている。この要請が舞い込んだのは、ヨアヒム・ガウク大統領が今年1月に開かれたミュンヘン安全保障会議で、大変話題になった演説を行った後のことだ。 大統領はこの演説で、ドイツはこれまでよりも大きな責任を担うべきであり、「ほかの国々が何十年もの間ドイツに提供してくれている安全を保証するために」もっと汗をかく用意もあることを示すべきだと述べている。 シュタインマイヤー外相(社会民主党=SPD)とウルズラ・フォンデアライエン国防相(メルケル氏のCDUの主要メンバー)はともに大統領を支持した。ただ、メルケル首相は、よくあることだが、沈黙を守っている。今以上に積極的な外交政策を取ることを有権者が快く思っていないことを、首相は知っているからだ。 この認識は正しい。ケルバー財団が今年5月に行った世論調査では、国際的な危機にドイツが「もっと関与」すべしという回答は全体の37%にすぎず、目立たないようにしてほしいとの回答は60%に達していた。 「地上軍を投入したい」という意気込みはドイツには全くない。その点では、ドイツ政府はウクライナに軍事介入する用意ができていないというプーチン氏の見立ては正しい。しかし、だからドイツは何もしないのだと考えるのは間違っている。 経済的な対価を払ってもドイツの「国益」を守る プーチン氏は、メルケル氏が様子見をする傾向の強い人であるがゆえに読み誤ったのかもしれない。メルケル氏は、問題が生じれば解決策を探す実務家であり、イデオロギーを避ける。ドイツの政治家のほとんどはこの表現に困惑するが、メルケル氏は「国益」なるものが存在することを承知している。 ウクライナ問題について言えば、これは合意されている国境線を一方的に引き直すことに反対の姿勢を示すことを意味する。たとえそれが、経済的な対価を支払うことを意味することになっても、だ。 これは国の繁栄だけでなく安全保障に関わる問題だ。欧州の連帯に、法の支配の防衛に、そして人権の保護に関係する問題だ。輸出市場を守るというだけの話ではないのだ。 By Quentin Peel ロシアと西側:友人を失う方法 2014年08月13日(Wed) The Economist (英エコノミスト誌 2014年8月9日号) ウラジーミル・プーチン大統領は、ロシアを自立した強い国にできるふりをしている。 「孤立」「強化」「自立」は、モスクワの政財界のエリートたちの間で同じ意味で使われる異なる用語だ。ウクライナ東部の武装勢力に対する支援と、それ以前のクリミア併合が引き起こした外国からの制裁に直面し、ロシアは内向きになる準備を進めている。長期にわたる外交的対立と経済的苦境に備え始めたのだ。 このプロセスは加速しているように見える。8月6日、ロシアは西側諸国からの圧力に対抗し、ロシアに制裁を科す国からの農産物の輸入を禁止、もしくは制限すると発表した。 ウクライナ東部の緊張は高まっている。ウクライナ軍は概して無差別な爆撃によって、武装集団の牙城であるドネツクを事実上封鎖した。もしドネツクがウクライナ政府の手に落ちたら、親ロシア派の反政府組織は勢力を失うだろう。 プーチン大統領の危険な賭け、生活水準の低下を補える恩恵? プーチン氏は「人道的」な作戦を口実としてロシア軍をウクライナ東部に派遣することによって、自身の信頼を保とうとする衝動に駆られるかもしれない。北大西洋条約機構(NATO)によると、2万人のロシア兵が国境に集結しているという。ロシア兵は戦闘機や爆撃機を使った実弾軍事演習を行っている。実弾演習は以前、侵略の前触れとなった類の演習だ。 たとえロシア軍が国境を越えることがなくても、ロシアと西側の対立は、ウラジーミル・プーチン氏の支配が続く限り、もしかしたら、その後も続くと見られている。 先月起きたマレーシア航空17便撃墜後にウクライナ東部の反政府勢力に対する支援を強化したことで、プーチン氏は、ロシアの経済的な健全性や世界的な評判よりも、ロシアの歴史的宿命に対する自身の理解を大事にしていることを世に示した。冷戦後の世界秩序の構造に挑むことは、それ独自の利益をもたらし、生活水準の低下を埋め合わせるという危険な賭けに出ている。 親クレムリンの政党、統一ロシアに所属するあるロシア下院議員は、プーチン氏を「重商主義」と見なすのは間違いだとし、同氏はむしろ、自立した勢力の中心地としてのロシアを確立することに尽力する「歴史的人物」だと言う。 プーチン氏は先月、ロシア連邦安全保障会議で「ロシアは幸い、どの同盟にも加わっていない」と話し、これを「我が国の主権を保証するもの」と評した。 ロシアと西側の新たな確執は、大国間の戦いにはならない。1つには、今のロシアは国境を越えた訴求力のあるイデオロギーを持っていないからだ。先月の本誌(英エコノミスト)のインタビューで、バラク・オバマ米大統領は、ロシアが突きつける課題は「事実上、地域的なもの」だと発言した。 クレムリンは、例えば軍需産業向けのハイテク部品など、西側諸国のモノとサービスをロシア国内のそれに置き換えることを目指すと誇らしげに語っている。 もし製造業者がフル稼働に近い状況で操業していなかったり、新規投資を切実に必要としている状況に置かれていなかったりすれば、輸入代替もうまくいくかもしれない。新規投資については、外国からの資金調達が縮小するにつれ、一段と不足することになる。 石油販売から棚ボタ式に利益を得られた数年間で積み上がった政府系ファンドの資金1730億ドルは、ルーブルを安定させ、国営の銀行や企業の債務を返済するために引き出されるだろう。「これで我々が死ぬことはないが、問題は生じるだろう」と、前出の統一ロシア議員は話している。 もしプーチン氏が2012年5月に大統領に復帰した時にした社会的支出に関する約束を果たしたいのなら、ロシアの財源を極限まで駆使しなければならない(当時、ロシアは国内総生産=GDP=成長を年率5%と予想していたが、国際通貨基金=IMF=は今、ロシアの今年のGDP成長率をたったの0.2%と予想している)。 プーチン氏は既に、地方政府予算の穴を埋めるための策として、3%の消費税を導入することを提案している。ロシア政府は、個人年金基金の積立金を連邦予算に流用するとも発表しており、経済発展省の副大臣がこの措置を「恥ずかしく思う」と訴える事態となった。副大臣は、翌日罷免された。 プロパガンダは奏功 このような問題はまだプーチン氏を傷つけていない。実際、プーチン氏はかつてないほど人気が高まっており、同氏のプロパガンダ装置は非常に有効であることが分かってきている。モスクワの世論調査機関レバダ・センターが8月初旬に発表した世論調査によると、ロシア人の74%が米国に対し否定的な意見を持っており、ソ連崩壊以降のロシアの歴史上、最も高い数値となった。 ウクライナを巡る西側との対立で、ソ連崩壊以降、何年もかけて積み上がってきた「不満の盛大なガス抜き」ができたとレバダ・センター所長のレフ・グトコフ氏は話している。西側との関係がどうしようもなく損なわれたことをプーチン氏が知った今、同氏は再びさらに大きな賭けに出る用意があるかもしれない。 |