02. 2014年8月06日 16:43:12
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http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/41417 アラブの混乱のために無謀で独善的になるイスラエル 2014年08月06日(Wed) Financial Times (2014年8月5日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)ガザ地区の死者、1200人超える 停戦の訴え届かず ガザ地区への攻撃はやっと終わりつつあるが・・・〔AFPBB News〕 米ホワイトハウスの報道官が先週、イスラエルが国連運営の学校を爆撃したことについて「弁解の余地は全くない」と語るのを見た時、筆者は何か新しい状況を目撃したような気がした。米国がイスラエルをここまで強く非難したことはかつてなかったのではないか、と一瞬思ったのだ。 しかし、筆者よりも記憶力に優れた同僚に言われて思い出した。イスラエルが1982年に西ベイルートを包囲した際、ロナルド・レーガン米大統領(そう、あのレーガンだ)はイスラエルのメナヒム・ベニン首相に電話をかけ、イスラエルがやっているのは「ホロコースト(大虐殺)」だと非難した。 イスラエルの軍事行動により何万人もの一般市民が命を落とすのは今回が初めてではなく、世界各地から非難の声が上がるのも今回が初めてではない。 大きく変わる世界、延々と続くイスラエルとパレスチナの紛争 レーガンがベニンに電話をかけてから32年が経過した。その間にベルリンの壁は倒され、ソビエト連邦は崩壊し、中国は大きく変化し、アパルトヘイト(人種隔離政策)は終わり、インターネットは通信の革命をもたらした。 だが、イスラエルとパレスチナの紛争は果てしなく続けられてきた。インティファーダ(パレスチナ民衆蜂起)は2度、ガザへの侵攻は3度行われた。レバノンでも戦闘があり、数え切れないほどの和平交渉の試みが失敗に終わった。 ただ、イスラエルとパレスチナが血の流れる争いを続けている間に、その周囲の様子は急激に変化している。これらの変化のおかげでイスラエルは今のところ、国際的な非難に屈しにくくなっている。しかし長期的には、世界の力関係の変化を考えれば、イスラエルの将来は暗いものになると見られる。パレスチナと和平を結ばない場合は特にそうだ。 イスラエルは今のところ、過去の紛争でパレスチナ側の最大の支持者だったアラブ世界がバラバラになっているという状況から利益を得ている。 シリアとイラクは内戦に巻き込まれており、リビアも混乱した状況にある。エジプト政府は首都カイロで、ムスリム同胞団の支持者を多数殺害したうえに、ハマスを同胞団の分派だと見なしている。アラブ世界のもう一方の大国サウジアラビアも、ハマスには強い敵意を抱いている。 イスラエルに有利に働いている地政学的な変化 中東以外の地域でも、地政学的な変化により反イスラエルの動きが鈍っている。ロシア、インド、そして中国の政府は、自国内のイスラム過激派の脅威を強く懸念している。中国の新疆ウイグル自治区では先週、イスラム分離主義者が起こした戦いの後、100人を超える人々が命を落とした。 ロシアにもイスラム教徒の市民が2000万人おり、ロシア政府はチェチェンで残酷な戦いを2度行って以降、イスラム勢力の好戦性を強く恐れている。インドのナレンドラ・モディ首相はヒンズーナショナリストであり、当人が反イスラムの暴力行為を黙認したとして非難されている。 こうした政治的な変化は、外交の表舞台には反映されていない。先日開催された国連人権理事会の特別会合で、イスラエルがガザ地区で戦争犯罪を行っている可能性を調査することが提案された際、中国、ロシア、インドの3国は賛成票を投じた(欧州連合=EU=加盟国は棄権し、米国は反対票を投じた)。 しかし、このイスラエル非難にはお定まりのパターンが見受けられる。イスラエル政府のある高官によれば、イスラエルと中国の指導者たちによるハイレベル協議において、中国側はパレスチナ問題に「ざっと20秒間」触れただけだった。また、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相とロシアのウラジーミル・プーチン大統領は非常に仲が良い。 ただ、イスラエルの昔からの敵が敵意を弱めつつある一方で、昔からの仲間は以前ほど友好的ではなくなりつつある。 ネタニヤフ氏と米国のバラク・オバマ大統領との関係は冷え切っており、イスラエル高官の中には米国のジョン・ケリー国務長官をあからさまに軽蔑している人もいる。また米国で行われた世論調査を見る限り、年配の人々に比べると若い世代はイスラエルに対して同情的ではなく、その落差はかなり大きい。 もっとも、そうした変化が米国政府の政策に浸透するにはまだ何十年もかかるかもしれない。イスラエルはワシントンで確固たる地位を築いている。連邦議会の上院は先日、ガザ攻撃を全会一致で支持しているし、オバマ政権も、イスラエルの攻撃を非難する一方で支援と武器の売却は続けている。 イスラエル政府の計算 「イスラエル軍は攻撃を中止せよ」、世界各地で反戦デモ 世界各地でイスラエルのガザ攻撃に抗議するデモが行われている(写真はロンドン)〔AFPBB News〕 多くの欧州首脳はガザでのイスラエルの行動に露骨に愕然としており、人口の多い欧州のイスラム教徒は反イスラエルデモの先頭に立ってきた。だが、欧州のイスラム教徒は概して、社会に疎外された不人気な集団だ。 フランスのマニュエル・バルス首相は反ユダヤデモを非難し、反ユダヤデモは「パレスチナの大義とジハード(聖戦)主義、イスラエルに対する嫌悪、フランスへの憎しみ」を混ぜ合わせたと述べた。このような混合はイスラエルの役に立つ。パレスチナ人への同情を減らすことになるからだ。 イスラエルは長らく、EUの制裁の可能性について懸念してきた。だが、例えば違法なイスラエル人入植地からの輸入品を禁止するなど、現在議論されている制裁措置は概ね、象徴的なインパクトしか持たない。イスラエルはこの世界情勢を見渡し、ガザでの戦闘に対する国際的な非難を無視しても大丈夫だと判断したようだ。現在の紛争に関する限りは、この計算は正しかったという結果になるかもしれない。 しかし、現在イスラエルを助けている政治的な変化は、長期的にはずっと不吉なものに見える。アラブ世界の混乱は一時的に、イスラエルにとって有益な勢力のバランスを生み出したかもしれない。だが、その状況はあっさり変わり得る。また、地域で台頭する一部の勢力――最も明白なのがイラクの「イラク・シリアのイスラム国(ISIS)」――は、ハマスを穏健的に見せる。 和平のみがイスラエルの安全を保証できる より大きな意味では、米国の影響力の相対的衰退は、文化的には西側の出先であるイスラエルにとって悪い知らせだ。中東紛争に深くかかわろうとする米国の意思は低下している。それは長期的には、イスラエルの安全は唯一、近隣諸国との和平を実現することによってのみ保証されることを意味する。数年ごとにガザを荒廃させ、何百人もの民間人を殺すことは、和平の見通しをいよいよ非現実的なものにする。 だが、かつてないほど右傾化する国民に支持された、国家の安全で頭がいっぱいのイスラエル政府は、長期的なことについて考えるのをあきらめたように見える。 By Gideon Rachman c The Financial Times Limited 2014. All Rights Reserved. Please do not cut and paste FT articles and redistribute by email or post to the web.
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