http://www.asyura2.com/14/kokusai9/msg/214.html
Tweet |
原文はここ。
http://time.com/putin-ukraine-crash/
この記事を書いた記者のツイッターサイト。
プーチンの危うい嘘
(リード)撃墜事件後の反政府派民兵たちの現在。「ジャーナリズムの罪」で民兵に一時拘束された本誌記者が、プーチンを待ち受ける「当然の報い」を予言する。
拘束場所である地下室の入り口から、まだ年若い「囚人」が出てきたとき、彼は目を上げなかった。銃をもった民兵が後ろに続き、早く歩くように彼に促した。狭い階段を上る事だけが、その若い「囚人」の意識を支配しているようだ。「そんなにせっつくなよ」彼は後ろにいる民兵に言った。「もう聞き出せることは、俺から聞き出しただろ」民兵司令部の薄暗い光のなかでも、彼の顔が傷だらけであることが分かった。直りかけた古傷も、瘡蓋になりかけている新しい傷もあった。裸の胸が、女物らしいオーバーコートの下にのぞいていた。自分と同じくらいの年に見える。30過ぎくらいだろうか。
机に座った民兵の一人が笑いかけてきたとき、若い「囚人」の酷い有様と彼が発する臭気に、私の顔は青ざめていただろう。民兵は、私の「拘束手続き」を済ませるため、逮捕時の状況を詳しく記述することに余念がなかった。つい数分前に彼は「囚人の扱いはいいし、酷い事は起こらない」と私に言ったのだ。私を拘束したときも、彼は騙そうとした。7月20日の朝、私は、2人のジャーナリストと共に、死体置き場を取材に訪れた。反政府民兵が打ち落とした疑いのあるMH17機の被害者が安置されている場所だ。「私を拘束するのか?」車に乗れと命令され、信じられない思いでそう聞いた私に、彼は、「そうではない。あたなのプレス登録をプレスセンターで確認するだけだ」と答えたのだ。
「欺瞞」・・・戦闘が熾烈かつ絶望的になるにつれて、事実が明白な場合でさえ、民兵たちは、平気で嘘をつくことに慣れてしまったようだ。戦闘が始まったばかりの頃、彼らには一種の威厳があった。少なくとも私があった民兵の何人かは、ロシアの領土を死守し、アメリカの傲慢さを正す最前線にいるのは自分たちなのだという信念があった。しかし、現実の彼らは、モスクワの指示を待ちながら、検問所や、ロードブロックを守っているだけの、とるにとらない策略の道具、駒(こま)と化している。彼らはロシアの直接介入に望みをかけているが、西側が紛争の沈静化を望む中、クレムリンがやったことは、直接介入でも、沈静化の努力でもなかった。クレムリンは、紛争の種を供給しながら、嘘をつき続けたのだ。その結果が、MH17機撃墜の悪夢だった。
MH17機撃墜事件のもたらした壊滅的な結果をつきつけられ、民兵たちにとって「嘘をつくこと」は、惰性や必要悪といった程度のものでななくなった。クレムリンの路線に合わせ、国境からの支援を維持するために、自分たちは、嘘をつく権利があるとさえ思いはじめている。そのためには、MH17機に関する危うい主張を、守りとおす必要があるわけだ。
ブーク地対空ミサイルシステムを彼らが所持していたのか。結論から言うと、ブークミサイルをドネツク地区に配備したことは、少し前までは、彼らの誇りだったのである。撃墜事件が起こるまでの数週間、民兵たちは、ロシアの国営メディアと共に、ブークミサイルを獲得したと鼻高々だった。地元住民や記者は、ブークの移動ミサイルランチャーが、親ロシア派民兵の支配エリアを走り回るのを見ている。「ドネツク上空は、ブークミサイルシステムにより守られることになった」6月29日、ブークミサイルをウクライナ軍の基地から親ロシア民兵組織が奪った時、クレムリンの政治宣伝チャンネルVestiは、こう高らかにうたっているのである。
しかし、数週間後、報道は一変する。Vestiが、MH17機の事故のあと、「民兵がブーク地対空ミサイルを持っているはずがない」と主張しはじめる。ドネツク地区の司令官、Alexandar Borodai は、私がこの矛盾を指摘すると、癇癪を起こしてこう言った。「俺が今言ったことが真実だ。他は全て嘘だ」つまり、6月29日に、クレムリン御用達のテレビ局がオフィシャルサイトに掲載した記事も嘘だったというのだ。
Borodaiは、現在、墜落場所に関係する全ての交渉の責任者である。彼の言葉は、査問に引き出された共産党員に関する旧ソ連時代のあるジョークを思い起こさせる。「ヨセフ・スターリンが生きているときには、彼の行った粛清に賛成し、なぜ、独裁者の死後にはそれを非難するのか?あなたは、党の路線に忠実だったのか、それとも逸脱したのか?」男はこう答える。「逸脱しました。しかし、党の路線に完全に忠実に、逸脱したのです」
Borodaiはご都合主義が支配する政治的言説の中で政治的経験を積んできた。この4月にドネツク共和国の首相をとなる以前は、彼はモスクワの政治的テクノクラート、言い換えればスピンドクターだったのである。彼の顧客の一人で、クレムリンの政商で富豪のKonstantin Malofeev は、今年5月、フォーブスロシアのインタビューにこう答えている。「彼(Borodai)は、ドネツク共和国の首相になる前、3年間、私のPRマネージャーとして働いてくれた。私の考えでは、(PRマネージャーとして)ロシアでも優秀な何人かのうちに入るね」
しかし他の民兵組織リーダーは、Borodaiほど事実を捻じ曲げることに平気ではいられないようだ。ドネツクの分離主義者グループの軍司令官、Ignor Garkin は撃墜事件のあと、姿を現さなくなった。7月20日、ジャーナリストが押しかけてインタビューを迫った時、軍司令部の一室に閉じこもり頑として答えようとしなかった。Vostok 大隊の司令官 Alexander Khodakovsky も、ローイターのインタビューに答えて、おもわず本音をもらしたようだ。
Khodakovskyは、ブークミサイルシステムを東部ウクライナの民兵組織が保持していたと言い切っている。「ロシアが提供したとも、していないとも言わない」彼はこういう。「しかし、ロシアは、地元民兵の完全な主導下で、ブークを提供することはできたはずだ。私もブークが欲しい。誰かがくれると言えば断らないだろう」インタビューの別の箇所では、「民兵組織は、ロシア側の手違いで、ブークを入手した」とも述べている。
その翌日、ロシアのメディアはインタビューを否定するキャンペーンを始めた。Khodakovskyの「内輪の人物」を引用して、「彼は、ロイターにそんなことは言っていない」とか「ずべては西側メディアの捏造である」などと目くらましのためのスピンが続いた。
しかし追撃から4日たって起こったこの「事件」は、ロシア側に深刻な教訓を与えたようだ。民兵組織のリーダーちは、多種多様で、お互い対立しあっており、ロシア側のストーリに忠実に歩調を合わせることは不可能だということだ。Khodakovskyは、ロシア国籍を持つ他の民兵指導者と違い、ウクライナの国籍を持つ。彼は、ウクライナのテロリズム鎮圧部隊出身のエリート軍人である。彼の部下たちと共に、Khodakovskyも、ウクライナ軍から自らの故郷を守る崇高な目的のために戦っていると信じている。そして、彼は(生粋の軍人であり)政治的プロパガンダの訓練を受けていない。Khodakovskyと彼の部下たちにとって、MH17機について嘘をつくことは、屈辱的だろう。
民兵側の一般兵士から、責任転嫁のためのリークや、あるいは、事件の責任を認める「自白」さえ出てくる可能性がある。民兵のうち何人くらいが、MH17の真相を知っているのか?正確に推定することは難しいが、おそらく、相当数が事件のことを知っており、直接、誰が手を下したのかも知っていると思われる。ブークミサイルの操作には少なくとも10数人の要因が必要だ。さらに多くの人間が、MH17撃墜に関するやり取りを、トランシーバーを通じて聞いたり、宿営地でウオトカを傾けながら耳にしたことだろう。アメリカの情報筋が示唆するように、親ロシア派民兵がMH17機を誤って撃墜したとしたのならば、遠く離れたクレムリンはもちろん、現場の司令官たちでさえ、兵士たちに(作られた)ひとつのストーリを語らせることは至難の技だろう。
話のつじつまを合わせようと四苦八苦しているのは、現場の司令官たちだけではない。あのプーチンでさへ、ウクライナ紛争でもっとも人目をひいた「うそ」をつきとおせなくなっている。今年三月、ロシア軍がクリミアに侵攻したとき、プーチンは「クリミアにはロシア兵は存在しない」と強弁した。彼らは全て、何らかの方法でロシアの武器と軍服を入手した地元民兵だと主張したのだ。明らかな国際法違反を認めないために、また、ロシアの真意を測りかねていた西側外交官を煙にまくために、そう言ったのだ。しかし、クリミアを併合し、西側の制裁措置が生ぬるいと見るや、プーチンは嘘の皮を脱ぎ捨てた。4月中旬に放送されたロシア国民との対話ライブで、プーチンはこう言ったのだ。「もちろん、ロシア軍はクリミア国防軍を支援していた」のだと。
プーチンが、大統領としての任期中初めて、公然と、ロシア国民と世界に対して嘘を認めたのだ。おそらく彼は、最高司令官として、自国の将校たちのクリミアでの功績をたたえる必要があると考えたのだろう。森の妖精たちがクリミア半島を支配した・・・という類の御伽噺を言い続ければ、プーチンがクリミアでの軍事作戦を恥じているとか、西側の制裁措置を回避するために嘘をついているという印象を軍部に与えかねない。クリミアをウクライナから奪還したロシア軍の名誉とロシア国民のプライドのために、プーチンは嘘を認める必要があったのだ。
しかし、MH17機事件に関して、プーチンは嘘を認めることは事はできない。嘘を認めたところで、ロシアにとっても、親ロシア派民兵にとっても、何の名誉にもならないからだ。事件が発生した夜、「全てはウクライナの責任である」と宣言し、政府メディアを総動員して親ロシア派民兵を擁護したことで、プーチンは自らを苦しい立場に追い込んだ。今になって政府の立場を変えれば、ロシアは国家的屈辱をこうむる。クリミア併合で急上昇した自らへの国民的支持を失う危険を冒すことになるだろう。
嘘の政治的な力に関して、プーチンは最近、いくつかのコメントを残している。撃墜事件の一週間前、プーチンはクレムリンでラビ達と会見し、ナチスの宣伝部長ゲッペルスのについて語っている。「あなたは先ほど、現実に起こったことを否定するのは、愚かものだといいましたね」プーチンは、ホロコースト否定論に言及するラビに語りかける「しかし、そういう人は、愚かであるばかりではなく、恥知らずでもある必要がありますね。現実に起きたことを否定するためには。しかし不幸なことに、70年後の今でも、この恥知らずなやりかたは、現在でも有効なのですよ。ゲッペルズは、極端な嘘ほど人は信じ込むものだと言いましたね。これは今でも有効なんです。彼は、才能のある人物でしたね」
もちろんナチスの嘘は、最終的に真実に敗れた。嘘は永遠には通用しないと歴史の法則どおりに。今のペースで行くと、東部ロシアで反政府派が支配している地域は、おそらく数ヶ月以内、早ければ数週間以内に陥落するだろう。民兵たちが撤退したあと、モスクワと親ロシア派民兵が隠していた真実が明らかにになるだろう。7月24日、反政府派が撤退したばかりのSlavyaniskで、一箇所に埋められた死体が見つかったと、現場にいたヒューマンライトウォゥチの調査員が報告している。死体は十数あり、調査官は死因を特定中だという。このままウクライナ軍が進撃を続ければ、ドネツクにある反政府派の「刑務所」について、証言するものも出てくるだろう。彼らが生きていればの話だが・・・・。
週末を地下刑務所で民兵たちと過ごさずにすんだことは幸運だった。私の逮捕記録を書いた民兵は、容疑欄に「ジャーナリズム」と記入し、彼の上官に渡した。その上官は、私の生まれたモスクワ郊外についてしばらく私と雑談を交わし、パスポートを調べて部下にこう言った。「今のところ人質の(補充)は必要ない」そして、私に、「我々をけなすようなことを書くか」と聞いた。「あたなを怪我させてないだろう。な、そうだろ>¥?」私は、怪我をしていないことは認めて自由の身になった。しかし、私が解放された瞬間に、あの階段をびっこを引いて上っていった男の話は、もはや秘密ではなくなったのである。
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。