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【IWJブログ】「熱狂」のワールドカップの陰で罪なき人々が殺されてゆく 〜国民無視で社会的貧困政策を進めるブラジルの光と影
http://iwj.co.jp/wj/open/archives/152331
7/10 01:28 IWJ Independent Web Journal
ブラジルにとっては、呪われた大会となってしまったかもしれない。
2014年ワールドカップ開催国であり、優勝「本命」とも言われたブラジルが、歴史的大敗を喫した。日本時間9日、ドイツとの準決勝に臨んだブラジルは7-1で惨敗。悲願の地元優勝は絶たれ、ブラジルサポーターは悲しみと失望に沈んだ。
ワールドカップ最多5度の優勝に輝くブラジルは、自他ともに認める「サッカー王国」である。そのブラジルがワールドカップを自国で主催するのはこれが2度目、1950年の第4回大会以降のことだ。この時、ブラジルはウルグアイに決勝で敗れ、準優勝に終わった。この「悲劇」は、ブラジルのサッカーファン(国民のほとんどを意味する)の長い間のトラウマとなってきた。
今回のセレソン(ブラジル代表)には、その過去の悪夢を一掃し、地元での初優勝、そして通算6度目の優勝をブラジル国民にプレゼントをする「義務」を背負っていたのである。重い「義務」だが、カナリア色のユニフォームに袖を通す選ばれしセレソンには、課されて当然と教えられていた。
それだけに、期待が裏切られた時の怒り、悲しみの深さは、とてつもなく深い。1950年は準優勝だった。今回は決勝に駒を進められなかったのである。しかも7点も失点するという信じがたい惨敗だった。これでただでおさまるわけがない。
ブラジル各地では、暴動が相次いだ。
サンパウロなどでは、バス20台が放火されたほか、店舗での略奪も発生した。ブラジル大敗の「屈辱」で怒り狂った市民による暴挙という側面はもちろんある。だが、背景はそう単純ではない。開催前から、「開催スタジアム建設の遅れ」や「市民による多数の開催反対デモと治安当局による暴力的な鎮圧」という異常事態が続いている。
実は今回のワールドカップの地元開催は、すべてのブラジル国民がもろ手をあげて歓迎していたわけではないのである。デモの様子は、日本のメディアも、開催前には断片的に伝えていた。しかし、大会が始まると、そうした路上の声は日本のメディアでは、ぱったり伝えられなくなった。
さすがに、ブラジル代表敗退後、バスが放火されるなどの暴動のニュースは、日本のメディアでも報じられてはいる。
しかしブラジルでは、日本のメディアでは決して報道されない、さらに深刻で陰惨な暴力の横行が起きているのだ。ワールドカップ開催の影で、多くの貧しい子供たちが、治安警察の横暴な力の乱用によって、無残にも犠牲になっているのである。
以下、ブラジルの世紀の大敗の模様と、その影で行われていた悪夢のような事実について、私自身がリアルタイムで試合を実況していたツイートを紹介し、お伝えしたい。
■【試合実況】見せつけたドイツの強さ、うなだれるブラジルサポーター
以下、実況ツイートである。
7月8日(日本時間9日午前5時)、ブラジル対ドイツ戦、キックオフ!
前半11分、ドイツ先制! 右コーナーをマークの外れた13番のミュラー、逃さずボレー! ワールドカップ、準決勝第一試合、ブラジル対ドイツ。決勝と言ってもいいカード。両者、試合開始から凄まじい速さの攻防、早回ししているのか、と思うほど。
キックオフ直後、支配率はややブラジルが高いかと思ったが、ボールを奪うとドイツのすぐ前を向いて、まっすぐ縦へ走り、突進する、直線的なカウンターが際立つ。ベスト4の中で、パスをもっともパスを回すチーム、というイメージは微塵もない。速攻につぐ速攻。
ブラジルは、個々の技術がやはりたしか。ボールを持ったプレイヤーは走るし、長短のパスもスピードに乗って的確に通る。マルセルがドリブルでペナルティエリア内まで切り込むと倒されたが、ホイッスルなし。騒然となる。
ドイツ、ボールを奪って反攻、それに対してブラジル、すぐ取り返し、また速攻。19分、やっとテンポが両者スローダウン。様子を見て回すブラジル。ドイツの左サイドエジル、奪って突進。取られる。ドイツ、再び獲得、中央からスルーパス、ストライカーには通らず、キーパー、ガッチリキャッチ。
ドイツ、クローゼ、2点目、決めた! 右サイドから切れ込み、センターへ。縦へスルーパス、一人使ってワンツーで、クローゼ、シュート! 弾かれたところ、再びシューして決める!
3点目! また右サイドからクロス、クロース、決める!その直後、また、クロース、楽々、追加点、4点目! ブラジル、完全崩壊!
ミュラー、クローゼ、クロース、クロース。この順番で、あっという間の怒涛の得点。凄まじい。ブラジルが動揺している間に、連続爆撃! まだ前半。クローゼは、ワールドカップ通算16ゴールの記録。ペレをも抜いて、トップに立つ。と、ブラジルが攻めていたのに、ドイツ、カウンターから、5点目!ゲディラ!ゴール正面。
あぶない! 6点目が入りそうな瞬間。ドイツの強さ、うまさ、非情さ、得点したことの歓喜に溺れない、徹底的に敵を粉砕殲滅する鉄の勝負心。ブラジルが泣いている。みんな泣いている。泣き崩れるわけにいかないのは、ピッチに立つイレブンだけだ。泣きたいだろうが。泣くな、走れ、戦え!
ドイツ、ペナルティエリアギリギリあたりで、密集で細かくパス交換しつつ、中に入ろうとする。オープンに右サイドを使ったセンタリングがかたはしから奏功しているのだから、それを続ければよさそうだが、いろんな戦術をためそうということか。笛がふかれ、ドイツのフリーキックは、バーの上。
ブラジルは、ドイツゴール前で決定的に崩す場面がまったく見られない。バックスから苦し紛れのロングボール。ブーイング。あっさりまたドイツのボールに。
またも、ブラジル、中盤を全部飛ばしての縦へグラウンダーのパス。長すぎてゴールラインを割る。中盤での攻防の勝負をもう怖がり出してしまったかに見える。自信を失ったセレソン。相手ディフェンダーとの個々の勝負を嬉々として挑む、あのブラジルの姿がどこにもない。前半終了。後半は必要なのだろうか。
前半で勝負は決した、と大方の人は思っている。しかし、フットボールに、野球のようなコールドゲームはない。死に体となった敗者への惻隠の情はないのだ。フットボールに、後半戦が必要なのだ、というその証明を、ブラジルには見せてもらいたい。ケガのため出られないネイマールのためにも。後半、キックオフ。
落ち着いたスタート。ブラジルらしく、丁寧なプレーで左を破り、ゴール前まで。しかしシュートには繋がらず。ドイツは、3人がかりでプレスにいく。これはかけられる方もきついが、これだけ、守備に動くドイツも運動量が増えてきつくなる。
今度はブラジル、右サイドからクロスを放り込むがあわず。
ブラジル、惜しいチャンス、右から近いサイドでクロスを出すも、キーパー、ノイヤー、セーブ、そのあと、ラミレスの強烈なシュートもセーブ! やっとシュートを打てるようになったブラジル、しかしゴールを割らせないドイツ。
オフサイド、なし!ブラジル、シュート! はじいたリバウンドをまたシュート!すべてノイヤーに弾かれる。
これを続けて行けば、そのうちゴールは割れるぞ、という思いと、入れるべき時に入れないと、チャンスの時間帯は遠のく、という思いと。ミュラーが左サイドを破って仕掛ける。ブラジルカウンター。キーパーのノイヤーと接触。
おお、得点ランキングトップに輝くクローゼ、堂々の交代。
こぼれ球をフレッジが蹴ったが弱々しく、ノイヤー難なくキャッチ。なんとブラジルサポーターが埋めつくした会場からフレッジにブーイング。シュートが弱い、やる気がない、とでもいう批判なのか?
ゴール前正面でミュラー受けて振り返りミドル! かろうじてクロスバーの上。
ブラジル右からコーナー、ファーサイド、折り返したが、ノイヤー、キャッチ。ブラジルに危険な匂いのするプレーが少ない。
ドイツ、後半に入っても手を緩めず追加点! 右サイドを崩し、真横にパス、正面から9番のシューレがシュート! 6点目! クローゼと交代で入った選手がゴール! ドイツ、これで、最初の一点目こそ、コーナーからだったが、あとはすべて崩して、流れの中でのゴール。
ボールはドイツに支配され、ゆっくり回されている。と、ギアが突然入り、左サイドを破られ、折り返し、後ろから上がってきたシルベ、難しい前から戻ってくるボールのトラップ、飛びながら、止め、スピードを殺さず、そのまま、シュート! ギリギリのコース、決まる!7点目!
ドイツが華麗なパス回しから攻め入ると、なんと会場から、オーレ!オーレ!のコール! ブラジルサポーター、ヤケクソか⁉︎ もう、お手上げなほど、強くてうまいドイツチームへ送る賛辞なのか⁉︎
やっとブラジル、久しぶりの、ひさしぶりのミドル。難なくノイヤー、キャッチ。
もう43分。ドイツは、勝者の奢りで油断して、相手に1点、2点、献上する、ということもないのか。ブラジルのオスカル、左サイドからシュート! 外れた! ドイツのエジルがフリーになって、左からのミドル外す、その直後、ドイツが緩んだ!オスカル、一人になり、ゴール! 初得点!7ー1!
ブラジル、左コーナーから最後のチャンス、もつれてミドルで終わるが、弱いシュート。ノイヤーにとられる。ドイツが反攻に出たところで、ホイッスル、歴史的な惨敗のゲームが、幕を閉じた。このドイツと戦うのは、オランダか、アルゼンチンか。
ゴールシーンを振り返ると、ブラジルの心を砕いたのは、クロースだということがよくわかる。3点目のゴール、そして4点目は、ブラジルの選手が持っているボールを背後から襲って奪い、そのままドリブル突破、得点を演出した。ブラジルの油断、浮き足立っている状態にとどめを刺した。
愕然とうなだれるブラジルサポーター、昂然と胸を張るドイツサポーター。
■ブラジルが抱える深刻な負の側面
ブラジル国民の、ワールドカップに対する熱気は一気に冷めてしまったかのようだ。ブラジルのメディアは、一斉にこの試合結果への「失望」「悲しみ」、そして「怒り」を伝えた。試合会場では、フラストレーションが爆発したブラジルサポーターによるいさかいや、暴行事件が発生した。
サンパウロなどでは、走行中のバスや乗用車が放火されたり、車庫に停まっていたバス約20台が放火されるなど、騒動が相次ぎ、治安当局は警備を強化。数十人が拘束された。
試合結果に怒ったブラジルサポーターの暴挙ではないか、と日本のメディアは報じているが、しかし事態はそう単純ではない。
世界一サッカーを愛しているはずのブラジル人。では、ブラジル国民のすべてが、今回の自国開催を歓迎していたのかといえば、実はそうではない。
5月にブラジル世論調査統計機関が行った世論調査では、なんとブラジル国民の42%が、ワールドカップのブラジル開催に反対していたのだ。サンパウロやリオデジャネイロでは、多くのブラジル国民が、開催反対を訴えて大規模な抗議行動を行っていた。激しいデモの様子、それに対して催涙ガスを浴びせかける警察官、炎上する車、怪我をして運ばれる人々など、抗議行動の模様は、日本のメディアでも断片的に報じられた。
しかしこの抗議行動は、単に「ワールドカップ反対」だけを訴えるものではなかった。ブラジルでは、多くの地域で、住環境の未整備、医療サービスの不足、警察の作戦行動に巻き込まれ犠牲になる市民たち、あるいは市長の汚職、労働条件の悪化といった社会的不正義が顕在化している。
そこへきて、ワールドカップ開催のために巨額の費用が税金から捻出され、そのせいで医療や教育や交通システム整備のための予算が削られた。さらに、空港や道路やスタジアムの建設のために、特にスラム街で多くの人々が住む場所を追われた。
デモは、こうした一連の理不尽な政策に対する異議申し立てだった。ところが、そうした国民の声に対して。治安当局は極めて暴力的な弾圧で応答した。
日本の既存メディアでは全く報じられていない事実がある。警察や、リオデジャネイロ州政府が組織した治安部隊が、鎮圧の名目で、罪のない国民を「殺害」しているという事実だ。暴動に加わって破壊行動を行ったわけでも、麻薬の密売がからむ組織犯罪のメンバーでもない、一般の市民が犠牲になっている。こうした治安当局のふるう暴力による「殺人」は、日本の主要メディアではまったく報じられていないが、海外メディアでは報じられている。
2014年1月25日には、ワールドカップ開催抗議デモで、22歳の青年が警察に射殺された。また2月23日には、モーロ・ド・ガンバで発生した住民たちによる治安当局への抗議行動で、治安部隊は住民に対して発砲し、7歳の少女が犠牲になった。そして4月22日には、テレビ番組でも活躍していたダンサーが警察によって撲殺された。これに対してファベーラ(スラム)で抗議行動が行われたが、警察はこの抗議行動も弾圧し、1人の若者が殺された。
治安当局による殺人は、抗議行動とは無関係な市民にも向けられた。4月27日、10歳の孫を治安部隊の銃撃から守ろうとした老人が殺された。その日は日曜日で、2人は、家族との食事を楽しんだ後で帰宅する途中だったという。5月6日には治安部隊が、「通常の作戦行動」のなかで、8歳の少年を殺害した。
10歳に満たない子供が、その場で射殺しなければならないほど危険な「暴徒」だったなどとは、到底、言えないだろう。いたいけな子供を含め、罪なき人々が犠牲になっているのである。これらはほんの氷山の一角だ。
デンマーク人ジャーナリスト、ストミッケル・ジェンセン(Mikkel Jensen)氏は、ワールドカップの試合が行われる都市で、街を「掃除」する役目を負った「暗殺部隊」が、通りに暮らす貧しい子供たちを一方的に殺している、という衝撃的な告発レポートを発表した。
Libero.Pe紙によれば、「ワールドカップの代償」と題されるその告発レポートを発表したジェンセン記者は、2年間かけて、リオデジャネイロとフォルタレーザの二都市でファベーラの取材を敢行したという。ある社会プロジェクトの責任者を務めるマノエル・トルクアート(Manoel Torquato)氏は、取材に応じて、「一台の黒塗りの車から何者かが、通りで寝ていた子供たち6人に向けて発砲しました。二人、兄弟でしたが、が亡くなりました。あとの四人も怪我を負っています」と証言した。
ジェンセン記者によると、夜、観光客の多く集まる場所で寝ている子供たちが殺される、こうした事件は、頻繁に起きているという。こうしたストリートチルドレンの殺害について公式な記録はない。だが、非政府組織の報告書によれば、殺害された人数は121人に上るという。ジェンセン記者は、自らのレポートの中で、もっと多くの子供たちが犠牲になった可能性があると指摘している。多くのストリートチルドレンが殺されている理由についてジェンセン記者は、「治安当局が、観光客に国の恥部を見せないようにするため」と同レポートで断言した。
こうした国家による「社会的不正義」と、治安当直による「暴力的な弾圧」に、ブラジル国民の中に溜まった怒りの「圧力鍋」は爆発寸前のところまできている。
このブラジル社会が抱える負の側面、貧困政策の実態について、また市民の抗議への過剰な弾圧や、治安当局による一方的な殺人については、メルマガ「IWJ特報!」で詳細に紹介・解説したい。根底にある国家の不正義の問題は、2020年のオリンピック開催を目指す日本とも、決して無縁ではない。貧困による格差が増大しつつある日本人にこそ、ぜひ読んでいただけたらと思う。
(リサーチ・翻訳:服部綾乃、文:佐々木隼也・岩上安身、文責:岩上安身)
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